とある海賊の奇妙な冒険記   作:解放したPNTマン
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愛する(バカな)息子たち

「うらぁあああ!」

『ぎゃああああ!?』

 

 右腕に取り付けられた巨大な武器バトルスマッシャーで、元海軍大将ゼファーは海賊達を次々と吹き飛ばしていった。過去に覇気の達人として敵からは恐れられ、味方からは頼りにされたゼファーの体術は、並大抵の者では太刀打ちできない。

 遊撃隊を率いたゼファーは白ひげ傘下の海賊たちを吹き飛ばしながら、確実に湾内へと追い込んでいく。

 

「老兵を引っ張り出して来たか、センゴクめ……!」

 

 湾頭右方からはゼファー並びに新世界で数多の能力者持ちの海賊を仕留めてきた遊撃隊。

 湾頭左方からはベガパンクが開発、改造、量産した人間兵器パシフィスタ。

 予め周りの軍艦を打ち崩したため、全方位から狙われるという最悪の事態にはならなかったが……それでも被害は甚大だ。

 青雉が凍らした高波によって逃げる場所は無く、前に進むしかない。

 白ひげの指示のもと、傘下の海賊たちは一気に広場に向かって駆けていく。

 

 そんな時だ。白ひげの元に一人の男――スクアードが現れたのは。

 

「スクアード。無事だったのか!」

「……」

 

 先ほど周りの軍艦の包囲網を崩す際に連絡をしようとした傘下の海賊スクアード。

 連絡が取れずディカルバン兄弟に指揮を任せたのだが、どうやら彼は海兵に討ち取られた訳では無かったらしい。

 息子の無事に白ひげが安堵の声を声を上げるも、スクアードは俯いて何も答えなかった。

 その様子に内心首を傾げる白ひげだが、ここは戦場。時間は待ってくれない。彼はスクアードの指示を下した。

 

「相手は持てる戦力を全てぶつけて来た。こうなりゃあ一気に攻め込む他ねェ! おれも出る!」

「……なぁ、オヤッさん。その前に一つだけ答えてくれねえか?」

 

 薙刀を手に一歩踏み出した白ひげを阻むように、スクアードは前に出てここで初めて口を開く。その光景を戦闘中のマルコが見つけ、そして次第に他の隊長たちや傘下の海賊の目にも止まる。

何故スクアードがあそこに? そう疑問に思う中――彼は、手に持った刀を鞘から引き抜き……。

 

「――アンタが、エースの命を買う為に傘下の海賊の首を売ったってのは……本当なのか!?」

「……!?」

 

 その刀を親と慕う男に向け――スクアードの怒号が戦場に響いた。

 彼の言葉は……白ひげ海賊団を大きく揺らした。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

「おれは反対だ! こいつをオヤッさんの船に乗せるのは!!」

 

 時は遡り。

 白ひげ海賊団と傘下の海賊団が集結し、船のコーティング作業をし待機していた頃。

 白ひげは、今回のエース奪還の戦いに参加する事となったジョットの存在を傘下の海賊たちに伝えていた。もちろん、彼がどのような血筋を持ち、どのような考えを持ち、どのような経緯で此処に居るのか余すことなく。

 しかし、それに待ったを掛けたのが“大渦蜘蛛”スクアードだった。

 彼は過去に白ひげに救われた事もあり、人一倍忠義心の強い真っ直ぐな人間だった。

 だからこそ、得体の知れないジョットの参入に真っ先に反対した。

 

「そいつは、隠者の息子だ! 何を仕出かすか分からねえ!」

「オレはエースを助けたいだけだ」

「どうだかな……! この機を狙ってオヤッさんの首を獲りに来たって言う方がまだ分かる!」

「スクアード落ち着け。そいつにあの狸爺の狡猾さはねェよ」

「――だが! あの女のように裏切る可能性がある!」

 

