エメラルドの大魔法使いと失われた主人公と最後の物語 前編 作:とましの
城の奥には王族だけが使えるサロンがある。大きな窓が何枚も設置されたそこは日当たりが良く冬には居心地の良い場所だった。
そこで暖かなお茶を出した真琴は凜がこの世界に来た経緯を聞く。そんな真琴の横には先にここを使っていた第三王子がいた。いつも静かな兄は今も凜の話に目を向けることなくケーキをたいらげている。
「……そんなわけで、オズの魔法使いの物語のまんまここにきたんです。エメラルドの王様は大魔法使いでおれを元の世界に帰してくれるはずだから」
「だが父上は大魔法使いどころか魔法使いでもない普通の人だ。長年この国は普通の人が支えてきた。だから主人公である兄上が生まれた時は本当に大騒ぎだったらしい」
凜の望みをくじくのは悪いと思いながらも真琴は正直に告げる。すると隣にいた兄が頬杖をついたままそうとは限らないと言い出した。
「信長が生まれた時の大騒ぎは、盛大に祝ったって話だけじゃないからナ」
焼きリンゴにフォークを刺しながら兄は気のない顔で言い出す。しかし当時の事を詳しく知らない真琴はそんな兄に首をかしげた。
「祝福以外に何があったんですか?」
「俺も詳しく知らないけど、王位継承権を動かすのって簡単じゃないんだヨ。近衛隊長は何度も殺されかけたらしいし、近衛連帯なんて最初はお飾りだったからナ。だからホントなら、あいつは信長のこと恨んでるはずなんだヨ」
「近衛隊長が兄上を?」
「叔母さんが死んだのも事故じゃないって聞くからな」
兄のいう叔母は、真琴の父の妹で近衛隊長の母親のことだ。十年前に旅先で船が沈没して亡くなったと真琴は聞いている。
「近衛隊長が手袋をつけ始めたのも帽子をさげて顔を見せないのもあの頃からだヨ」
「俺たちは近衛隊長に嫌われてるんですか」
「嫌ってても、近衛隊長の役目があるから仕えてるんだヨ。たぶんナ」
兄は第三王子でありすぐ上の兄でもある。けれど生まれた順で言えば一番上の兄だった。しかし主人公を第一王子にする中で兄は三番目を選んだらしい。そして兄は、それが一番楽そうだったからと今でも言う。
第三王子の話に表情を曇らせた真琴が見てられず、慶次はその手を握った。
「兄ちゃんは真琴のこと嫌ったりしないよ」
「嫌うとしたら真琴より信長だからナ」
慶次と兄に慰められた真琴は小さくうなずきながら視線を落とす。しかしふと客人の事を思い出すと前へ目を向けた。
「すまない。話の途中だったのに」
「いえ、やっぱおとぎ話のままじゃないってわかったからだいじょうぶです。でも王様が大魔法使いじゃないなら、五人目の魔法使いはいないってことですかね。オズの魔法使いだと東西南北の四人の魔女が出てくるんです。それとオズの国に大魔法使い」
「四人の魔女?」
凜の話に真琴は自然とその目を慶次へ向けた。慶次はそれにうなずいて返し秀吉たちの事だと告げる。
「秀吉は魔法の力を手放さなかったから、今でも北の魔女だな。それに彩兎さんはランプの悪魔を封じた南の魔女の子孫らしい。それと凜さんと一緒にいる蒼馬さんは西の魔女なんだよな? だとしたらあとは東の魔女か。その四人を集めたら五人目の大魔法使いが出てくるのかもしれないな」
「そういうのってよくありますよね。RPGとかで」
「あーるぴーじー?」
慶次の提案に喜んだ凜だが、彼の言葉がわからない慶次は首をかしげる。しかし凜は首を横に振ってなんでもないと返した。
「えっと、じゃあおれは東の魔女を探して……じゃなくて、ランプの悪魔です」
一度は椅子から降りようとした凜だったが、思い出したように座り直した。
「その彩兎さんって人が南の魔女で、ランプの悪魔を倒そうとしてるんですか?」
「うん。たぶんそうだと思うけど、昨日その彩兎さんが悪魔に襲われたんだ。その悪魔はエメラルドの採掘場を爆発させてさ。彩兎さんは少しのケガですんだけど兄ちゃんが酷いケガをしたんだ」
