ーー安珍が清姫と一緒に落下した後の道明寺ーーー
ドオォォォンッッ!!
「うわぁぁぁ!?何かが落ちてきたァ!?」
「ゴホッ!え"ほっ!ゴホッ!」
「えっ!?青い彗星が綺麗だと思ったら其が妖を背負った安珍様だった、全然意味わからん!!」
「....まさか安珍殿が彼処まで規格外だったとは。」
「じゅっ住職、気を確かに!」
住職は遠い目をしながら数時間前を振り返る。
安珍は目標の妖怪を引き摺る予定だった。しかし、その妖怪はとある理由で妖になってしまった安珍の知り合いの少女によって倒されその少女が暴走し安珍に襲いかかったのだ。
その少女を救うためにその結界を使うから何時でも起動できるようにしてくれと連絡札越しに言われた住職は僧侶達に指示をし準備を終え門を開き何時でも安珍が来るよう待機していた。
此処までは良い、問題はこの後だ。
安珍は例の少女を連れてこの寺に来た。しかし彼が此処まで来た方法は住職達の斜め上をいっていた。
まさか空から安珍が彼より大きい妖怪を米俵のように抱いて来訪し、その妖怪を下敷きにする形で結界目掛けて落下してくるとは誰も思いはしないだろう。
その為か道明寺はちょっとした騒動になっていた。因みにその場に居合わせた彼の式神達は頭を抱えていたとかいなかったとか。
「住職此はまさかと思いますが安珍様が落ちてきたのですか!?」
「....ハッ!その通りだ!何て無茶をしよる!皆のもの安珍殿が妖を抑えている間に結界の発動を始めるのだ!」
「「「「っはっはい!!」」」」
道明寺で結界を発動するために待機していた住職含む僧侶達は彼らが落ちた際に生じた衝撃波にと土煙によって一部の僧侶が転けまたあるものはむせている。
そんな状況の中、一人の僧侶はまさか安珍が落下してきたのかと恐る恐る住職に聞き住職は我に帰ると彼本人だと言い放ち僧侶達に結界を発動するように指示を出し僧侶達は慌てて準備に取り掛かる一方、土煙で見えない落下地点では抜け出そうとする清姫に安珍は必死に抑えていた。
『......ッッ!コノッ!コノォッ!コノォッ!』
「.....ぐっ!ヴゥ!?」
『シネッ!シネシネェ!!』
「.....グッ!(武器が弾かれたか!)」
神通力で力が封じられてるとはいえ、今の安珍を苦戦させる程の力を持っている彼女は鋭い爪で攻撃し安珍は武器でいなしていたが彼女の抵抗が激しくその最中で白銘と雲斬りが彼の手元から弾かれ結界に二つの小さな穴を開けながら貫通し遠くの壁や地面に突き刺さる。
「ふぉあああっ!?」
「急げ!このままだと安珍殿の命が危ない!皆のもの急ぐのだ!」
「はっはいぃぃぃ!」
僧侶達が吹き飛ばされた武器でちょっとしたパニックが起きていたことを知らない安珍は清姫にマウントをとっているため避けるのが難しく、彼女のの猛攻に血闘に魔力を通して防ぐしかなく傷を負っていく。
『シネェェェッ!』
「....ッ!!」
清姫は止めを指すべく安珍の心臓目掛けて突きを放ち安珍は両手をクロスして防ごうとした瞬間、彼女の周辺に地面から電撃が迸り電撃が流れた。
『ア"ァ"ァ"ァ"ァ"ア"ア"!!』
「(すまない清姫っ!).....
周囲に光の線が走りある一つの陣を形成されると強固な結界が形成され青白く陣が光り彼女を拘束する為の電撃が入り清姫は仰け反り叫び始め動きが止まる。その隙に
安珍は術式を唱え準備を始める。
「.....。」ガリッ!
左腕の裾を肩ごと破り捨て左腕に付けていた血闘も外し、安珍は右親指を口で軽く切って滲み出した血に魔力と闘気を注ぎ込むと血から淡い光が出始める。
「.....っ!....グゥゥゥ!!」
滲み出た血に魔力を通して左腕全体にとある封印術式を彫り込む。血で描く度に赤から黒に変色し皮膚を焼かれる激痛が襲い掛かる。
(痛てぇ!死ぬほど!....痛いけど!彼女を救うには此しかない!度胸を見せろ俺!!)
