とある海賊の奇妙な冒険記   作:カンさん

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今年最後の投稿ゥゥウウ!!


テメェはオレを怒らせた

「うわああああああ! オヤジィィイイイイ!!」

 

 朦朧とする意識の中、ジョットの耳に悲しみの声が聞こえた。

 マルコやビスタといった隊長達。スクアードやドーマの傘下の海賊。そして救い出されたエース。彼らは全員「オヤジ」と叫び、泣いていた。

 体の芯に響く痛みに耐えながら、ジョットは目を見開き――理解した。

 ドス黒いオーラを持つ男が率いる海賊団を前に、どっしりと構える白ひげの身には既にオーラが無かった。それでも尚、彼は薙刀を振るい、背中の息子たちを守るように戦い続けていた。

 白ひげはもう死んでいる。しかし、彼の強い意志が無理矢理体を動かしていた。それに今気づいたジョットは――。

 ……いや、違う。これは記憶だ。ジョットは全て見ていた筈だ。白ひげが自分の息子たちを……そして孫のように思っていたと言ったジョットを助けるべく、一人で戦っているその雄姿をしっかりと焼き付けた筈だ。その母と同じ青い瞳で。

 

 しかし、ジョットはよく見えず受け入れる事ができなかった。目の前の光景が歪んで……涙で歪んだせいで良く見えなかったのだ。

 

(――オレは、爺さんを……)

 

 助ける事ができなかった。

 失意と悲しみに、ジョットは目を閉じようとし――。

 

『――目を閉じるなよジョット』

「――」

 

 頭の中に響く声に、彼は思わず視線を上げる。

 そこには蹂躙される白ひげしか居らず、彼に声を掛ける祖父の姿は無かった。

 しかし、今確かにジョットに声が届いた。

 

『グララララ……これもお前のオラオラ実の覚醒って奴かジョット』

「じい……さん……!」

 

 ジョットの眼に、オーラが集う。

 やがてそれは人の形となり――白ひげエドワード・ニューゲートとなった。

 白ひげは、グララララと笑いながら拳を握り締めると、思いっきりジョットの頭に拳骨をした。

 音はせず、痛みも無いが――ジョットは確かに頭を殴られた感触を味わった。

 何が起きているのか分からない。それは白ひげも同じようで、まるで残された短い時間を使うかのように、ジョットに一方的に話した。

 

『ジョット、おれは死なねえよ』

「……」

『お前たちがおれの事を忘れねえ限り、おれはお前たちの中で生き続ける――だからよ、前を向いて立ち上がれ。海賊王になるんだろ?』

「……最期くらい、別れの言葉を言えよ爺さん」

『グララララ! 言いたい事くらい、既に伝わっているだろうが! ここによ!』

 

 笑ってそう言うと、白ひげはドンッとジョットの胸を叩いた。

 太く逞しく……しかし今にも消えそうな腕を見て、ジョットは思いっきり堪え忍んだ。しかし、頬を濡らす涙は次から次へと流れてくる。

 

『ジョット、お前は優しい奴だ。だから先に言っておく――これからティーチがおれの体に何しようと怒りに飲まれるな。テメェの頭で考えてからの行動なら何も言わねえが、『血』には飲まれるなよ?』

 

 チラリと黒い布の中に入る黒ひげを見ながらそう忠告し、彼は己の手を見る。

 もう、時間が無い。これが最期の言葉だ。

 白ひげは、その言葉をしっかりと伝えた。愛する娘の忘れ形見に――ではなく。

 

『ジョット。最期に、お前と出会えて本当に良かったぜ』

 

 たった一人愛した孫に向けて――。

 その言葉()を受け取ったジョットは――静かに泣き続けた。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

(――すまねえな、爺さん。アンタの忠告聞けそうにねェ!)