ホント悪いやつだよと、慶次は義憤のままつぶやく。そんな慶次の前で凜の顔色が血の気が引いたように白くなっていた。
「爆発させたんですか」
「そう。悪魔っていうからどんなかと思ってたけどホントに悪魔だよな。採掘場の人たちも何人かケガしてるしさ。兄ちゃんが機転利かせて悪魔を採掘場から遠ざけたからそれだけで済んだらしいけどな。そうしなかったら死人が出てたかもって」
「それはひどい……」
青白い顔でつぶやいた凜は悲しげな表情のまま嘆息を漏らした。そんな凜の背後で、窓が音をたてて開かれる。そうして冷たい空気とともに男がひとり入り込んできた。
城の三階に位置するサロンへ外から入り込むという非常識な所業に第三王子が立ち上がった。
「ヒトサマの家に入るときは玄関からって習わないのかヨ」
立ち上がった第三王子はテーブルの横をまわり幼い凜の後ろに立った。そうして椅子に座る三人を守れる位置に立ったまま手元のフォークを口に運ぶ。
フォークに刺さっていた焼きリンゴを食べた第三王子はその先を男へ向けた。すると男は端整な顔に笑みを乗せて頭を下げる。
「無作法な行いは謝罪しましょう。こちらも我が姫を心配するあまり、冷静さを欠いていました」
謝罪を向けられた第三王子は面倒そうな顔で自分の背後にいる凜を見た。すると凜は照れたような顔で椅子から降りる。
「西の魔女の蒼馬さんです。おれをここまで連れてきてくれた優しい人なんですよ」
「優しい魔女、ナ」
「この世界の人は魔女を怖がってるみたいですね。忌むべき存在だーとかなんとか」
凜の言葉に第三王子は肩をすくめる。そんな第三王子の態度を目にした蒼馬はくすりと笑った。
「この城の者は例外のようですよ。外で北の魔女が魔法を使って除雪らしいことをしていましたから」
「ホントですか! それは見たいかも……じゃなくて! 浅葱が採掘場を爆発させたっていま聞いたんですけど!」
どうなってるんですかと床を踏みしめる幼いその姿は姫というには元気すぎた。そんな凜の姿に唖然となる真琴の隣で慶次は立ち上がり凜の隣に向かう。
そうして眺める先で蒼馬がマントの中からブリキのランプを取り出した。
「確かに昨夜はかなりの規模で暴れていましたね。おかげでこんな時刻でもまだランプから出てきません」
「あばれてましたねって、蒼馬さんは止めなかったんですか」
「止めるも何も、駆けつけた時にはほぼ終わってましたからね。東の魔女の悪魔のような力が浅葱を追い詰めていました。本当に、伝承の通り恐ろしい力です」
「ん?」
「あれ」
しみじみと告げる蒼馬の言葉に引っ掛かった凜と慶次は顔を見合わせる。そしてふたりは同時に蒼馬を見た。
「蒼馬さんいま東の魔女って」
「四人目の魔女はもうこの國にいるってことか」
凜と慶次は言葉を並べて問いかける。そんなふたりの様子に蒼馬は優美な笑顔を見せながらも、いましたよと言う。
「伝承の通り、すべての力を破壊する恐ろしい存在です。しかも周囲すべてを凍らせ、さらに浅葱を殺そうとするその様は悪魔のようでした。あれを見れば、確かに人々が魔女を忌み嫌うのもわかりますよ。あの魔女ならたやすく世界を滅ぼしてしまえそうですからね」
蒼馬の表情は柔らかく笑顔のままだったが、その目は笑っていなかった。
「あんなモノに、我が姫を近づかせようとはとても思えません」
「でもその魔女に会わないとオズの大魔法使いにたどり着けないじゃないですか。大魔法使いに会わないと物語は進まないしおれは元の世界に帰れないから」
凜の身を心配する蒼馬だが、凜の帰りたいという言葉に口を閉ざす。そしてそんな蒼馬が一瞬だけ見せた寂しげな顔を第三王子は見逃さなかった。
しかし何も言わない第三王子のそばで何も気づいていない慶次が口を開く。
「けど、その凜の物語ってさ。そのまま進むものなのか?」
「どういうこと?」
