エース公開処刑前日――。
現在、海軍本部マリンフォードでは、来たるべき戦に備えて着々と戦力が集い始めていた。
世界最強の剣士“鷹の目ジュラキュール・ミホーク”。
シャボンディ諸島にて麦わらの一味及び星屑のジョジョと邪眼のメアリーを遥か彼方へと飛ばした“暴君バーソロミュー・くま”。
アマゾン・リリー皇帝にして九蛇海賊団船長“海賊女帝ボア・ハンコック”。
スリラーバークにて麦わらの一味と邂逅した“ゲッコー・モリア”。
ドレスローザ国王並びにドンキホーテ
そして、この戦争の引き金でもあり元白ひげ海賊団二番隊隊員“黒ひげマーシャル・D・ティーチ”。
どれもが曲者揃いの世界政府によって公認された海賊――王下七武海。
後もう一人“海侠のジンベエ”を除いた七武海が既にマリンフォードに集結している中、海軍もまたその戦力を集結させていた。
ローグタウン、アラバスタで麦わらの一味と邂逅した“白猟のスモーカー”。その部下たしぎ。元七武海サー・クロコダイルが秘密裏に作り上げていた犯罪組織『バロックワークス』に所属していたMr.2ボン・クレー並びにMr.3を捕らえ、ジョット不在のクルセイダー海賊団を追い詰めた“黒檻のヒナ”。その部下ジャンゴ、フルボディ。
さらに、ガープ並びにセンゴクと同期にして“大参謀”の異名を持つ“つる”。その妹分にして“桃色客あしらい”の異名を持つギオン中将。海軍初の巨人海兵“ジョン・ジャイアント”。他にもトキカケ、モザンビア、ラクロワ、ロンズ、メイナード、バスティーユ等々……名立たる将校達が、来たる戦争に向けてそれぞれの正義を背に決戦の地に赴いた。
そして、それは海軍本部最高戦力――大将達もまた同様だった。
「クザン大将! お食事の時間です!」
「んぐ……あー……。あ~らら、もうその時間?」
部屋に入って来た海兵の声に、いつもならアイマスクを取ることなく寝続ける男が、すっと起きた。それに海兵は返事をしながらも、以前から感じていた事を口にした。
「はい! ……それにしても、いつもより寝起きが良いですね?」
「どうも
アイマスクをズラして、いつもよりすっきりとした表情を浮かべる男。
――海軍本部大将“青雉”クザン。
「お~……それじゃあ戦争には間に合うんだねェ……?」
『ああ。ベガパンクの野郎、かなり前から量産化に向けて動いていたみてえだ』
電伝虫越しに傷が癒えた戦桃丸からの報告に、ほっと息を吐く
シャボンディ諸島で……否、星屑のジョジョがCP9と戦った島――現在はスターダスト島と呼ばれている――で試作品を壊した時点で、ベガパンクはパシフィスタの量産化に乗り出していた。そしてそれは少し前に成功し、
それだけの刺激を星屑のジョジョから受け――彼はそれに応えたのだ。
「それはそれは……助かるねぇ~」
『それに、オジキを
加えて、思わぬ誤算が起きたと話す戦桃丸に、男はサングラスを湯気で曇らせながらゆっくりと湯飲みを傾けた。
――海軍本部大将“黄猿”ボルサリーノ。
「おい、貴様! そこで何をしている!? そこはサカズキ大将の――」
大将の部屋に無遠慮に入ろうとする見慣れぬ
「なんじゃい、騒がしいのぅ」
「え……もしかして、貴方は――?」
「他に誰に見えるんじゃ?」
「し、失礼しました!」
「……ふん」
それを見た男は鼻を鳴らして一瞥すると、部屋の中へと入って行った。それを見送った海兵は脱力し、入り口の傍にある表札を見る。そして、自分の見間違いではない事を確認すると……何が起きているのか分からず混乱した。しかし、先ほど部屋に入った男が、この部屋の持ち主である事は先ほどの声で確実であり……海兵はますます意味が分からず首を傾げた。
「上官の顔くらい、覚えられんのか最近の海兵は」
男は自室にてそう愚痴を零した。
――海軍本部大将“赤犬”サカズキ。
このように、海軍の戦力は滞りなく集まり、そして強化されていた。
しかし、それと同時に海軍本部の海兵達の間では奇妙な噂が流れていた。
一つは、星屑のジョジョによって重傷を受けて集中治療室に居た大将達が既に姿を消していること。そして、もう一つは見慣れない……しかし何処かで見たことのある三人の男達が現れ、中将達が戸惑いながらも年下の彼らに敬意を表している事。
海兵たちの間で動揺が走る光景を見ながら、つるはため息を吐いて近々情報の統制を図る事を決める。そして――。
「昔を思い出すね……アイツらの姿は」
三人の男達の
▲▽▲▽▲▽
「随分と掻き回されたようだな……センゴク」
通された部屋でそう呟くのは2年前に組織された遊撃隊の隊長にして、このマリンフォードに集う名立たる海兵たちを育て上げた教官。そして、かつて海軍本部大将として海賊たちを捕らえて来た“黒腕”の異名を持つ伝説の海兵、その男の名は――ゼファー。
海で数多くの能力者の海賊を捕らえて来たゼファーは、戦争前にセンゴクによって呼び戻されていた。
「言うな。貴様だってジョン・スターの名を知っているだろう?」
「ふん。あの三人のやられようを見れば分かる。アインが居なければ、どうなっていた事か……」
ジョン・スター・D・ジョット討伐作戦。並びにシャボンディ諸島で起きた天竜人騒動。この二つの事件で、海軍最高戦力と言われている三大将は戦争前だと決して無視できない傷を負った。ベガパンクの開発した自然系能力者の流動する肉体を元に考察された集中治療器で、戦争に向けてその傷を癒そうとしていたが……それでも戦争までに間に合うか分からなかった。