「グッ!ヴゥゥゥゥ.....!!」
焼き印を無理矢理押されるような激痛に耐えるかのように口を噛みしめながら描き続け歌舞伎模様の術式が完成させその左腕に刻み込まれた封印術式に魔力を巡回させる。
「ハァ、ハァ。」
(あとは.....術式を唱えるだけっ!)
安珍は大粒の汗を額から滲み出しながらも息を整え、独自に生み出した封印術式の詠唱を始めると刺青が赤く光り少しずつ脈動し始めた。
『かしこみかしこみ申す、我厄を背負うもの。人の世を乱す厄を清き我が身に封じ込め己の命と共にその厄ごと消滅させる者也。』
『我が身、贖罪の山羊としてあらゆる厄を背負い、我が身に宿す聖なる焔で全ての厄を焼き払わん』
『八百万神の神々よ、これが厄を払い、贖罪を積み重ねた血塗られた生きざまを体現した術式也!』
『
『グッ!?ウゥゥゥゥゥ.......』
最後の詠唱を終え左腕を清姫の頭に翳すと左腕に彫られた歌舞伎模様が赤く光り始め焔のように燃え光り始めると清姫は突然胸を押さえ蹲り身体から黒い靄が現れる。
「破ァ!!」
『力ガアァ....!私ノ力ガアァァァァッッ!』
安珍の叫びと共に清姫の身体中から黒い靄が安珍の左手に吸収されていく。清姫は叫びながら抵抗するが彼の術式の方が早く、力を失うにつれ清姫の身体は恐ろしい蛇女から人間の姿に少しずつ戻っていくが彼女の強力な妖気は安珍の身体を蝕む猛毒でもあった。
「ガッ!?アッ!ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ッッ!」
(左腕が勝手に動いてっ!!止めないとっ!)
清姫の力は余りにも強大で次第に左腕が勝手に暴れだし始め歌舞伎模様が強く光り左腕全体が熱を帯びた鉄のように高熱を発し激痛が走る。安珍は灼熱地獄を体現したかのような痛みに叫んでしまうが暴れだした左腕を抑えるために右手で掴かむ。
(よし!これで大丈夫な...なっ!?血闘がっ!?それでもッッ!俺はっ!)
「グッヴゥゥゥゥ!ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ッッ!」
掴んだ瞬間、右腕に着けていた血闘が一気に燃え広がり、今まで鬼の炎さえ耐えてきたグローブが一分も経たずに燃え尽きてしまう。それでも安珍は左腕を制御する為に右手で掴み耐え続けるが今の左腕は高熱の鉄そのもの、それを素手で掴んでいるため手の平から嫌な異臭と共に煙を発しとてつもない激痛が襲い掛かる。
『■■■■■■■■■■■!!』
「グッ!?ヴゥ!ア"ァ!!」
(痛い...痛みで心がぶっ壊れそうだっ、で...も清姫は俺に拒絶されて....!この数倍も苦しんだ筈だ!この痛みに耐えろ俺!魑魅魍魎を倒し続けあらゆる怪異事件を解決し生還してきた『安珍』だろ!此処で弱音を吐いたら!誰が彼女を救う?俺しかないだろ!全力全霊で彼女を救う、それが今の俺に出来る唯一の贖罪!だからっ!)
「ぐっ....心火を、燃やし尽くせっ!....
彼女が悲鳴をあげながらも元に戻るにつれて左腕に描かれた歌舞伎模様が強く光を発し、常人では廃人になる程の痛みと熱さが襲ってくる。それでも彼女を救いたいという願いが彼の意思を強く繋ぎ止め彼女に纏わりつく妖気をひたすら左手に封じ込めていく。
「安珍殿.....」
「「「..........アルジ。」」」
結界を維持している僧侶達は今まで仏頂面な安珍が一人の少女を救うために表情を剥き出しにし叫びながら必死にもがき続ける。その姿はまるで彼の本当の姿を現しているかのように見え畏怖と尊敬の念を覚え、そして彼の式神達は我が主の願いが届くように祈るしかなかった。
『■■■■__、アァ、あぁぁぁぁ......。」
(あ...と、後少し、後少しで彼女を救え.....))
