9人全てのお誕生日回を書くことができて1つの達成感があります。
どうぞよろしくお願いします!
「・・・こんな時間・・・。・・・行きませんと・・・」
バイトの時間が迫っていた。
1人で生活するには広すぎる部屋の片隅に置かれた机の上に広がった参考書とノートを仕舞いながらわたくし、黒澤ダイヤは背伸びをする。
浦の星女学院を卒業し、わたくしは東京の大学へと進学し、一人暮らしをしていた。
金銭的な問題はないのだが、これも1つの経験としてそれなりのバイトをしている。
立ち上がり、クローゼットからコートとマフラーを取り出し、身につけ、必要最低限の物だけを持ち、家を出る。
「うぅ・・・。内浦はもう少しマシだったはずですわ・・・」
バイト先までの道のりは冷たい冬の風が体の芯を凍り付けさせるほど寒く、息を吐けば瞬く間に白く凍る。
「全く・・・。こんな日くらい休みでも良いのではないのでしょうか」
クリスマスだと言うのにバイトに駆り出されるというのは不満も溜まるものだ。
街中に装飾されたイルミネーションは魔法のように輝いていて、見ているとため息も出てくる。
「・・・共に過ごす相手もいませんが」
自虐気味に呟き、1度足を止める。
悴んで冷たくなった指先で唇を触れる。
「あれは・・・。あれは、どういう意味だったのでしょうか・・・」
ふと思い出す旅立った日のあの時。
あの時の真意は未だに聞き出せず、数ヶ月が経っていた。
「考えても仕方ないですわよね」
再び歩きだし、バイト先へと向かう。
「お疲れ様です」
シフトが終わり、同期や先輩に一礼して帰宅しようとするが、
「あ、黒澤さん」
2つ年上の男性の先輩に呼び止められてしまう。
「どうかしましたか?」
「俺もシフト終わりなんだよね。よかったらこの後飯でもどう?」
またこれか・・・。
心の中でため息をつく。彼からの誘いも何回目か分からない。彼も大学生だ。時期も時期だし、女性と過したかったり、恋人を作ろうとしているのだろう。
確かに顔立ちは悪くない。だが発言に下心が見えていて正直関わりを持ちたくない。
「申し訳ありませんがまだレポートが終わっていませんので、これで失礼させていただきます」
頭を下げ、それとなく断る。もちろんレポートは既に終わっている。
「そ、そうなんだ。呼び止めて悪かったよ」
そそくさとその場を去り、ある程度離れると何度目かも分からないため息をつく。
「・・・折角です。ケーキでも買って帰りましょう」
行き先を駅構内のケーキ屋へ向け、更に気温の下がった街を歩いていく。駅までの大通りはカップルばかりでいい気はしない。手を繋いでいたり、同じマフラーに巻かれていたり。正直な話、羨ましい。
今巻いているこの手編みのマフラーだって自分で作った物。
わたくしだって・・・。
後悔した気持ちを振り切るように頭を振り、邪念を祓う。
駅を進んでいき目当てのケーキ屋に着いた。
少し奮発したい時や、個人的な記念日だとよくここの抹茶のショートケーキを買っている。こんな日だ。買わない訳はない。
意気揚々とケーキ屋に入り、ケースの中を見るとお気に入りの抹茶ケーキは残り1つだった。
「すみません!」
取られたくない一心で店員を呼び、ケーキを指差す。
「「これを1つ!」」
2つの声が重なった。
・・・2つ?
