急遽浦の星女学院への編入が決まった和哉。
過ぎ去っていく春休みを終え、登校初日。
彼は幼馴染みの桜内梨子と再開した。
「逢いたかったの· · ·。和哉くん・・・」
頭が追いつかない。なんでここに梨子が?
なんで東京からこんな田舎に?
分からない。まとまらない思考ばかりがグルグル回る。
しばらくして梨子は俺から離れると、しっかり俺を見据えて微笑む。
「5年ぶり、だね」
「そう、だね・・・」
2人とも次になんと切り出せばいいか分からず、黙ってしまう。
梨子は久しぶりに再会したというのにあの頃のように話しかけてくれた。
でも、俺は約束を破ったことを未だに引きずっている。
あの時のことを謝りたい。けど謝って、それでハイ仲直りと出来るのだろうか。
「共学化のテスト生って和哉くんだったんだね。知ってる人でよかったよ。くしゅん」
「理事長直々のお願いで。梨子はなんでここに?」
「わ、私は。その· · ·」
梨子は顔をふせて、何か言いづらそうにしている。
「2人とも、教室に向かいますよ」
外から先生が呼んでいる。
返事をして荷物を取り、梨子と2人で先生の後ろを歩き、2年生の教室の前まで行く。
それより、梨子はずっとクシャミをしている。風邪でもひいているのだろうか?
「2人は私が呼んだら入っててくださいね」
先生が教室で朝礼を始める声が聞こえてきた。
外で待つ俺たちは黙ったままだ。
自然と気まずい空気が流れ始める。
なんにせよ、梨子との関係はみんなには言えないな・・・。
「では、ここで転校生の紹介をします。入ってきてください」
助かった・・・、と思い、俺は扉を開けると女子生徒たちのはしゃぐ声が教室に響く。
確か、千歌と曜も同じクラスなんだっけ・・・。
教室を見回すと、窓側の1番後ろに千歌、その隣に曜がいた。
曜は俺の顔を見ると目を丸くしてジーッ、と俺の顔を見ている。
千歌はなぜか、音楽の教科書とにらめっこしている。
「では、自己紹介をお願いします」
「は、はい!」
自己紹介は梨子からだ。
正直、梨子と再会して自己紹介どころじゃなかったし、考える時間が少しできた。
「東京から転校してきました。くしゅん!失礼。桜内梨子です。よろしくお願いします」
梨子が一礼すると、教科書とにらめっこしている千歌と、いまだに状況を理解できていない曜以外の生徒が拍手をした。
梨子は顔を赤くして、少し照れている。
さて、次は俺の番だ。
「共学化テスト生として今日からここに通うことになりました。北野和哉です。正直、男子1人心細いですが、頑張りますので、よろしく」
俺も一礼すると、やっぱり拍手してくれた。
すると、ようやく千歌は異変に気づいたらしく、顔を上げ、こちらを見ている。
「えぇー!!??なんでカズくんここにいるの!?」
今更かよ · ·、と呆れながら千歌を見る。
「って、あぁ!!奇跡だよ!!」
「あ、貴女は!」
千歌は隣の梨子を見ると、それは太陽のような笑顔でこちらに走ってくる。
「一緒にスクールアイドル始めませんか!?」
いきなりの急展開で今度は俺が状況を理解できてない。
千歌は梨子に手を差し出し、スクールアイドルに誘っている。
というか、2人は知り合いだったようだ。
これに対し、梨子も笑顔を見せる。
え、引き受けるの· · ·?
「ごめんなさい」
深々と頭を下げる梨子。
あんな笑顔で断るやつ、初めて見た気がする。
「へ?」
千歌もこの有様だ。
あんな笑顔をされたんだ。引き受けてくれると思ったのだろう。気の抜けた声を出したいる。
「えええええええええぇー!!??」
千歌の叫び声が教室にこだました。
でも、俺はそんな千歌を見て、何か企んでいると直感し、また振り回されるのだろう、と今から少し心が弾んでいた。
ホームルームが終わると転校生が必ず通るイベント、質問攻めの時間が始まる。
梨子だけでなく、俺もだ。
そもそも今の席が教室の扉に1番近い後ろで、その前に梨子の席。
自然とここだけに人が集まってくる。
「ねえ!東京から来たってどうして」
「親の仕事の都合で・・・」
「趣味とかは!?」
「え、えっと・・・。あんまりないかな・・・」
「じゃあじゃあ!」
梨子は捌ききれない質問の量に目を回し始めていた。
かく言う俺も梨子のことを気にする余裕もあるはずない。
「なんでまた浦女に?」
「理事長が俺の知り合いでさ。頼まれたんだよ」
「何かハマってることとかは?」
「んー。ダイビングかな。ほら、3年生の松浦果南。あの人の家によく通ってる」
「ねえねえ!彼女とかは?」
「彼女!?」
いきなりの質問で驚く。
その瞬間、梨子と千歌の視線がこっちに向いた気がした。
「い、いないけど・・・」
「えー!沼津の方に住んでるって言ってたから前の学校で付き合ってるとか思ったのにー」
質問してきた子は不満気に口を尖らせる。
「そういうのに縁がないんだ」
それを言うと視線が消える。
気のせいだったのだろうか。
・・・深く考えないでおこう。
休み時間の度に起こる質問攻めに俺と梨子はダウン状態。
だが、なんとか捌ききり、初日を乗り切れた。
「カズくん、大丈夫?」
机に突っ伏している俺は顔だけぐりっ、と動かし、呼ばれた方を向く。
「ああ、千歌と曜・・・。どーしたの・・・?」
立っていたのは心配そうに俺を見ている千歌と曜。
なんだかんだ、今日2人と話すのは初めてな気がする。
「大変だったね。私も和哉くん見た時驚いちゃったから」
曜が俺の頭を撫でながら言う。
「秘密にしてって言われたから。言えなくてごめん」
「それって理事長から?」
「そんなとこ」
ふーん、と曜は生返事をした。
「それより、カズくん。桜内さん知らない?」
「え?り・・・桜内さんなら前に」
千歌の言葉で前の席を見ると梨子の姿はなかった。
「あれ?さっきまでいたんだけど・・・」
「もう帰っちゃったのかなぁ・・・。残念」
千歌が表情を暗くして呟く。
「話したかったの?」
「まあね。でも帰っちゃったみたいだから仕方ないよ。私とよーちゃんはやることあるから、カズくんは先に帰っていいよ」
その言い方だと、これからは2人と帰るのは確定事項みたいだ。
初耳なんですがね。
今はそんなことに突っ込む余裕もないし、千歌の言葉に甘えることにした。
「そうするよ。また明日」
「うん!明日ね!」
千歌と曜に見送られながら教室を出る。
途中廊下でピアノの音が聞こえてきた気がしたが、特に気に止めず、学校を出る。
とにかく、明日から何か千歌がアクションを起こすと感じた俺は大人しく帰路についた。
忙しく過ぎ去った1日と何やら企んでいる千歌。
和哉は根拠の無い予感に心を踊らせる。
「いや、弾ませはしたけど踊ってはないよ」
一緒じゃないですか。
「ま、まあ・・・。俺の中では違うから。千歌がやることなんてろくなことないから」
そうなんですね。
ところで、梨子さんとはどうなんですか?
「え?あー、うん。また次回!」
ちょっとぉ!?