2人の夢の軌道   作:梨善

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いつもご愛読頂きありがとうございます!
1月にお気に入り件数が100件超えたので、私なりに感謝の形として特別編をお送りします。
と言っても浮かんだネタを消化するだけなのですが・・・。

とにかく、お楽しみください!


お気に入り100件突破感謝特別編〜風邪ひき梨子ちゃん〜

何でもないいつもの朝。

俺たちは屋上でいつものように朝練習をしていたのだが・・・。

 

「ストップ!梨子!」

 

振り付けの手拍子をしてタイミングを取っていたのだが、梨子の様子がおかしい。

 

「え?何・・・?」

「さっきから様子がおかしくて見てたんだ。ちょっとごめんね」

 

梨子の額に手を当てるととても熱くなっていた。

頬も赤くなっているし、目もとろん、としている。

 

「うわっ。熱い・・・。完全に熱じゃん」

「え!?梨子ちゃん大丈夫?」

 

千歌も梨子の顔をのぞき込む。

 

「あ。ぼー、ってしてる」

「これはまずいかもね。ごめん、梨子を寝かせてくるよ。果南ちゃん、任せていい?」

「はいよー。気をつけてね」

 

練習の指揮を果南ちゃんに頼み、梨子に再び声をかける。

 

「梨子、保健室行って寝ておいたがいいよ」

「え・・・?一緒に寝るの?」

「なっ・・・!?」

 

えっと、この人、今なんて?

 

「り、りりりりり梨子ちゃん!?本当に大丈夫!?」

 

慌てた曜が梨子の肩を掴む。

 

「大丈夫だよー。あれ?よーちゃんが2人?3人?」

「それ、ヤバい奴じゃん!」

 

これ以上は本当にまずい。

とにかく、保健室に行って寝かさないと。

 

「俺は寝ないよ。歩けそうにないならおぶるけど」

「・・・一緒に寝ないの?」

「!?!!??」

 

待って待って。今のはヤバい。今のはずるい。

上目遣いの涙目とか反則でしょ。

そんなのOKするしか。

 

「カズくん?」

「なんでもないよ、千歌。俺は元気です」

「とにかく、梨子さんを保健室に連れていくのです!これ以上破廉恥な発言は聞きたくありません!」

「あ、うん!分かったよ」

 

そろそろ我慢の限界と思われるダイヤちゃんが促す。

 

「梨子、しっかり掴まっててよ」

 

梨子を抱き抱え、落とさないように注意する。

 

てか、軽い。

ちゃんと食べてるのかな。

 

「わぁ!お姫様だっこだ!」

 

ルビィが嬉しそうにはしゃいでいる。

 

「和哉!それ、後でマリーも!」

「鞠莉さんは黙ってなさい!」

「あ、あはは・・・。行ってくるよ」

 

騒がしい屋上を後にし、できるだけ急いで保健室に向かうことにした。

 

「なんだかこれ、恥ずかしいけど嬉しい・・・」

「梨子は黙ってて!」

 

本当に急がないと・・・。

俺が持たない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

屋上から保健室まではそれなりに距離がある。

その間梨子の精神攻撃を何とか耐えしのぎ、ようやく到着した。

 

「・・・もうダメかと思った・・・」

 

少し歩くたびに顔が赤くなるようなことを言ってきたり、甘い声を出したり。

熱で意識が朦朧としているとはいえ、本当に梨子とは思えない言動ばかりだ。

 

とにかく梨子をベッドに寝かせ、布団を着せる。

今日は出張で保健室に先生がいないようだ。

なんて間が悪い・・・。

 

「・・・梨子、キツくない?」

 

正直、あまり話しかけたくない。

次はどんなセリフが帰ってくるのか全然分からない。

これ以上は精神的に無理。

 

「温かくて、気持ちいいよ」

 

