職業=ボーダー隊員な社畜と功名餓鬼、時々JKのボーダー生活日誌 作:地雷一等兵
さーて、季節感なんて無視ですよ。
作中時間はそうなんだから。
では本編をどうぞ↓
クリスマス、それは誰もが童心に返る日。
こんな格言を知っているだろうか?
「クリスマスの日には童心に返ることもいいだろう、クリスマスの素晴らしき創始者もその日は誰よりも子供であったのだから。」
警戒期間であっても彼らは特に変わらない。アルコールを摂らないだけでやることはいつもの彼らである。
いつもの身体の大きな子供だ。
「どうもタカさん、メリクリです。」
「あいあい、メリクリ~。」
鷹原隊の隊室、特に飾り付けもされていないそこに生駒隊の面々が入ってくる。ただし隠岐はいない。
そして鷹原隊も二条がいない。
お互い一人ずついないもののそれなりに大人数であり、部屋の中はやや手狭な印象に早変わりする。
「どもども招待いただきまして。」
「あー、いいのいいの。どうせ暇だし、この3人よりかは誰か呼んだ方がよ。」
丁寧に菓子折りを持参して頭を下げた生駒に対して鷹原は軽く受け流す。
そして炬燵やテーブルを指差して座るように促した。
鷹原の進めもあり、生駒隊のみんなはそれぞれ座る。
未成年が多いこともあり、この場にアルコールの類いはない。
テーブルの上にはチキンやケーキ、ローストビーフにミンスパイと言ったいかにもなクリスマス料理が置かれ、炬燵の上には寄せ鍋がある。
これを準備したのは蓮川と鷹原である。
生駒と水上、鷹原がテーブル、蓮川に南沢と真織が炬燵を選んだ。
しかしその時、一人足りないことに気が付いた生駒がキョロキョロと部屋を見渡して、それでも見つけられず鷹原に尋ねる。
「あのタカさん、ネコさんは?」
「ん? いるだろそこに。」
生駒の質問に対して鷹原が炬燵を指差すと蓮川がぺらりと炬燵の毛布を捲る。するとそこには炬燵の中で丸くなってうとうとしていた猫葉の姿があった。
「ほんまに猫みたいやわ。」
「酸欠とか大丈夫なんすか?」
ぺらりと捲られた毛布の脇から中を覗き込む真織と南沢は驚いた顔で猫葉を見つめる。
しかし猫葉はお面で顔は分からないものの、すやすやと心地よさそうに寝息を立てていた。
「大丈夫だろ、息してるし。」
「たぶん大丈夫でしょう、はい。」
「そういうもの、なんか?」
「おう、ネコに生きてるかどうかを気に掛けるのもアホらしいくらいだ。生き延びることに関しちゃコイツは相当だ。」
心配を他所に鷹原はそんなことは全くないと言い切った。その言葉には彼女に対する信頼がはっきりと現れている。
長年相棒として連れ添ってきた仲だからこそできる断言なのだろう。
それからクリスマスパーティーは盛り上がりを見せる。若くて食欲旺盛なボーダー隊員の彼らは用意されている料理を全て平らげると会話に花を咲かせたり、誰が持ち込んだのやらゲームをして時間を過ごす。
南沢や真織、水上に蓮川と年齢の近い彼らはウノやトランプで多いに盛り上がっている。
そんな中でテーブルに座る隊長二人は顔を付き合わせて話していた。
「てか、隠岐くんは来ないのか?」
「あー、アイツは誘ったんすけど断られました。なんや先約があるとか。」
「ほーん……、うちの慧もだ。」
その言葉を交わした瞬間、二人はニヤリと笑う。
「隠岐のやつ、定期的に連絡取れない時があるんすよ。」
「奇遇だな、慧もそうだ。時には“連絡しないでくれ”っていう時もある。」
ある種確信を持った二人はさらにニヤケ面を増し鷹原はA4の用紙を、生駒はスマートフォンの画面を見せる。
「慧のシフト表だ。」
「これは隠岐のやつです。」
二人はその2つを交互に見比べると“よっし”と声を上げてハイタッチし、その手を握り合う。
そして確信をさらに深めた二人はニヤニヤとした笑いを浮かべる。
「これはいっぺん鎌かけるしかないよなぁ!」
「もちろん!」
悪い顔をした二人はそのまま悪巧みを開始する。
その一方で隊員組はいつの間にかカラオケ大会へと移行し、今は蓮川が
