ということで今回も特別編を投稿します。
これはあくまでif。
もしもの話なのでその点をご了承ください。
マルは小さい時から本を読んで育ってきた。
高校から知り合った先輩達はみんなマルのことを文学少女だ、っていう。
本の世界はいつもマルを知らない世界に連れていってくれて、何も誇れるものが無いマルを本の特別な登場人物にしてくれる。
でも、先輩に、和哉さんに出会って本にない特別な世界をマルは知った。
知らない世界に連れていってくれる。
特別な自分にしてくれた。
今日は図書室の当番で、Aqoursの練習に参加できない日。そんな日は必ず和哉さんは図書室に来てくれる。
練習の休憩時間の数分の間だけだけど、それがマルはとても嬉しかった。
「花丸?」
ドアが開き、和哉さんが頭だけ出して、図書室をのぞく。
名前を呼ばれ、ドキッ、と心臓が跳ねそうになる。
恋愛小説の片思いの女の子みたいに。そう考えてしまうと顔が熱くなり、俯く。
「体調悪いの?」
先輩はマルのおでこに手を当てる。
「い、いや!体調は万全ずら!」
「そっか」
ニコッ、と笑った和哉さんは椅子を1つもって、受付カウンターの近くに座る。
「今日の練習はもう終わったから。花丸も1人は嫌だろうなって思ってさ。付き合うよ」
「そんな。マルは全然気にしてないずら。むしろ和哉さん、沼津だから早く帰った方が」
「まあまあ、そう言わないで。そうだ、あれかして貰える?μ'sが特集になってた雑誌」
和哉さんが言っているのは、マルがルビィちゃんと一緒にスクールアイドルを始めるきっかけになった雑誌。
それはカウンターの引き出しにずっと置いてある。
「はい。いつも読んでるずらね。その雑誌」
「まあね。μ'sの特集では1番新しいしさ」
雑誌を受け取ると楽しそうに記事を読む和哉さん。
彼の目に映るそれはとてもキラキラ輝いているんだろうといつも思っている。
しばらく無言で本を読んでいると扉が開く音がした。
「ズラ丸?先輩?」
「善子ちゃん、図書室は静かにしないと」
やって来たのはルビィちゃんと善子ちゃん。
「どうしたの?2人とも」
「別に、練習が早く終わったから図書室に行こうと思って」
「善子ちゃんが2人がまだ図書室にいるから呼んで一緒に帰ろうって」
「ちょっ、ルビィ!」
確かにそろそろ図書室を閉める時間だ。
人ももう来ないだろうし、閉めていいかもしれない。
「全く、先輩も物好きよね。私たちのライブの日程決めたり、曲と振り付けと衣装のチェックもしてメンバーの仕事のサポートして。やりすぎじゃない?」
「それが、俺の役割なんだけど· · ·」
善子ちゃんは呆れ気味に話す。
確かに和哉さんの仕事量はメンバーの中で1番多い。何か手伝おうとしてもやんわり断られる。でも、和哉さんの頑張っている姿を見るのが嬉しくて。
マルはそんな和哉さんに恋をした。
「ほら、ルビィもなんか言いなさい」
「ピギッ!えっと、衣装チェックはとても助かってありがとうございます。とか· · ·」
「· · ·はぁ、全く。これじゃ、リリーが可愛そうだわ」
善子ちゃんは頭を抱えながら呟く。
「なんでそこに梨子が出てくるんだ」
「彼氏がこんなたらしじゃ可愛そうじゃない」
そう。和哉さんは梨子さんとお付き合いをしている。
2人は幼なじみで長い時間すれ違っていたけれど、和解してお付き合いを始めたらしい。
分かってても和哉さんの口から梨子さんの名前が出るのはつらい。胸がモヤモヤする。
梨子さんが嫌いな訳じゃない。むしろ、美人で綺麗でスタイルが良くってマルの憧れ。
だから、この気持ちはずっと閉まっておかないといけない。
「花丸?」
和哉さんがふとマルの名前を呼ぶ。
顔を上げると、じっ、と和哉さんはマルの顔を見ていた。
「本当に体調悪くないの?少し顔色悪いよ」