練習着のままだったのが幸いだった。寝苦しそうでもない。

布団も気持ちいいと言っているし、なんとか落ち着けそうだ。

ほっ、と息を吐き、時計を確認すると朝礼前の時間と言うのに驚いた。

 

「じゃあ、俺は教室に行くよ」

「行っちゃうの?」

 

布団で口元を隠し、寂しそうな目で俺を見つめる梨子。

 

そんな目で見ないでくれ・・・。

 

「うん。そろそろ朝礼だし」

 

すると梨子はポロポロ、と涙を流し始めた。

 

「なんで!?」

「いっちゃヤダ・・・」

 

風邪をひいた時や熱が出た時なんかは不安感が強まる、なんて話は聞いたことはあった。

でもこれは、そんなレベルじゃない。

むしろ幼児退行だ。

 

「な、泣かなくてもいいじゃん」

「だって・・・、寂しいもん・・・」

 

瞳から涙を零しながら、俺を見つめる梨子。

ふーっ、と息を吐き、心を落ち着かせる。

 

さて、そろそろ朝礼だから行かないと。

 

「俺が梨子の側を離れるわけないでしょ?」

 

ベッドの隣においてあるパイプ椅子に腰掛け、梨子の手を握る。

 

ちがーう!!

馬鹿か!馬鹿なのか!?

もう朝礼始まるだろ!

 

「ありがとう、和哉くん」

 

細い声でお礼を言った梨子はそのまま眠ってしまった。

手は梨子にぐっ、と握り返され、離しそうにない。

 

「なんて言い訳しよう・・・。最悪、鞠莉ちゃんを使って・・・」

 

なんとかして逃げようと考えていると朝礼が終わる時間になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リリー、いる?」

 

1限目開始前の休み時間。

善子がやってきた。

 

「梨子は寝てるよ」

「・・・先輩、まだいたの?」

 

善子がジト目で俺を見る。

 

「そんな目で見ないでよ・・・。ほら」

 

しっかりと握られた手を善子に見せると、彼女は不機嫌な顔になる。

 

「何がほら、よ。リア充アピールするんじゃないわよ」

「えぇ・・・」

「ま、リリーが落ち着いたのなら良かったわ。その様子だとまだ離れられそうにないわね。千歌さんたちには連絡しとく」

「うん。ありがとう、善子」

「ヨハネよ」

 

善子はスマホを弄りながら保健室を出ていった。

なんだかんだで頼りになる。それが善子だ。

 

「にしても、ぐっすり寝てる・・・」

 

初めて見る梨子の寝顔。

そもそも顔立ちがいいのもあって、普段見ることのできない顔に見入ってしまう。

 

「手も柔らかい・・・」

 

やっぱり女の子は肌触り?質感?が男とは全く違う。

 

「こんなに指も細いのに。でもピアノの音は綺麗で力強くて。俺はその音が大好きなんだよな・・・」

 

柄にもなく独り言を呟く。

 

「何が大好きなの?」

「うぉっ!?鞠莉ちゃん!?」

 

いきなり現れた鞠莉ちゃんに驚き、大声をあげる。

 

「しっ!quiet!梨子が起きるわ」

 

鞠莉ちゃんに言われ、急いで口を塞ぐ。

ちらっ、と寝ている梨子を見るが、起きてはいないようだ。

 

「それで鞠莉ちゃんは何しに?」

「生徒の様子を見に来たのデース」

「はぁ・・・」

 

鞠莉ちゃんは梨子の顔を覗き込むと優しく微笑む。

 

「幸せそうに眠ってますネ♪和哉も大変ね。実は役得とか思ってたりして」

「まあ、ね」

 

見透かされたように言われたのが少しだけ悔しい。

 

「梨子と和哉、貴方たち早退ね」

「へ?」

 

いきなりの鞠莉ちゃんの言葉を理解できない。

 

「梨子がその様子じゃ帰って休んだ方がいいしね。親御さんに連絡はしたんだけど、お仕事中みたいでね。そこで和哉に看病させます、って言ったら是非お願いしたいって」

「待って。そこでなんで俺がでるの?」

 

梨子の早退。

分かる。

おばさんに連絡。

分かる。

俺の早退。

ん?

