エメラルドの大魔法使いと失われた主人公と最後の物語 前編   作:とましの

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2話

二日前に降りだした雪はやむことなく降り続け王都を白く染めていく。そうして雪雲が通りすぎたその日、慶次は秀吉とともに朝から菓子を作っていた。

城の広い厨房の一角を借りて菓子を焼いた慶次は完成品に満足の笑みを浮かべる。そのそばでうなずいた秀吉は菓子の並ぶ大皿を手にした。

「そろそろ彩兎が来る頃やからカップの準備もしとこか」

「だな。けど秀吉がそこまで気に入ってる人なんて楽しみだな」

 嬉しそうな秀吉に笑顔を向けた慶次は別の皿を手に歩き出した。

 

 黒いマントを丁寧にたたみ、それを両腕で抱える。その状態で昨日に続き城の門を抜けた少女は門を抜けたところで近衛隊長を見つけた。近衛隊長を見つけた少女は嬉しそうに除雪された道を走ってくる。

「お待たせしましてすみません。あの今日はほんとにこれをお返ししないとって……それと今日のマッチです」

 二日前に街でマッチを売っていた少女は昨日もこの場所で隊長にマッチを届けている。けれど昨日は雪が降っているからとマントを再び借りることになってしまった。

 しかし今日は雪が降っていないからと少女は隊長にマントを差し出す。すると隊長は腕にかけていた赤いケープを広げた。フードのついたケープを少女の肩を包むようにかけると前を閉じる。

「これ……」

「知り合いが使ってたやつ」

「その子はいまは使ってないですか?」

「でっかくなったらな」

 第一王子が子供の頃に使っていた赤いずきんのケープは今もきれいなままだ。それを少女に着せた近衛隊長は白い息を吐き出した。

「誰も使わないからって持ち主の許可も取ったから、ガキが細かいこと気にすんな」

 遠慮はいらないという意図で告げれば少女は嬉しそうに微笑んだ。

「ありがとうございます」

 頬を赤らめた少女からマッチをひとつ受け取った近衛隊長はまた頼むと告げる。そうして門へ向かう少女を見送っていると彩兎がやってきた。

「本当にお優しいんですね」

「普通だろ。それよりそっちは……あー、茶会か。妃たちが朝からなんかやってたわ」

 肩に荷物をかけた彩兎から目を背けた近衛隊長は面倒そうにため息を漏らす。そんな近衛隊長の態度に彩兎は笑いをこぼした。

「近衛隊長さんは、大人にはあまり優しくないですね」

「愛想ふりまくのは仕事のうちに入ってねぇよ」

「確かに愛想の良い兵士の方というのはとても少ないですね」

「それに、おまえの目的によっちゃ斬り殺すことも考えてるからな」

 だから親しくなる事はないと言い捨てた近衛隊長は城へ向かうべく歩き出す。そんな近衛隊長の発言に目を見張った彩兎はややあって我に返ると後に続いた。

 マントを腕にかけたまま城内に戻った近衛隊長は帽子をかぶり直す。その上で茶会の準備が進んでいるはずのサロンには向かわなかった。城の二階へ進むと回廊を離れて誰もいない庭園に出る。

 雪が積もった庭園はまだ除雪もされず足跡のひとつもなかった。足首まで積もった雪を踏み生け垣に囲まれた一角へ進む。

 そしておとなしく後をついてきた彩兎へ振り返った。

「おまえは魔法使いか何かか」

「どうしてそう思うんですか?」

 近衛隊長の問いかけに、笑顔を完全にかき消した彩兎が問い返す。そのため近衛隊長はため息とともに帽子のつばを引き下げた。

「北の国の王子は今まで魔女として生きてきたせいで初対面相手だと警戒するんだよ。王子や妃とはそこそこ会話してるけどな。けど、一回茶を飲んだだけの人間を気に入るなんてまずありえねぇ」

「……ああ、そうか」

 近衛隊長の話を聞いた彩兎は腕を組むと冷笑を浮かべて。

「北の魔女も今まで迫害と孤独の中にいたんだね。そしてその孤独をここの人間が癒してあげたと。それはとても感動的な話だね」

「あいつに何をした」

「僕は何もしてないよ。ただ、僕とお茶を飲んだ人はああなってしまうんだ」

 冷笑とともに言い放った彩兎はゆっくりと近衛隊長へ近づく。近衛隊長は鋭い眼光とともに剣の柄に手をかけた。しかし彩兎におかしな行動が見られないため剣を抜くべきかを悩んでしまう。

 そうしている間に彩兎は近衛隊長の眼前まで近づいた。

「魔法を抑えることのなできない僕とお茶を飲んだ人は、みんな僕を好きになる。貿易商としてこれ以上の強みはないよね」

「まさかこの国を狙ってるわけじゃねぇよな」

「僕が欲しいのは北の王が北の大魔女から奪い取ったはずの魔法の力です」

 魔法使いが魔法の力を欲しがるという流れに近衛隊長は眉をひそめた。

「なんだそれ」

「魔女の血を浴びると魔女になる、と言うでしょう? 同じように魔女の死体から力だけを抜き取ることができるんです」

「そいつを取ってどうするんだよ。おまえはもう魔法使いだろ」

「僕は魔女としてはとても弱いんですよ。それに……この世の誰も、魔女なんて守ってくれないからね」

 ささやくように告げながら彩兎は近衛隊長の肩にそっと触れた。

「魔女は人々に疎まれ忌み嫌われる存在だから」

「んなこと考えてるヤツ、この城にはいねえよ。だから困ったことがあるんなら……」

「やっぱりあなたは優しい人だね」

 抱き合えるほどの距離で彩兎が善良そうな笑みを見せた。そのため近衛隊長は話が通じたのかとわずかながら安堵する。

 だがそんな近衛隊長の安堵は突然の口づけにかき消された。彩兎に顔を捕まれた状態で舌を絡めるような深すぎるキスに顔をしかめる。

 けれど近衛隊長が彩兎に警戒心を抱いていられるのはそこまでだった。

 

 

 

 

 

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