故にセンゴクはゼファーたち遊撃隊を呼び戻し、彼の部下の女海兵アインのモドモドの実の能力で、傷を負っていない年齢――いや、それぞれ前線で戦っていた最も強き年齢まで戻した。
それによって、彼らは戦闘経験はそのままに、加齢で衰えていた身体能力と覇気を取り戻した。現在はそれぞれ若返った体を動かして、戦争に向けて調整している。
また、ジョットが壊したパシフィスタもアインの能力で
「“禍を転じて福と為す”……そう考える事もできるが」
「――その“
センゴクは数日前の事を思い出していた。五老星は三大将を安易に動かし、そして傷を負わせた事をネチネチと責め、世界貴族からは件の海賊たちを捕らえる事ができなかった事を責められた。おかげで薬とおかゆが何よりの友となってしまった。
「――だが、それと同時にアイツの名のおかげで白ひげに集中できる」
「相手がジョン・スター……それを聞いた世界貴族の顔が浮かぶ」
五老星はアインのモドモドの実の能力で傷を戻すと説き伏せ、世界貴族には“ジョン・スター”の忌み名と“隠者”の彼らにとって恐怖の代名詞を教える事で、鳴り響く抗議の電伝虫を黙らせた。そうしなければ、白ひげに集中する事ができないからだ。
そうさせた星屑のジョジョに対して怒りを思い出したのか、センゴクは思わず叫んだ。それを見ながらゼファーは呼び戻された時から言っていた事を口にする。
「だが、アインが居なければ戦力を欠いた状態で戦う事もあり得た――何度も言うが、アインの能力はあくまで戻す力。傷を癒す力じゃない。諸刃の剣だ。怪我を負った状態で元の年齢に戻れば死ぬ。もしくは、戦争中にアインの身にもしもの事があれば――」
「ああ、分かっている……! お前のその部下は、安全な場所で待機して貰う!」
「アイツを相手にする以上、安全な場所なんて無ぇと思うが――まぁ、良い。その約束を守る限り、オレ達も戦おう」
「……すまない」
「ガープの奴が、使い物にならんだろうからな。英雄が空けた穴は遊撃隊が埋める」
本来なら、退役した身としてこの戦争は傍観する予定だったゼファー。
しかし、海軍の現状を顧みて自分たちも戦う事を決意する。故に、スマッシャーも取り外してアインの疲労が回復次第能力を使って貰う予定だった。戦闘中に年齢が戻る危険性を考えれば、モドモドの能力は使わない方が良いのだが――そう言っていられるほど相手は甘くない。
「だが、オレはまだ納得していないぞ――黒ひげを七武海にしたのは」
「……」
「この戦争は、アイツが引き起こしたと言って良い。火拳のエースが捕らえられた経緯を聞けば、あの男は信用ならん」
エースは、重罪人である黒ひげを追いかけ――敗れてインペルダウンに収容された。
世界政府は、火拳のエースを倒す力を持つ黒ひげの力を認めたようだが……ゼファーは別の視点から黒ひげを見ていた。
白ひげの船から逃げた黒ひげは何をしたのか? その答えは、白ひげの事を知っていれば自ずと辿り着く。
「――仲間を裏切るような奴が、大人しくしている筈がない。相手が白ひげなら尚更だ。せいぜい、あの男の動向には気を付けるんだな」
「……分かった」
ゼファーの忠告にセンゴクは頷き――それから暫くしてエース公開処刑五時間前に、黒ひげはマリンフォードから姿を消した。正義の門が開き、非認証の軍艦が通り抜けたという情報と共に。
▲▽▲▽▲▽
時は、少し遡る。
「――いん、じゃああああああ!!」
「おーおー。カイドウの野郎、あんなに大声を出して」
赤髪海賊団の旗艦“レッドフォース号”の船上から、沈んでいく百獣の海賊団並びにカイドウを見ながら、そう呑気に呟くのはジョットの父。
四皇が己の名を怒りと共に叫んでいるというのに、その顔に全く恐れは無かった。むしろ、船から盗んだ酒を煽り肴にしている。
「さて、間に合えば良いが……」
「少なくとも、戦争開始には間に合いませんぜ――俺たちが着いた時には、既に時代は変わっている」
シャンクスの呟きに、ジョットの父はそう返した。
白ひげがシャンクスの警告を無視した時点で、既に決まった事だった。
いや、もしかしたらもっと前に決まっていたのかもしれない。黒ひげが逃げ出した時。それをエースが追った時。もしくは――。
そんな事を考えながら、ジョットの父は呟く。
「さて、テメエはどう動く――ジョット?」
己の息子の名を呟きながら――。
▲▽▲▽▲▽
「……」
「サボくん」
「ああ、分かっている」
ある海で、コアラに呼ばれたサボは振り返った。
「任務は絶対に成功させる」
「でも……」
「それ以上言うな――おれが決めた事だ」
そう言って、サボは先日まで頭痛に悩まされた己の頭に触れる。
しかし、今は嘘のように無い。まるで、そんな物は無かったかのような、もしくは全て忘れてしまったかのような――。
そんな彼を見て、コアラは心配そうにしている。
サボの事を想えば、止めるべきなのかもしれない。しかし、痛みに顔を歪んでいた時の事を思い出し――彼女は何も言わない。コアラは、ただ彼の傍で支え続ける。仲間として――。
「――」
海風に髪を揺らしながら、サボは誰かの言葉を――無意識に呟いた。
それに気づく者は――誰も居なかった。
これにてシャボンディ諸島編は終了です。
そして、次回からはいよいよ頂上戦争に突入!
丁度一ヶ月でここまで行けました。原作消化早いな…