俺が看病。

まるで分からない。

 

「和哉だって自分のガールフレンドが病気だなんて気が気じゃないでしょ?」

「別に・・・。それにガールフレンドって、付き合ってるわけじゃないよ」

「あら?私は付き合ってるなんて言ってないわよー」

 

アヒル口をによによさせながら鞠莉ちゃんは笑う。

 

「・・・っく・・・!」

「あらー?顔が赤いわよー?」

「うっさい!」

「もー!可愛いんだから!」

 

鞠莉ちゃんは俺の頭を撫で回す。

きっと、今俺の顔は真っ赤なんだろう。

 

「・・・和哉の梨子への好きはlikeじゃないんでしょ?」

「・・・知らない」

「ふふっ。答え言ってるようなものよ?」

「いちいち言わないでよ!」

 

今日の鞠莉ちゃんは何かと煽ってくる。

 

「とにかく、2人は早退。明日は元気に学校に来てね」

「分かったよ・・・」

「2人の荷物は曜に持ってくるように言っておいたから」

「なんで曜?」

「今の状況、千歌っちに見せる?」

 

鞠莉ちゃんの言葉で自分の状態を確認する。

まだ握られたままの手。

 

・・・納得だ。

 

「うん。曜で良かったよ」

 

鞠莉ちゃんの心遣いに感謝をする。

 

「ということは千歌っちの気持ちには気づいてるのね」

「・・・そこまで鈍感じゃないよ」

「ふーん。まあ、そこは和哉に任せるわ。チャオー」

 

手を振りながら鞠莉ちゃんは保健室を後にした。

 

「鞠莉ちゃんも世話焼きだなぁ」

 

独り言を零し、梨子を再び見る。

鞠莉ちゃんとかなり騒いだし、起こしてしまったかと思ったが、そんなことはなかった。

以前、熟睡のようだ。

 

「ん・・・」

 

寝返りをし、横向きの梨子。

そのせいで握られていた手は離れてしまった。

これで自由に動けるようになった。

しかし、この虚無感は言葉に表せない。

なんだかんだで1限目も始まっているし、曜も来れそうにない。

少し考え、濡れタオルとか体温計るくらいはできると思った俺は保健室を物色し始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「和哉くーん。荷物持ってきたよー」

 

保健室の扉を少しだけ開け、隙間からひょこ、っと顔のぞかせたのは曜。

鞠莉ちゃんに言われた通り、俺たちの荷物を持ってきてくれた。

 

「ありがとう。まさか、こんなことになるなんて」

「まあまあ。学校休めるんだから、ラッキーとでも思いなよ」

 

曜は保健室の大きなテーブルにバックを置く。

 

「ん。そう思っとく。あ、そうだ」

「どうかした?」

「お粥の作り方教えてくれない?」

 

その瞬間、曜の顔はこの世の終わりのような壮絶な表情になった。

 

「だ、だだだ大丈夫!?熱?熱あるんじゃないの!?」

 

慌てて曜は俺の額や首、手首などを触り、異常がないか調べる。

 

「流石に失礼過ぎない?千歌だったら張り倒してたよ」

「だって和哉くんの口から料理だなんて・・・。そもそも作ったことあるの?」

「この野郎・・・」

 

とにかく今は俺が頼まれたことを説明するしかない。

ということで鞠莉ちゃんとおばさんに頼まれたことを曜に説明する。

 

「なるほどね。あとでレシピまとめて写メ送るよ」

「・・・その手があった。悪いけどお願いするよ」

 

今ここで作り方を教えてもらおうと思ってたが、曜の提案の方が確実だ。

 

「任せて!じゃあ、私は戻るから。梨子ちゃんにお大事にって言ってね」

「うん。本当に助かったよ。ありがとう」

「ううん!じゃあ、またね」

 

