とある海賊の奇妙な冒険記   作:カンさん

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主人公日記 十八ページ目

 々月/日

 

 次の島に向かって出発した。久しぶりに羽を伸ばせて気分爽快だ。

 ただ、歌って飲んで騒いだ後の仕事は、凄く怠い。それは皆同じなのか、少し気が抜けていた。

 まぁ、海軍を見つけたらすぐに切り替えていたから問題無さそうだったが。

 ゼファーも大将級も居なかった為、余裕を持って対応できた。それと、クルー達も強くなっているというのもある。昔親父が言っていたが、覇気は実戦で強くなると言っていた。新世界という過酷な環境での戦いは、思っていたよりもアイツらを強くしていた。

 そろそろ、オレのオーラを纏った武器を使わなくてもこの新世界で戦えるようになるだろう。アイツらが、強くなっている実感を得て喜んでいるのを見るとオレも嬉しい。

 ……こんな事、早々アイツらには言えねえがな。

 

 

 々月―日

 

 ログポースが示す次の島は、どうやら人が住んでいる……それも爺さんが縄張りにしていた島らしい。ジンベエがそれに気づき、白ひげ海賊団の傘下のどの海賊団が取り仕切っているのかを教えてくれた。

 

 爺さんの縄張りは、四皇を含めた様々な海賊が己の物にしようと暴れている。あの魚人島のように無茶苦茶な見返りを求める奴も居るだろう。爺さんは見返りを求めていなかったようだが。

 ジンベエがその事について聞いて来たが、オレは何も見返りを求めている訳ではない。前半の海にある縄張り(今はスターダスト島と呼ばれているらしい)にも、何かくれと言った覚えもない。

 オレは冒険できれば良い。そう伝えるとジンベエは「そうか」と笑って頷いた。

 

 で、これから向かう島は爺さんが死んでも尚、白ひげ海賊団の縄張りのままだ。傘下の海賊の強さが、他の海賊を寄せ付けないという理由もあるのだろうが……恐らくエースとマルコの“名”の力も使っているのだろう。

 エースは、海賊王の息子だ。そのビッグネームを本人は嫌っているが……影響力はでかい。そのエースが一番隊隊長マルコと共に、縄張りに手を出そうとする海賊たちを牽制して現状を維持している。

 ……だが、爺さんが死んだのは大きい。黒ひげは、爺さんの縄張りを熟知している上にグラグラの実の力を使って暴れている。それによって幾つかはアイツに奪われてしまった。

 何とか抵抗をしているが……旗色が悪いのはエース達だろう。

 新聞では冷戦状態みたいだが……詳しい事を知りたい。次の島で、連絡を取ってみようか。

 

 

 々月+日

 

 ――ああ、怒りでどうにかなりそうだ。

 

 オレは、今、過去最悪と言って良い程機嫌が悪い。

 辿り着いた島で、白ひげ傘下の海賊にエース達の無事を確認できたのは良かった。

 戦争で共に戦った仲だと言って、オレ達を持て成してくれた所までは良かった。

 ――アイツ等が来るまでは。

 

 傘下の海賊の元に、とある親子が訪れた。

 そして、その親子は――爺さんの息子と愛人と名乗った。

 男の名はエドワード・ウィーブル。女の名はバッキン。

 奴らは、自分たちが白ひげの“本当の”家族だと名乗り、爺さんの莫大な遺産は自分たちにこそ相応しいと言っていた。だから、それを手に入れる為に傘下の海賊にその在り処を聞きに来たらしい。

 ……正直、アイツらが爺さんの息子かどうかは興味ない。それが本当でも嘘でも、あのクソババアが欲しているのは金だけだ。

 

 ――だが、あの言葉だけは許せなかった。

 爺さんの宝を“家族ごっこ”だと言い、アイツらの絆を“偽物”だと言い――何より“くだらない”と言った事が許せねえ。

 だから思わずプッツンして追い出す事にしたが――本当にアイツらは、オレととことん合わない部類の人間だ。

 カタギの奴らに遠慮無しに暴れて、気に掛けても1ベリーも得にならないだと?