声の方を見ると、わたくしの思考は吹き飛びそうになる。
「か・・・、ず・・・」
「ダイヤちゃん?」
時間が止まり、言葉を失った。
そこには内浦に居るはずの彼が居たのだから。
「どうして、ここに・・・?」
「えっと・・・。それは・・・」
お互い思いもよらぬ再開でその場で固まってしまう。
「お客様、どうなさいますか?」
店員の言葉で時間が動き出す。
「あ、とりあえず俺で」
和哉さんはそう言うと会計を済ませ、ケーキを受け取る。
「ここじゃなんだからどこか行こうよ。カフェとか沢山あるでしょ?」
「え、えぇ。こちらですわ」
彼を連れ、近くのカフェに入り、飲み物を注文する。
幸い客はほとんど居らず、スムーズに席へ案内された。対面に座り、ようやく彼をマジマジと見る。以前よりも少し大人びており、頼もしくなった気がする。
「ダイヤちゃん?」
「は、はい!?」
声をかけられ、驚きから肩が跳ねてしまう。
「これ」
彼はケーキの箱を差し出す。
「い、いいんですか?」
「元々ダイヤちゃんに買っていこうと思ってたんだよ」
「どういうことですか?」
「俺、こっちの学校に進学するからさ、その下見。今日は借りるアパートを見に来てたんだ。せっかくだし、ダイヤちゃんに会いに行こうかなって」
なるほど、と納得しかけるがそうじゃない。
「そうですが、そうじゃありませんわ!わたくしの家を知っているような言い方で!」
「ルビィに聞いたよ」
「ルビィ・・・」
勝手に教えていた事にわたくしは頭を抱える。
「え、えっと。とにかくメリークリスマス、ダイヤちゃん」
苦笑いを浮かべながら和哉さんは言う。
「はぁ、メリークリスマスですわ」
どっ、と気が抜けると同時に頼んだコーヒーが届く。
「あっ!ヤバい!電車!!」
届くや否や。和哉さんは立ち上がり、叫ぶ。
「もうそんな時間ですか?」
腕時計を確認すると時刻は21時近くになっていた。
「ごめん!行かないと!」
和哉さんは財布から自分の分の金額を置き、店を出ようとした。
「お待ちなさい!」
咄嗟に腕を掴み、彼を呼び止める。
「な、何!?」
「ひ、1つだけ、答えてください」
「ん?」
聞いていいのか、聞くべきではないのか。そのまとまっていない考えのせいで口が震える。
「ダイヤちゃん、早く!」
急かされてしまう。
「ああ、もう!」
やけ気味に頭を掻き、彼の目を見る。
「あの日!内浦を立つあの日に貴方は!く、口付けを・・・。わたくしに口付けをしたのですか!?」
あの日。駅のホームまで見送りに来てくれた彼。
電車に乗る瞬間にわたくしにキスをして何も言わずに電車の乗り降り口へ押した。扉が閉まってもただ笑ってわたくしを見つめていた。
その理由を何としても聞きたかった。
「好きだから」
「は、は?」
「ダイヤちゃんのことが好きだから」
「な、何度も言わないでください!」
真剣な顔で言う彼。そんな真っ直ぐに言われると顔が熱くなってしまう。
「本当は今日はこっちに来る、って言って帰るつもりだったんだけどね。そう言われたら言うしかないじゃん?」
「だ、だからと言って・・・」
「だから春、待っててよ。絶対貴女の元へ行くから」
そう微笑んで彼は行こうとする。
「和哉さん!」
わたくしはもう一度彼の名を呼び、引き止める。
「今度はな、ぅぶ」
変な声を上げる彼。それもそのはず。彼に向かって自分のマフラーを投げつけた。
「それを持っていきなさい。必ず、必ず返しに来るのですよ」
「・・・うん!」
呆気に取られていたようだが、意味を理解したらしく、力強く頷くと走り去っていった。
和哉さんが見えなくなり、席に戻る。置かれたコーヒーを1口啜る。
「先輩の誘いの断り方が増えましたね」
笑いながら来年の自分たちの姿を想像して静かに微笑むのだった。
ダイヤさんの一人暮らしはすごく規則正しそうですよね。
その反面、代わり映えのない日常に嫌気をさしていそうです。
そんな疲れきってダメになってしまいそうな彼女もいつか書いてみたいものです。