曜はいつものように笑って教室に帰って行った。

後は梨子が目を覚ますのを待って、連れて帰るだけだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

3限目も終わりに差し掛かる時間。

ようやく梨子は目を覚ました。

 

「・・・う、うぅん・・・」

「あ。目、覚めた?」

 

梨子は体を起こし、付近を見渡す。

 

「ここって、保健室?」

「うん。すごい熱出しててさ。練習の時もフラフラだったんだよ」

「そうなのね。朝からのことあまり覚えてなくて。言われてみれば頭が痛いかも」

 

梨子は頭を抑える。

 

「大丈夫?とりあえず熱、測ってみなよ」

「ありがとう」

「それと、これ。寝てる間も着てた方が良かったんだけど、流石に・・・」

「そ、そうだね」

 

体温計とマスク、それから保健室に備え付けの浦女のジャージを梨子に渡す。

梨子が練習着の上からジャージを着てから数分後、検温が終わったことを知らせるアラームが鳴る。

 

「何℃だった?」

「37.9℃」

「うわっ、結構出てるね。早退だからさ。立てる?」

「ちょっと、無理かも・・・」

「そっか」

 

俺は梨子の隣まで移動し、後ろを向き、しゃがむ。

 

「えっと・・・?」

「乗って。1人じゃ帰れないでしょ」

「それだと和哉くんは?」

「俺も早退になったからいいよ」

「そうなんだ。ん?どうして?」

 

梨子の疑問は最もだ。

至って普通の疑問だ。

 

「梨子だけじゃ帰れないだろって鞠莉ちゃんが。男だし力もあるから俺なんじゃない?」

「そっか」

 

当たらずも遠からずのことを言って理由をつける。

 

「じゃあ、お願いします」

 

そう言って梨子はゆっくり俺の背中に乗っかる。

抱えた時もそうだったが本当に軽い。

 

「ちゃんと飯食ってる?」

「どうして?」

「軽すぎ」

「え?きゃっ」

「行くよ」

 

俺が立ち上がった弾みで梨子は驚き、俺に抱きつく。

なんというか、梨子の感覚を全身で受けてるような気がする。

背中に当たっている柔らかい感覚だって幻想じゃない。

それにおんぶしているから必然的に太腿やお尻を触ることになるのは仕方ないことだ。

そう、決してやましい気持ちなんて微塵もない。

 

すっげー柔らかい。

 

「い、今変なこと考えてたわよね」

「いや、全く」

「・・・ならいいけど」

 

とにかく俺は曜の持ってきてくれたカバンが置かれた机まで移動する。

 

「カバン持てる?」

「うん」

 

梨子に2つのカバンを持ってもらう。

 

「重かったら俺の首とかにかけていいからね」

「だ、大丈夫よ。このくらいなら」

 

梨子は胸の前でカバンを抱きしめるように持つ。

そのせいで俺の背中と梨子の体に壁ができてしまった。

 

・・・全く残念とか思ってないから。

 

「それじゃあ、バス停まで全速前しーん?」

「よ、ヨーソロー・・・」

 

恥ずかしそうにヨーソローと言う梨子。

なんだかんだノリがいいし、落ち着いてきたのかもしれない。

 

「ん?ちょっと待ってこのまま行くのよね?」

「そうだけど」

「ということはいろんな人にこれを見られる・・・。お、降ろして!きゃっ!」

 

急に恥ずかしくなったらしい梨子は軽く暴れ、降ろせ、と騒ぐ。

しかも勝手にバランスを崩し、落ちかけたところ、慌てて俺の首にしがみつく。

 

「ちょっ、苦しい・・・」

「あ!ご、ごめん・・・」

 

体勢は維持できたようで、そっ、と首から手を離す梨子。

 

「いいよ。それより、じっとしてないと危ないからね」

「うん・・・」

 