 その言葉を言った瞬間、空気が凍った。

 マルコが険しい表情を浮かべて、今のスクアードの発言に口を挟んだ。

 

「スクアード! 今は姐さんの事は関係無ェよい!」

「関係ならあるぞ! そいつは――オヤッさんを裏切って隠者に付いて行き、ロジャーを海賊王にした裏切りの者の血を引いているじゃねえか!」

 

 スクアードは……ロジャーの手によって仲間を失った過去がある。

 悲しみに暮れ、絶望していた彼を救い上げたのが白ひげであり、温かく迎え入れたのが今の隊長たちとジョットの母リードである。

 スクアードは白ひげ海賊団を愛していた――だからこそ、白ひげを裏切ったジョン・スター・リードを許せない。

 

「それは、あのクソッタレに着いて行った後にロジャーの傘下に入って……!」

「うるせえ! とにかく、おれぁ認めねえぞ! もう、あんな裏切りはごめんだ! ただでさえ、エースがロジャーの息子だって知って混乱してんのに、こんな……」

「……」

 

 頭を抱えてギリッと歯を食いしばるスクアード。そんな真っ直ぐな息子を見て白ひげは目を閉じる。親の罪を子に問うなと言っても、スクアードは上手く踏ん切りが着かないだろう。その考えは隊長たちも同じであり、どうしたものかと頭を悩ませていた。

 

「――アンタの考えは正しいぜ、スクアード」

 

 そんな時、ジョットが動いた。

 黙ってスクアードの言葉を聞いていたジョットは、何と彼の言う事を肯定した。その発言に傘下の海賊たちの目が戸惑いの色から疑いの色へと変わり、濃くなっていく。

 ジョットの突然の行動に隊長たちは戸惑いを見せ、彼に何を言い出すんだと詰め寄った。

 

「おいジョット! これ以上話をややこしくするな!」

「ややこしい? 何処がだ? これ以上無いほどシンプルな話じゃねーか。なぁ、スクアード」

「……どういう意味だ」

 

 自分を睨み付けるスクアードの瞳を、ジョットは真っ直ぐな目で見返した。まるで彼の母のように。

 一瞬過った考えを打ち消し、スクアードは再度問いかける。

 

「さっきテメエは裏切るって言ったよな! それはどういう事だ!」

「ああ。確かに言った。しかしちぃとばかし言葉が少なかった……オレはこう言いたかったんだ」

 

 全員が見守る中、ジョットはスクアードに――否、白ひげ海賊団全員に聞こえる声ではっきりと言った。

 

「――白ひげがエースの命を諦めた時、オレは白ひげを裏切る」

「――な」

 

 白ひげがエースを裏切る。それはつまり、息子の命をみすみす見逃すという事であり――。

 その言葉の意味を理解した瞬間、スクアードは感情を爆発させてジョットに掴みかかり刀を抜いて叫んだ。

 

「オヤッさんがそんな事する訳ねェだろ!! テメェ舐めた事を抜かすな!」

「そうだ! オヤッさんを馬鹿にするな!」

「白ひげは仲間を絶対に売らない! そんな事も知らねえのかテメェは!?」

 

 ジョットの言葉に怒りを覚えたのはスクアードだけではない。他の者たちも口々に彼を罵倒し、白ひげを悪く言うなと叫んだ。

 たった一人に向けられた新世界の海賊たちの怒り。それは、並みの人間なら卒倒しそうな程過激で、比例して彼らが白ひげをどれだけ慕っているのかがうかがえる。

 

「――テメェ、何笑っていやがる」

「いや、白ひげの爺さんの凄さを改めて知ってな――なぁ、スクアード」

 

 ジョットはスクアードの手を優しく振りほどくと、彼が持っていた刀を握りしめた。

 ポタポタと赤い滴が地面にシミを作り、しかしジョットはそれを気にせず刀を己の喉元へと向けさせると……目の前のスクアードに言った。

 