 

 頬を押さえて起き上がる黒ひげを睨み付けながら、ジョットは白ひげに謝っていた。

 白ひげが最期の時間を使って伝えた助言。それに従う事はできないとジョットは確信していた。血がどうとか、そういう話じゃない。

 長年家族を守るために使っていた()を、最強の座などというちっぽけものの為に奪った黒ひげをジョットは許せなかった。

 

(あんな光景見せられて、頭に来ねえ奴は居ねえ!)

 

 怒りの感情を叩き付けるジョットに、黒ひげは戸惑いの表情を浮かべる。

 目の前の男は、かつて成り上がる為の生贄として目を付けていた候補の一人だ。しかし、初頭手配一億という不可解な現象から、計画に支障が出ると判断して見逃していた。現に、驚きの速さで成り上がっており、少しだけ薄ら寒さを覚えている。

 そんな男が何故此処に居る? それに、何故目の前の男を見て妙な既視感を覚える?

 黒ひげが奇妙な感覚に戸惑っていると、崖の向こうから白ひげ海賊団の声が響いた。

 

「ジョット! 何をしているんだ!」

「戻って来い! お前、体ボロボロじゃねえか!」

「ジョットの奴、まさかティーチの野郎と戦うつもりか?」

 

「――ジョット、だと?」

 

 聞こえて来た言葉に、黒ひげの胸の中に沸き起こっていた違和感が霧散した。

 ジョット。それは、黒ひげにとって特別な意味を持つ。

 全てを理解した黒ひげは、必然的にジョットという男の正体にも気付いた。センゴクの暴露を耳にしていないにも関わらず、だ。

 しかし、それは当然の事である。何せ、黒ひげは――ジョットと因縁を持つ男なのだから。

 

「ゼハハ……ゼハハハハハ! ゼハハハハハァッ!」

「せ、船長?」

 

 黒ひげの様子に、思わず戸惑うクルーたち。

 しかし、そんな事など気にならないとばかりに黒ひげはジョットだけを見ていた。

 まさか、存在していたとは。そして、こうして相見えるとは思わなかった。

 黒ひげは、運命に感謝しつつ口を開いた。

 

「そうか……お前がジョットか! なるほど、()()()ジョジョか! 良い名じゃねえか! なぁおい――リードの姐さんの息子さんよォ?」

「リード……なるほど、そういう事ですか」

 

 黒ひげの言葉に、ラフィットは納得したと言わんばかりに頷いた。

 かつて、黒ひげ海賊団に所属して間もない頃、彼は黒ひげからある話を聞かされていた。

 バージェスたち古株も同じなのか、戸惑いの表情を消してニヤニヤとジョットを見る。

 ジョットは、そんな彼らの視線を向けられながらも黙って黒ひげを睨み付けていた。

 

「お前の事はよォく知っているぜ! お前よりもなァ! なんせ、おれァ白ひげ海賊団でも古株だったからな。姐さんに子どもができた時、男だったら『ジョット』と名付けるって言っていたぜ? ――ジョジョ! テメェも隊長たち(そいつら)から色々話を聞かされたんだろ? 綺麗な姐さんの話をよォ!」

「……」

「随分と慕われていただろ? 姐さんは優しかったからなァ。海の嫌われ者のおれ達を、オヤジと共に温かく受け止めてくれた! ――だが、そんな姐さんにも闇があった! おれとオヤジしか知らねえ闇がな!」

「姐さんの闇……だと?」

 

 マルコ、初めて聞いたその言葉に戸惑いの表情を浮かべる。それを見た黒ひげはニヤリと笑みを浮かべ――まるで、その事を此処で暴露するのが楽しくて楽しくて仕方ないかのように、叫んだ。

 

「――姐さんは、白ひげ海賊団の鉄の掟……仲間殺しの罪を犯しかけた」

『――』

 

 その言葉を聞いた白ひげ海賊団たちは――全力で否定した。

 

「ふざけんな!」

「姐さんがそんな事する筈がねえ!」

「いいや、事実だ! ――その殺しかけた仲間っていうのがおれなんだからな!」

 