「だ、大丈夫ずら!図書室閉めるから早く出ないと」
そう言って全員で図書室を出る。
みんなで帰ると言っても学院前のバス停まで。
マルとルビィちゃんは歩きだけど、善子ちゃんと和哉さんはバス通学。
なんでもない帰り道が特別で1回1回が忘れられない思い出。
これはマルの叶わない初恋とありふれた失恋のお話。
あれからたくさんの事があった。
夏の地区予選は梨子さんと和哉さん不在の中8人でのライブ。
最終予選を突破し、学校の知名度が上がり、入学希望者もどんどん増えて一応廃校を免れたこと。
それに、ラブライブ優勝。
その後すぐにダイヤさん、果南さん、鞠莉さん、3年生の卒業。
新年度。新メンバーを加え、再発進したAqours。
それでも廃校の問題は続いていた。
前年ほどの結果は出せなかったけど、ラブライブには出場して、最高のパフォーマンスを披露できた。
そのお陰で入学希望者が増え、学校は存続が決定した。
その中でAqoursと和哉さんとの思い出が1ずつ増えていき、昨日の事みたいに思い出せる。
そして、今年も卒業シーズン
千歌さん、曜さん、梨子さん、和哉さんも卒業。
結局マルは自分の思いを閉じ込めたまま。
卒業式が終わり、教室で本を読んでいると善子ちゃんがやってきた。
「ズラ丸、アンタいいの?」
「いいって何が?」
「先輩たち、今日でいなくなるのよ?」
どうやら、善子ちゃんはお見通しのようだ。
だけど、マルはこの気持ちを出しちゃいけない。
「なんのこと?お別れの挨拶はさっきやったずら」
「頑固よね、あんたも。ダイスキの気持ちは閉じ込めるもんじゃないわよ」
あの時、Aqoursの初めてのライブで歌った曲を少しアレンジして善子ちゃんは言う。
「· · ·マルが今更言っても迷惑だよ」
「先輩には迷惑かければいいのよ。それよりもずっと閉じこもってる花丸を見てる方が私は辛いわ」
いつもはずら丸って呼ぶくせにこんな時ばっかり。
「でも· · ·」
「そんなことないよ」
「ルビィちゃん?」
いつの間にかルビィちゃんも来ていた。
「スクールアイドルを、Aqoursを始めた時と同じだよ。ルビィだって善子ちゃんと一緒で今のマルちゃん見てる方が辛いよ」
親友2人にここまで励まされて、マルは· · ·。
「決めたよ。マル、いってくる。結果はどうなってもいいずら。自分の気持ちに素直になるずら!」
「そう。頑張りなさいよ」
「頑張るビィ!だよ!マルちゃん!和哉さんは中庭にいるよ」
「ありがとう!」
マルは立ち上がって中庭に走る。
走っている間、色んなことが頭をよぎる。
言葉じゃうまく言えない想い。打ち明けるとしたらなんて伝えよう。
いつか一緒に帰った道。内浦湾に沈んでく夕日が眩しくて。それをAqoursのみんなで見たのは特別な思い出。
初めてマルのことを花丸って呼んでくれたのはその時。和哉さんは覚えてるかな?
忘れないよ。
さよなら。
中庭に着くと和哉さんは梨子さんと一緒にベンチに腰掛けて座っていた。
(やっぱりお似合いだな· · ·。もしかしたらなんて思ったけど、入る余地なんてないずら。けど· · ·)
けど、決めた。励ましてくれた善子ちゃんとルビィちゃんの為に。何よりマルの為に。気持ちを伝えるんだ。
「和哉さん!」
2人は驚いたような顔をしてマルに駆け寄る。
「どうしたの、花丸ちゃん!?」
「息、荒らげて走ってきたの?何かあった!?」
優しい2人。
マルは今からとても迷惑なことを言うのに。
何でこんなに優しいんだろう。
「和哉さん!マル、あのね、マルは· · ·!」
ああ、やっと言えた· · ·。
花丸ちゃんはハッピーエンドよりも少し報われないお話が似合うなぁ、ということで今回の話を作りました。ごめんなさい。
機会があればちゃんとハッピーエンドを書きたいですね。