千歌の本心を聞いてしまい、途方に暮れる和哉。
そして夏休みが始まる。
「ふぁ〜ぁ。・・・ねむっ・・・」
「凄いあくびだね。また夜更かし?」
学校に向かうバスの中で俺は大あくびを1つした。それを隣で見ていた曜が指摘する。
「うん・・・。どしても夏休みっていうのがね・・・」
「分かるけど、毎日練習なんだからその辺はしっかりしないと」
時期はもう8月に入り、俺たちも夏休みを満喫している真っ最中・・・、という訳ではなく今は地区予選に向けて、毎日の練習に精を出している。
「分かってるよ。それをコイツにも言ってやってよ」
俺は1つ前の席に座る善子を指さす。
「あ、あはは・・・」
その善子は爆睡中だ。毎晩のように生放送をやっている訳だから、彼女が1番この夏休みを堪能しているのかもしれない。だが、それが元で寝不足になり、ケガをしては面白くない。もう少しそこの辺りをしっかりして欲しいものだ。
「ダイヤちゃんに怒られても俺はフォローしない」
「せめて善子ちゃんが起きてる時に言ってあげて・・・」
「・・・そういう曜はどうなの?」
「え?」
いきなり話を振られた曜は少し驚く。
「毎日遅くまで衣装作ってるんだろ?目の下、クマできてる」
俺は自分の目の下を指差し、指摘する。
「え?嘘!」
曜は慌てて鞄から手鏡を取り出し、自分の顔を確認し出した。
「・・・って、できてないじゃん!」
「でもその反応はやってるんじゃないの?」
「あっ・・・!か、カマかけたなー!」
曜もどうやら最近夜更かし気味のようだ。
少し曜をからかったことで眠気が少し飛んだ俺はバスの外を見つめる。
今日、言うんだ・・・。
あの日、千歌に告白されてから俺はずっと悩んでいた。
このままでいいのか、俺がやらなきゃいけないことはなんなのか、を。
「・・・和哉くん、変なことしちゃダメだからね」
「は?」
するとつい今の今まで不機嫌な顔をしていた曜はうって変わり、神妙な顔で俺に言う。
「分かるんだ。私だって千歌ちゃんや果南ちゃんたちと同じくらい和哉くんと一緒にいたんだから。今日雰囲気が違うもん」
「そっか・・・」
曜は感づいていたようだ。だけど、今の俺と千歌のことを考えるとそうするしかない。
「・・・変なことはしないよ。必要な事だと思うから」
「・・・そう。もっと私や千歌ちゃんを頼ってもいいからね」
「ありがとう」
口だけの感謝。
曜の言葉は嬉しい。けど、これは俺だけで完結させないといけないから。
ダンスレッスン中。
9人を同時に見るのは流石に無理なので3人ずつに分けて振り付けの確認をしている。
「千歌!走りすぎだ!」
俺の手拍子に合わせて踊る2年生たちだが、千歌のダンスのリズムが合っていない。かなり走っている。
「う、うん!」
俺に言われて千歌は梨子と曜にリズムを合わせようとするため、動きがぎこちなくなる。
「・・・一旦止めよう」
手拍子を止め、そう言うと3人も踊るのを止める。
「千歌ちゃん、大丈夫?」
「具合悪い?」
曜と梨子が千歌を心配して声をかける。
ここ最近の千歌はダンスにしろ、歌にしろ、今までできていた箇所のミスが目立つ。動きからも明らかに無理をしているのが分かる。
ただのスランプというわけではないようだ。
「だ、大丈夫だよ!次はいけるよ!」
「・・・・・・」
千歌の言葉に俺は無言になってしまう。
「ほら!やろう!」
「「う、うん・・・」」
千歌の言葉に梨子と曜は弱々しく返事をする。
「いや、やめよう。千歌は休憩してて」
俺がそう言うと千歌は理由を聞くために俺に詰め寄ってくる。
「なんで!?まだできるのに!」
「ケガするかもしれないって思ったんだよ。今の千歌は危なっかしい」
「でも!今のうちに完璧にしておかないとみんなに迷惑かけちゃう!やらないと!」
「ダメだ。休んでて」
「イヤ!」
「千歌・・・」
あまりにも食い下がってくる千歌に若干の苛立ちを覚えるが、表に出さないようにする。
「無理しても必ずいい結果になるとは限らないでしょ。それは千歌だって分かってるはずだろ?」
「分かってるよ・・・。でも、今やらないと!」
「千歌!」
俺が荒らげた声で叫ぶと千歌は一瞬肩を跳ねさせ、暗い顔をする。
「いいから休んで。・・・それと後で話をしよう」
「・・・うん」
そういうと千歌は日陰に歩いていき、壁にもたれて座った。
「じゃあ、梨子と曜でもう1回最初から」
「「は、はい!」」
どこか歯車が軋むような嫌な音が胸の奥で響いた気がした。
練習は終わり、俺は千歌だけを残し、他のみんなは屋上をあとにする。
「話って?私だけ残して・・・」
不安そうな顔をして俯く千歌。
この間の1件のこともあり、正面に立つのすら気が進まないが、今はAqoursのためにも言うしかない。
「・・・最近調子悪いのって、俺のせい・・・?」
「・・・・・・」
千歌は何も言わない。
「最近の千歌を見ているとそう思ってしまうんだ。昔からそうだろ?何かあると無理して何かをやろうとするから・・・」
「・・・ないじゃん・・・」
「え?」
千歌は小さく呟く。
「仕方ないじゃん!そうでもしないと2人の事を思い出して、そのことを妬む自分が嫌になって・・・。チカだって嫌なんだよ!」
1度も見たことのない苦しむ千歌の表情。
それを作ってしまった原因が自分だ。だったら、それなら俺は・・・。
「そっか。ごめん・・・。だから俺はAqoursの手伝い、辞めるよ」
「・・・ぇ・・・?」
「俺がいなくなれば千歌も少しは楽になると思う。俺のことなんか気にしないで頑張って」
俺はそれだけを残し、その場から去ろうとするが、当然千歌は引き止める。
「待ってよ!意味わかんないよ!やめるって何!?」
「言った通りだよ。俺がいても千歌の負担になっちゃうだけだから。それに9人もいるんだ。俺がいなくても大丈夫さ」
「そういうことを聞きたいわけじゃないよ!ずっと待ってたんでしょ?果南ちゃんたちが戻ってくるのを。ずっと願ってたんでしょ?みんなでスクールアイドルをやることを。またスクールアイドルを始めた3年生の前にカズくんがいなかったら意味ないじゃん!」
「それだと千歌が辛い思いをするだけだよ。そのためなら俺は自分の意思を殺すよ」
そう言うと千歌は何も言わなくなってしまった。
「Aqoursのことはこれからも応援していくから。頑張れ」
逃げるように走り出し、俺は学校を後にした。
そして、俺はまた間違え、後悔の道を進み始めた。
和哉の決断は果たして・・・。
「こうするしかなかったと思う。みんなのためにも・・・」
そうとは限らないかも知れませんよ。
次回もお楽しみに!