 黒ひげは言う。自分は、ジョットの母リードに殺されかけたと。

 

「姐さんは気づいていたのさ、おれの恐ろしさに。だからおれを暗殺しようとし――失敗した。船に居られなくなった姐さんは、隠者の野郎に着いて行って船を降りたのさ! 己の罪を隠すために!」

「そんな、バカな事が……!」

 

 白ひげ海賊団は、明かされた真実に大きく動揺した。

 理由はどうあれ、慕っていた女性(ヒト)が罪を犯しかけていたという事実を受け入れる事ができなかったのだ。

 特にマルコやスクアードと言った彼女に世話になった者はそれが顕著で、思わず膝を着いてしまう程だ。

 

「そしてジョジョ! お前随分オヤジの事を慕っているようだが――全てを知っているおれからすれば、哀れで滑稽だ」

「――どういう事だ」

「疑問に思わなかったのか? 罪を犯しかけたとはいえ、それでも姐さんはオヤジにとって娘だった――だがな」

 

 これまでは全て前置きだったのだろう。黒ひげは、これが言いたくてリードに殺されかけたという己の唯一の失敗を明かし、長々と語っていた。

 黒ひげは、決定的な言葉をジョットに突き付けた。

 

「オヤジは、姐さんを――お前の母親を見殺しにしたんだよ!」

「――」

「鉄の掟に触れ、船を降りたお前の母親は見捨てられたのさ! 口では娘と言いつつ、オヤジにとって姐さんは既に()()だった! そして、それを知らず都合の良い話を聞かされたお前は、良いように利用されたってわけだ! 

 

 

 オヤジはもう一度欲しかったんだよ! ジョン・スターの血がさァ!!」

「――テメェ!!」

 

 ジョットは思いっきり地面を蹴った。埋没するほど強く。

 弾丸のように黒ひげへと飛び出し、スタープラチナがその拳を限界まで握り締める。

 しかし、それを見据える黒ひげは笑っていた。

 

「“闇水(くろうず)!”」

 

 黒ひげの闇が――スタープラチナを掻き消した。今まで数々の困難と強敵を退け、打ち倒してきた彼の魂が、初めから存在しないかのように消えた。

 ジョットの腕を掴んだ黒ひげは、反対の拳を握り締め――グラグラの実の力を宿らせそれを思いっきりジョットの胸に叩き込んだ。

 大気がヒビ割れ、衝撃が地面を走り、ジョットは大量の血を吐いて吹き飛んだ。

 

『ジョット!!』

 

 直撃。世界を破壊する力が、たった一人の人間に撃ち込まれた。その光景を目にした白ひげ海賊団たちは、悲鳴を上げる。

 背中を地面に付けていたジョットは、ヨロヨロと立ち上がり黒ひげを睨み付ける。

 それを見た黒ひげは満足そうに笑みを浮かべた。

 

「ゼハハハハハ……そうだ。男って奴はそうでなくちゃあな、ジョジョ! ――“闇水(くろうず)!”」

 

 黒ひげは、闇の引力でジョットを自分の元へと引き寄せる。そして、反対の腕に地震の力を宿らせた。

 もう一度叩き込むつもりだと理解した白ひげ海賊団たちは、それぞれ武器を構え、空を飛べる者はジョットを助けようとし――。

 

「――来るなァ!!」

 

 ――ジョットの一喝で止められた。

 体が動かなかった。まるで、オヤジと慕う白ひげに言われたかのように――。

 自分たちの身に起きた異変に白ひげ海賊団の面々が戸惑うなか、再び地震が起きた。

 ハッとして全員が揺れの発信源に目を向けると、そこには黒ひげに拳を叩き付けるジョットの姿があった。

 

「ジョ――」

「――オラァ!!」

 

