今回もお付き合いよろしくお願いします。
バレンタインに貰ったチョコのお返しをするために俺は紙袋に大量のお菓子を詰め込んでいた。
「あ、先輩。おはよ」
朝のバスで善子が乗ってきた。
「善子。おはよ」
「ヨハネよ!」
いつものやり取りをし、善子は俺の後ろの席に座る。
「それ、全部お菓子?」
善子は俺の隣に置いている紙袋を見つめる。
「そうだよ。はい、善子」
紙袋から1つお菓子を取り出し、善子へ渡す。
「あ、ありがとう・・・。そろそろ曜さんが来るんじゃない?」
「・・・そう、だね」
ここ1ヶ月。
曜の行動が俺の悩みの種だ。
どうもあの日、バレンタインデーが原因だが、俺には思い当たる節がない。
「おっはヨーソロー!」
噂をすると曜が乗ってきた。
「かっずやくーん♪」
曜は勢いよく俺の隣に座り、抱きついてくる。
「お、おはよ・・・」
柔らかいものやいい匂いやらして・・・。
朝から刺激が強い。
「もー!元気ないよー?体調悪い?」
曜は心配そうに俺の顔を覗き込む。
「い、いや。体調はいいよ」
「そう?にしては元気ないけど」
曜は青く澄んだ大きなのは瞳でじっ、と俺の目を見る。
「ほ、本当に大丈夫だから・・・」
曜を押し退け、少しだけ距離を離す。
「むぅ・・・。本当に体調悪くなったら言ってよ?私がしっかり看病するから!」
ふんす、と気合を入れる曜。
「あ、あはは・・・。気持ちだけ貰っとくよ・・・」
善子に助けを求め、振り向くが、舌打ちをされ、堕天させるぞ?とでも言いたげな目で睨まれる。
「あ、あはは・・・。あはははははは・・・」
俺は力なく笑うしかなかった。
結局、バスを降りても曜はずっと抱きついたままで、教室までの道を腕を組まされたまま歩いて行った。
最初の頃はみんな驚いていたり、歓声をあげて冷やかしたりしていたが、1週間経った辺りから誰も気にしなくなった。
最後の砦と思っていたダイヤちゃんも諦め、節度を持つように、とだけ言い、俺を完全に見捨てた。
「みんな、おっはヨーソロー!」
元気よく教室のクラスメイトに挨拶をする曜。
「あ。曜ちゃんと北野くん。おはよー。朝から熱いねー」
クラスメイトの1人がいつものように俺たちを冷やかす。
「もっちろん!将来を約束した仲だからね!」
「違う!それは曜が勝手に言ってるだけなんだよ!」
「もー。和哉くん。照れ過ぎだよー」
そう言いながら曜は俺の腕にさらに強く抱きつき、頬ずりをする。
もはや曜には何を言っても無駄のようだ。
・・・もう何週間も前から薄々は気づいてたけど・・・。
「あーもう。離れろ」
「やーだー」
腕を引いて曜から離れようとするが、全力でしがみついて引き剥がせない。
「力、強・・・」
「曜ちゃんの大好きパワーのおかげだよ!」
「知らねぇよ!」
「・・・朝から何してるの?」
後ろからやたら殺気の乗った声が聞こえる。
恐る恐る振り向くと千歌と梨子が鬼の生き写しかと思う程の形相で見ていた。
「お、オハヨウゴザイマス・・・」
俺はもう完全に怯えてカタコトな言葉で返事をする。
「あ!千歌ちゃん、梨子ちゃん!おはよー!」
「よーちゃん、おはよー!」
「おはよう」
曜が挨拶すると2人はいつも通りの表情と声になる。
「曜ちゃんもあんまり和哉くんを困らせちゃダメよ」
「あ、うん・・・。和哉くん、ごめんね?」
梨子に注意された曜は俺の腕から離れる。
・・・助かった。
「あ、うん・・・」
曜がようやく離れてくれたので、俺は先月チョコをくれたクラスメイトにお返しを渡していく。
曜、千歌、梨子の視線がやけに鋭いのは気のせいだろう。
昼休み。
俺は理事長室に来ていた。
「鞠莉ちゃん、いる?」
ノックもせずに理事長室の扉を開ける。
「コラ。ノックくらいしなさい?」
少し怒る鞠莉ちゃんは机に向かってペンを走らせていた。
「ごめんごめん。1人?」
「今はね。もう少ししたら果南とダイヤも来るわ」
「そっか」
3年生は卒業し、学校に来ることはない。
しかし、この3人は暇を見つけてはここに集まっている。
俺はソファーに座る。
「待つの?」
「うん。渡したい物があるから」
「そう。コーヒーでもいれるわよ?」
「いいよ。仕事、あるんでしょ?」
俺は鞠莉ちゃんの申し出を断る。
すると、理事長室の扉が開く。
「お待たせー。って、カズもいるじゃん」
「本当ですの?」
やって来たのは果南ちゃんとダイヤちゃん。
「噂をすると、だね」
「はい?」
俺が呟くとダイヤちゃんは首を傾げる。
「こっちの話。これ、3人に」
俺はバレンタインのお返しのお菓子を3人に渡す。
「WOW!いいの?これ」
お菓子を受け取った鞠莉ちゃんが大げさな反応をする。
「うん。バレンタインのお返し」
「そういえばホワイトデー、でしたわね」
