2人の夢の軌道   作:梨善

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パッピーバレンタインです!
今回の特別編はズバリ。バレンタイン!
ちょこっと甘いお話をお届けします。






ちなみに今のはチョ(ry


バレンタインデー特別編〜感謝と恋〜

2月14日バレンタインデー。

それは聖ヴァレンティヌスに由来する、豊年を祈願する日である。

そして、親しい人にチョコレートを渡し、感謝の気持ちを伝える日でもある。

また、恋焦がれる少女たちが思いを寄せる男子に思いを伝える戦いの日である。

浦の星女学院のスクールアイドルであるAqoursもその例外ではなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「バレンタイン、か・・・」

 

俺は朝起きると自然に呟いていた。

バレンタインデー。

女子からチョコを貰える日。

貰えるということはその女子からは少なからず、友達とは思って貰えているということ。

逆に貰えないということは・・・。

考えたくもない。

 

一応毎年、千歌、曜、果南ちゃんからは貰ってはいる。

義理チョコや友チョコなんだけれども。

ちなみに、前の学校の女子からは貰ったことはない。

学校に男子は1人だが、今年は貰えるだろうか・・・、なんて少しナイーブ気味に考える。

 

「とりあえず、梨子に貰えたらそれでいいや・・・」

 

一応幼馴染みだし、仲もいいから貰えるはずだ。

 

・・・貰えるよね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう」

 

教室の扉をくぐると、クラスメイトが挨拶を返してくれた。

 

「あっ。北野くん!はい、バレンタインチョコ」

「私からも」

 

扉のすぐ近くで談笑していたクラスメイト2人が俺に気づき、カバンからラッピングされたチョコを渡してくれた。

 

「えっ。いいの?」

 

高校に入って初めてのクラスメイトからのチョコに俺は驚く。

 

「いいよ。唯一の男子なんだから、今年は豊作なんじゃない?」

 

ニヤニヤ笑いながらクラスメイトは言う。

 

「ありがとう!大事に食べるよ」

 

お礼を言って自分の席へ行く。

今年はひょっとするかも、なんて思いながら貰ったチョコを眺める。

 

「おっ、早速1つですか?」

 

声をかけられ、そちらを見ると、よしみちゃん、いつきちゃん、むつちゃんの3人がいた。

 

「うん。あの子がくれたんだ」

 

さっき渡してくれたクラスメイトを指さす。

 

「へー。じゃあ、私たちからも。どうぞ!」

「ありがとう!」

 

3人チョコを貰った。

 

「和哉くん、前の学校でも結構貰ってたんじゃない?」

 

いつきちゃんが当たり前のように聞いてくる。

 

「・・・だよ・・・」

「え?」

「0だよ!0だったんだよ!?悔しいじゃん!!」

「う、うん・・・」

 

と、まあこんな風に教室にいるクラスメイトをドン引きさせてしまった。

 

しばらく机に突っ伏していると。

 

「おはヨーソロー!」

「おはよー」

「おっはよー!」

 

梨子、千歌、曜の3人がやってきた。

 

「あれ?和哉くん、どうしたの?」

 

俺に気づいた曜が声をかけてくる。

 

「いや・・・。なんでもないよ・・・」

「そっかぁ。これ食べて元気だしなよ?」

 

そういうと曜はカバンからラッピングされた小さな箱を取り出す。

 

「はい!これ」

「これは?」

 

差し出されたものを受け取りながら曜に尋ねる。

 

「今年のチョコだよ。今年は去年より頑張ったであります!」

「まじで?」

「まじだよ!」

「開けていい?」

「どうぞどうぞ」

 

許可を貰い、目の前で箱を開ける。

 

「こ、これは・・・!」

 

曜が作ってくれたチョコレートは錨の形をしたチョコレート。

ホワイトチョコなどで綺麗にデコレーションもされている。

こんな金型は売ってないはずだ。

だとすると、これは金型から手作りなのか?

