とある海賊の奇妙な冒険記   作:解放したPNTマン
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二つの闇

 エースが貫かれた。炎を焼き尽くすマグマによって。

 その絶望的な光景を前に、海賊たちは言葉を無くした。

 故に、一番初めに声を――戸惑いの声を上げたのは彼だった。

 

「――どういう、事じゃ?」

 

 赤犬は、信じられないとばかりに目の前のエースを見る。確かに今、赤犬はエースの体をマグマ化させた腕で貫いている。例え炎の体でも回避不可能な事は先ほど明らかにされた。

 エースも、痛みが無い事に目を見開いて驚いている。

 いったい、何故? 赤犬が自分の身に起きた不可解な出来事にしばし混乱するなか――戦場を駆ける一人の男が、群衆の中から飛び出した。海賊たちがそれに気づき、男の姿を視界に捉える。

 

「この腕は、嵩取る権力を引き裂く為の“爪”」

 

 その男は、鉄パイプを持っていた。

 

「だが、今は!」

 

 その男は、顔に火傷の痕を残していた。

 

「兄弟を救う為の――拳だ!」

 

 その男は、胸に――兄弟への絆を取り戻していた。

 

「――メアリー! 巻き込まれるなよ!」

「――うん、分かっている!」

 

 男は、地面から赤犬の足を掴んでいる少女――メアリーに叫び、思いっきり腕を引き絞り――放った。

 

「“竜爪拳!”」

「ぐっ……!?」

 

 覇気が込められた拳をまともに喰らった赤犬は、勢いよく吹き飛ばされる。これまでの戦闘で負っていた傷もあり、彼の顔は苦悶の表情を浮かべていた。

 その際にマグマの腕がエースの体から抜けるも、彼の胸には傷跡一つ無かった。

 しかし、エースは……いや、エースとルフィはそれよりも目を奪われる存在があった。

 それは、幼き日に――10年前に永遠に別れた筈の兄弟。本来なら、再会する事ができない。能力で姿を模していると言った方がまだ説得力がある。

 だが――。

 

「――久しぶりだな、ルフィ……エース……! 今度は、間に合ったぞ」

『――サボ!!』

 

 男の――サボの言葉に、ルフィとエースは涙を流した。

 ルフィなど、そのままサボに抱き着いて大声を上げて泣き叫んだ。

 頭の中ではまだ現実を理解していないのだろうが――それでも、喜ばずにはいられなかった。

 

「ザボオ゛オ゛オ゛オ゛――!!」

「ちょ、おま、ルフィ! 嬉しいのは分かるが、此処は戦場……!」

「だって……だっ――」

 

 サボに抱き着いて涙を流していたルフィは――突如気絶した。プシューッと彼の体から空気が抜けたような音がし、オーラが消える事によって。

 それに、その場に居た者たちが驚いた。

 

『ええええええ!?』

 

 特に久しぶりに再会したサボはそれが顕著であり、ダランッと力無く人形のように白目を剥くルフィの首元を掴んで揺さぶった。

 それでもルフィは起きない。しかしそれも仕方のない事だ。

 ジョットのオーラで傷や疲労を癒したとはいえ、やはりインペルダウンからの無茶は流石のジョットの持つオーラ量でも完全に癒す事はできなかった。イワンコフの能力で騙していたが、それでも戦闘で使用していたという事もあり、ルフィに託されたオーラは確実に減り、それが今彼の肉体に現れたのだ。

 

「ルフィ! そりゃあ無いぜ! おれがどれだけお前らと会いたいと思って……!」

「……本当に、サボなんだな」

 

 そして、その光景を見たエースは目の前にいるサボが本物だと確信し静かに涙を流す。

 あの日、死んだと思っていた兄弟が生きていた。それが分かって――凄く嬉しい。

 

「サボ……生きていてくれてありがとう……!」

「……ああ」

 

 サボも、そんなエースに気が付くと目を閉じて穏やかな笑みを浮かべるとポンと彼の肩に手を置く。一層、エースの肩が強く揺れた。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

「――良かった」

 

 そして、その光景を見ていたメアリーは地面に半分体を埋めた状態で眺めていた。

 

 メアリーは、ウソップと逸れた際、運良く革命軍の船の上に落ちた。

 しかし、彼女自身はくまの能力の対象外だったため大怪我を負ってしまい、今日まで満足に動く事ができなかった。

 それでも、彼女は自分ができる事をした。麦わらの一味が少しでも動きやすくなれるように革命軍の力を借りて世界に自分たちの名を売り(その際自分の悪名も上がった)、サボに何度も訴えかけて記憶を思い出して貰い、そして此処に来た。

