とある海賊の奇妙な冒険記   作:カンさん

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『手加減しない』

 

 ペロスペローのキャンディアーマーを貫き、その本人を殴り飛ばしたジョットは、ギロリと辺りを見渡す。すると、ビクッ! とチェス戎兵や部下の海賊たちが体を震わせる。覇王色の覇気を使っていないのに、彼らの体には悪寒が走っており――それだけ、目の前の存在に畏怖しているということ。

 特にチェス戎兵は、ジョットの背後で佇むスタープラチナの存在感にすっかり委縮してしまった。

 あれはダメだ。自分たちと似た存在だが――格が違う。

 故に動けない。

 ジョットは、他の船がこちらに向かってくるの見ながら、拳を構えてペロスペローへと躍りかかる。

 

「――ッ! キャンディウォール!」

 

瓦礫に埋まり、腹から血を流しているペロスペローは己の目の前に能力で作ったキャンディの壁を作る。

 キャンディと侮るなかれ。その強度は、並みの覇気の一撃ではビクともしない。

 ――そう、()()なら。

 

「右腕集中――過剰回転(オーバードライブ)!!」

 

 ジョットの右腕が覇気で黒く染まり、さらにその上からスタープラチナの右腕分のオーラが還元、燃焼されて強化され――そしてそのオーラも覇気で黒く染まる。

 傍から見れば、ジョットの右腕が黒く肥大化したように――それこそ巨人族の腕のように見える。ルフィのギア3を参考にしたのだろうか。

 しかし、今回は一点集中。ジョットは目の前の壁の硬さを瞬時に感じ取り、覇気で固まったオーラをギュッと縮小させる。ビキビキと右腕から何かが潰れる音を響かせながら、ジョットは拳を放つ。

 すると、ペロスペローのキャンディウォールは主人を守る役割を放棄して一瞬で砕け散り、吹き飛ぶキャンディの破片の中ジョットは突き進む。このままペロスペローを倒すつもりらしい。

 ――だが、それは阻まれる。

 

「――魔人斬(マジギレン)!」

「ふんっ!!」

 

 黒い肌を持った魔人と、とてつもない熱を持った薙刀がジョットの行く手を阻む。

 ジュウジュウと己の拳が焼かれているのを感じながら、ジョットの目は増援の姿を確認する。

 

「まさか一人でこの艦隊に挑むとは……」

「少し、調子に乗っているのではないか?」

 

 豆大臣のダイフクとこんがり大臣のオーブンだ。

 メアリーの情報から、ビッグマム海賊団の中でも化け物級の力を持つという要注意人物。ジョットの超強化された一撃を受け止めた事からも、その実力の高さが窺える。

 己の体を擦って魔人を出すダイフクと、能力で温度を上げて過熱するオーブンは、ジョットを冷たく見下ろしていた。ペロスペローの居る船に突っ込んだジョットを見て、すぐ駆け付けた彼らは、ジョットの行動に落胆にも近い感情を抱いていた。無謀という言葉ですら足りないジョットの特攻。これではまるで、万全の状態で討伐しに来た自分たちがアホではないか。元王下七武海や邪王真眼メアリーという巨大な戦力がジョットを支えているからこそ、ここまでやって来た。彼らはそう思っていた。

 しかし、いざ蓋を開けてみれば――残っていたのはたった一人。バカにされていると思うのは当然のことだった。

 そんな二人の様子を見て――ジョットとペロスペローは顔色を変えた。

 ジョットは笑みを。ペロスペローは焦りの表情を。

 

「ダイフク! オーブン! ソイツの射程範囲に入るな!」

『――!?』

 

 ペロスペローの言葉に一瞬、二人の意識に隙が生じる。

 それをジョットは見逃さなかった。

 

「――スタープラチナ・ザ・ワールド」

 

 瞬間――時が止まる。停止した世界で動けるのは、ジョットのスタープラチナのみ。

 スタープラチナは、ジョットの右腕に纏わりついていたオーラを、まるでハイタッチするかのように受け取ると失っていた片腕を取り戻す。

 そして、左腕を覇気で強化し――両腕を黒く染めたスタープラチナは目の前の敵にラッシュを叩き込んだ。ペロスペローを吹き飛ばした時と同じように――腹部一点に向かって。

 

『オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ――オラァ!!』

 

 停止世界での活動限界時間――3秒を使ったスタープラチナのラッシュは、十分に目の前の男達にダメージを与えた。

 スタープラチナの腕の色が戻り、定位置のジョットの背後に戻って静かに息を吐く。それと同時に色あせた世界が元通りに戻り――。

 

「ぐほォッ!?」

「ぐあっ!?」

 

瞬間、ダイフクとオーブンは血を吐き、苦悶の表情を浮かべて吹き飛んだ。

 まるで先ほどのペロスペローと同じで、自分と同じ目に遭った兄弟たちにペロスペローは舌打ちをした。油断するからだ、と。

 しかし、それと同時に混乱もしていた。

 

(こいつ……いったいどういう能力なんだ?)

 

 ダイフクと似たような能力かと思えば――全く異質の能力。

 気が付けば殴られており、しかもキャンディアーマーを貫く拳を持っている。先ほどダイフクとオーブンがやられた際に、研ぎ澄ませた見聞色の覇気でジョットとスタープラチナの動きを観察しても――やはり、意味が分からない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 唯一分かるのは、近すぎると訳も分からず攻撃されるという事。ゆえに、ペロスペローは遠距離から攻撃を仕掛けようとするが――。

 

「キャンディ――」

「――オラァ!」

 

 ジョットの覇気が強すぎて、本物の飴細工を壊していくように突き進む。

 ――やはり、目の前の男は怪物だ。これで懸賞金7億5000万とは、海軍の目は曇っているのではないだろうか。

 能力で次々と飴の壁を作り、ジョットの動きを少しでも阻害しながらペロスペローは内心舌を巻く。油断も慢心もしていないが――それでも、足りないものがあった。

 それは、圧倒的な危機感。何処かにまだあった己の四皇の幹部という立場に対する自信と、ルーキーだと侮る気持ちが、敵の脅威度を計り間違えた。後ろで起き上がったダイフクとオーブンも同じ思いなのだろう。感じる気配から、一切の余裕が無くなった。

 だからこそ、ペロスペローは心の中で悪態を吐く。

 

「オオオオオオーーッ!!」

(コイツを生け捕りにするってのは無理な話だ――ママ)

 

 ジョットを討伐する際の事を思い出し、ペロスペローは苦い味の飴を舐めたように顔を歪ませた。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

「ハハハハ――ママママ! 怒りの軍団を倒したか、星屑のジョジョ! まぁ、それも当然だねェ。何せ、あのジャックを倒したのだから」

 

 死亡記事は出ていないが、ジョットはジンベエと共にジャックを倒した――それも、連日連夜、百獣の海賊団と戦った後に、だ。加えてクルー達を欠けさせる事無く勝利しているのだから、彼の強さは本物だろう。

 一部記事では、ジョットがジンベエと共に倒したという点から、弱体化しているのではという見解があるが――いち側面の事実を見てそう断じるのはナンセンスと言える。

 

 ――だが、ビッグマムからすれば、それは当たり前の事。

 あの戦争を見た時から、ジョットの厄介さは理解している。

 ゆえに、次はどうやってあの男を手に入れるのかが問題だ。

 怒りの軍団は、クルセイダー海賊団の手によって倒された。なら、こちらも戦力を出し惜しみするつもりはない。

 

「ペロスペロー……星屑のジョジョは強いだろうけど、絶対に生きて捕らえるんだ。アイツは、このおれを海賊王にしてくれる鍵――分かっているだろうね?」

「……ッ! ああ、もちろんさママ!」

「ハハハハ……ママママ! ――だが、他の奴らは殺せ! 特に邪王真眼のメアリー……アイツの眼が本当なら、消すに限る」

 

 ――まぁ、ジョジョを手に入れれば後はどうでも良いがねェ。

 

 そう言ってビッグマムは笑い続けた。

 

 

 ▲▽▲▽▲▽

 

 

(ママは星屑を手に入れれば良いと言っていた――だが、こいつは、それができる相手じゃない!)

