東京で開催されるピアノコンクールに出ることを誘われた梨子。しかし、その日は予備予選と同じ日で1人悩んでいた。
その事を知った千歌の言葉でピアノコンクールに参加することを決めたのだった。
「みんな、話があるの」
1日の練習が終わり、みんなで海の家の余った食材の処理、もとい夕飯の時に千歌ちゃんが立ちあがり、みんなに声をかける。
「どうかしたんですか?」
ルビィちゃんが少し怖がったような声を出す。
千歌ちゃんは1度息を整え、静かに話し出す。
「梨子ちゃんをピアノのコンクールに出してあげたいの」
場の雰囲気が静まる。
それもそうだ。こんな時に自分勝手なことを。
「・・・コンクールの日付はいつですか?」
ダイヤさんが難しい顔をしながら聞いてくる。
「予備予選の日です・・・」
私は申し訳なく呟く。
それでも千歌ちゃんは私のために説得しようと言葉を強める。
「予備予選前の大事な時にこんなこと言うのはおかしいって分かってる。けどね・・・!」
「全く・・・。どうせ言っても聞かないんでしょ?千歌は」
「え・・・?」
帰ってきたのは果南さんの優しい声だった。
「そのとーりデース!私たちの時にも話を聞かずに首を突っ込んできたのだから止めれるはずもありません」
続いて鞠莉さんがおどけて言う。
「元々リリーはピアノをまたできるようになりたいからスクールアイドルになったんでしょ?その時が来ただけよ」
「よっちゃんまで・・・。ありがとう」
「ふん!」
お礼を言われるのに慣れていないのか、よっちゃんは顔を赤くしながらそっぽを向いた。
「マルもいいと思います!」
「ルビィも!」
1年生、3年生が次々と私がコンクールに参加することを了承していく。そんな中、曜ちゃんだけ険しい顔をしていた。
「曜ちゃん?」
「・・・え?」
声をかけてみると上の空だったのか、どこか間の抜けた返事が帰ってきた。
「よーちゃんはどう?」
千歌ちゃんも曜ちゃんへと声をかける。
「う、うん。いいんじゃないかな。梨子ちゃんもそうした方がいいだろうし」
「よし!じゃあ決定だね!」
千歌ちゃんの声の後にみんながそれぞれ私へ声をかけていく。
がんばれ、とか。大丈夫だよ、とか。
その言葉が嬉しくて、暖かくて。私はみんなの想いに答えないといけない。そう強く心に言い聞かせた。
「・・・出て、くれるかな・・・」
みんなが寝静まった中、私は1人海岸に出て、電話をかけていた。相手はもちろん和哉くん。
既に日付は変わり、家の明かりも消えてしまっている。
『もしもし・・・?』
かなり眠そうな声の彼。こんな時間だし、当然だ。
「ごめんね、こんな時間に」
『ん、いや。大丈夫。ふぁ・・・』
彼は眠そうに欠伸を1つする。
『ごめん、それで合宿はどう?順調?』
「うん。3年生の3人が引っ張ってくれてる。たまにダイヤさんが空回りすることあるけどね」
『ははっ。仕方ないさ。ずっと我慢してたんだから』
「そうだね」
果南さんや鞠莉さんが言っていたことと全く同じ言葉に笑いが出てしまう。この4人には私たちとはまた違う信頼関係があるのがよく分かる。それに、彼は変わらず、私たちのことを心配してくれていた。
「大変なんだよ。鞠莉さんやよっちゃんが海の家でね」
気づけば私は饒舌に話してしまい、時間はあっという間に過ぎていた。
「あ、ごめんなさい。私ばっかり話して」
『ううん。いいよ。みんながどうしてるのかよく分かったし、梨子も楽しんでるようだから』
「うん。・・・それでね、聞いて欲しいことがあるの」
『うん?』
「私ね・・・」
口が震える。
いくらみんなが背中を押してくれたとはいえ、あの日の辛い思いが消えたわけじゃない。正直な話、ピアノを大勢の前で演奏するのは怖い。
そう思った途端、私の口は空いたまま動かなくなる。
『・・・梨子』
「何・・・?」
『今、梨子はすごく大変なこと、辛いことに挑戦しようとしてるんだよね。何かは分からないけど、声からすごく伝わってくるよ』
「うん・・・」
『逃げ出したかったり、目を逸らしたりするかもしれないけど・・・。けど、逃げないで欲しい。向き合ってほしい。俺の我儘だけど、梨子に前に進んでほしいんだ。言葉にできないならできるようになってからでいいから教えてよ。梨子がどうしたいかをさ』
優しく、声だけで私を包み込んでくれるように話す和哉くん。その言葉だけで自然と言いたいことが口から出てくる。
「ピアノコンクールに出ることにしたの。みんなは快く行ってきて、って言ってくれたわ」
『・・・そっか。それはいつなの?』
「・・・8月20日。予備予選の日」
『・・・・・・』
沈黙が流れる。
今は部活を抜け、無関係と決めているような彼だが、一緒に過ごした時間は長い。この決断に思わないことがないはずがない。
『そう・・・、なんだ・・・。うん・・・。みんながそう言うのなら、大丈夫じゃないのかな』
歯切れを悪く言う和哉くん。その言葉に私は少し不安を覚える。
『曲は大丈夫なの?』
「うん。もう少しで千歌ちゃんが詩をくれるわ。移動する日までにはなんとかなると思う」
『梨子がそういうんなら、大丈夫かな』
「ごめんなさい、こんな時に・・・」
『いいんだよ。梨子の好きなようにやれば』
明るく言ってくれた彼の声にほっ、とする。
「それでね、和哉くんにお願いがあるんだけど」
『ん?』
「その日、私と一緒に東京に行ってくれない?」
『・・・・・・はい?』
「あ、泊まる場所は大丈夫。2人まで泊まれる部屋を運営の人たちが用意してくれてるから」
『あ、うん。・・・じゃなくて、そうじゃないんだ・・・。おばさんは・・・?』
「仕事があるから行けないって」
『そう・・・。それは困ったね、うん・・・』
色々説明し、最後にはなんとかOKを貰ったが、どうにかして断ろうとする彼に私は1人、首を傾げていた。
みんなの想いを受け取り、梨子は前へと進む。
あの日を乗り越えるため。
「だけど、なんで和哉くんはあんなに渋ったのかしら?」
それは・・・。私からは何も言いません。
「教えてくれたっていいじゃない!」
次回をお楽しみに!