「オズの魔法使いか? その話の中に俺や真琴みたいな他の物語の人は出てくるのかなって思ってさ。そもそもここは凜が言ってたオズ王国じゃないし、ここの跡取りは赤ずきんの信長なんだ。だから……」
「物語が正確に結末まで進むわけがないヨ」
頭の良くない慶次が全力で考えながら告げようとした事を第三王子が一言で片付けた。そのため慶次は目を丸めて第三王子を見上げる。
「うちの赤ずきんは自己主張が強いし、狼はいつも赤ずきんを守ってる。だから俺はふたりに甘えて何もしないまんまのんびり生きてるんだヨ」
「その国がどんな物語を抱えるかは、国に生まれた最初の主人公によって決まると言われています。つまりこの国は赤ずきんの国で、我が姫が求める国ではないということになるのでしょうか」
第三王子の説明に蒼馬は真面目な顔で質問を向けた。すると第三王子はため息を漏らしながら肩をすくめる。
「俺はこの姫の話を知らないし、興味もないヨ。けどあいつならどんな事も教えてくれるし、もしかしたら助けてくれるかもナ」
第三王子はそう言い放つとフォークをテーブルに置いた。
「俺の自慢の星、会いたいって言うなら連れてってあげなくもないヨ」
「そんなすごい人がいるなら会いたいです。おねがいします!」
第三王子の言葉に凜は勢い良く頭を下げる。とたんに第三王子は目的地へ向かうべく歩き出した。そんな兄を見ながら立ち上がった真琴は自然と笑みをこぼす。兄は自分では何もせずのんびり生きていると言うが、実は違う。特に今日のように徹夜明けで他ふたりの兄が休んでいるような時は黙って代わりを務めるくらいはしてくれる人だった。
むしろこの兄のことだから他ふたり同様に徹夜明けで一睡もしていないに違いない。けれど疲れた様子は見せず、愚痴も口にしない。
「みっちゃーん!」
書庫ではなく執務室で仕事を片付けていた三成の元へ元気な声が飛び込む。勢い良く扉を開けて現れた慶次は朝方と違って笑顔を見せていた。
「帝国からお姫様が来てて、エメラルドの大魔法使いを探してるんだ」
何の前触れも説明もなく本題に入る弟に三成はペンを止めて目を向けた。すると少し遅れて第三王子が見知らぬ人間を連れてきた。
「オズの魔法使いの主人公ですか?」
三成が問いかけると少女が背筋を伸ばす。
「近藤凜です。小学三年の夏休みに竜巻に巻き込まれてこっちの世界にきちゃったんです。だから物語を進めて元の世界に戻りたいんですけど」
凜と名乗った女装少年の言葉に三成はペンを置いた。帰りたいと素直に訴える彼の背後でひとり顔を背けた人物がいる。しかし三成はそれに言及することなく凜へ目を戻すと口を開いた。
「ではご存じかと思いますが、エメラルドの大魔法使いなどというのは虚構です」
「キョコウ……とは」
「嘘と言うことです」
「じゃあオズ王国とか大魔法使いはウソってことですか? ない?」
察しが良い三成は弟が説明しなくても本題に入ることができる。しかしそんな頭の良い三成の早すぎる展開と難しい言葉に、幼い凜は苦心しながらついていこうとした。
その素直で真摯な凜の姿を前にした三成は視線を背ける。
「その前に、その国があったとしてオズがあなたに手を貸すと思いますか?」
「えっと…でも物語だとなんか助けてくれるって」
「物語では、オズの王は主人公にひとつの依頼を向けます。『西の悪い魔女を殺してほしい』と。あなたが願いをかなえてもらうには、それを成さなければなりません」
三成の説明に凜の顔が青くなる。そして泣きそうな顔で首を横に振った。
「蒼馬さんはずっとおれを助けてくれました。この世界からしたら魔女は悪いヤツでたおす相手かもしれません。でもおれには大切な人なんです」
「何もできないのに願いは叶えてもらう。そんな身勝手な話はありませんよ」
「でも…ホントにホントに大切で……」
「みっちゃん!!」
凜が涙をこぼしたと同時に慶次が声を張り上げた。
