そのあれの曜ちゃん√です。
よろしくお願いします。
あの日、3人からの告白を受け、俺は曜を選んだ。
感極まって口を抑え、涙を流しながら俺に抱きつく曜を見て、梨子と千歌の2人はまるで自分の事のように俺たちを祝福してくれた。
これで全て丸く収まったように思った。・・・思ったけどちょっと面倒なこともあった。
それは曜の変化だ。
ああ見えてあいつは結構スキンシップが激しい。そのせいで毎日常に横には曜がいる。
そして泣き虫でネガティブなところ。あまりにもくっついてくるから少し離れろと言っただけで涙目。少し俺がため息をついただけで自分のせいと思いこみ泣いてしまう。
それはそれで表情がコロコロ変わって可愛いからいいんだけど。
ところが曜と付き合い初めて1週間が過ぎ、浦の星女学院に通うのも後両手で数えるほどしかないという時期にある1つの事件が起きた。・・・いや事件という程ではないかもしれない。だが、俺にとっては事件だった。
曜は高飛び込みの練習の日は放課後になると同時に真っ先に帰る日が週に何度かある。その日も高飛び込みの練習があるから俺は1人、もしくは善子でも捕まえて、からかいながらのんびり帰ろうと考えていたのだが・・・。
嵐がやってきた。
「和哉くん!かーえろっ!」
椅子に座ったままの俺の腕に飛び込むように曜が抱きついてきた。
「いや、帰るけど。急がなくていいの?」
時計を指さしてバスの時間を指摘する。
「いいの!」
「いや、よくないって。飛び込みの練習間に合わないよ?」
「いいの!もう辞めたから!」
「は?」
下から俺を見上げ、頬をぷくーっ、と膨らませる曜。
おい、かわいいな。じゃなくて!
「お前、辞めたって!」
「気にしないって!ほら!今日は制服デートだヨーソロー!」
そう言った曜は俺の腕を引っ張って駆け出していく。
「ちょっ!話が・・・!ま、待ってくれー!」
「で?話してよ」
「んー?何をー?」
颯爽とバスに乗った。いや、曜に乗せられた俺は曜に話しかける。だが、その曜は俺の腕に抱きついて、ニコニコ笑顔のままだ。しかも今のところ話す気はないようだ。
「飛び込み辞めた理由」
「・・・言わなきゃダメ?」
「当たり前だろ」
「んー・・・。分かった。話す・・・」
曜は頭を俺の肩に乗せ、いいポジションを探すように少しグリグリ動かす。
うわっ、髪の毛柔らか・・・。いい匂いもする・・・。
「私ね、ずっと自分の気持ちに蓋してたの」
ポジションが決まったのか、曜は頭を動かすのを止め、ゆっくり話し出す。
「まあ、それは見ててずっと気にかけてたよ」
「へへっ・・・。ごめん。だから私は私のやりたいようにする、って最近決めたの。そう考えたらそこに飛び込みや水泳は無かった」
曜の言葉が衝撃すぎて一瞬思考が吹き飛びそうになった。だが、それと同時にどうしてその考えになったのかを聞かずにはいられなかった。
「それよりもやりたいことって?」
「1番は和哉くんと一緒に過ごすこと」
「お前・・・、そんな理由で・・・」
「まだあるよ。Aqoursに専念したい。果南ちゃんたちがいなくてもAqoursはAqoursなんだ、って。周りの人に伝えるなくちゃいけないもん」
「・・・そっか。でもコーチたちにはどう説明したの」
全国トップクラスとまで言われる曜の実力。それをいきなり辞めると言われたならコーチやクラブメイトたちが黙ってはいないだろう。
「ちゃんと話したよ。嘘なんかない私の言葉で。最初は止められちゃったけど、しっかり話したらみんな分かってくれた。流石に和哉くんのことは言ってないけど・・・」
ペロッ、と下を出してハニカム曜。
「そう。曜が決めたなら何も言わないよ」
肩に置かれた頭をそっ、と撫でる。
「んっ・・・。ありがと・・・」
気持ちよさそうに目を閉じる曜。
俺も曜も今、この瞬間が全てだ、と思っていることは同じだと思う。
「着いた!」
先にバスの降り口からぴょん、と飛び降りた曜はヘンテコなポーズを取っていた。
「何?それ」
「淡島に着いた時千歌ちゃんがよくやるポーズだよ!」
俺が後から続いて降りるとそのポーズをやめ、いつもの敬礼をする。
「そっか。それで?どこ行きたい?」
「ちゃんと決めてるよ!こっち!」
曜はスキップしながら道を進んで行く。
やれやれ、と思いながらも俺はその後ろ姿を楽しみながら追いかけていくのだった。
「ふーっ!遊んだ遊んだ!」
時刻は19時を回り、空はすっかり暗くなっていた。
「だね。流石に俺も疲れた」
沼津港にある水門展望台びゅうおの中のベンチに並んで座り、真っ暗な海を2人で眺めていた。
見える海には小さな船が数隻灯りを焚いて、並に揺れながらどこかへ向かっていた。
「ここね、私にとって思い出の場所なんだ」
不意に口を開いた曜はらしくもない、センチメンタルっぽく呟く。
「どうしたの?いきなり」
「まあ、聞いて。前にね、鞠莉ちゃんと2人でぶっちゃけトークしたことがあるんだ」
ぶっちゃけトーク。
よく鞠莉ちゃんが口にしていたお互いの本音をさらけ出す会話。
それを曜と鞠莉ちゃんがやっていたのに少し驚いた。
「鞠莉ちゃん、言ってたんだよ。言いたいことは言った方がいい!それで2年間も無駄にした私が言うんだから間違いありません!って」
「ははっ!説得力が違うね」
「でしょー!だから私もそうしようって決めたの。だからさ、和哉くん」
「ん?」
名前を呼ばれ、彼女の方を向く。
「大好き。とってもとっても大好きだよ」
その瞬間、俺と曜の距離は0になり、唇が重なる。
数秒の静寂が終わり、唇が離れると彼女は俺の胸に頭を埋める。
「絶対離れないから。和哉くんがなんて言っても私は君から離れないから」
「うん。俺もさ。俺だって曜のこと愛してる」
そっ、と頭を撫で彼女の存在を確かめるように優しく、両腕で抱きしめる。
すると・・・。
「あーっ!こんな時間!ママに怒られちゃう!」
バネのようにいきなり俺から離れると誰もいない方向を向いた曜が大声を上げる。
「あ、うん。もう遅いしね」
「うん!先に帰るね!またね!」
「うん、また明日」
台風のように行ってしまった曜を見送り、俺はまた暗い海を見つめる。
「あいつ、顔真っ赤だった・・・」
恥ずかしさのキャパオーバーだったのだろう。彼女の素振りはそのように感じられた。
「またね、か・・・」
俺は密かに願う。
いつかあいつと、曜と一緒に『ただいま』が言える未来が来ることを。
やっぱりこういう曜ちゃんが私は好きです。
アニメだと少し違うキャラですが、それもまた彼女の魅力だと思います。