 本当は、もっと確実な方法でエースを助けようとしたのだが……サイファーポールによって今のいままで足止めを喰らっていた。

 思い出すと、彼女は涙が出そうだった。

 周りからの疑いの視線。畏怖の目。眼帯してくれませんか? と頼み込まれる事21回。

 違う。そういう涙の種類ではない。

 ――とにかく。

 

「本当に、良かった……!」

 

 10年前に失敗したトラウマを乗り越え、ようやく手繰り寄せた運命。彼女は、それを無駄にするつもりは無かった。

 メアリーは、地面から抜け出すと肩に子電伝虫を乗せて振り返る。そこには、既に立ち上がってこちらを睨み付ける赤犬の姿があった。

 

「邪眼のメアリー……そうか。確かクルセイダー海賊団は……」

「そういう事。私たちは革命軍とのパイプを持っている――それがどういう意味を持つか知っているでしょう?」

「ふん。ドラゴンの息子である麦わらが居る以上あり得ん話じゃあないのぅ――だが、それで退く海軍じゃないぞ!」

 

 ドロッとマグマを大量に体から生成する赤犬。その威圧感にサボとエースが再会を喜ぶのを止めて構えるが――それをメアリーが止めた。

 

「任せて」

「メアリー? お前まで……だが、そいつは――」

「待て、エース。此処はメアリーに任せよう――おれ達を震わせたあの邪眼……いや、さらに進化した邪王真眼に」

「――」

 

 真剣な表情で信頼の言葉を吐くサボに、メアリーはひゅっと浅く息を吐いた。

 自業自得だとはいえ、こうも真面目にその言葉を吐き出されるとメアリーは死にたくなった。しかし、相手を畏怖させるには効果的であり、見る者を魅了する彼女の容姿とは相性抜群だった。

 メアリーは、スッと己の片手で己の左目を隠すと――エキサイトした。

 

「――海軍大将赤犬。

 何故アナタがジョットと死闘を繰り広げて、尚此処に居るのか。

 何故若返っているのか。何故傷が完治しているのか――その答えは一つ」

「……!」

 

 隠された彼女の瞳が――金色へと変化した瞳が赤犬を射抜いた。

 それに赤犬は言い寄れぬ悪寒を感じた。あり得る筈がない。細心の注意を払い、この戦争で影響が及ばない遠く離れた地に居る筈だ。だが、目の前の少女を見ていると、思わずそれ以上言うのを止めろと叫びそうになり……しかしメアリーは構わず続けた。

 

「――アインという女海兵の悪魔の実……モドモドの実の能力で、全盛期の時代まで戻したから」

「――貴様、それを何処で……!」

「――私の通り名は知っている?」

 

 一瞬表情を暗くさせるも、メアリーは赤犬に逆に問う。

 聞かれた赤犬は、何故今更そんな事をと眉を顰める。

 

「なんでそんな事……って考えたわね(・・・・・)

「っ! 貴様、まさか――」

「そう。私の瞳は対象の思考を読み取れる――案外、単純なのね」

「貴様……!」

「そして! 進化した私の邪眼――邪王真眼は、記憶を呼び起こし、その力を行使する!」

 

 そう言って、彼女は腕を伸ばしパチンッと指を鳴らした。

 すると、次の瞬間赤犬の――否、モドモドの実の支配下にあった者/物たちに変化が訪れた。

 

「ぐ、ぬああ……! まさか……まさかッ……!」

「“戻って”貰うわ――アナタの本来の姿に……!」

「ぬううう……邪眼の、メアリイイイイ! ――がはっ……!?」

 

 赤犬は、メアリーを睨み付け――肉体が重傷を負っていた時に戻り倒れ伏した。

 この戦争と戦争前にジョットによって負わされた傷は、赤犬を追い詰めるには充分だった。荒く息を吐きながらも、しばらく立ち上がれそうにない。

 それを見たメアリーは優雅に微笑み――。

 

(死にたい……)

(いやいや。凄い演技だったぜメアリーちゃん)

 

 子電伝虫から、男――ジョットの父ジョセフの声が響く。

 

 メアリーは、別に邪眼を持っていないただの痛々しい少女だ。この世界ではあまり見かけない中二病を駆使するスカスカの実を食べたただの少女だ。

 故に、彼女に相手の心を覗く力は無いし、見た能力を想起させて使用する事もできない。

 では、何故彼女は赤犬たちの体を元に戻したのか。それはとてもシンプルな答え。

 

