▼月●日
親父にまた新しい日記を買ってもらった。これで三冊目だ。
初めは文字を覚えるために始めたが、今では習慣になっている。
親父と修行をして、飯作って、修行して、隣町……は今は無くなって隣の島に買い物に行って、修行して、飯作って、風呂入って、日記書いて、寝る。
海賊になって
しかしメアリーは体が丈夫じゃないのか、修行を始めて一ヶ月でギブアップした。……本人はオレたちの方が異常だと叫んでいるが、まぁごもっともである。それに年齢も年齢だしな。
だからメアリーは修行に耐えられる年齢になるまで、航海術や操舵術、海図の描き方といった海で役立つ知識を勉強することになった。オレも空いた時間に親父に習っているが、こればかりはメアリーの方に軍配が上がる。早く始めたうえに、オレが猛獣共と戦っている間も勉強しているからな。
しかし、本人は納得行っていないらしい。私は船長になるのに! といつも頬を膨らませている。……別に良いと思うんだけどな。
そう言えばそのメアリーだが、今現在親父と一緒に島を出て行った。何でも、一度行ってみたい島があるそうで、親父に頼み込んでいた。
だが、その島は親父にとって近づきたくない島なのか、なかなか首を縦に振らなかった。
……そんなに「パパ。きらい」がショックだったのかねぇ。
そこまで長く滞在する気はないのか、数日経ったらすぐに帰ってくると言っていた。つまり、オレはそれまで一人だ。よって今から森で修行だ。親父もメアリーも居ないしな。仕方ない。
それにしても、親父も変なこと言う。オレの事を聞かれてもフルネームで教えたり、親父の事を話したらいけないなんて。それも海兵には特に、なんて。
いったい過去に何をしたんだか……。
▼月■日
最近、行き詰まりを感じている。
三年前に食べた悪魔の実の能力だが、はっきり言ってまだ使いこなせていない。
オレが修行してできたのは以下の三つ。
浮き出た生命力を拳に重ねて殴る。生命力だけをぶつけて気絶させる。生命力を探知して相手の強さや位置、動きを読む。
うん。覇気でできるね。親父も外れだったか? と言うくらいにオレの悪魔の実は覇気でできることと被っている。加えて、オレは先天的に覇気を使えるからか、能力を使うよりも覇気を使う方が良かったりする。カナヅチになっただけ……。
しかしメアリーは違う意見なのか、別の使い方があるのだと言う。オレの今の使い方はただの片鱗でしかなく、使いこなせば今の二倍以上は強くなれると力説していた。というか詳しいなこいつ。
だからオレは今もこうして最近懐いてきた猛獣共に付き合って貰って、能力を使いこなそうと修行をしているのだが……先は長い。
とりあえず明日家に帰って考えよう。
▼月▲日
親父やメアリーが居ないのに、今日は騒がしい日だった。
オレ達が住む島は、オレ達以外は猛獣しか居ない。だから、人が来ることなんて滅多になく、来るとしても漂流者くらいだ。来客として来たのはシャンクスたちくらいだ。
その珍しい来客が、今日一日だけで三人も来た。それも、どれも信じられないくらい強い。
まず一人目。
鋭い目が忘れられない黒刀を持った剣士。名前はミホーク。
こいつはいきなり鋭い殺気を飛ばしたと思ったら、オレ達の家を地面ごと真っ二つにしやがった。
いや、本当あいつ頭おかしい。
いきなり何しやがる!? と問い詰めたら、お前がシャンクスの腕を奪った猛者か? と質問を返された。今思い返しても意味が分からん。
で、家を真っ二つにされてキレたオレは正常な判断ができずにミホークに突撃。全力の覇気を込めた拳で襲い掛かったが……流石は自称シャンクスのライバル。結局斬られて終わりだった。おかげで血が抜けて冷静になったけど。
その後は詳しい話を聞いてお互いの認識を改めて、互いに名前を預けて別れた。まとめるとこんな感じ。
良い土産話ができたと笑っていたから、仲良くはなったと思う。あまり話さない人だったけど。
そして二人目。
次の人は海軍だった。凄い生命力に溢れた爺さん。
なんか、さっき鷹の目が島を出て行くの見たとか何とか言って上陸してきた。
その爺さんは真っ二つにされた家を見てオレに謝ると、家を直すのを手伝ってくれた。ミホークの上司か何かだったのかな?