「アンタの信じる白ひげは絶対にエースを見捨てねぇ。だったら、オレが裏切る事もねぇよ」

「っ!? そ、それとこれとは話が違――」

「いいや、同じだ」

 

 グイッとジョットがさらに刀を自分へと引き寄せ、それにスクアードは思わず抵抗した。地面へと落ちる血が増え、しかしそれ以上に目の前の男から目が離せなかった。

 

「アンタが信じる男はデケェ人間だ。家族の命救う為に世界に喧嘩売る男――今まで見たことねぇよ。横取り考える小せぇ輩なんて、飲み込まれて仕舞いだ」

「あ、ぐ……!」

「別にオレの事を信用しなくて良い。オレも勝手にエースを助ける口だからな。信用しろっていうのが無理な話だ。だが――」

 

 ジョットの刀を握る力が増し、血が噴き出した。

 

「テメェの信じる親父が決めた事くらい、信じてみろ! 息子だろ? 大渦蜘蛛スクアード!」

 

 ――それでも信用ならなかったら、いつでもオレを殺しに来い。いくらでも相手になってやる。

 

 そう言って、彼は無理矢理白ひげ傘下の海賊たちを黙らせ……後に「無茶し過ぎだ」と白ひげから拳骨を貰った。

 

 その時の光景を思い出し、スクアードは考えた。

 あの男は信じても良いのだろうか? オヤジと慕う白ひげの言う事なのだから、彼の……ジョットの言う通りに、白ひげを信じて戦っても良いのだろうか。

 

 その考えは戦争が始まってからも胸の奥で燻り続け、しかし白ひげと肩を並べて立ち、時には助けに入る光景を見ているうちに信じても良いのでは? と思い直していた。

 

「――白ひげは、お前たち傘下の海賊の首を売り、エースの命を買った!」

 

 そんな時だ。海軍大将赤犬が、スクアードに接触して来たのは。

 初めは敵の言う事だと信じず、口車に乗らないと切って捨てていた。反乱因子を名乗り、白ひげを刺せば助けると言われても首を縦には降らなかった。

 だが――。

 

「ああ、そうかい。――じゃが、星屑のジョジョが生きている限り、お前らの未来は無い」

「……どういう意味だ!」

「妙だと思わんかったか? 偉大なる航路(グランドライン)前半に居た筈のアイツが、新世界の白ひげの船に居る事に! 奴は政府と白ひげを繋ぐパイプ役として現れたんじゃ!」

「……テメエはこう言いたいのか。星屑のジョジョが初めから裏切り者だと! だったら、何故お前はあいつの顔を見た時、真っ先に攻撃して――」

「言ったじゃろう。わしはこの作戦に反対しとると。現に、元帥から睨まれた……それでもわしはあの悪の血を引く海賊を殺さにゃならん! 仲間の命が惜しいなら、わしに協力しろ――大渦蜘蛛スクアード!」

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

「どういう事だ……?」

「オヤッさんが俺たちを売った? そんな事がある訳――」

 

 スクアードの言葉に戸惑う海賊たちの背後から、次々とパシフィスタがレーザーで撃ち抜いていく。ひとまず逃げようと海賊たちは足を動かし……気づいた。前には海兵。側面は青雉が凍らせた高波。だが、それを作ったのは――白ひげだ。

 これでは、傘下の海賊たちは袋の鼠だ。これではまるで、本当に――。

 

「そんな、まさか本当に……!」

「これじゃあ逃げ切れねえ!」

「見ろ! 湾頭から来た奴ら、傘下の海賊(俺達)しか狙ってねえ!」

 

 傘下の海賊たちの顔に絶望の色が浮かび上がる。

 白ひげの為なら命は惜しくないと着いて来た彼らだが、もしこれが政府との茶番劇だとしたら――これほど間抜けな事はない。

 傘下の海賊たちの悲鳴と怒号を耳にしながら、モビーディック号の上でスクアードと白ひげは対峙していた。

 