今落ちかけたのが怖かったのか、俺の肩にしっかり手を回してしがみついている。

 

「今度こそ行くからね」

「うん・・・」

 

 

保健室を出て、廊下へ。

1度靴を履き替えるため、梨子を下駄箱の前で降ろし、座らせる。

 

「靴も履かせようか?」

「そ、そこまでしなくていいよ!子供じゃないんだから!」

「そっか」

 

梨子は少し手元がおぼつかないようで靴紐を結ぶのに苦戦している。

 

「お待たせ・・・。わっ!」

「おっと」

 

ガクン、と膝の力が抜けた梨子は危うく転びそうになる。

とっさに梨子の肩を掴んで彼女が転んでしまうことは無かったが、まだまだ体は言うことを聞いてくれないようだ。

 

「大丈夫?」

「ごめんね・・・。さっきから迷惑ばかり・・・。うぅ・・・」

 

瞳に涙を溜める梨子。

 

「気にしてないって。ほら、早く帰ってゆっくり休もう」

「うん・・・」

 

再び梨子を背中に乗せて学校を後にする。

 

「この時間に外ってなんだか変な感じだね」

 

バス停までの下り坂を降りながら俺は呑気に呟く。

 

「そうね・・・。イケないことしてるみたい」

「そうだね。普通机に座って授業受けてるし」

「うん・・・」

「梨子?」

 

曖昧な梨子の返事に俺は彼女の名前を呼ぶ。

 

「ん・・・?どうか、した・・・?」

 

言葉も切れ切れだし、声も張りがない。

 

「眠い?」

「少しだけ・・・」

「やっぱり体は弱ってるんだよ。寝てなよ」

「うん・・・。和哉くんの背中って落ち着くね・・・」

 

すぐそうやって恥ずかしいことを言う!

 

すると、すぐに静かな寝息が聞こえてきた。

 

「本当にこいつは・・・」

 

人の気を知らないで、無防備に寝ちゃって。

 

大人しく俺はバスを待つのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バスでは慎重に梨子を座らせ、倒れないように注意したり、降りる時は起こさないようにそっ、と抱き抱えたり。

とにかくこの眠れるお姫様を起こさないよう細心の注意を行った。

 

そして梨子の家の目の前。

当然、鍵は開いていない。

つまり、梨子を起こすか、それとも・・・。

 

「梨子のカバンを漁るしかないのか・・・」

 

だが、扉は勝手に開いた。

いきなり扉が開き、思わず肩が跳ねる。

 

「ありがとう、和哉くん」

「お、おばさん?」

 

梨子のお母さんが家にいた。

 

「上がって。梨子の部屋は分かるでしょ?その子を寝かせてくれる?」

「は、はい・・・」

 

俺は言われるがまま家に上がる。

何度目かの梨子の部屋に足を踏み入れ、彼女をベッドに寝せる。

梨子はまだ起きてはいない。

 

「ごめんね、わざわざ。学校まで休ませちゃって」

 

おばさんが部屋にやって来て俺に謝る。

 

「いや、気にしてないですよ。寧ろ学校休めてラッキー、なんて思ってますから」

「ふふっ、学生らしいわ。無理して仕事を抜けてきちゃったからすぐ戻らないといけないの。家のものは好きに使っていいから」

 

おばさんは小走り気味に行ってしまった。

 

「あ、はい・・・。どうも」

 

さて、本当の勝負はこれからだ。

曜から送られてきたレシピの写メを見ながら台所へ向かうのだった。

 

side out…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

side 梨子

 

目が覚めるとそこは私の部屋だった。

窓からは夕日が差し込んでいる。

どれだけ自分が眠っていたのかが分かる。

 

「和哉くんは・・・」

 

私をここまで連れてきてくれた和哉くんの姿を探す。

 

「あ、寝てる」

 

部屋の隅の方に胡座をして寝ている和哉くん。

学ランを脱いでいて、ワイシャツを腕まくりにしている。

 