豪快で力強すぎて逆に壁を壊す爺さんだったけど、良い人だった。海で獲れた海王類までくれたし。でも海軍に入らないか? と勧誘されて断った時はヒヤリとした。まさか海賊になるとは言わんよな? って。
なんでも、海兵にするために育てていた孫が海賊になると言っていて悩んでいるらしい。オレと年が近いのもあって思い出したとか。
その時は追及を免れたが……一瞬見せた戦士の気迫はやばかったな。
あんなのが海軍に居るとは……もっと強くならんと。
そして最後の一人は親父の知り合いで、泳いで来たらしい。全身ずぶ濡れだった。
何でも親父に呼び出されていたらしく、しかし行き違いになってしまった。伝言を預かっていないうえに、電伝虫にかけても繋がらないのでほとほと困った。
仕方ないのでオレが買い出しで使っている舟と食料を渡して、帰ってもらう事にした。親父が帰ってきたら、きつく言わないとな。
それにしても、あのレイさんって人は何者なのだろう。海軍の爺さんみたいに生命力が凄く強いし、親父が居ない理由を周囲を視ただけで分かったし。
それに去り際に言った「己を知り、己を信じ、己を呼び起こせ。さすれば、己の運命に立ち向かう事ができる」って……いったい何のことだったんだ? いやに心に残るし……。
▼月★日
買い出しの時に大渦に巻き込まれて死にかけた。食料を入れるための空き樽に入って溺れる事は無かったけど、目を回して気絶した。しかし運良く流された先の島の人間に救助されて助かった。
今はオレを助けた子ども、ウソップの家に泊めて貰っている。
それと、小舟でも良いから舟と海図を見つけないと。この事が
▼月*日
今日、親友であり兄弟であり、そしてライバルができた。
その名前はキャプテン・ウソップ。
後から気づいたが、ウソップはシャンクスの仲間のヤソップの息子だった。それを知ったウソップは凄く驚いていた。あの赤髪の仲間なのか、と。そしてそれと同時に誇りに思っていた。
ウソップはヤソップの事を勇敢なる海の戦士として尊敬し、何時か自分もそうなりたいと言っていた。オレもシャンクスに感化されて海賊に憧れたから、同じ夢を持つウソップの事を気に入った。
気が合ったオレたちは夢について語り合ったり、ウソップのパチンコの腕に驚かされたり、岩を砕いてドン引きされたり、目を閉じたまま気配を読む方法を教えたり……まるで長年の友のように笑い合った。
ウソップが部下にしてやると長い鼻を揺らしながら言えば丁重に断り、逆にオレの船に乗らないか? と誘うと凄く悩んで断られた。
まぁ、当然だよな。ウソップとオレは友であると同時にライバルだ。認め合ったからこそ、同じ船には乗れない。相手への敬意があるからこそ、だ。
その代わりに兄弟の盃を交わし、オレ達の間に強固な繋がりを作った。
海賊の高みで競い合うために。
……ウソップには面と向かって言っていないが、もしあいつが困っていたら力になる予定だ。これを聞いたらウソップ怒るかもしれないがな。
『余計なお世話だぞ兄弟!! けど、おれも同じ気持ちだ! byキャプテン・ウソップ』
▼月~日
ウソップの奴、オレの日記を読んでやがった。
だからあんなに笑っていたのか。今度会ったらデコピンだ。
オレは島を出て自分の家に戻って来た。
船と地図が見つかったからな。
ウソップは残念そうにしていたが……男の別れに涙は似合わねえ。海で会おうと嘘を吐かず本音をぶつけてオレを送り出した。
大渦に巻き込まれた時はどうなるかと思ったが、良い出会いをした。
ライバルに負けないように、オレももっともっと強くならねえとな。
▼月@日
帰って来たメアリーが部屋に閉じ籠っている。
中からは「ごめんなさいごめんなさい」と生気の無い声しか聞こえない。
……いったい何があったんだ?