「なぁ、オヤッさん……どうなんだ?」

 

 スクアードの顔は酷い有様だった。赤犬から告げられた言葉と現状が見事に一致しており、まるで彼の言っている事は本当で――目の前にいる男が裏切っていたのだと言わんばかりに、次々と傘下の海賊たちが襲われている。

 できれば、このような光景を見たくなかった。嘘であって欲しかった。

 

「答えられねえのか?」

 

 白ひげに「違う」と一言言って欲しかった。

 

「だったらおれは――馬鹿な息子だ!」

 

 故に、彼は――刀を思いっ切り振り下ろした。

 

「アンタを……疑う事ができねぇ!!」

 

 白ひげに向けていた刀は船上を深く切り付けただけで、白ひげ自身に傷はない。

 その光景に足を止めていた者たちが呆然と見上げる。マルコは飛び上がろうとしていた己の体を止め、ジョットは振り返って黙って見つめ、赤犬は舌打ちを打った。

 スクアードは、ポロポロと涙を流しながら叫んだ。

 

「もし赤犬の野郎が言っていた事が本当ならおれは死ぬ! オヤッさんを信じて死ぬ間抜けだ! でも、おれはそれで良い! オヤッさんを疑って生きるくらいなら――死んで馬鹿な息子であり続けるッ!!」

「――スクアード」

 

 スクアードは――赤犬の言葉に耳を傾けなかった。

 白ひげに問いかけたい事はたくさんある。何故エースの事を言ってくれなかった。何故黙っていた。何故ジョットを信じる事ができた。

 だが、彼はそれを押し殺してただ家族のために戦うと決めた。

 何故なら、白ひげが世界で唯一「オヤッさん」と呼ぶ事ができる父親だからだ。

 そして、彼らも同じだった。

 

「おらぁ!! 逃げるのはもう止めだ! こいつら倒してエースを助けるんだ!」

「ああ……そうだな! オヤッさんが裏切ったとかそんなのもう関係ねぇ! 疑うくらいなら、馬鹿な息子で居ようぜ!」

「どけぇ! このデカブツ! 俺たちの邪魔をするなぁ!」

 

 傘下の海賊たちは逃げ惑うの止めて、立ち塞がるパシフィスタに殺到し、踏み越えてエースの元へと駆け抜けた。

 裏切り? 結構! 息子のまま死ねるのなら本望だ!

 彼らは、彼らの信じる白ひげの為に、海軍に立ち向かった。そこに疑心は無く、彼らは獰猛な笑みを浮かべて雄叫びを上げた。

 

「……グラララララ! スクアード、おれはお前を誇りに思うぞ!」

「――オヤッさん!」

 

 そして、そう思う気持ちはスクアードだけにでは無い。追い込まれても尚、白ひげを慕う息子たち。白ひげの向ける特別な感情に彼らは見事応えてみせた。

 なら、それに応えるのが親というもの。

 

「――ふん!」

 

 白ひげは、グラグラの実の能力で両サイドにある氷の壁を打ち砕いた。

 阻まれた障害が無くなり、軍艦も無事でいつでも逃げる事ができる。

 しかし――。

 

「――覚悟は良いか、野郎ども!!」

『オオオオオオオッ!!』

 

 誰一人、振り返る事無く前を見て走り続けた。

 彼らにもはや退路は必要ない。

 必要なのは――エースへと続く道のみ!

 

「行くぞ野郎ども! エースを救い出せぇ!!」

 

 白ひげが戦場に降り立ち、海賊たちは一気に広場に向かって突き進んだ。

 それを見て萎縮する海兵たち。

 彼らを止めるには――生半可な覚悟では足りない。

 信じるものの為に戦う者は誰よりも強いのだから。

 

「――やっぱり凄ぇな。白ひげ海賊団」

 

 それを見ていたジョットは、戦場では似つかわしくない穏やかな笑みを浮かべた。

 








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