「なんでこんな小さな子に意地悪いうんだよ! そのオズさんはもしかしたらすっごい優しい人かもしれないだろ!」
「確かに、元の世界に帰してくれる力を持った人が善良である場合もありますね」
憤然と声を上げる慶次を前にしても三成の落ち着きが崩れることはなかった。ただゆっくりと立ち上がった三成は日差しの差し込む窓を背にしたまま眼鏡をはずす。
「しかしその善良な人は北の王が殺してしまいました」
ハンカチで眼鏡をふいた三成は何事もないようにその眼鏡をかけ直す。その仕草を呆然と見つめていた慶次はややあって首をかしげた。
「へ……?」
「十二年前、この国に現れた彼女は願いと代償を置いていきました。どんな願いもかなえる代わりに自分の子を守り育てて欲しいと。彼女であれば凜さんを望んだ居場所へ送ることもできたでしょう。しかし彼女はその後、殺されてしまいました」
「……じゃ、じゃあ、長政は」
「西の魔女とランプの悪魔を殺せば聞いてくれるかもしれませんね」
「なんでそうなるんだよ!」
再び凜を苦しめるようなことを言い出す三成に慶次は顔をしかめた。しかし三成は落ち着いた表情を崩すことなく蒼馬を見る。
「ランプの悪魔は近衛隊長を傷つけました。そしてその悪魔を殺そうとしたあの子をあなたが止めた。そんなあなたがたの望むことをあの子がするとは思えませんよ」
「なるほど……昨夜のあれは北の魔女の子だったんですね。ではあなたのいう通り、私は我が姫のために死ななければならないようだ」
すべてを悟ったらしい蒼馬はそれでも笑顔を見せていた。しかしその笑顔は凜に服をつかまれたことで消える。
「いやです。そんなのイヤだ」
涙に顔を汚しながら凜は蒼馬を見つめて嫌だと繰り返す。その姿を前にしては蒼馬も笑顔でいられなかった。
「姫、あなたは私に人と言葉を交わす楽しさを教えてくれました。そんなあなたの為ならこの命など惜しくはありません」
「だったら帰りたくない」
「姫……」
「蒼馬さんはこの世界にひとりぼっちだったおれを助けてくれた。竜巻から落ちたおれを受け止めてくれて、ずっと一緒にいてくれて、ここまで来られたのだって蒼馬さんのおかげだよ。だから」
「では諦めてください」
凜の精一杯の告白は背後から飛んだ冷淡な一言にかき消された。それがとどめのように口を閉ざした凜は蒼馬の服にしがみついたまま嗚咽を漏らす。
幼く小さな身体を震わせながら泣くその姿がいたたまれず慶次は歯を噛み締めた。そうして兄をにらんだその先に新たな言葉がこぼれる。
「俺も諦めたんですから」
ぽつりと漏れたその言葉に慶次はきょとんとした顔を見せた。
「……みっちゃん?」
「オズの大魔法使いは虚構。異世界から落ちてきた後、この国の人間をだまして魔法使いと偽り王となった男です。俺の場合は王になる必要も、何かを偽る必要もありませんでしたけどね」
「え、ってことはみっちゃんが凜の探してた大魔法使い?」
「そうなるかもしれませんね」
「だったら最初から言ってくれよ。それに凜に意地悪なこと言う必要もなかったろ」
「そうですか? 言わなければわからなかったと思いますが」
いまだ怒りがくすぶる慶次の文句に三成は素直な言葉を返してくる。しかしその意味がわからない慶次は口をとがらせて真琴に目を向けた。
「言わなきゃわからないって、何も言ってないよな」
意地悪しただけでとぼやく慶次に真琴は微笑みながら首を横に振る。
「いつもそばにいると、大切と言う気持ちを見落としがちになるからな」
「……あっ、そっか。いやでも大切だって気づいたけどなんの解決にもなってないっていうか。西の魔女さんがいい人だってわかっても、長政を説得できるとは限らないっていうか」
凜が自分の気持ちに気づいたからといって、それで長政をどうにかできるわかではない。そこで引っ掛かった慶次はどう説得すればいいかと悩み始めた。
そんな慶次の姿を眺めていた第三王子はポケットから棒つき飴を取り出す。
