そしてあけおめ、ことよろです!!!
「――どう、して……?」
「……っ」
目の前に、ジョットが立っていて。
そして、光で左胸を貫かれ、マグマで二つ目の風穴を空けたジョットが庇うように立っていた。それを見たメアリーは呆然と見上げ、そして、ジョットの瞳に光が無い事に気が付き――。
「“
「“火拳ッ!!”」
その頭上を、オーラを纏った拳と炎の拳がそれぞれ赤犬と黄猿を後ろに退かせた。やはりそれぞれジョットのダメージが体に響いているのだろう。普段ならなんて事は無い攻撃を回避している。
しかし、険しい表情を浮かべているのはルフィたちだった。
「すまねえ、メアリー! ジョットを、止める事ができなかった!」
「ちくしょう……悔やんでもッ、悔やみ切れねえッ!」
二人の声は震えていて、それを聞いたメアリーの心は大きく揺れ動いた。
「ちょ、ちょっと待ってよ。なんで、二人して謝るの? おかしいよ。それじゃあ、まるで――」
「――ジョジョは、もう助からん」
「黙れェ! お前、それ以上何も言うなァ!!」
ルフィが、叫ぶが赤犬はそれを無視した。
しかし、メアリーはむしろルフィの叫び声でさらに大きく心を揺れ動かした。
なんで、そこまで必死になって否定をする?
そう思いつつも、メアリーは口に出さず震える手でジョットを抱き締めて立ち上がる。
でも、上手くできなかった。重くて、力が入らなくて――ジョットが地面に崩れ落ちる。
「ぁ――ごめん、ジョジョ。痛かったよね? ちゃんと、担ぐから……」
メアリーはそう言って、ジョットの肩に腕を回すと立ち上がった。
しかし、やっぱり重くて、そして体が痛くて、でもそれ以上にジョットが痛いから――。
そんな事を呆然と、夢心地に考えながらメアリーはフラフラとジンベエたちの元へと歩く。早く、此処から逃げる為に。
「邪眼の……!」
「……メアリー」
しかし、何故だろうか。ジンベエとサボの顔が――まるで、痛ましいものを見るかのように歪んでいた。
やめてよ。そんな目でこっちを見ないでよ。
そう叫びたくても、しかしそれをしたら認めてしまいそうで――そして、そう考えている時点で、メアリーの頭の中はぐちゃぐちゃだった。
「――諦めろ邪眼。お前の兄は、もう助からん」
それでも、赤犬の言葉はスルッと頭の中に入って来た。
「そいつは、お前を庇って死んだんじゃ」
「元々死ぬ寸前だったけど……それじゃあもう助からないよねェ~……」
「お前! いい加減――」
「うるさいなぁ」
ルフィの激昂を遮って、メアリーの声が戦場に響く。
しかし、その声の質はこの場に置いては異質だった。
まるで、本を読んでいる時に傍で騒がれて眉を顰めたような――そんな、日常で感じている苛立ちを吐き出すかのような言い方だった。
思わず、ルフィが黙ってしまうかのような――ゾッとする気味の悪さがあった。
メアリーが振り返り、その眼には何も映っていなかった。
「ジョジョが死ぬ訳無いじゃん? 今まで何度もピンチを退けてきた無敵の海賊なんだよ? どんな重傷を負っても、すぐに治ったジョジョだったらすぐに――」
「――ふん。心が壊れたか。邪王真眼とやらで、未来を視たらどうなんじゃ」
「……そうだねー。うん、やっぱり元気だよ。いつものように皆が騒いで、それをジョジョが怒って、ギンが苦笑いしている光景だ」
