東京に渡った梨子と和哉。
その夜にAqoursのメンバーと電話をするも何やら上手くいっていない様子を梨子は察したのだった。
本番まで残り数日。
この日は朝から和哉くんと東京の街を歩いていた。
「先月来たばっかりだけど、あっという間に変わるね、この街は」
今居る秋葉原の風景を見てしみじみと呟く和哉くん。
確かに先月の記憶とは違う風景になっている所が多い。しかし、いきなりそんなことを言い出して、どうかしたのだろうか。
「・・・いきなりどうしたの?そんなこと言うなんて」
「うん・・・。どんなものでも変わって行くんだって、ふと思ってさ・・・。時間は関係ない、って」
私は和哉くんじゃないし、和哉くんが考えていることなんて全然分からない。分かりたくても分かることなんてできない。でもこればかりは何となく察してしまった。今のAqours、仲の良かった友達との関係だと思う。その友達との行き違いによる別れを怖がっているのだと、そう直感が告げていた。
「大丈夫よ。千歌ちゃんも曜ちゃんも笑って許してくれるわ」
「・・・だと、いいけど・・・。でも曜は難しいかも」
和哉くんは寂しそうな笑みを浮かべる。
「どうして?」
「曜って昔からなんでもできてたからそのせいでよく悩んでたんだよ。その話をずっと聞いてる癖に曜にあんなこと言ってさ・・・。本当に馬鹿野郎だよ・・・」
「詳しくは私は分からないけど・・・。だったらちゃんと謝らなきゃ。本当はそんな風には思ってないって。すれ違いは悲しいから」
私はできるだけ笑って見せた。
「なんで梨子がそんな顔するのさ」
吹き出すように笑う彼。
「な、なんで笑うのよ・・・!」
「全然笑えてないよ。笑おうと頑張ってくれてたみたいだけど」
そう言われて自分が笑えていかなかったことわ実感し、顔が熱くなるのを感じる。笑われるくらい笑顔ができていないとは思ってもいなかった。これでも一応アイドルなんだし、笑顔くらいはすんなりできているとは思っていた。
「さ、そろそろ着くよ。梨子のことも、Aqoursのことも。上手くいくようにお祈りしとかないとね」
到着した場所は神田明神。
前に来た時は3年生がまだ加入していなかった時。あれからまだ2ヶ月ほどしか経っていないはずなのに随分時間が過ぎた気がする。
相変わらず参拝者が多く、無意識のうちに私は隣の和哉くんとの距離を狭めていた。
「くっついてきてどうしたの?」
「あっ。その・・・。そ、そう!人多くてはぐれるかもしれないから!」
「・・・ぷっ・・・。何それ・・・」
慌てて誤魔化すのを見て和哉くんは少しだけ微笑む。
恥ずかしいけど、彼が笑ってくれたからそれはそれでいい、かも・・・?
お参りをした後はいつもの和哉くんのようで。少し前の思い詰めた表情や悲しげな瞳はすっかり消えていた。
ホテルに戻ってからはピアノのリハ。昨日で突き詰めるところまでやっていたおかげで今日は細かい譜面の確認と苦手なメロディの練習だけにした。
夜はだいぶ深まり、2人でベッドルームに置いてあるテレビを見ながらお菓子を摘んでいた。
すると。
「・・・千歌、からだ・・・」
和哉くんのスマホに電話がかかって来た。しかも相手は千歌ちゃん。
「・・・・・・」
和哉くんは黙って立ち上がり、枕元のコンセントに繋がれたスマホを取る。ベッドに腰掛け、1度深呼吸をし、ゆっくりスマホを耳元に当てる。
「・・・もしもし。・・・うん、久しぶり・・・。え?梨子・・・?」
そう言うと和哉くんは私の方を見る。
なんとなく千歌ちゃんの気持ちを察し、私は頷いてその場から去る。
・・・と言っても部屋を出ていくふりをして角に隠れて盗み聞きをするんだけどね。
と思ったがあまり話し声は聞こえなかった・・・。
「終わった?」
タイミングを測って彼の元へ戻る。
「うん。電話越しだけど千歌に謝れたよ。・・・帰ったらちゃんと顔合わせて謝らないと」
「うん・・・。それで千歌ちゃんはなんて?」
「曜のことだった」
「・・・やっぱり」
思っていた通りだった。
「やっぱり?」
「・・・うん。昨日電話した時にかすかに聞こえた曜ちゃんの声、いつもと違ったから・・・」
「そう、かぁ・・・」
和哉くんは重いため息をつく。
私はその彼に寄り添うように隣に腰掛ける。
「最終予選用の曲、千歌と曜の2人・・・。ダブルセンターでやるんだって。だけど2人の息が合わないって。千歌も悩んでてさ」
「・・・なんて言ったの?」
「・・・千歌らしく、曜らしく・・・、ってしか言えなかったよ。正直、俺も驚いてて・・・。あの2人だからさ・・・」
私も驚いた。千歌ちゃんと曜ちゃんが噛み合わないということに。いつも一緒にいるあの2人に限って・・・。
「俺・・・、どこで何を間違ったんだろ・・・」
その言葉に私は何も、何一つ答えることができなかった。