2人の夢の軌道   作:梨善

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善子ちゃん、誕生日おめでとうございます!
今回は彼女の特別編です!

お楽しみください。


津島善子誕生日特別編〜百回目のキス〜

あれは少し前の出来事。新しい学校へ編入し、季節は秋になった頃だったと思う。

私は先輩に、和哉さんに告白された。

 

「俺は善子のことが好きです。付き合ってくれませんか?」

 

生まれてこの方、幸運なこととリア充じみたことには縁がない私。正直告白を受けて思考が吹き飛んだのを今でもよく覚えている。

 

どう返事をすればいいのか分からず固まっていると、先輩は寂しそうな顔で謝り出した。

 

「・・・ごめん、こんなこと言って。迷惑だったよね」

「そ、そんなことない!」

 

自分でもびっくりするくらいの大きな声を出し、先輩の言葉を否定する。

 

「善子・・・?」

「わ、私だって先輩のこと好きだったんだから!」

 

ここで私は初めて自分の中に隠していた気持ちを打ち明けた。そして、私たちは恋人になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数ヶ月後。

そろそろ卒業シーズンとなり、学校全体が慌ただしい雰囲気になってきた。しかし、私の隣にいるこの恋人は見た目以上にマイペースで、彼の幼馴染でもある梨子の説教も右から左へと受け流す程の呑気さである。

 

「先輩のクラスでなんかやってるんじゃないの?」

「そうだよ。卒業前だからってみんな最後の思い出作りに忙しいみたい」

 

狩野川の河川敷に座り、川を見つめながら先輩は人事のように呟く。

 

「行かなくていいの?」

「どうして?」

「だってみんな離れ離れになるんだから最後くらいは」

「知らないよ」

「即答・・・。意外とドライなのね」

「ドライって訳じゃないさ。ただ」

 

そう言うと先輩は私の肩を抱き寄せる。

 

「今は善子と居たいだけだよ」

「・・・バカじゃないの?」

 

顔が一瞬で熱くなる。

思わず出た言葉もそれを隠すためのものだ。

 

「相変わらず、バカでしてね」

「・・・先輩、東京に行くの?」

 

私が呟くと先輩の体がピクリ、と動いたのに気づいた。

 

「・・・誰に聞いた?」

「梨子と曜・・・」

「あいつら・・・」

 

先輩は面倒くさそうに頭を搔く。

 

「・・・うん。行くよ」

「なんで?」

「やりたいこと、見つけたから」

「そう・・・」

 

私は先輩の腕を解き、立ち上がる。

 

「じゃあ、私も東京に行くわ」

「え?」

 

先輩はきょとん、とした顔をしている。

 

「当たり前じゃない。リトルデーモンのいるところにヨハネは必ず存在するのだから」

 

いつもの決めポーズをして先輩に笑いかける。すると先輩は小さく吹き出す。

 

「な、何よ!おかしな所なんて何も無かったじゃない!」

 

急に恥ずかしく思えてきた私は声を荒らげる。

 

「いや、善子は何もおかしくなかったよ。・・・うん。そうだよね」

 

1人で納得している先輩を怪訝な目で見つめる。とにかく聞いてみることにしよう。

 

「何1人で笑ってるのよ?」

「いや、俺はバカだなぁ、って」

「突然どうしたのよ・・・。本当に大丈夫?」

「俺さ、今日進路のことを善子に話そうと思ってたんだ。それと一緒に別れよう、って言おうとも思ってた」

 

先輩の言葉に心臓が止まりかける。

 

「・・・それって私がイヤになったから・・・?」

「違うよ。善子のことは大好きさ。誰にも触れさせたくないくらいに。別れよう、って思ったのは俺が東京に行ったきりになると思ったからだよ」

「そ、そう言うことね…」

 

す、捨てられられたかと思ったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 

「今の善子の言葉を聞いたらそんなことを言う気が失せた!後出しだけどさ、善子」

「な、何よ・・・」

 

先輩も立ち上がり、私の目を真っ直ぐ見つめる。

 

「俺と東京に行ってくれますか ?」

「…っ!」

 

そんなの答えは1つしかない。

 

「・・・はい・・・!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

4月。沼津駅のホームで私たちは電車を待っていた。

 

次の電車が来ると先輩は東京に行ってしまう。しばらくは会えない日々が始まってしまう。

 

「わざわざ見送りに来なくてもよかったのに」

「いいじゃない。私がしたいだけだもの。ここに残るみんなの代表よ。…それより、梨子も東京なんでしょ?浮気したら呪ってやるんだから」

 

梨子も東京の音大に進学し、ピアニストになると言う夢を叶えるために進み始めた。

梨子と先輩は幼馴染というのもあってこれが不安で仕方ない。

 

「大丈夫だよ。俺は生涯善子のリトルデーモンだから」

「ふ、ふん!い、いい心がけね!」

 

そんな話をしていると電車がやってきた。

 

「じゃあ行くよ」

 

先輩が呟く。

 

「うん・・・」

「そんな顔しないでよ。少しの我慢だよ」

 

分かってる。そんなの分かってるけどやっぱりさみしい。そのせいか、自然と涙が溢れそうになる。

 

「善子、顔上げて」

 

先輩に言われるまま顔を上げる。その瞬間、私の唇は先輩の唇に塞がれてしまった。初めてじゃない。何度もお互いの愛を確かめるための行為が心地いい。刹那の甘い時間。秒にも満たない短い時間だが、私の不安を消し去る。

 

「これでさよならじゃないんだ。俺は向こうで待ってるから」

「うん・・・!」

「行ってきます」

「行ってらっしゃい」

 

そう言って電車に乗りこむ先輩。

ベルが鳴り響き、扉が閉まり、私と彼の距離を完全に断つ。

ゆっくり動き出す電車。私も彼も目をそらさずに、ただ真っ直ぐ見つめ合う。

そして私は音に出さず、口だけで呟く。

 

『愛してる』と。




不幸な彼女の幸せな1日になることを祈っています。
よっちゃん大好きだー!
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