 

 ビッグマムは自分の勝利を疑っていない。ゆえに、ジョットの捕縛を命じた。

 彼の強さを認めつつも、やはり四皇として何処か彼のことを見下している。

 だが、それは別にいい。彼女は、ビッグマム海賊団の頂点にして要だ。ビッグマムの強さは普通の人間では絶対に辿り着けない場所にある。

 自分たち息子は、彼女の求めるものを手に入れる為に、死力を尽くすだけ。それだけだが――。

 

「オオオオ――オラァッ!!」

「グ――がアアアアッ!?!?」

「スナック!」

 

 視線の先では、ジョットがまたシャーロット家の者を……それも四将星の一角であるスナックを倒した。突き刺さった拳を振り抜かれ、スナックは後方の船へと吹き飛ばされ……撃沈。増援が、この船に来る度にジョットに沈められていく。

 クラッカーの強靭なビスケット兵も早々に殴り壊され、久しく見るその素顔を外界に晒してダイフクやオーブンと共にジョットへと襲い掛かっていた。

 だが――。

 

「――ちっ!」

「――ぐっ!」

「――がっ!」

 

 ある一定の距離まで近づくと、いつの間にか殴り飛ばされている。殴られた本人たちも、何が起きたのか理解できていないのか混乱した表情を浮かべているが、しかしその眼には敵意がギラギラと光っていた。

 ただ、それでもジョットの不可思議な能力は解明できない。はっきり言って、全員で掛かればジョットを制圧できる力は持っている。それができないのは、あの不可思議な能力だ。悪魔の実とは別の異質な能力。それが、ジョットを生き長らえさせ、それどころか次々と幹部たちを沈めていく。

 

「くそ! 近づいてやられるなら遠距離攻撃だファ!」

 

 焦った“生クリーム大臣”オペラが能力を行使する。敵を捕らえて痛みを与え、発火させる生クリームがジョットへと襲い掛かった。それを見たダイフク、オーブン、クラッカーは飛び上がって攻撃範囲から逃れる。

 

「オペラ様! まだ我々が――ぎゃあああああ!?」

 

 ジョットを包囲していた部下の海賊が生クリームによって身動きが取れなくなり、痛みによって絶叫を上げる。中には発火して全身を焦がす者も居た。

 どうやら、味方ごと……正確には足手纏いごとジョットを倒すつもりなようだ。

 囲っていた海賊たちが発火して燃えているのを見て、生クリームの危険性を理解したジョットは――能力の覚醒を使用した。

 生クリームの下の甲板をオーラに変え、波のように盛り上がらせる。そしてそれをそのまま敵陣に向かって押し返した。

 

「ぎゃあああああ!?」

「ちっ! 能力の覚醒もしているのか!」

 

 ビスケット兵を自分の目の前に集結させて盾にしながら、クラッカーがぼやく。

 遠距離攻撃の対策も取っている事が判明し、苦い顔をする。

 自慢のビスケット兵を壊されたクラッカーは、ジョットの危険性を理解していた。自分の力が破られれば、その分相手の強さも分かりやすい。

 だから、彼はあまり積極的に前に出なかった。痛いのが嫌いだというのもあるが――それ以上に、ビスケット兵を容易く粉砕する一撃を喰らえばどうなるか、想像するだけでゾッとする。

 スナックが戻って来ていない事からも、それが良く分かる。

 とりあえず、態勢を整えようと後ろに退がろうとし――。

 

「避けろ! クラッカー!」

「え?」

 

 兄であるオーブンの警告の言葉が聞こえた時には、もう遅く……。

 

「――オーラ、武装色硬化」

 

 覚醒で操ったオーラが覇気で強化され――そのまま槍のように突き刺された。

 

「……がッ!?」

 

 ビスケット兵が崩れ去り、クラッカーも白目を剥いて気絶した。

 一瞬の隙を突いたジョットは、ギロリと次の敵を見据える。睨まれた海賊たちは顔を真っ青にさせて恐れ戦いた。

 

「四将星が、二人もやられた……!」

「化け物だ、あいつ……!」

 