「こんな隅で寝なくてもいいのに」

 

律儀な彼のことだ。

私に変な勘違いをされないような配慮なのだろう。

 

ゆっくり体を起こし、ベッドから降りる。

 

「わっ・・・」

 

立ち上がったものの、足に上手く力が入らず、よろめいてしまった。

だけど、学校を出る直前ほど酷くはなく、少しベッドに手を置き、支えるとすんなり立てた。

 

「あら?」

 

私の机に蓋がしてある小さな土鍋が置いてある。

そっ、と手を置くとほのかに温かい。

蓋を開けると少しだけ湯気が出てきた。

中身はお粥だ。

 

お母さんは今日、仕事で遅くなるって昨日言っていたから作れるわけがない。

 

「と、なると和哉くんが・・・」

 

どうしよう、嬉し過ぎてニヤケが止まらない。

顔も熱くなってきた。

これは熱のせいじゃない。

 

私は寝ている和哉くんの目の前まで移動する。

 

いつもは恥ずかしくて勇気がでないけど、こういう時ならいいよね・・・?

 

彼の前髪を手で上げ、ゆっくり顔を近づける。

 

「いつもありがとう。大好きだよ」

 

額に優しく、一瞬だけキスした。

 

どうしよう・・・。めちゃくちゃ恥ずかしい・・・。

 

思わず顔を抑えて明後日の方を見る。

 

「・・・お粥食べよう」

 

和哉くんが折角作ってくれたお粥を食べることにした。

すると。

 

「・・・やっべ。寝てた・・・」

 

和哉くんが起きたようだ。

 

「おはよう。ぐっすりだったね」

 

和哉くんは驚いた顔をして私を見る。

 

「梨子!?大丈夫!?起きてて辛くない!?」

 

過剰に心配する彼が面白く、私はクスリ、と笑う。

 

「大丈夫だよ。あとお粥ありがとう」

「え?もう食べた?」

「ううん。まだ。今から食べようかなって」

「そっか。ここで食べる?」

「うん。ちょっとまだ足がおぼつかなくて。階段降りるのはちょっと怖いかな・・・」

 

今言ったことは本当だけど、本音は違う。

もう少しだけこの部屋に、和哉くんが私のために頑張ってくれたこの空間に居たいだけだ。

 

「そうだよね。ほら、椅子に座って」

 

和哉くんは私の机の椅子を動かし、座るように促す。

 

「うん」

 

私はそれに乗っかり、ストン、と座る。

 

「・・・よかった。まだ温かい。ほら」

 

和哉くんはお粥を推める。

 

「いただきます」

 

手を合わせ、レンゲを手に取る。

 

「あ、あれ・・・?」

 

レンゲは私の手をすり抜け、机の上に転がる。

 

「まだ力上手く入らないんだね。どうしようか・・・」

 

また迷惑をかけてしまった。

そう思った私の目頭は自然と熱くなる。

 

「ごめん・・・。ごめんね・・・」

 

瞳からは涙が溢れ、止まりそうにない。

 

せっかく和哉くんが作ってくれたのに・・・。

こんな・・・。

 

「梨子」

 

俯いて涙を流す私に和哉くんは優しく声をかけてくれる。

 

「泣くことないでしょ。はい。口開けて」

 

彼は優しく微笑み、ランゲで少しすくったお粥を食べさせようとしてくれていた。

 

「うん・・・」

 

私は口を開けると、彼はそっ、とレンゲを私の口の中に入れた。

お粥を口に入れ、何度か咀嚼し、飲み込む。

少し塩が効いていて、美味しい。

見ただけじゃ気づかなかったけど、ほぐした鮭も入っている。

 

「どう?」

「・・・美味しい」

「よかった。まだ食べる?」

「・・・うん」

「分かった」

 

私が頷くと和哉くんは私の頭を撫でる。

 

小さい頃、私は何かあるとすぐ泣いていて、和哉くんがそんな私の頭を撫でて慰めていたのをふと思い出す。

 

