東京に再びやってきたAqours。
μ'sとAqours何が違うのか、その話を聞くために千歌が呼んでいたのはSaint Snowだった。
場所は変わってUTXのカフェスペースと思われる個室。
1つのテーブルを中心にそれを囲むようにソファーが置かれている。
学校の敷地内なのに一般開放されてるってどういうこと・・・?ていうか滅茶苦茶豪華なんだけど。
「なんか、すごいところですね・・・」
千歌もその迫力に圧倒されている。
「予備予選突破、おめでとうございます」
「CoolなPerformanceだったネ!」
梨子と鞠莉ちゃんが鹿角聖良に声をかける。それと同時に彼女は注文していた紅茶を1口すする。
「褒めてくれなくて結構ですよ」
「・・・・・・」
気に入らない言い方に俺は眉を顰める。
「再生数は貴女たちの方が上なんだし」
「いえいえ」
「それほどでも」
曜とルビィが照れるように笑う。
回りくどい言い方だが、Aqoursのことを褒めてくれているようだ。少しはいい所も・・・。
「でも、決勝では私たちが勝ちますけどね」
・・・前言撤回。やっぱ気に入らない。
その発言にみんなは驚いて口を開けている。
「私と理亜はA‐RISEを見てスクールアイドルを始めようと思いました」
なるほどね。Saint Snowの曲はA‐RISEの影響が大きいからあんなロック風なのか。
「だから私たちも考えたことがあります。A‐RISEやμ'sの何が凄いのか。何が違うのか」
「・・・ちょっと待って。そもそもこれってなんの話・・・?」
今回、この2人をわざわざ呼んだ理由を俺は聞いていない。
「なんの話しって・・・。私たちとμ'sの何が違うかだよ」
「ほう・・・」
千歌が呆れたように目的を教えてくれる。
「聞いてないの?梨子ちゃんに伝えたはずなんだけど」
「俺はμ'sを探すとしか・・・」
ちらっ、と梨子の方を見てみると忘れてた、と言いたげに目をそらす彼女が見えた。
梨子のおっちょこちょいな所は相変わらずだ・・・。
「はぁ。なんとなく分かった。話を止めてごめん。それで、答えは?」
鹿角聖良に話を振る。
「いいえ。ただ勝つしかない。勝って追いついて同じ景色を見るしかないのかも、って」
鹿角聖良が言うことは分かる。だけどそれで本当にあの2グループの見た景色を見ることができるというのは別の話な気がする。
それに動画の中の彼女たちは勝つために歌を歌って踊っていたようには見えなかった。
「勝ちたいですか・・・」
唐突な千歌の質問にSaint Snowの2人は目を見開く。
「ラブライブ、勝ちたいですか?」
「・・・姉様、この子バカ?」
「勝ちたくなければ、何故ラブライブに出るのです?」
帰ってきた答えは千歌を見下すような言葉。
「それは・・・!」
「μ'sやA‐RISEは何故ラブライブに出場したのです?」
鹿角聖良は立ち上がり、窓際に移動し、腕を組む。
「そろそろ今年の決勝大会が発表になります。見に行きませんか?ここで発表されるのが恒例になっているの」
鹿角聖良に言われた通り、外に出てみると大モニターの下に多くの女子高生が集まっていた。
モニターに映し出されたのは開催場所。そしてそこは。
「アキバドーム・・・」
梨子が呟く。
「本当にあの会場でやるんだ・・・」
いつもどっしり構えている果南ちゃんが声をこもらせて呟く。
確かにそうなっても仕方ない。今のAqoursはそこへ行くための最終切符を掴もうとしているのだから。
「ちょっと、想像できないな・・・」
流石の千歌も少しだけ尻込みしているみたいだ。他のメンバーも声に出さずとも気持ちは同じようで、不安な表情でモニターを見つめていた。
俺だって直接そこに立ってパフォーマンスををする訳じゃないが、みんなの気持ちはよく分かっているつもりだ。
「ねぇ・・・!音ノ木坂、行ってみない?」
意識が落ちていっている中、少し後ろにいた梨子が声をかける。
「え?」
「ここから近いし、前に私が我儘言ったせいで行けなかったから。帰る前に1度行ってみた方がいいかなって」
梨子の提案に俺は驚きを隠せなかった。
親の都合とはいえ、逃げるように音ノ木坂から転校してきたんだ。あまりいい思い出の場所では無いはずだ。
「いいの?」
「うん!ピアノ、ちゃんとできたからかな。今はちょっと行ってみたい。自分がどんな気持ちになるのか確かめてみたいの。皆はどう?」
心配そうに話しかけた千歌に対してもハッキリと、笑顔で行きたいと告げる。
本当に過去を乗り越えれたようだ。
「賛成!」