 すっかり戦意を失った部下たちに、オーブンは舌打ちを打つ。

 戦場の流れを奪われたのは不味い。このまま暴れさせれば、被害は甚大なものになる。

 増援がまだまだ居るとはいえ、オーブンは……いや、幹部たちはジョットを相手に攻めあぐねていた。

 

「――なるほど。これは普通の人間では相手が悪いな」

 

 そんな時だ。頼りになる兄弟の声が聞こえたのは。

 

「――っ!」

 

 船に取り付けられた鏡から、覇気で黒く染まった腕が伸びる。勢いよく伸びたソレは、ジョットに直撃する。しかし、覇気でガードしたようでジョットにダメージはない。

 しかし――。

 

「これは――カタクリか!」

 

 ジョットの体は、粘着性の高いモチによって拘束されそのまま鏡へと引き寄せられ――鏡の世界へと引きずり込まれた。

 それを成した男――“粉大臣”にして“四将星”の一人、シャーロット・カタクリはジョットに引っ付けていたモチごとブン投げる。それと同時にジョットを拘束していたモチが弾け飛び、ジョットが降り立った。弾け飛んだモチが何か強い力を流し込まれたかのように、ビタンビタンと跳ね回る。あのまま拘束していれば、カタクリは痺れるオーラによってダメージを負っていただろう。それを回避したカタクリは――()()()()()()()()()を視せてくるジョットに対する警戒度を上げた。

 

「カタクリ!」

「ぺロス兄。アイツはオレが引き受ける。どうやら、コイツは普通の人間とは違うらしい――コイツを止めるには、食い煩いを発症させたママを相手にする……それくらいの気持ちで戦わないといけない」

「それほどか……ペロリン」

「だが、問題は()()ある。消えた奴らの船、傘下の海賊。海侠のジンベエ。そして、恐らくオレと似た能力を持つ邪王真眼のメアリー……。奴ら、何か企んでやがる」

 

 ゆえに、カタクリは言った。

 自分がジョットを抑えている間に、厄介な奴らを始末しろ、と。

 彼は、見聞色の覇気を鍛えすぎて相手の少し先の未来を視る事ができる。とはいえ、この場に居ないメアリー達の未来は視えないが――経験が言っている。

 目の前の海賊たちの好きにさせてはいけない。

 

「ブリュレ! 他の者たちは退去させたな?」

「もちろんだよカタクリお兄ちゃん! さっき言われた通り、誰も入れないようにしておいた!」

「そうか。なら、お前はぺロス兄たちとクルセイダー海賊団たちを追え」

 

 分かった。そう言うとブリュレは鏡から現実世界の向こうへと出て行き――カタクリが鏡を割った。よくよく見てみると、辺りの鏡は全て割られており向こうの世界からこちらの世界を確認できないようにしている。

 

「――徹底しているな」

 

 それを見たジョットが、思わず口を開いた。

 戦闘開始から今までほとんど言葉を発する事が無かったジョットに、カタクリは視線を向ける。そして――。

 

「『何か見られたくないものがあるのか。それとも別の意味があるのか――まぁ、良い。オレは、お前を倒してビッグマムの所へ行くだけだ』」

 

 全く同じタイミングで、ジョットと同じ言葉を吐いた。

 口癖、感情、それらを読み取ったその言葉にジョットの視線が鋭くなる。

 戦闘に置いて、思考を……いや、未来を読まれるのは

 

「……随分と、ママに執着しているんだな星屑」

「――なるほど、噂の未来視か」

「ああ、そうだ。――未来を読まれる厄介さは、身に染みているようだな」

「親父……ってまた読まれたのか」

 

 だが――ジョットは、未来を読まれ続けての戦闘に慣れている。

 本人は、そこまで行く事はできていないが……対処は可能だ。

 隠者ジョセフとの訓練の賜物だと、未来視で知ったカタクリは拳を構える。

 それに応じて、ジョットも構えた。

 

「オレの能力がバレているのなら、話は早い――悪いが、手加減するつもりは無い」

「奇遇だな――オレもだ」

 

 ――此処からが踏ん張りどころだな。

 

 互いにそう考え……覇王色の覇気がぶつかり合い、空間が震えた。

 


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