転校後ということで質問攻めにあい、ダウン寸前の和哉。
そして千歌の企みが明らかになる。
転校2日目。
昨日ほどではないが、クラスメイトからの質問攻めに少し参ってきている、放課後。
机に突っ伏し、ぐでっ、としていると曜がやって来た。
「お疲れ様。これ飲む?」
そういって差し出したのは紙パックの牛乳。
「うん。貰う。ありがとう、曜」
「へへっ。どういたしまして!」
ビシッ、と敬礼する曜。
「千歌は?」
千歌の姿が教室に見当たらず、曜に尋ねる。
「千歌ちゃんなら」
曜は教室の入口の方を指さす。
「スクールアイドルやりませんか!?」
そう、千歌は休み時間の度に梨子に近寄り、スクールアイドルの勧誘を行っていた。
「ごめんなさい」
ペコリと頭を下げ、断る梨子。
「そこを何とか!桜内さんなら絶対人気出るよ!」
食い下がる千歌。
「そういうのはよく分からないし。それに向いてないから」
梨子は教室を出て、逃げていった。
それを見送る千歌はがっくり、と項垂れていた。
「曜。この学校ってスクールアイドルいるの?」
「いないよ。というか、和哉くんはスクールアイドル詳しいから知ってるでしょ。だから千歌ちゃん、設立しようとしてるの」
「まあ、千歌よりは詳しい自信はあるよ。スクールアイドルはいるけどラブライブのランキングに登録してないってケースもあるから」
そもそも今の浦女はスクールアイドル部自体無いのか。
少し前にはここにもいたんだけどなぁ。
みんな、こんな田舎じゃ無理とか、向いてないとかでやらないのかもしれない。
でも、スクールアイドルっていうのは無理とかそんなんじゃなくて、その人のやる気が問題だと思う。μ'sのあの人も言ってたし。
「それで、人数は」
「2人だよ」
「千歌と誰?」
「私!」
「曜が?スクールアイドル好きだっけ?」
正直意外だ。それに、曜は飛込みの選手だから尚更やりそうにないのに。
「私ね、前からずっと思ってたんだ。千歌ちゃんと一緒に全力で何かやりたいなって」
「それで、スクールアイドル?」
「スクールアイドルはたまたまだよ。あと、部活を立ちあげるからって私を頼ってくれたし」
そういった曜の表情はとても楽しそうで、見てるこっちも自然と笑顔になってしまう。
「よーちゃーん。カズくーん。またダメだった· · ·」
すると、ショボンとした千歌はのそのそとこっちへ歩いてくる。
まあ、梨子はやらなさそうだ。
性格的に考えて。
「千歌ちゃん、お疲れ様。どーしよっか。とりあえず、先生に申請書貰いに行く?」
曜は落ち込んでいる千歌の頭を撫でながら尋ねる。
「うん。そうする」
「じゃ、私たちは職員室に行くから」
2人は教室を出ていった。
知り合いもいなくなり、教室の居心地がちょっと悪い。
そこでふと思った。
2人がいない今、梨子を見つけてあの日の事を謝るチャンスなんじゃないか、と。決心が揺れないうちに行こう、と思い教室を出て、梨子を探す。
学園をウロウロして、何となく来たのは音楽室。梨子なら何となく音楽室にいるイメージがあったからだ。
音楽室の扉の前に立つと、中からピアノの綺麗な旋律が聞こえてきた。
そう言えば、昨日の帰りにもピアノが鳴ってたような。
昨日のことを思い出しながら、旋律に耳を傾ける。
「この曲って· · ·」
ベートーヴェンの『情熱』
俺が昔好きで、よく梨子に弾いてもらっていた曲だ。
そっ、と扉の窓から中をのぞく。
やっぱり、演奏していたのは梨子だった。
曲は中盤。これから盛り上がっていくところで演奏はピタリと止まった。
「どうして、やめたの?」
俺は音楽室に入り、ピアノの前に座っている梨子に聞く。
「和哉くん· · ·。少し、気分じゃなくなって」
「そっか」
梨子は椅子から立ち、窓から外の景色を見つめる。
音楽室に静寂が流れる。
「· · ·梨子」
「うん?」
梨子は俺の方を向き、首を傾げる。
「あの時は、ごめんなさい」
俺は深く頭を下げ、梨子に謝る。
あの日の事を、約束を破ったことを。
「あの時?・・・ううん。気にしてない。急に話が変わちゃったんだもの。仕方ないわ」
「そうだけど· · ·。でも、その後だって電話してくれたのに、意地になって出なかったり」