あまりにも痛ましい。その光景に、誰もが口を挟めなかった。
ルフィも、エースも、サボも、ジンベエも、革命軍も。
「ジョジョは、私の光なんだ。何もないスカスカの、神様がテキトーに作った見た目が良いだけの肉人形だった私に、中身をくれたお兄ちゃんなんだ。そんな、神様よりも凄いお兄ちゃんが死ぬ訳が――」
彼女がどれだけ兄を慕っていたのかなど――いや、もはや縋っているとも言って良い。
それは、この光景を見れば明らかだった。
だが、赤犬は――それを壊す。
「――よく覚えとけ邪眼。そいつは、お前のせいで死んだ」
「――え」
「っ! テメエ、赤犬! 何を言うつもりだ! その口閉じろ!」
エースが止めようとするが、それを黄猿が阻む。
赤犬は、エースの叫び声を無視してメアリーに現実を認識させるように丁寧に分かりやすく伝えた。
「貴様が、ジョジョにとって大切なクルーで家族だったために死んだんじゃ」
「……」
「そして、お前は弱かった」
「……ェ」
「だから、強いあいつはお前を守らんといかん。そしてそれは今この時だけの話ではない」
「……れェ」
「お前の弱さが――いや、クルセイダー海賊団の弱さが、常にジョジョを傷つけ殺したんじゃ」
「――黙れェエエッ!!」
目を大きく開いて、心臓の鼓動を早くさせながらメアリーが突っ込む。
その手には爆弾が握られていた。それを赤犬の体の中に突っ込み、心臓を破壊するつもりだった。それだけの殺意がメアリーにあった。
効くのか効かないのか。自分への被害はどうなのか。それを考えられない程に、彼女は怒りによって正気を失っていた。
そんな彼女に、赤犬は表情を変えず肉体をマグマに変えていた。淡々と作業をするかのように。
「待て、メアリー!」
エースが叫ぶ。
「止めるんだ、メアリー!」
サボが叫ぶ。
「よせ、メアリー!!」
ルフィが叫ぶ。
しかし、彼女は止まらない。
色んな声が彼女の体の中に入ろうとも、それをまるで能力のように透き通らせて赤犬に特攻する。まるで、死に場所を求めているようで、とても見ていられなかった。
誰も望んでいない事を、彼女は行おうとしている。それを止めるには、ルフィたちの声は遠く離れて、メアリーの心の壁はぶ厚かった。
「――狂ったまま死ね、邪眼」
赤犬の声を、冷え切った心で聞きながらメアリーはそっと目を閉じ、そして――。
▲▽▲▽▲▽
(――ああ、うるさいなぁ)
見聞色の覇気で聞く心の声のように、たくさんの声がジョットに届いていた。
――ジョットオオオオ!
――くそ、くそおおおお!
――ジョットが、死んじまったァあああ!!
――お前ら絶対に許さねえええ!!
(――聞いた事あるなァ……まぁ、でも)
どうでも、良いか。そう考えたジョットはもう一度目を閉じ――。
――ジョット! ……ジョット!
妹の声が聞こえた。それに、ジョットは目を開き……次第に、聞こえてくる心の声に耳を傾け始めていた。
――ジョット! おれは、お前にまだありがとうって言ってねええ!
――ジョジョ! お前、死ぬなよ! じゃないと、文句も感謝の言葉を言えねえじゃねえか!
――ジョジョ! お前、人の兄弟救っといて自分の妹を泣かすんじゃねえよ!