力強く、丁寧に、全霊を込めて歌い上げる蓮川の姿は気高く、美しく、見る聞く者全てを魅了した。
そして歌いきった蓮川が満足げに頭を振ると、テンションの激しさを物語るようにその縛った長髪が舞う。
その歌の熱に当てられた南沢や真織は思わず拍手を打ち鳴らし、聞き入っていた水上も目を点にしていた。
あの生駒でさえも視線が蓮川に釘付けになっている。
「す、すげぇ……。」
「ほんま凄いわ……、蓮川ちゃんてまだ高1やろ? なんでそんな歌えんねん。」
「惚れてまうやん。」
惜しみ無い称賛の声に蓮川は照れたようにタオルで汗を拭い微笑んだ。
「そ、そんな褒めなくても……照れちゃいますよ。」
口角をちいさく吊り上げ、熱唱で火照った頬を更に紅潮させた蓮川は逃げるように部屋の隅に座る。
ここまでハードルが上げられた中で自ら歌おうと思う者はなく、そのままの流れでカラオケ大会は終了した。
そうやって時間は過ぎていき、片付けを終えて生駒隊も帰って行った頃、鷹原隊の隊室を訪れる者がいた。
「あ、あの……猫葉先輩はいますか?」
柿崎隊の巴虎太郎だ。巴は遠慮がちに隊室の戸を開けて顔を覗かせるとキョロキョロと視線を動かして猫葉を探す。
すると彼の声を聞いてかモゾモゾと炬燵の中から猫葉が顔を出した。
今の彼女は顔の上半分を隠すデザインのお面を被っており、猫のような口元が見えていた。
「にゃー……コタにゃん、かにゃ?」
「あ、猫葉先輩!」
戸の隙間から顔を出し隊室に猫葉を発見した巴は上ずった声を発して彼女の名前を呼ぶ。
モゾモゾと炬燵の中から這い出た猫葉はゆったりとした動きで近寄り、そっと彼に抱きついた。
「ふにゃー、やっぱり抱き心地がいいにゃ。にゃふふ……。」
「ちょ、猫葉先輩!? あ、首筋に顔を埋めないで……、ぁ、くすぐったい、あ、ひ……!」
巴に抱きついた猫葉はその感触を堪能するように力を強めていき、しっかりと抱きつくと彼の首筋に顔を埋めて匂いを嗅ぎ始めた。
寝起きで寝惚けているのだろうか、いつもより積極的に抱きつく猫葉に巴の顔は真っ赤である。
「あ、あの、ぅん、猫葉先輩……!」
「ふにゃ~、いい匂いするにゃ~。う~ん……。」
「もう……、しっかりしてください!」
まだまだ寝惚けているようで眠そうに目を開けながら抱きついて猫葉はうとうとと言葉を話す。
顔を真っ赤にしながら巴は理性を保ち、何とかして猫葉を自分から引き剥がした。
「ふにゃ~? ん~……、コタにゃんだにゃ!」
「ふわっ!?」
しっかりと意識を覚醒させた猫葉は巴の存在を認めるとぎゅっと勢いよく抱きついた。
しかし今回のそれはかなりライトに、ただ背中に腕を回しただけだ。
いつもの猫葉に戻って安心したような残念なような顔を浮かべる巴は猫葉の腕を掴んでロックを外すと、両手を握る。
「こ、ここ、この後時間はありますか?!」
「にゃ~?」
真っ赤な顔で切り出した巴の言葉に猫葉は首を傾げて数秒間思考を回しすと、首を縦に振った。
その仕草に巴の顔はぱぁと明るくなる。
「いいにゃ、この後もすることなんてないからにゃ~。」
「じゃ、じゃあ……!」
「にゃ! コタにゃんに着いてくにゃ~!」
猫葉の返答で巴は嬉しそうに万歳し、早速と言わんばかりに猫葉の手を引いてどこかに去っていった。
隊室に残された鷹原と蓮川はもうすることもないなと、隊室を後にした。
その翌日のことである。
いつものように防衛任務を終えた鷹原は隊室を訪れ、二条と顔を合わせるとニヤニヤとした顔になる。
その表情を見た二条は頭に疑問符を浮かべて首を傾げた。
「そうだ慧、昨日は彼氏とどうなったんだ?」
「っ!? そんな、隠岐くんと私はそんな関係じゃ……!!」
「ん、やっぱり隠岐か。」
「なっ!? た、鷹原隊長!?」
簡単な鎌をかけられ語るに落ちたチョロい二条慧、彼女の恋仲である隊員のことは瞬く間に広まることになった(主に生駒経由で)。
社畜にだってクリスマスくらいありますよ。
ではまた次回でお会いしましょうノシ