ダイヤちゃんも受け取り思い出したように呟く。
「手作りじゃないけどさ。・・・今日渡せなかったらいつ渡せるか分からないから」
「うん。ありがとう」
果南ちゃんがお礼を言うと、2人も続いてお礼を言う。
「じゃあ、渡したし俺は行くよ。頑張ってね」
俺はそそくさと理事長室を後にする。
あの3人はもうすぐ居なくなる。
それぞれの夢と道を目指して。
「あー。くそっ。柄でもないのに」
なんでこう、涙が溢れそうになるんだろ・・・。
「ルビィと花丸ちゃんにも渡しに行こう。・・・ついで善子でもいじって気を紛らわせよう」
俺は1年生の教室へ早歩きで向かうのだった。
「ルビィ、花丸ちゃん?」
教室の出入口から2人を呼ぶ。
「あれ?和哉くん?どうしたの?」
机に座って本を読んでいる花丸ちゃんが俺に気づく。
「これ」
花丸ちゃんにお菓子を見せる。
食いしん坊の彼女は目を輝かせ、俺の元へ飛びついてくる。
うん、可愛い。
「それってお菓子!?」
「うん。バレンタインのお返し。ルビィは?」
「ルビィちゃんは・・・」
花丸ちゃんは教室の後ろをチラッ、と見る。
「・・・なるほどね」
善子と2人で何やら怪しい儀式をやっていた。
「邪魔するのも悪いしルビィに渡してくれる?」
お菓子を花丸ちゃんの上に2つ乗せる。
「分かったずら!あれ?善子ちゃんの分は?」
「朝、バスで渡したよ」
「なるほど。確かに受け取ったずら!」
花丸ちゃんはルビィたちの元へ行ってしまった。
「俺も戻りますか」
自分の教室へゆっくり歩いていくのだった。
昼休みの余った時間で残りのクラスメイトにもお返しを渡し、放課後。
渡していないのは千歌と梨子と曜だけだ。
俺は屋上に3人を呼び出し、そこで待っていた。
「日が長くなったなぁ・・・」
もう午後5時だというのにまだ空は明るい。
気温も暖かく、吹き抜ける風も気持ちがいい。
この屋上からの景色はあと何回見れるんだろう?
珍しくセンチメンタルなことを考えていると、ガチャ、と扉の開く音がして、俺は扉を見る。
3人一緒に来てくれたようだ。
「ありがとう、みんな」
「どうしたの?呼び出して」
梨子が首を傾げる。
「まずこれ。チョコ、ありがとう」
俺は3人にお菓子を渡す。
「それと返事をしようと思ってさ」
目を逸らさずに3人に告げる。
「バレンタインの時に千歌と梨子にラブレター貰って、曜にも好きだって言われて。勇気を出してくれた3人に俺もちゃんと答えないといけないと思ったんだ」
「・・・ヤダ!」
曜が声を荒らげて俺の言葉を否定する。
「曜・・・」
「聞きたくない!」
「いつまでもこのままじゃ嫌なんだよ」
「このままでいいじゃん!・・・分かってるよ。あれは和哉くんなりの褒め言葉とか、お礼なんでしょ?私が1人で勘違いして舞い上がってただけだよ!」
曜は叫ぶ。
「私だって和哉くんのことずっと好きだった!千歌ちゃんも和哉くんのこと好きで、大好きな2人がもっと仲良くなるなら私は我慢しよう、て思ってたのに・・・。あんなこと言われたら、抑えられるわけないじゃん・・・」
涙を流しながら曜は堪えていたものを吐き出す。
「曜・・・」
「今のままでいいじゃん・・・。新しい学校に行っても4人でお喋りして。たまに千歌ちゃんと梨子ちゃんが和哉くんを怒って。みんなで笑って。それでいいじゃんか・・・」
「ごめん・・・」
「謝るな・・・、バカ・・・」
「・・・私は聞きたい!」
梨子が声をあげる。
「私は和哉くんの気持ちを聞きたい。例え私じゃなくてもそれが千歌ちゃんと曜ちゃんなら心から祝福できる。そんな気がするの」
「チカも・・・」
千歌はどうやら梨子の意見に賛成のようだ。
「チカも知りたいよ。だから告白、したんだもん。よーちゃんは?」
優しく曜に声をかける千歌。
曜は涙を拭い、いつものように笑う。
「・・・私も!いつまでも甘えてちゃダメだもんね!」
「・・・ありがとう」
俺は深呼吸をする。
「俺は」
3人を見る。
小さい時から一緒にいて、しばらく離れたけど、再会してもっと絆が深まった梨子。
気づけば彼女を笑顔にさせようとしていた。
普段はおバカでトラブルばかり起こす千歌。
でも、その裏では1人で抱え込んで、壊れやすく、デリケートな彼女を守ろうとしていた。
頼りになって波長もよく合う曜。
彼女も千歌と同じで抱え込みやすい。
器用なようで不器用な彼女を側で支えたいと思った。
だから。
けど、俺は・・・。
「俺は君を・・・」
・・・・・・のことを愛しています。
最後はあえてここで打ち止めにしました。
和哉が誰を選んだのか、皆さんのご想像にお任せします!
もし、要望があればそれぞれの結末を書いていきます。
お待ちしておりますので、お気軽に声を聞かせてください。