 無理矢理場所を変えなかったら何人死んでいたか……そう考えるとゾッとする程に、あの男は強かった。

 今でも斬られた跡が疼く。昔、元大将の腕を斬り落としたというのもあながち嘘じゃない。並みの人間では……認めるのは癪だが歯が立たないだろうな。

 オレ達が遺産の場所が知らないと分かって早々に去って行ったが……今度会ったらタダじゃ置かない。

 アイツらは、今後も遺産を求めて白ひげ海賊団に手を出すだろう。マルコ達に伝えねえとな。

 

 

 々月?日

 

 昨日の戦いは、不本意ながらオレを成長させた。覚醒の習得率は……半分を超えただろうか。まだまだ甘いが。やはり、実戦が一番強くなりやすい。

 それと、オーラに武装色の覇気を纏わせるという新技を開発できた。スタープラチナに覇気を纏わせる事ができれば、さらなる進化もできると確信している。

 そして、メアリーが思いついたあの技。アレが使えるようになれば、この先の航海で便利になるし……必要になる。

 覚醒の制御と新技……やれやれ、一気にやる事が増えたな。

 

 

 々月{日

 

 ユラユラと揺れるオーラの手がなんかワカメみたい。

 メアリーがそう言ったせいで、上手く集中できなくなったじゃねーか。

 イメージが伝わったせいか、ワカメみたいな色になっちまったし……。

 おかげで皆に爆笑されてしまい、恥を掻いてしまった。とりあえず、メアリーが夜な夜な――(消されている)。

 

 

 々月}日

 

 くだらねー事で、兄妹喧嘩するもんじゃねーな……。

 何気にカリーナの「人間らしいところ、初めて見た」と言われたのが何とも……。

 まぁ、十年以上一緒に居るんだ。喧嘩くらいはするし、お互いの事は分かっている。兄妹っていうのはそういうもんだろう。

 

 それと、今日は偉い強い海兵と戦った。戦争では見なかったから恐らく世界徴兵で大将になったという噂の海兵だ。新聞でも新世界の海賊たちを次々と捕らえ、その実力は確かなものだった。いや……黄猿並みの化け物だ。

 名は確か藤虎。察するに重力を操る能力者だ。レッドイーグル号が空中から落とされた時は肝を冷やした。ジンベエと協力して犠牲無く戦線離脱できたが……隕石落とすとかデタラメすぎる。時を止める事が出来なかったら、ラッシュが間に合わず破壊する事ができなかった。

 次に戦う時は、場所を考えないとな。空を飛ぶレッドイーグル号は、藤虎に対して相性が悪い。

 

 

 々月#日

 

 黒ひげと同盟を組んだ伝説の海賊――金獅子のシキ。

 そいつが、どうも妙な動きを見せているらしい。

 今知ったのだが、奴はどうも東の海を滅ぼすために20年掛けて計画を練り、傘下の海賊を集め――しかし、麦わらに阻まれて再びインペルダウンに収容された。

 黒ひげの手引きによって脱獄したシキはまた東の海を狙うのだろうか。その時は、今度はオレが止めなくては……。

 

 

 々月|日

 

 かつて、世界の破壊者と恐れられたバーンディ・ワールドという海賊が前半の海で暴れているらしい。天竜人の護衛船に手を出して、復活した事を大々的にアピールしていた。それを受けて政府は七武海を召集していた。

 記事に載っていた場所を見ると、麦わらが修行をしている島と近い。凪の帯上にある島だから心配無い……と見るには、いささか楽観的だろうか。

 ……あの技を使ってみるか。感覚的には、そろそろできそうだ。

 

 

 々月%日

 

 オーラに武装色の覇気を纏わせて攻撃力を上げるっていうのは、今までも考えていた。そして、オレは元々武装色の覇気を扱うのが得意で比較的早く物にすることもできた。

 だが、見聞色の覇気を纏わせるのは難航していた。

 元々メアリーが思いついた技で、覇気の性質と似ているオラオラの実の能力となら効果も性質も進化できるのではないか? と見ていた。そしてそれは実際その通りで……今回初めて成功した。おそらく先日の藤虎との戦闘のおかげだろう。アイツは盲目でありながら見聞色の覇気を使ってこちらの位置を正確に特定していたからな。その影響を受けたのだと思っている。

 見聞色の覇気で、万物の気配や音、強さを聴いて視る力をオーラと混ぜて出来上がったその技の名は――“オーラビジョン・ハーミットパープル”。形状は紫色のオーラを纏った茨で、スタープラチナとはまた別の形として現れたもう一つのオレの新能力。

 このハーミットパープルは、オーラで限界以上に高められた見聞色の覇気を利用した念写能力。カメラを使えば、遠く離れた位置にある風景を映し出す事も可能だ。……金が掛かるのが難点だが。今回は、麦わらのビブルカードを使ったのでかなり詳細な情報を得られた。カメラを三つ使ったところ、それぞれに麦わらが誰かと戦っている姿が映っていた。

 一つ目には、ひげを生やした大柄な男。記事に写っていたワールドだ。覇気を使いこなしているようで、かなりの強敵だ。二つ目は、その男に炎を纏った拳を叩き付ける麦わらの姿。どうやら覇気を使えるようになり……面白い新技を使えるようになったようだ。そして最後の三つ目には、青く発光した……いや電気か? それにしてはどうも見覚えがある技を麦わらが使っていた。それを見たメアリーが摩擦電気がどうのこうのと言って、オレの方を凝視していた。良く分からん。