――あーらら? 随分とボロボロだなァジョジョ。
傾けてしまえば、後は雪崩に乗って全ての声が聞こえた。
ジョットが耳を抑えても、目を閉じても、口を閉じても、皆の声が聞こえてくる。
その度に、ジョットは疲れているんだ。もう頑張っただろう。放って置いてくれと。まるで投げ出すようにそっぽを向く。
――息子たちを、頼んだぞ。
(……)
しかし、
▲▽▲▽▲▽
「――やれやれ。うるさすぎて、戻って来ちまったぜメアリー」
もう、諦めていた声が耳の奥に響いてハッと目を見開き、彼女は振り返ろうとし――服を強く掴まれて後ろへと勢いよく放り投げられた。
しかし、彼女はそれに抗議の声を上げなかった。むしろ、もっと別の事に対して文句の言葉を吐き出していた。
それは、本来ならあり得ない事。ルフィも、エースも、サボも――そして赤犬ですら、信じられないと目を見開く中、メアリーは叫んだ。
「――遅いよ、ジョジョ!!」
「そりゃあどうも、すまねえな!」
しかし、ジョットは笑みを浮かべてそう返し――。
「な、ジョジョ貴様、何故――」
拳を思いっきり握り締め――。
「――ぬぐああああ!?」
「――妹を泣かしているんじゃねえよ、このマグマ野郎」
――止まった世界の中で殴れるだけ殴った後、そう吐き捨てた。
そんなジョットを見ながら、サボが思わず呟いた。
「し、信じられん……! 今、ジョットの命は完全に消えていた! それが、何で急に……!」
「――決まっているだろう、サボ」
もう一度時を止めて、黄猿を赤犬同様殴り飛ばしたジョットは、サボへと振り返ってこう返した。
「オレが、無敵の海賊で神様よりも凄いお兄ちゃんだから――だろう?」
「……誰が言ったのそれ?」
涙を拭いながらメアリーがそう尋ねれば、ジョットはいつものようにこう答える。
「――お前しか居ないだろう、メアリー」
▲▽▲▽▲▽
「さて……」
血だらけで立ち上がったジョットは、スーッと息を吸い込むと――思いっきり叫んだ。
「全軍――退けェええ!!」
ビリビリと空間を震わせる程の大声。覇王色の覇気も込められているのか、一般海兵たちは次々と倒れていく。
そんななか、今まで戦っていた者たちはぎょっとしてジョットの方へと振り向いた。
まだ、あれだけの余力を残しているのか、と。
「ジョットの言う通りだ! おれたちも引き上げるよい!」
ジョットの声を聞いて、黒ひげたちと戦っていたマルコたちも撤退を始めた。海兵の数が一気に減ったのもあり、海軍と戦っていた白ひげ海賊団はどんどん退却していく。
それを追う海軍を見ながら、ジョットはドサリと座り込んだ。
これで本当の本当に、力を出し切ったらしい。
「ル……麦わら。すまねえが、オレの体頼む」
「おう! 任せろ!」
にかっと嬉しそうな笑みを浮かべて、ルフィはジョットを背負った。
そして、メアリーはエースが背負う。
「さっさとズラかるぞ!」
「あ、うん――でも、まだ青雉が」
赤犬と黄猿は吹き飛ばしたとはいえ、まだ大将は残っている。
それに、センゴクやゼファーと言った歴戦の海兵も未だ健在だ。本格的な撤退を始めた今、追撃はさらに激しいものとなるはず。
そう不安に思っていると、メアリーはふと何かを感じ取っていた。
先ほどまでは感じなかった気配だったが、どうもザワザワと感じ取れて落ち着かない。しかしそんななか、彼女は海中から何かが来るのを感じ取っていた。
「――あそこ!」
「ん?」
メアリーが突如、ある場所を指差す。すると、その先の海が盛り上がり一つの潜水艦が浮上した。そして、船の中から出て来た人物にルフィが声を上げた。
「あ! あいつは!」
ルフィの声が聞こえたのだろう。その潜水艦の持ち主――“死の外科医”トラファルガー・ローは、ルフィたちへと視線を向けると叫んだ。
「――悪縁も縁。此処で死なれてもつまらねェ。
おれは医者だ! 星屑屋をこっちに渡せ!」
意外な人物の助っ人に何も知らない者は驚きの表情を浮かべ、動揺を顕にした。
▲▽▲▽▲▽
「さて――ちょっとイジメてきますか」
時を同じくして。
世界最悪の海賊が、マリンフォードに到着した。
活動報告にて、今話についてちょっとした裏話を書きました
興味ある人は覗いてみてください