 

「すげぇ・・・。よく作ったね」

「えっへへ!まあね!さあさあ、食べてみて!」

「う、うん。では、いただきます」

 

カリッ、と一口かじるとチョコの風味と味が口の中を占拠する。

甘すぎもせず、しつこくもない。絶妙な甘みのバランス。

 

こんな美味いチョコ、食ったことない・・・。

 

「結婚してください」

「ふぇっ!?」

 

曜が驚いた声をあげる。

 

俺、何か言った?

 

教室はやたら黄色い歓声で盛り上がっている。

 

「何かあったの?俺何かした?」

 

目の前にいる曜も顔を真っ赤にして、顔を手で隠している。

 

「い、今・・・。その、・・・こんしてって・・・」

「え?何?」

 

小さく、ボソボソ喋る曜。

うまく聞き取れないため、顔を近づける。

 

「うぁああああああああ!!わ、私!走ってくる!ヨーソロォオオオオオオオ!!」

「曜!?」

 

何が何だかまるで分からない。

 

「千歌なんだったの?あれ」

 

そばに居る千歌に話しかけるが、その千歌も不機嫌だ。

 

「カズくん、よーちゃんのことどう思ってる?」

「え?」

「いいから!」

「普通に友達って思ってるけど」

 

曜はとても良い奴で頼りになって親友と言っても過言ではない。

 

「そ、そっか!あんなこと言うからてっきり付き合ってるのかと思ったよ!」

「曜と?ないない。俺なんかが釣り合うわけないでしょ」

「だよねー!これ、チカからね」

 

千歌が渡してきたのもチョコ。

 

「うん。ありがとう」

「えへへ。よーちゃん程じゃないけど、結構頑張ったんだよ?」

「そっか。家で食べてもいい?」

「うん!そっちの方が助かる、かな」

「ん。分かった」

 

千歌から貰ったチョコをカバンにしまう。

 

「あ!それと、あんなこと言っちゃダメだからね」

「あんなことって?」

 

千歌が何のことを言ってるのか分からない。

 

「結婚とか、告白じみたこと」

「え?いつ言ったっけ?」

「無意識だったの!?」

 

『大声をあげながら走っている、2年生の渡辺曜さん。理事長室に今すぐ来なさい』

 

曜を呼び出す鞠莉ちゃんの声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

授業も終わり、放課後。

練習の時間だ。

 

俺はと言うと昼休みにまたクラスメイトに何個かチョコを貰い、ご機嫌だ。

 

「お疲れ様ー!」

 

意気揚々と部室の扉を開けると、ルビィと花丸ちゃん、それにダイヤちゃんがいた。

 

「こんにちは、和哉くん」

 

花丸ちゃんが俺に挨拶をする。

 

「さっそくだけど、これ!」

 

ルビィがラッピングされた紙袋を差し出す。

 

「これって、チョコ?」

「うん!お姉ちゃんとマルちゃんの3人で作ったんだ!」

「ということは、3つ入ってるの?」

「うん!」

 

なんて豪華なんだ・・・。

 

「ありがとう!3人とも」

「別に・・・。ここ数年渡す機会がなかったものですから。折角なので」

 

ダイヤちゃんはそっぽを向き、黒子を掻く。

 

「ま、マルは上手くできたか自信なくて・・・」

 

反対に花丸ちゃんは不安そうだ。

 

「気持ちだけでも嬉しいよ。ありがとう」

「え、えへへ。そう言ってもらえると嬉しいずら」

 

隣でルビィがニコニコしながら花丸ちゃんを見ている。

 

なんだ、この可愛い生き物たちは。

癒される。

 

すると、不意に誰かに襟を捕まれ、引きずられる。

 

「ぐえっ」

「先輩!来なさい!」

「善子!?」

「ヨハネ!」

 

善子に引っ張られながら、連れてこられたのは人気の少ない渡り廊下。

 

「なんなの。ここまで引っ張ってきて」

「そ、その・・・。これ・・・」

 