 白ひげ海賊団の悲鳴を遮るように、ジョットの怒号が広場に響く。

 覇気で黒く変化した拳が、黒ひげの腹に深々と突き刺さっていた。地震の力を叩き込まれてもジョットは怯まず反撃をしていた。あまりにも重い一撃に、異様な体の構造を持ち常人以上にタフである黒ひげですら意識を飛ばしかけた。

 闇の手で掴まれたまま、ジョットがもう一度拳を叩き込む。

 

「オラァ!!」

「ぐっ……痛ェなこん畜生がァあああ!!」

 

 意識を繋げて、黒ひげが地震の力が宿った拳でジョットを殴りつけた。

 ビキリと大気がヒビ割れる音が響き、マリンフォードにさらなる負担を掛けながらジョットもまた吹き飛ぶ。

 

「ぐっ、ハァ……ハァ……!」

「船長! 大丈夫か!?」

「手ェ貸そうかティーチ」

「いや、テメェらは手を出すな……ゼハハハ。やはり、ジョン・スターの拳は良く効くぜェ……!」

 

 殴られた場所を押さえながらも、黒ひげは立ち上がる。ジョットもまた、満身創痍の体を起こしスタープラチナを出して構える。

 

「だが、()()の地震の力の方がずっと重い! 能力が使えないと踏んで、それを囮に近づき拳を叩き込むってのは良い作戦だが……相手が悪かったな。テメェがおれを倒す前に、テメェが死ぬぜ? 自慢じゃねえが、我慢比べは得意なんだ――試してみようぜ!」

 

 黒ひげが再び闇水を使いジョットを引き付け、スタープラチナが消え――ゼロ距離でお互いの拳が叩き付けられる。しかし、誰の目から見ても明らかだった。

 白ひげのグラグラの実を奪った黒ひげの一撃の方が遥かに威力が高いと。黒ひげがその太い腕を振るう度にジョットの体が吹き飛び、周囲に被害が及んでいく。これではまるで死刑だ。ジョットも己の拳を叩き込んでいるが、その度に地震の力を叩き込まれては身が持たない。

 白ひげ海賊団たちは、その目を覆いたくなる光景を見ながら泣き叫んで懇願した。もう止めてくれと。ジョットに手を出すなと。しかし、全員が目の前の崖から飛び出して無理矢理止める事ができなかった。恐怖によって体が動かないのではない。それ以上の力で強制的に地面に縫い付けられているかのように動けなかったのだ。

 

「……センゴク元帥。我々はどうしたら」

「――手を出すな。手を出せば、こちらがやられる」

 

 そしてまた海軍も動けなかった。海兵たちは地震の脅威に怯え立ち竦んでいる。

 将校の一人がセンゴクに指示を仰ぐと、彼は全軍に動くなと指示を下した。

 

「そう、ですよね。白ひげの力が星屑のジョジョ一人に向けられている今、下手に動けば――」

「そうではない……!」

「え?」

「本当に危険なのは――星屑のジョジョの方だ!」

 

 センゴクは――今、見極めようとしていた。

 何度も何度も地震の力に叩き付けられながらも、スタープラチナを展開して立ち上がるジョットに。そして、今この瞬間も成長を続ける彼の力に。

 

 そろそろ足場が無くなりそうなほど地震が地面を破壊し尽くした頃、ジョットが血濡れになったのを確認した黒ひげは息を切らしながらも笑みを浮かべた。

 

「――予想以上だ」

 

 誰が想像できようか。グラグラの実の能力の直撃を何度も受けながら立ち上がる男が居る事に。最初は笑っていた黒ひげ海賊団たちは、次第に表情を引きつらせ、今では額に汗を垂らして信じられないと目を見開いていた。

 しかし、黒ひげはその光景に満足していた。まるで、それこそが当然だと言わんばかりに。

 

「よく耐えたなジョジョ。褒めてやるぜ……おそらくこの先に居ねえぞ。これほどまでに()()の地震の力を受けて立ち上がる男はよ……」

「……!」

「なぁ、ジョジョ……オメエ、おれの息子にならねえか?」

 

 その言葉に、誰もが反応を示した。

 元白ひげ海賊団だった彼がそれを口にするという事は、つまり――。

 

「ゼハハハ! お前を此処で殺すのは惜しい! それによ、おれァ姐さんを狙っていたんだ! あんなに良い女他に居ねえよ! 隠者の野郎が持って行かなきゃあ、おれがあの人を手に入れていたんだ! つまり、オメエがおれの息子になる可能性もあった訳だ!