 とにかく、麦わらは大丈夫そうだ。順調に強くなっているようだしな。

 ジンベエも嬉しそうにしていた。

 

 

 々月!日

 

 ハーミットパープルの練習も兼ねて、遠くに離れた知人達を念写する事にした。

 しかしカメラが勿体ないので四枚までだ。

 一人目はナミ。何やら卵のようなものを持って難しい顔をしている。背後には雲の上に建物があり、どうやら空島ってところに居るらしい。あと、お風呂シーンじゃなかったとか、お約束外すとか精度低いっすねと文句垂れていたクルーは、ハーミットパープルで吊るしておいた。制御とお仕置きを兼ねた合理的な修行方法だ。ジンベエは呆れていたが。

 カリーナも、久しぶりに見るナミに優しい顔をしていた。同業者として目を掛けていた時からナミの事が気になっていたのだろう。アーロンの下に居た時は余裕が無かったらしいからな……。

 いかん、文字に感情が映っている。ジンベエと一緒に落ち込んで、メアリーに突っ込まれたばかりだというのに。ナミもあの時言っていたしな。麦わらに助けて貰ったって。だから本人の居ない所で気にしても仕方ない。

 

 二人目はウソップだった。以前見た時よりも筋肉が増え、かなり鍛えているのが分かる。

 ただ、気になったのは右頬に大きな火傷痕がある事だ。どうやら、サカズキのマグマで焼かれたらしい。アイツの火傷痕は見覚えがあるからすぐに分かった。……流石はオレの兄弟だ。

 

 そして三人目はサンジなんだが……アイツ、どうしたんだ?

 何故か化粧をして女物の服を着て化け物と戦っていた。いや、オカマという奴か?

 顔から滲み出る絶望の感情が何とも言えない。女好きのアイツの心情を考えると涙が出てくる。二年後大丈夫だろうか? 女に飢え過ぎて変な方向に歪んでなきゃ良いが……。

 それと、オカマを見て涙を流すクルー達が少し怖かった。何故か「ボンちゃん」と言って誰かを思い出して、誰かを惜しんでいる。メアリーに聞いても曖昧に笑みを浮かべるだけだった。オカマから、誰かを連想したらしい。

 

 そして最後はギンだ。

 そこには船の上で宴会をしているのか、笑顔で騒いでいる光景が映っていた。マリージョアで解放した奴隷と行動を共にしているのは知っていた。新聞で何度も載っていたからな。

 余程慕われているのだろう。チラリと映っている人たちは皆ギンに笑顔を向けていた。

 海軍に執拗に追われていると知った時はハラハラしていたが――元気そうで何よりだ。

 

 ……ただ、親父の姿が見当たらないのが気になった。ただ写っていないだけか?

 

 

 々月&日

 

 現在、オレ達は全速力である海域へと向かっている。皆、異論は無く切迫した表情で船を動かしていた。

 そうさせるだけの記事が、今日発行された。

 マリージョアを襲撃したギンが乗っていた船が――海軍大将桃兎と緑牛によって討ち倒され、行方不明になった。海軍は、どうやら重い腰を上げてギンを仕留めにかかり……結果は一面に掲載された沈む船の姿。

 記事では、鬼人のギンは死亡と報じられているが――オレは、信じたくない。

 例え、念写して何も写らなくても、だ。

 アイツの無事を信じて、オレ達は船を進める。

 

 

 々月‘日

 

 ギンを見つける事はできなかった。

 代わりに見つけたのは――念写で写った際に見掛けた笑顔が、苦悶の表情で歪んで骸となった元奴隷たち。

 彼らの背には、天竜人の焼印を隠す為か星の焼印が付けられていた。かつてフィッシャー・タイガーがしたように。

 彼らは、近くの島で丁寧に埋葬した。あのままあの海に放置するのは嫌だったからだ。

 ……現在、クルー達は酷く落ち込んでいる。ギンの死を信じていないと言いつつも……もしかしたらと思っている。そして、もし生きていたとしても――あまりにも残酷だ。

 今日は、島に停泊してゆっくりとする事にした。

 

 

 々月)日

 

 オレ達は前に進むことにした。

 ギンは、多分苦しんでいる。だが、アイツは言ったんだ。強くなって、オレの元に戻って来ると。それを信じないで――何が船長だ。アイツは、絶対に生きている。

 だから、合流した時に胸を張って出迎える事ができるように――オレ達は前に進むしか無いんだ。

 クルー達も涙を流しながら頷いた。

 

 オレ達はギンを信じて前へと進む。

 


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