善子がソワソワしながら差し出したのはチョコだ。

 

「俺に?」

「他に誰がいるのよ!」

 

善子は顔を赤らめながら、目をそらす。

 

「くれるの?」

「そ、そうよ!いらないの!?」

「そうは言ってないよ。ありがとう」

 

そう言って善子からチョコを受け取る。

 

「でも、善子から貰うのは初めてだね。中学の時はくれなかったし」

「い、言ってくれれば渡したわよ・・・」

「こっちからはなかなか言えないよ」

「わ、分かったわよ!リトルデーモンの面倒を見るのもヨハネの役目だから、仕方なく!しかーたなく来年もあげるわ!」

 

顔を赤らめ、必死で誤魔化す善子。

それを見てぷっ、と吹き出す。

 

「そうだ。このチョコ一緒に食べない?」

 

善子から貰ったチョコは6個ほどの小さなチョコだ。

 

「え。いいわよ。先輩が食べなさいよ」

「いやー、流石に量が多くてさ」

「何よ。自慢?」

 

露骨に嫌そうな顔をする善子。

 

「そんなんじゃないよ。善子、チョコ好きでしょ?練習まで時間あるから一緒に食べようよ」

「いいの!それは先輩にあげたものだから!それに、昨日沢山食べたし・・・」

「食べた?」

 

善子は恥ずかしそうに俯く。

 

「そうよ!形が上手くいかなくて何回も作り直したのよ!リリーにも迷惑かけちゃったし・・・」

 

どうやら梨子と一緒にこのチョコを作ったらしい。

最後まで拘ってるあたり、なんだかんだ言ってやっぱり善い子だ。

 

「そっか。梨子と作ったんだ。家で食べるよ」

「ええ。そうして。ところでリリーからは貰ったの?」

「・・・いや、まだ・・・」

 

肝心の梨子にチョコを貰えていない。

それどころか今日1度も話していない・・・。

その事はなるべく思わないようにしていたが、言われるとやはり心にくる。

 

「そ、そう・・・。でも、チョコを用意してたから貰えるはずよ!誰にあげるかまでは教えてくれなかったけど・・・」

「・・・」

「ご、ごめんなさい!」

 

善子は慌てて頭を下げて謝る。

善子が謝る箇所はどこにもないんだが・・・。

 

「仕方ないよ。梨子の中では俺は気にならない小さな存在ってだけなんだし。そろそろ行こっか」

「そんなこと・・・!・・・行きましょう」

 

ポケットに入っていたチョコボールを1つ開け、口に入れながら部室に向かう。

 

うん、甘い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ!和哉!もー!どこ行ってたの!」

 

部室に入ってすぐ、鞠莉ちゃんに捕まる。

部室にはもうみんな揃っていて、俺たちが最後だったようだ。

端の方でこちらを見ている梨子を見る。

すぐに目が合うが、逸らされてしまう。

 

待って、泣きそう・・・。

 

「もう!聞いてるの!?」

「わっ」

 

視界の全部が鞠莉ちゃんの金髪で埋まる。

 

ホントに距離が近いからやめてもらえないかな・・・。

 

「もう。はい、これ」

 

鞠莉ちゃんからもチョコを貰った。

 

「あ、ありがとう。これお高いやつ?」

「そうねー。5万くらい?」

「高っ!?」

 

こんな小さいのに5万!?

嘘でしょ!?

 

「これだから金持ちは・・・」

 

テーブルに頬杖をついてジト目をしている果南ちゃんが呟く。

 

「果南は渡さなくていいの?」

「私!?」

 

鞠莉ちゃんが微笑みながら言うと果南ちゃんは驚き、椅子から倒れそうになる。

 

「持って来たけど、これって変に勘違いされない?」

「何を?」

「ちょっと力入れすぎたというか、凝りすぎたというか・・・」

 

顔を真っ赤にしながらモジモジしている果南ちゃん。

こういう姿をあまり見たことないからかなり新鮮だ。

 