「三成、この飴これで終わりだヨ」
清らかな美麗と民に称される笑顔を三成に向けながら第三王子が声をかける。そんな第三王子に目を向けた三成はそのままじっと王子を見つめた。
そのまま長く見つめていた三成は、ややあって愁眉を寄せる。
「……あなた……まさかその為に彼らを連れてきたんですか」
「俺は飴が欲しいって言ってるだけだヨ」
王子の真意に気づいた三成に対して、王子本人はのらりくらりと返している。そんなふたりのやり取りに気づいた凜は蒼馬にハンカチで顔をふかれながら目を向けた。そして第三王子の手元にある飴に驚き指差した。
「それ! チュッパ飴! おれの世界のやつなのになんで!」
「持ち歩けて便利だよナ」
「なんでここにあるんですか?」
「ン、だから三成がくれるんんだヨ」
凜の問いかけに第三王子は棒つき飴を揺らしながら笑う。しかし三成はそんな王子へ不機嫌な顔を向ける。
「あげませんよ。話が終わったのなら出ていってくれますか」
「お姫様が大魔法使いに会いたいって言うから連れてきてやったのにサ。ケチ」
「仕事の邪魔をしないでください」
「俺の頼み、聞いてヨ」
愛想のかけらもない三成に第三王子は妖艶に目を細めながら告げた。普通の人間であればそれだけでどんな願いも命令も聞き入れていただろう。
三成はそんな第三王子に呆れつつも白い手を差し出す。するとその手のひらにどこからともなく二本の棒つき飴が現れた。
その現象を目の当たりにした慶次はぱちくりとまばたきを繰り返す。
「どういう……え? みっちゃんまさか……!?」
きょとんとしていた顔を驚きと興奮に輝かせながら慶次が問いかける。しかし三成はそんな慶次にも冷めた目を向けた。
「違いますよ。世界の理を逸脱しているだけです」
三成の難解な返答は、慶次の興奮を一瞬で鎮火させる効果があった。
「それはちょっとむつかしすぎてわからないです」
「異世界から来た人間は、この世界に降り立った時点では何の役目もありません。王でも平民でも主人公でも王子でもないんです。そしてそれは同時に、どんな役にもなることができるということなります」
「えっと、俺が主人公で真琴が王子様とかの話だよな」
「ええ、この世界では生まれた瞬間にそれが決められるんですよ。しかしここで生まれていない俺はそれを持たないため、自分で決めることができました。凜さんも同じだと思いますよ」
慶次にもわかるような説明をした上で、三成はぼんやりと立ち尽くす凜に飴を差し出した。凜は進み出るように三成へ近づくと飴を受けとる。
「主人公とか王子様を見つける力のことですか」
「おそらくあなたは仲間を見つけたかったのでしょう。あなたは無意識のうちに今の役を選んだんですよ」
先程と同じように三成は真面目な口調で凜に話しかける。しかし西の魔女を殺すようにと言う彼とは真逆の印象が得られた。さっきまでは慶次が言う通り意地悪だと思えたが、今は同じ境遇の仲間のように思える。
「それで三成さんは大魔法使いを選んだってことですか」
「それは結果論ですが、あなた向けに言えばそうなるかもしれません」
「じゃあ、おれの願いを三成さんに頼んだら聞いてくれたりとか…」
先程は物騒な代償を求められたが今回はきっと大丈夫だろう。仲間意識とともにそう思い込んだ凜は再び願いを向けてみる。
けれど三成は凜の予想に反して笑顔で承諾してくれなかった。
「今すぐには無理ですよ」
「やっぱり……」
「西の魔女を殺せとまでは言いませんが、問題を解決しなければいけませんからね」
「問題……あ、南の魔女が浅葱をたおすっていう」
「片方はあなたと親しいのでしょう。でしたら解決できそうですね」
頑張ってくださいと言う三成はやはり笑顔のかけらも見せない。しかし人形のように表情の変わらないそれに慣れてしまえば怖いものもなかった。
そのため凜は承諾の意を見せるため笑顔でうなずく。