曜が手を上げる。
「いいんじゃない?見れば何か思うことがあるかもしれないし」
果南ちゃんも賛成のようだ。
「音ノ木坂!?」
「μ'sの?」
「「母校ーーーーー!?」」
黒澤姉妹の反応もああだし、これは決定かな。
「ありがとう。それじゃあ、行きましょう」
梨子を先頭にその後をみんなが着いてくる。
俺は少し歩調を早め、梨子の隣に並ぶ。それに気づいた梨子は不思議そうな表情で俺の顔を覗く。
「どうかしたの?」
「少し嬉しくてさ」
「どういうこと?」
「梨子が変わろうとしてる事が」
「・・・ずっと変わりたいって思ってはいたの。ただどうすればいいのか分からなくて、そのままで。でも、みんなと逢えたことで変われた。自分でもビックリしてるわ」
「そっか」
そう話す梨子の笑顔は眩しく、俺も心の底からよかった、と思える。
「さ、音ノ木坂までもう少しだね」
ついにやってきた音ノ木坂学院前。校舎の前に伸びる長い階段を見つめていると曜が呟いた。
「この上にあるの?」
そうだ。俺たちが憧れるμ'sのルーツの場所。それがこの階段の先にある。
「うぅ・・・!なんか緊張する!どうしよう!μ'sの人がいたりしたら!」
「へ、平気ですわ!その時はさささサインと!写真と!・・・握手・・・」
黒澤姉妹のテンションは頂点に達しているようだ。
うん。俺も迷わずそうする。
「ただのファンずら」
・・・花丸ちゃん、これはファンだからこその反応なんだよ・・・。
「千歌ちゃん!?」
不意に梨子が千歌を呼ぶ声がした。
視線を移すと千歌は1人駆け出し、階段を登っていた。
「あっ!待て!」
「抜け駆けはずるいー!」
千歌の後を追って俺たちも階段を駆け登っていく。
神田明神の男坂を登った時の感覚には近いが、また違うμ'sの雰囲気を感じる。もしかするとこれは彼女たちの日常だったりするのだろうか。
「・・・見えた・・・。ここが・・・」
「ええ、そうよ」
梨子が隣で肯定する。
赤いレンガの校舎。ここにμ'sがいたんだ・・・。
μ'sはこの学校を守った。ラブライブに出て、奇跡を成し遂げた。俺たち、いや。Aqoursのみんなはこれと同じことを成し遂げなければならない。
みんなの表情を見ると決意が固まったようで、自分たちのやるべき事を再確認できたようだ。
「あの、何か?」
声のした方を見ると、音ノ木坂の制服を来た少女がいた。
「私の姿を検知している?」
花丸ちゃんの後ろに隠れながら善子がいつもの設定を始める。
「違うから」
「・・・何よ」
腐るなよ・・・。
「すみません。ちょっと見学してただけで」
曜が謝ると女子生徒は質問をしてきた。
「もしかして、スクールアイドルの方ですか?」
「あ、はい!μ'sのこと知りたくて来てみたんですけど・・・」
それに対しては千歌が答えた。
「そういう人多いですよ。でも、残念ですけどここには何も残ってなくて」
何も残っていない?
ここは音ノ木坂学院なのに何故?
「μ'sの人たち、何も残していかなかったらしいです。自分たちの物も、優勝の記念品も、記録も。物なんかなくても心は繋がっているから、って。それでいいんだよ、って」
そういうものなのかな。成し遂げた後って。形がなくてもいい、だなんて俺には少し分からない。見えないと失ってしまいそうで怖いから。
目の前にそびえる校舎が何か言ってくれる訳もなく、俺にはμ'sのやったことが理解できなかった。でもそれだからこそμ'sは凄いのかも、と同時に思えた。
「和哉くん」
梨子が耳元で俺の名前を呼びながら脇をつつく。
「え?・・・おっと」
横を見てみるとみんな校舎に向かってお辞儀をしていた。どうやらみんなは何かに気づき、何かを見つけたみたいだ。
俺も頭を下げ1拍。
「「「ありがとうございました!!」」」
分かったこと、分からないこと、見つけたこと、探したいこと。
この東京で起きたことに答えを出すことで俺は成長できるだろうか・・・。変われるだろうか・・・。何にせよ、答えは少しずつ出していくしかないのだ。
すると。
「もう、今日は変よ」
隣の梨子が不機嫌そうにしていた。
「え?そうかな」
「心ここに在らず、って感じよ」
「そうかもねー。・・・んー・・・」
「はぁ、また考え事?」
今度は呆れたようにため息をする梨子。
コロコロ表情が変わって可愛いな。
「考え事って程じゃないよ。梨子は可愛いなって」
「はぁ!!?いきなり何よ!」
「何ってそういう事。ほら、沼津に帰ろうか」
みんなと。
梨子と。
1歩ずつ進んで行く。今はそれでいいのかもしれない。