「果南ちゃんから貰えるなら俺は嬉しいよ」

「そ、そういうこと言う!」

 

へぇ、意外とこういうのには弱いみたいだ。

 

「もう・・・。はいこれ」

 

全く顔を合わせようとしない果南ちゃんはそっけなく紙袋を渡す。

 

「ありがとう、果南ちゃん。食べていい?」

「あーもう!分かったから!好きにしなよ!」

「では、早速」

 

中身を見てみると可愛くラッピングされた小箱が。

その中にはハートの形をしたチョコに『Thank you』と文字が書かれていた。

 

「お〜」

「わーっ!」

 

みんなそのチョコを見て声を漏らす。

 

「やっぱり変でしょ・・・」

「そんなことないよ。本当にありがとう!」

「ふ、ふん!」

 

お礼を言うと果南ちゃんはまたそっぽを向いてしまった。

 

「さ、皆さん準備をしてください。練習を始めますわ」

 

ダイヤちゃんの声でみんなが準備を始める。

その中、妙に顔が赤い曜が俺の元へやって来る。

 

「か、和哉くん」

「どうかした?」

「あ、あの・・・。不束者ですが、よろしくお願いします!」

 

ん?

ンン?

なぜ告白を受けたんだ?

 

「えっと・・・?」

「和哉くんから告白されていろいろ考えたら私も和哉くんのこと好きなんだって気づいて」

 

んー?

んんんんんー?

 

「これからよろしくね?」

 

そう言って曜は手を振って行ってしまった。

 

えっと・・・、どういう状況?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

練習が終わり、下校時刻。

練習が終わってからというもの曜が俺の腕に抱きついたまま離れようとしない。

 

とにかく視線が痛い。

特に千歌、善子、そしてダイヤちゃんの。

 

「これは一体どういうことですの?」

 

ダイヤちゃんがこめかみに青筋を浮かべ、俺たちを見ている。

 

「い、いやね。俺もよく分かってないんだよね」

「細かいこと気にしちゃダメだよ、ダイヤさん」

 

ば、馬鹿曜!余計なことを!

 

「お黙らっしゃァああああああああぁぁぁい!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何とか曜を引き剥がし、学校の自販機の前で一息つく。

夕焼けに染まったグランドを見ながら缶コーヒーを飲む。

 

あー。コーヒーが染みる。

 

割とチョコばかり食べてたからいい口直しになった。

 

「和哉くん」

「ん?」

 

後ろから声をかけられ、振り向くとそこには梨子がいた。

 

「・・・えっと、どうかした?」

「その、これ・・・」

 

控えめに差し出した小さな箱。

 

「これは、チョコ?」

「う、うん」

 

俺は手を震えさせながら受け取る。

 

「ありがとう・・・!」

「ごめんね・・・。渡すの遅くなって。みんな上手に作ってて、自信無くしちゃって・・・」

 

梨子は苦笑いを浮かべる。

 

「・・・正直に言うと、梨子から貰えたのが今日一番嬉しい。誰よりも」

「・・・っ」

 

梨子はクルッ、と後ろを向く。

 

「そ、それ家で開けてね。今開けちゃダメだから!また明日!」

「う、うん。また明日」

 

梨子は走って帰ってしまった。

 

「俺も帰るか」

 

少し冷えた缶コーヒーをグイッ、と飲み干す。

 

そのコーヒーは少しだけ甘かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

家に帰って早速梨子と千歌から貰ったチョコを自室の机の上で開ける。

中には2人ともハート型のシンプルなチョコ。

そして、手紙。

2人からの手紙を読み、読み終わるとそれを机の上に置く。

椅子にもたれかかり、天井を見上げる。

 

「はぁ・・・。なんて答えよう・・・」

 

まだまだ俺のバレンタインデーは終わりそうにない。




チョコは甘いもの。
恋もまた甘く切ない。

チョコと恋は同じ。
だから溶けないうちに形にして渡さないと。

皆様のバレンタインが良いものになることを願います。

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