(でもありがとうパパ。おかげで助かったよ)

(愛する娘の為だ――今からシャンクスさんと一緒に向かう。それまで持ち堪えてくれ)

 

 ジョセフにアインを倒して貰っただけだ。メアリーの台詞と合わせて。

 このトリックを聞いた時、メアリーはジョセフに「ねえ必要? これ必要?」と何度も尋ね「相手を怖がらせるには丁度良い」と言われた。つまりそこまで必要ではない。

 それどころか、立場的に味方である白ひげ海賊団から畏怖の眼で見られている。彼女は正直泣きたかった。

 

 ――とは言っても、これで敵の戦力を削る事は出来た。

 ふざけているように見えて、彼女とジョセフの仕事はこの戦争に大いに貢献している。今頃、別の戦場では大将たちとゼファーの肉体が元に戻り、パシフィスタの半数は機能停止に陥っているだろう。

 

(さて、後はジョットの野郎だ。さっさとソイツ引き摺って撤退しな)

(うん、分かった)

 

 子電伝虫を切ると、メアリーはエース達の元へと走り寄る。

 

「エース! ジョットは!?」

「ジョット? そう言えば――」

「お、おい! 見ろアレ!」

 

 エースがメアリーの言葉に応えようとした瞬間、誰かが上を指差して声を上げた。

 メアリーたちは、その声に反応して空を見上げると――。

 

「――なに……あれ……?」

 

 フワフワと浮く幾つもの海賊船と軍艦が、そこにあった。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

 時は、少しだけ遡る。

 

「ゼハハハハハ……! 久しぶりだなオヤジィ……!」

「ティーチ! テメエ、どの面下げて出て来やがった!」

 

 白ひげ海賊団の怒りと殺気が、一人の男に向かって放たれる。

 “黒ひげ”マーシャル・D・ティーチ。白ひげ海賊団の鉄の掟を破り脱走し、それを追ったエースを倒し――この戦争を引き起こした張本人だ。

 黒ひげは、新たなる仲間と共に()()()()()()に乗って眼下の海賊と海軍を見下ろしていた。海兵たちは、黒ひげの後ろに控える顔ぶれを見て青褪めた。

 

 “『鬼保安官』ラフィット”“『チャンピオン』ジーザス・バージェス”“『音越』ヴァン・オーガー”“『死神』ドクQ”“『巨大戦艦』サンファン・ウルフ”“『悪政王』アバロ・ピサロ”“大酒のバスコ・ショット”“『若月狩り』カタリーナ・デボン”“雨のシリュウ”。

 そして――。

 

「ジハハハハ! 懐かしい顔ぶれじゃねえか、おい」

 

 “金獅子のシキ”。かつて両足を斬り落としインペルダウンを初めて脱獄した男であり、ルフィに敗れてインペルダウンに収容されていた伝説の海賊だった。

 それを見たセンゴクは、険しい表情を浮かべて叫ぶ。

 

「貴様ら……マゼランはどうした!? インペルダウンはどうなった!?」

「ジハハ……たっぷりとお礼をしたぜ? ――なあ、テメエら?」

 

 センゴクの問いに笑みを浮かべて答えたシキは、後ろに控えている脱獄囚たちに尋ねた。

 すると、下劣な笑い声が響きその悪名高き顔が良く見えるように前へと出る。

 彼らは、黒ひげ曰く補欠合格者。黒ひげが行ったゲームに勝てずとも、その生命力の高さをシキに買われてこの場にやって来た最悪の海賊たち。つまり、彼らは全員――レベル6の死刑囚だ。

 

「まさか……黒ひげの野郎! やりやがった!」

「一人だけでもヤバいのが、あんなに……!」

 

 そんなものが、世に解き放たれれば――世界はパニックになる。

 海軍たちは事の大きさに気付き、顔を青褪めさせた。

 

「シキ……テメエ、ティーチの下についたのか」

 

 そんななか、黒ひげたちを見上げていた白ひげがシキに問い掛ける。

 

「ジハハハハ……違うな、同盟だ! こいつは見所がある上に、オレの事をよく理解している! お前も面白いもんを持っていたじゃねえか」

「……ゼハハハ。そういう訳だオヤジ。オレはシキと組んでこの世界を手に入れるぜ!」

「――そうか、興味ねえな……だが!!」

 