「それも気にしてないよ。だって、持っててくれてたから」
「え?」
「私のあげたキーホルダー、ちゃんと持っててくれてたでしょ?カバンについてるの見たの」
引越す前に梨子がくれたナシのキーホルダー。
時間が経ち、少し汚れたり、色もあせているが、しっかり、無くさず持っていた。
「それは、えっと· · ·」
口ごもると、梨子は近づいてきて、俺の右手を両手で握る。
「もういいの、自分を責めなくて。またあの頃みたいに一緒に笑えたら、私はそれだけで満足なの」
「· · ·梨子」
あの頃は目線はほとんど同じだったが、今は俺の方が高い。
少し上目遣いで見上げる梨子は、夕日の光と被ってとても綺麗だ。
すると、ポケットのスマホから着信音が流る。
ごめん、と梨子に謝り、スマホを見ると千歌から電話が来ていた。
「どうしたの?」
『カズくん、どこにいるの?もう帰るよ』
「分かった。教室にいるんだよね?」
『うん。よーちゃんといるよ』
「分かった。行くよ」
通話を終わり、携帯をポケットにしまう。
「友達から?」
「うん。千歌だよ」
「ちか?」
「あ、高海千歌。スクールアイドルやらないかってずっと誘ってきた子」
あの人· · ·、と呟いた梨子は苦笑いをしていた。
どうやら、千歌の勧誘が余程効いてるらしい。
「俺が先に行って千歌をつれてくから時間をずらして帰るといいよ」
「ええ。そうするわ」
「また、明日」
「また明日ね、和哉くん」
さよならをして音楽室から出る。
梨子とこれで仲直り出来たのかはまだあやふやだが、1歩前に進めたと思う。
教室に帰ると千歌は遅い!といいながら俺の手を引っぱって、早く帰るよ!と引きずられながら、下校となった。
その次の日。朝から曜が家に、早く行こう!とわざわざ迎えに来てくれた。
俺と曜は家が沼津で、自宅もそれほど離れていない。
せっかく曜が来てくれた事だし、少し早めだが家を出ることにした。
バスに乗り、座席に座ると、隣に曜がちょこんと座る。
「私ね、こうやって和哉くんと一緒に登校してみたかったんだ」
「昨日言ってたことみたいな?」
「うーん。そんな感じかな。千歌ちゃんと和哉くんの3人で学校生活が出来るなんて奇跡だよ!!って千歌ちゃんみたいだね」
「いや、いいと思うよ。俺も奇跡だ、って思ってる」
「本当!?えへへ」
照れくさそうにハニカム曜。
クラスに曜がいてくれるのは本当に助かる。
まず、千歌は何かしらトラブル起こしそうな危なっかしさがあるし、梨子とはまだ少し距離感に戸惑う。
その点曜は落ち着いてるし、千歌のブレーキにもなってくれる。
本当に助かる。切実に。
「そういや、なんでこんな早く学校行くの?」
「それはね、千歌ちゃんが朝練しようって」
「朝練?」
「うん。ほら、一応スクールアイドルだからダンスの練習」
「なるほど。それで、俺は2人を見ればいいの?」
「その通りであります!話が早くて助かるよ」
ビシッ、と敬礼する曜。
『バスではお静かにお願いします』
アナウンスを聞いて俺達は、はっ、とし、そこから学校につくまで無言で乗っていた。
途中で千歌がバスに乗って来た。しかし千歌が来ても俺と曜はなぜか無言のままで、千歌はつまらない、とむくれていた。
浦の星女学院、中庭。
「ワン、ツー、ワン、ツー· · ·」
ベンチに置いた千歌のスマホから流るμ'sの曲にあわせて千歌がカウントをしながら踊り、その隣で曜も同じく踊っている。
俺は千歌のスマホの隣に座って2人の踊りを見ていた。
「また、だめだったの?」
踊りながら曜が千歌に尋ねる。
「あと1歩、あと一押しって感じなんだよね」
「ホントかなぁ· · ·」
じとーっ、とした目で曜は千歌を見る。
俺もよく千歌が梨子を勧誘している姿は見る。
廊下だったり、食堂だったり、体育のランニング中だったり。
とにかく付きまとっては勧誘の連続だ。
割とストーカーに近い気もする。
曲が止まり、曜はベンチに座り、千歌はその場で腕組みしている。
「だって、最初はごめんなさいだったのが· · ·」
千歌は梨子の声真似のつもりだろう、ぺこっと頭下げる。
「最近は、ごめんなさい· · ·、になってきたし!」
2回目のごめんなさいは声が低くなっていた。