ドクンッ!!
「.......ッ!ゴパァッ!」
(焔紡ぎが.....強制解除させられた!?)
「......ゴホッ!ゴホッ!ゴホッ!」
清姫の身体は完全に人の姿になり次第に彼女が纏っていた妖気もなくなっていく。安珍は今にも消えそうな意識を保ち力を込めた瞬間心臓の激痛が彼を襲い吐血する。まだ焔紡ぎの限界時間を過ぎていないのに何者かによって強制的に解除させられたのだ。
彼は吐血しながら右手で心臓部分を抑え片膝を曲げてしまい熱を帯びた鉄のように発光していた左腕が次第に黒ずんでいく。
「「「「安珍殿!?」」」」
「「「アルジッ!!」」」
(焔紡ぎは外部から解除出来ない、けど外部からのナニかによって強制解除させられた....覚えているこの感覚、あぁそうか、オマエガヤッタノカ。)
あまりにも唐突すぎる出来事に他の僧侶達も慌てるが安珍は身体が硬直した状態で修行中に何度も感じたソレに気付き彼は怒りを露にする。
「貴様の仕業か....どれだけ俺の人生の邪魔をすれば気が済むんだっ!」
「■■■■!!!」
神様の力ではなく世界そのものが彼を押さえ込む、そうそれは彼が
そして、焔紡ぎが解除されてしまい魔力が一時的に途絶えた為に高熱の鉄のような状態になっていた左腕は急激に冷めながら炭のように黒く変色し、重力に従って段々と腕が下がって行く。それを見た安珍は慌ててそれを阻止しようとする。
「動け!動くんだよ俺の左腕!何で動かない!清姫は!清姫はこんな俺を愛してくれた!俺の、本当の俺を知っても恐れずに傍にいようとして空いた心の穴を埋めてくれた数少ない人なんだよ!
「だから....だから動けよ、動いてくれよぉ...俺は彼女に伝えたいから、自分の本当の気持ちを伝いたいんだよ......」
彼は段々と黒ずんでいく左腕に魔力を回そうとするが力が入らず魔力を回すことが出来ない。後少しの所で邪魔されたことに彼は怒りのあまり血涙を流し表情を歪ませ声を荒げるその姿は、彼の本当の姿を現しているかのようだった。
「安珍様.....。」
「えっ。」
嘆くように叫び、羽をもがれた蝶のように身体をもがく安珍の顔にそっと誰かの手を添えられた後、抱き締められ優しく頭を撫でられる、その相手は清姫だった。
「安珍様、そんなに傷付いてまで私の事を救いたかったのですね。なのに、なのに私は...!」
「...違う、君がこうなってしまった原因を作ってしまった俺にあるんだ。だから、だから君が気に病むことは...ない。」
「それでも私は!守れる力を求めるあまりその力に溺れて!あまつさえ愛しの安珍様を傷付けてしまった!そして、今まで私との約束を破らなかった安珍様を嘘つきと言ってしまった....!」
「清姫.....。」
「安珍様は気を病まなくて良いのです。本当に悪いのは私....だから、ごめんなさい....!」
「清姫!?何を......!?」
「ぅう、ウゥゥゥゥゥ!』
お互いの顔が見えない形で抱き締めながらも清姫は安珍に対して傷付いた事を後悔しているのか泣きながら謝ると安珍を突き飛ばす。突然の事に安珍は驚くが彼女の異変に気付く、弱まっていた筈の妖気が増えだしたのだ。
「......っ清姫!ぐぅ動けっ!...俺の身体!」
『貴方の本当ノ事が聞ケテよかっタ。安珍ハ心の底カラ私ヲ『愛して』クレテたのニ、本当ノ嘘つきハ...私デスネ。」
「......なっなにを言って!」
『モウワタシ自身の力でハこの力を制御出来まセン、ダカラ安珍様御願いガアリマス。ソノ力デ嘘ツきノ私ヲ...」
"ワタシをーーーーーー下さい。"
「なっ!?」