 白ひげが構えた。それを見たシキが能力を使い、幾つもの軍艦や海賊船を射線上に移動させた。しかし、次の瞬間船は全て大破し、黒ひげたちが乗っていた軍艦は広場へと落ちた。

 海軍たちはそれに巻き込まれて吹き飛び、黒ひげたちは体のあちこちをぶつけながらも無事だった。

 

「くそ……容赦ねえな! あるわけねえか!」

「てめえだけは息子とは呼べねえな、ティーチ!! おれの船のたった一つの鉄のルールを破り、お前は仲間を殺した!」

 

 白ひげの怒りは凄まじく、そしてそれは彼の息子であるマルコたちも同じだった。

 だが――。

 

「手ェ出すんじゃねえぞテメエら! 

 ――4番隊隊長のサッチの無念! このバカの命を取っておれがケジメをつける!」

「確かに、アンタならできそうだ――おい、シキ!!」

「分かってらァ!!」

 

 黒ひげの呼び掛けに、一人だけ空中に回避していたシキが腕を大きく振り下ろした。

 瞬間、空高くから紫色の液体が白ひげに向かって降り注いだ。

 それを白ひげは能力で吹き飛ばそうとするも――。

 

「“闇水(くろうず)”」

「!!」

 

 シキの部下になった死刑囚の能力で、いつの間にか白ひげのすぐ傍にいた黒ひげがその巨体に触れる。すると、白ひげは能力が使えなくなり液体――マゼランの猛毒を浴びた。

 

『オヤジイイィ!!』

「ぐっ……!?」

「ゼハハハハハ! どうだオヤジ! マゼランの毒は!? 痛ェだろ!?」

 

 再びシキの部下の能力で自分だけ回避した黒ひげは、一先ず毒で弱体化させた白ひげから視線を外す。そして、背後にいる海軍に目を向ける。

 

「ショーが始まる前に邪魔されても困るんでな――シキ、頼んだぜ」

「ジハハハハ! ああ、任せろ――テメエら、海軍にはでかい恨みあるよな? それを此処で晴らすぞ!」

 

 そう言うと、シキは再び空に船を幾つも浮かせて、彼の言葉に反応した部下たちが声を上げて下劣な笑みを浮かべる。

 中にはゼファーが捕らえた凶悪な能力者もおり、海兵たちは自然と険しい表情を浮かべる。一人一人が強く凶悪な海賊。油断をすればあっと言う間にやられてしまうだろう。

 

「あらら。これは厄介な事になったな」

「ん~。怖いね~。とりあえず全員死刑でしょ」

「センゴク。急いで海兵たちを下がらせろ。あれは、並みの実力じゃあ太刀打ちできんぞ」

 

 しかし、海兵たちは何処かこの危機を脱すことができると思っていた。

 此処には海軍大将が二人と元大将が一人居る。加えてセンゴク元帥も居り、英雄ガープも健在。抑え込むは容易かと思われた。

 しかし――。

 

「ぬ――」

「む――」

「これは――」

 

 突如、三人の体を襲う異変。モドモドの実の能力で若返っていた体が次々と、この時代のものへと戻るではないか。

 それに、センゴクは焦る。ゼファーはまだしも、黄猿と青雉にはジョットに受けたダメージが残っている。戦争でも少なからず傷を負っており、その状態で戻れば――。

 

「っ……!」

「これは……不味いねェ……」

 

 大将二人がガクンッと膝を折る。ギリギリ戦えるが、大幅な戦力ダウンは確実だ。

 ゼファーは、己の部下のアインに何か起きたのだと理解し狼狽している。

 

(不味い――)

 

 センゴクの顔に、焦燥がはっきりと現れた。

 それを見たシキが笑みを浮かべ――叫ぶ。

 

「行くぞ野郎共――海軍を滅ぼせえええ!」

『オオオオオ!!』

 

「くそ――全員構えろ! 油断は決してするなぁ!!」

『オオオオオ!!』

 

 死刑囚たちは恨みを返すべく。

 海軍は、それを取り押さえるべく武器を構えて突貫し。

 シキは巨大な船を降らせ、それをセンゴクが打ち壊し――激しい戦闘が始まった。

 

 そして――。

 

「ゼハハハ……! 親子喧嘩と行こうぜ、オヤジ!」

「ティーチ……!」

 

 白ひげと黒ひげも激突し……。

 

「……っ」

 

 星の名を持つ男は……まだ目覚めなかった。

 








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