 だから、呼んでいいぜ――白ひげ海賊団(あいつら)が白ひげに向かって呼んでいたみたいに“オヤジ”ってよう!!」

「ティーチ! 貴様あああああああ!!」

 

 もう我慢できないと白ひげ海賊団が怒りのままに動き出す。

 マルコは不死鳥の力を使って翼を広げ、エースは全身を炎に変え、ビスタは剣を構え、全員が崖を飛び越えて黒ひげに襲い掛かろうとした。

 

「待てお前らァ!!」

 

 しかし、またしてもジョットが止めた。

 

「止めるなジョジョ! そいつは、おれたちの絆をバカにしたんだ!」

「ああ、そうだ! 絶対に許せねえよい!」

 

 それでも、白ひげ海賊団の怒りは収まらない。ジョットの言葉に耳を貸さず既に黒ひげを殺す気満々だ。

 マルコなど、既に空を飛んで羽ばたいている。

 止まらない怒号。それをジョットは――。

 

「――爺さんとの約束を破るのかァ!!」

『……!!』

 

 それ以上の意志を持って止めた。彼の声が彼らの胸に響き――最後の船長命令、否、白ひげとの最後の約束を思い出させた。

 生きて、皆無事に新世界に帰還する。それが、白ひげが最後に放った言葉。

 マルコは、ジョットの言葉で――彼の意図を理解した。

 

「ジョット……お前、まさか……!」

「こんな奴のために、爺さんとの約束を破るな! もう、あの人の言葉は聞けねえんだ! だったら――最後くらい素直に聞きやがれこのアホンダラァ!!」

 

 ジョットは――白ひげの魂を懸けた決断を守るために戦っている。

 黒ひげの挑発に乗り、白ひげ海賊団(彼ら)が戦ってしまえば――それが全て無駄となってしまう。

 故に、白ひげ海賊団ではないジョットが、孫と認められ息子を頼むと託されたジョットが――何より、一つの海賊団の船長に敬意を表し、クルセイダー海賊団の船長である星屑のジョジョが、代わりに黒ひげと戦っている。

 

「……分かった」

 

 彼の意志を理解した白ひげ海賊団は――足を止めた。

 白ひげとの約束を守る為。

 そして――。

 

「だから――どうか、そいつをぶっ飛ばしてくれ、星屑のジョジョ!!」

「――ああ、任せろ!!」

 

 目の前の船長に、自分たちの未来を託す為に。

 ジョットは、仲間たちの声を背に走り出した。

 

「ゼハハハハハ! 交渉決裂だな! だったら死んで貰うぞジョジョ!! “闇水(くろうず)!”」

 

 闇の引力が、ジョットの体を捉え、黒ひげへと引き寄せる。

 黒ひげは、闇に染まった反対の腕に地震の力を宿らせて構えた。

 

(ゼハハ……そうだ、もっと怒れジョジョ!! お前の母はジョン・スターの血に飲まれて死んだ! お前も同じ運命を辿るが良い……!)