なんだか・・・、あの頃みたい・・・。

 

あまり働かない頭でぼーっと考えていると和哉くんはレンゲにお粥を乗せ、私に差し出す。

 

「はい、あーん」

 

そして私が食べる。

それを何度か繰り返しているうちに落ち着いてきて、涙も流れなくなった。

そして、今の状況が恥ずかしくなってきた。

 

「も、もういい、かも・・・」

 

私は俯き、顔を隠す。

また顔が熱くて仕方ない。

 

「うん。結構食べれたし、食欲もあってよかったよ」

 

和哉くんは食器類を片付けながら笑う。

 

「熱がまた出ると大変だし、寝ておきなよ?1人で布団入れる?」

 

いたずらな笑みを浮かべ、私を子供扱いする和哉くん。

 

「そのくらいできるわよ!」

「ははっ。じゃあ、俺は片付けてくるよ」

 

和哉くんは食器を持って部屋から出て行った。

 

「もう!」

 

恥ずかしさがピークに達した私はベッドに倒れ込む。

 

「いつもいつもずるいのよ・・・」

 

枕に顔を押し付け、今日の出来事を思い出す。

正直、朝のことは覚えてなくて。

それとバスに乗った時のことも。

はっきり覚えているのは保健室で目が覚めた時から。

ずっと和哉くんが側にいて、私のことを気にかけてくれて。

 

「こんなに幸せでいいのかな・・・」

 

小学生の時から好きだった好きで、ずっと片思いしていた人に優しくされて。

嬉しくないわけない。

 

私はそっ、と撫でられた箇所に触れる。

それとおんぶされた時の彼の感覚と匂いを思い出す。

 

「うぅ・・・。もっと好きになるに決まってるじゃない・・・」

 

顔が熱くて熱くて仕方ない。

 

「梨子ー」

「わひゃぁ!!??」

 

いきなり聞こえてきた和哉くんの声に驚く。

 

「ど、どうしたの?何か邪魔した?」

 

和哉くんはオロオロした顔だ。

 

「な、何でもないわ!それでどうかしたの?」

「片付けとか終わったから帰ろうかなって」

「そ、そっか!うん、ありがとう・・・」

 

正直悲しい。

でも、もう和哉くんがやることはもうない。

 

「・・・ごめん、嘘。もう少し居るよ」

「なんで?」

 

私が首を傾げると、和哉くんはニコッ、と笑う。

 

「そんな寂しそうな顔したら帰れないよ」

 

嘘。

そんなに顔に出ていたんだ。

 

「その、なんだろ。梨子が寝るまで見てるよ」

 

そう言って和哉くんは椅子を動かし、ベッドの隣につけると座る。

和哉くんは本気で言っているようだ。

そんな彼をいつまでも引き止めるのは気が引ける。

私も言う通りにし、寝ることにした。

 

「おやすみ」

「うん、おやすみ」

 

なんだか凄くぐっすり眠れる気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

次の日には私の体調は万全で、練習にも問題なく参加できるほど回復していた。

だが、その数日後のこと。

 

「え。和哉くんが風邪?」

 

家を出て学校に向かう直前。

鞠莉ちゃんから電話がかかってきて、和哉くんが風邪という知らせを受けた。

 

『そうなの。だから今日、梨子はお休みね』

「待って。話が見えない・・・」

『和哉に看病のお返しよ。もし学校に来ても速攻で追い返すから。じゃね!』

「鞠莉ちゃん!?」

 

電話は切られ、無機質な音だけが流れる。

 

これは鞠莉ちゃんなりの激励なのかしら?

うん。きっとそうよ。

 

勝手に解釈し、学校とは反対方向のバスへ乗る。

 

「あれだけしてもらったんだから、お返ししないとね」

 

どうやって看病しようか、今から楽しみな私なのだった。




梨子ちゃんに看病されたいし、したい人生だった・・・。
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