安珍は清姫に近付こうとするが身体は言うことを聞かず一歩も動かせず、ひたすら清姫に向けて手を伸ばすかない。清姫は妖気が青い炎となり燃え始める中、安珍にある願いを言う。それは彼にとっては最大の苦であって彼女が嫌うーーでもあった。
『....サヨナラ安珍様。」
「っ!待て!待つんだ!清姫ぇぇぇっ!!」
『..........。』
それを伝えた瞬間、別れを告げ彼女の身体は蒼炎に包まれていく。その姿は炎に包まれながら人から人ならざる姿へと変貌していくが今度は蛇女としての妖怪ではなく、
........シャアァァァァァァ
「あっあぁぁぁぁ....。」
「あっあんなのどう倒せって言うんだよ。」
「京の陰陽師達程の腕前はない、死ぬのは嫌だ!逃げるしかねぇ!」
「狼狽えるではない!結界を緩めるな!彼を見ろ!」
「住職!こんな状況で何を言って.....!?」
その姿は青い炎を纏った白い蛇、獲物を求める赤い瞳と牛を余裕で丸々呑み込める程の巨体。そして、結界が震える程の妖気に住職含む坊主達は恐怖で身動きがとれずにいる。ただ一人を除いて、
「清姫....いやきよひー、まだ生きて俺と添い遂げたい顔をしていたのにそんな嘘を言うなよ....」
ー
そんな絶望的な状況でも安珍は立ち上がる。今の安珍の姿はとても痛々しい。身体中に傷と火傷を負い、左腕に至っては炭のように黒ずみぶら下がっている。それでも安珍は希望を捨てず右手を握りしめると僅かに残る魔力を回し肉体を強化する。
「....俺は絶対あんたを救う、きよひーが優しい嘘をつこうが、例え千の挫折を突きつけられて心が折れそうになっても俺は俺の生き方を曲げるつもりはねぇ。
だから!俺はあんたを救う!」
彼は顔を引き締め覚悟を決めると魔力を迸りながら白蛇になった清姫に向かって拳を握り一気に駆け出し跳躍、白蛇の頭上まで跳ぶと右手に魔力を込め急降下し技を繰り出す。
「
『......ッ!』
鬼ですら殺せる全力の
(.....っ!右腕もそろそろヤバイが、今の一撃で怯む事は分かった!ならひたすら
「怯んでいる隙に!
安珍は放った反動で真上に跳びながらも手応えを感じ、この隙に怒濤の連打で追い込もうと一気に接近し
『......。』
(なっ!?....鬼ですら致命傷のこの技をむっ無傷だと!?)
安珍が二発目の
(ぐっ!...防御が!....間に合わない!)
「があっ!?」
ボキ!....バキベキ!ボキ!
安珍はその攻撃を防ごうとするが、今の身体では直ぐに防御体制をとることが出来ない。その為白蛇が放った重い一撃をまともに喰らってしまい、安珍の身体中から嫌な音が幾つか鳴り響き吹き飛ばされた。
「......ッッッ!!」
『.....シュルルルルル。』
(ちく......しょ.....ぅ....)
鞭のようにしならせた巨体な尻尾が無防備状態の安珍にぶつかった瞬間、小さな葉っぱのように吹き飛ばされ結界を破壊しても勢いは止まらずそのまま鐘楼堂を壊した後、壁に激突し陥没させ地面に倒れ意識を失った。
結界が壊されたことで解放された白蛇は倒壊した鐘楼堂に向かって舌を鳴らしながらは進んでいく。結界が破れた瞬間に強い妖気が溢れだし、住職含む僧侶達と安珍を救おうと飛ぼうとした式神達は白蛇の強力な妖気と射殺すような眼光に睨まれ殆どの人物は倒れ気絶、式神たちを含む実力者達数名は蛇に睨まれた蛙のように動けずにいた。
誰も蛇となった彼女を止めることが出来ず、白蛇は鐘楼堂に辿り着き、残骸から梵鐘を見つけると尻尾を巧みに使いながら梵鐘を引き摺り安珍の所まで辿り着くと、白蛇はうつ伏せのまま動こうともしない安珍に何かを思ったのか瞼を閉じ少しの間静寂が訪れる。そして、目を見開くと白蛇はある行動を起こした。
そう彼女は、安珍を確実に仕留めるために梵鐘に身体を巻き付き自らの身体を発火させ梵鐘ごと彼を焼き始めた。