 

 どう転ぼうと、これが最後だ。それをお互いに理解していた。故に、黒ひげは――ジョン・スターの血に訴えかけて、彼を殺すための言葉を吐いた。

 

「ジョジョ! 最後に言っておく――おれァ嬉しかったぜ! お前の母親が死んでよォ! ゼハハハハハ!」

 

 その言葉を最後に黒ひげは――拳を振り被って叩き付けた。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

 ジョットは、黒ひげを倒すには――スタープラチナの力が必要不可欠だと理解していた。

 何故ならば、スタープラチナの拳は、ジョット自身の拳よりも、黄猿の光よりもずっと速いからだ。故に、彼はこう考えた。

 

 黒ひげの闇に飲まれる前に、奪われた白ひげの力で破壊される前に、スタープラチナをぶちかませばいい、と。

 その為に、彼は何度も黒ひげの拳を喰らいながらも見極めていた。そして、ついに見つけた。スタープラチナの拳を叩き付ける最高のタイミングを。そこを突けば、ジョットは黒ひげに勝てると確信していた。

 一秒にも満たないその一瞬。彼は、そこに全てを懸けた。

 

(来やがれ、黒ひげ……!)

 

 高笑いを浮かべて体を引き寄せる黒ひげ。

 

(射程範囲に入った瞬間が――)

 

 それをジッと見ながら、ジョットはスタープラチナを構え、そして――。

 

(テメェの最後だ!)

 

 ――意識が、()()()スタープラチナに追いついた。

 

『オオオオオオオオーーーッ!!』

 

 視界がモノクロに変わり、全てが止まった世界でスタープラチナが歓喜の声を上げた。

 まるで、ようやく主に認識して貰えたと喜ぶかのように。それを驚きの表情で見上げるのはジョットだ。

 風も、水も、空も、人も。

 誰も居ない静止世界の中で、ジョットのスタープラチナだけが動いていた。いったい何故――?

 

 

 

 ――これは、ジョットは知らない事だが。

 スタープラチナはとっくの昔に限界を超えていた。青雉との戦いで初めて具現化した時から。スタープラチナはオーラの塊。肉体という足枷が無い彼のスピードは、常識を遥かに超え、光の速度を超える速さを持っていた。

 しかし、本体の意識に引っ張られていたスタープラチナはその力を十分に発揮する事ができなかった。本体の居る世界に合わせて動くスタープラチナは、さぞ窮屈だっただろう。

 だが、ここでようやくジョットの意識は壁を超えた。ほんの指先一つだが、それでも本当のスタープラチナを認識した。

 それによって、黒ひげに触れられるまでの一瞬が少しだけ伸び、目の前の邪悪をぶっ飛ばす為の時間が与えられた。

 ジョットはそれを全て理解していない――しかし、それでもいつもと同じようにスタープラチナに命じた。

 

「――奴をぶっ飛ばせ! スタープラチナ!!」

『オオオオオッ!!』

 

 スタープラチナの拳が叩き込まれ――それは瞬きする間もなく無数の拳となった。

 

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ』

 

 白ひげ海賊団を侮辱された怒りを。

 

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ』

 

 母を侮辱された怒りを。

 

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ』

 

 父を侮辱された怒りを。

 

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ――オラァアアアアッ!!』

 

 そして――白ひげ(爺さん)を侮辱された怒りを叩き込んだ。叩き付けられた衝撃が一瞬だけ突風を引き起こし、しかし停止した世界に飲み込まれる。

 そこで限界だったのだろう。全身全霊のラッシュを叩き込むと同時に世界に色が戻り――そして時は動き出す。

 

「ぷぎょろばでぃがああああああ!?!?」

「な――船長うううう!?」

 

 黒ひげの全身に突如襲う拳の暴風雨。それを意識の外から叩き込まれた黒ひげは、気絶と意識の覚醒を何度も繰り返しながら勢いよく吹き飛んで行き――シキが浮かび上がらせた軍艦に突っ込んでいった。

 大穴を空け、白目を剥き何本も歯が折れ、時折痙攣をする黒ひげ。その場に居た者たち全員が何が起きたのか理解できずに居るなか、ジョットは空高く吹っ飛んで行った黒ひげにすっと指を差す。

 

「テメェの敗因はたった一つだぜ、黒ひげ。たった一つの単純(シンプル)な答えだ」

 

 そして、聞こえていないだろうが――はっきりと伝えた。

 

「――テメェはオレを怒らせた」

 




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