梨子が嫌そうに断る姿が目に浮かぶ。
「それは明らかに嫌がってるやつだよ」
「和哉くん、言わないであげて。千歌ちゃん、気づいてないし」
「いざとなったら何とかするし!」
千歌は音楽の教科書を見せる。
· · ·前途多難すぎる。
「· · ·それはあまり考えない方がいいかもしれない· · ·」
曜だってこう言っている。
「それより、よーちゃんの方は?」
「あ、描いてきたよ!」
「描いてきた?」
「うん!よーちゃん、コスプレとか好きじゃない?だから、服とか作れるし!」
曜の代わりに千歌が答える。
そう言えばそうだった。
「コスプレじゃなくて制服!」
「一緒だよ」
なんて言い争っている2人。多分このままじゃ埒が明かない。
「とりあえず、曜がデザイン描いてきてくれたんでしょ?1回教室に行こう」
「そうだね」
中庭から教室に移動中、ふと思ったことがあった。
「というか、なんでり· · ·桜内さん勧誘しようとしてるの?」
そう。そもそも、梨子を勧誘している理由を俺は知らない。
「だって桜内さん、ピアノできるんだよ。初めて会った時に本人から聞いたもん」
「それで作曲担当になってもらおうと?」
「その通り!」
教室につき、千歌と曜は自分の席に座り、俺は2人の席の近くの席から椅子を借り、三角形の形を作り、向かい合う。
「よーちゃん!衣装は?」
「ふっふっふっ」
曜はわざとらしく笑い、カバンからスケッチブックを取り出す。
「どう!」
自信満々に見せてきたイラストには千歌に似た女の子、と言うより千歌が鉄道員のような制服を着て、笛を吹いて、指を指している。
「上手いね。流石、曜」
「おぉ· · ·。凄いね· · ·。でも、衣装っていうより制服に近いような」
確かにこれを着て踊るのはアイドルぽくない。そっちの界隈には受けるかもしれないが。
「スカートとかないの?」
「あるよ!はい!」
次に出したのは婦警さんの制服。これも千歌が着ている。
「え!いや、これも衣装というか、もうちょっとこう、かわいいのは」
珍しく千歌がまともな事を言っている、と思いながら曜のイラストを眺めていた。
「じゃあ、これかな!ほい!」
次は迷彩服にライフル。完全に自衛隊だ。
「武器持っちゃった!?」
「かわいいよねぇ!」
「かわいくないよ!むしろ、怖いよ!」
今回ばかりは千歌の意見に全面同意。
千歌も苦笑いだし。
「もー。もっとかわいい、スクールアイドルっぽい服だよ!」
流石に千歌が不憫なので、助け舟を出す。
「そうだよ。学校の制服ならまだしも、職業の制服着て踊るスクールアイドルはないよ」
「まあまあ。そういうと思って、それも描いてみたよ。ほい!」
そして、見せたイラストはまさにアイドルの衣装だった。
俺と千歌は2人揃ってわー、とかいう始末。
衣装はオレ「みかん色!」· · ·を基調としているノースリーブとミニスカートだ。
というか、これって。
「すごい!キラキラしてる!」
「でしょ?」
「こんな衣装、作れるの?」
「うん!もちろん。何とかなる!」
「ホント!よーし!挫けてるわけにはいかない!」
千歌はご満悦のようだ。
曜も最初からこの衣装を出せば良かったものを。
イラストを見て俺は少し気になったことを曜に聞いてみる。
「ねぇ、曜。この衣装って、μ'sが3人だった頃の衣装を参考にしてる?」
「流石、和哉くん。よく分かったね!」
「まあ、伊達にファンやってないよ」
すると、千歌はガタッ!と勢いよく立ち上がる。
「行くよ!よーちゃん!」
「へ?どこに?」
千歌は曜の手を取り、立ち上がらせる。
「ほら!カズくんも!」
俺の手を握ると同時に駆け出す千歌。
「ちょっ、タ゛レ゛カ゛タ゛ス゛ケ゛テ゛ェ~!!」
さっそく厄介なことに巻き込まれてしまったようだ・・・。
千歌たちのスクールアイドル活動の手伝いをやることになった和哉。
輝きを目指して始まる3人の活動はどうなる?
「うーん。まずは勢いよく帆を張ることからだよ!」
曜さんは本当に船が好きなんですね。
「大好きだよ!それに千歌ちゃんと和哉くんがいるからなんとかなるよ!」
2人を信じてるんですね。
「もっちろん!それじゃ次話に向かって〜、全速前進〜」
ヨーソロー!!
お楽しみに!