読んでみて勢い余って思わず投稿してみました。
七月。本格的な暑さが増してきた頃。
豪華客船であるヘヴンリィ・オブ・アロハ号の沈没事故。
その時に同級生である二百三十三名が行方不明とされているが、生存は絶望的。
いや、もう死んでいると考えるのが妥当と思った。
ハワイ諸島を豪華客船でクルージングする十日間のツアー。
陸空高校は修学旅行でその豪華客船に乗って楽しい修学旅行を満喫するはずだった。
それが思いがけないことに、修学旅行日から四日後に豪華客船が真っ二つに折れるという事故が発生して教師生徒共に海底に沈んだ。
影斗は修学旅行日に運がいいのか、悪いのか。風邪を引いて休んでしまった。
学校生活で碌に関りを持っていないとはいえ、ニュースを見た時は驚きを隠せれなかった。
合同葬儀の際も自分以外に生き残った生徒の一人として参列し、落ち着いた頃には新しい制服を着て新しい学校に通い始めた。
「もう二ヶ月ぐらい経つのか……」
沈没事故のことを不意に思い出してはそうぼやく。
だけど、今の、いや、影斗の生活は何も変わらない。
誰とも関わらずに一人で淡々と生活を送る影斗はいつものように自宅へ帰ろうと足を動かす。
「あれは、クラスメイトの………?」
そんな影斗の足を止めたのは見覚えのある制服を着た男子生徒だった。
元陸空高校の制服を着た男子生徒は元は影斗の同じクラスメイトだったことに気付いた。
同時に不信感を覚える。
「どうしてあいつがここに……?」
合同葬儀の際に自分と同じ生き残った生徒の顔は見た。
その中に彼は存在しなかった。豪華客船の沈没事故で行方不明となったはずの彼がどうしてこんなところにいるのか?
仮に運よく生き残って助かったとしてもここにいること自体がおかしい。
影斗が好んで使う人通りの少ないこの道は工場や廃屋ぐらいしか周囲にはない。
疑問を抱く影斗を置いて彼は廃屋の中へ入って行く。
「なにしてんだ? あいつ……」
別段、彼が生きていようが、何をしようかは彼の自由だ。自分には関係もない。
だけど、顔見知りが生きているのなら他にも生き残りがいる可能性だってある。
向こうは自分の事を覚えていなくても話ぐらいはしてくれるだろう。
そう思った影斗も廃屋の中へ入って行く。
自分らしくない行動だと自負している。
それでも生存していた彼を無視してまで帰れない。
廃屋の中を進んでいくと物音がする一つの部屋を覗き込む。
そこには彼がいた。
「あ~えっと、久しぶり? 俺の事覚えて―――」
碌に人と話さない影斗は言葉を濁しながら言葉を飛ばすが、ソレを見て言葉を呑み込む。
彼の近くに角の生えた大蛇が野犬を飲み込んでいた。
理解が追いつかなかった。
眼前の現実が何なのかわからなかった。
じゅるじゅると大蛇が野犬を飲み込む粗食音だけが耳に入ってくる。
「……みつけた……」
不気味なほど無表情で、生気を感じさせない彼は影斗に近づくとそれに呼応するように野犬を飲み込んだ大蛇も近づいてくる。
恐怖で体を震わせる影斗は咄嗟に鞄を大蛇に向けて投げる。
尻尾でふるい落とされるが、その隙に来た道へ全力で逃げた。
「なんだよ……なんなんだよ………日本にあんな大蛇なんているのか……?」
仮に密入された生物だとしても角が生えた大蛇なんて聞いたこともない。
やや現実逃避しながら走る。もっと速く、もっと速くとぼやきながら廃屋の外に出て行く。
だけど、安堵する余裕はない。
大蛇がすぐ目の前までやってきた。
獲物を見つけた獰猛な肉食獣の瞳がギラギラと輝いて影斗を見据えている。
「ふざけんな!!」
叫ぶ影斗。
今更になって後悔した。
自分らしくない行動を取ったせいで命の危機に陥ってしまったことに。
死にたくない。
死んでたまるか、と影斗はあがく。
こんなふざけたものに殺されて堪るかと自身を鼓舞して奮い立つ。
だけど、いくら足掻いても現実は変わらない。
純粋な殺気を向けてくる大蛇は体そのものが武器だ。
噛みつかれても、飲み込まれても終わり。
太く長い体に縛られたら全身の骨が砕かれて終わり。
あの角に突き刺されても死ぬだろう。
武器が必要だ。だけど、今の影斗に武器なんて都合のいいものはない。
近くの工場にいけば鉄棒ぐらいはあるだろうが、それで勝てるとも思えない。
蛇は全身が筋肉で覆われていると本で読んだことがある。
その通りなら鉄棒で叩いたところで大して効果があるとは思えない。
今あるのは携帯と暇潰しように持っている小説がポケットに入っているぐらい。
逃げる。という選択肢を思いつくが、それも難しい。
元々人気のない場所だが、今日に限っては人一人歩いていない。
誰も助けに来たり、助けを呼んでくれたりはしてくれないだろう。
自力で逃げようにも眼前の大蛇に背を向けた瞬間、勢いよく襲いかかってくる気がしてならない。
睨み合うことで互いに牽制しているから影斗はまだ死んではいない。
だけど、大蛇がいつ痺れを切らして襲ってくるかわからない。
「はは」
人は絶望を知ったら悲しみよりも笑いが出てくるという言葉を聞いたことがあるが、まさにその通りだと身を持って実感した。
勝てない。
助けが来ない。
武器も防ぐ術もない。
ここで大蛇に飲まれて終わるか、全身の骨を砕かれて終わるか。
もう絶望しか残っていない。
もし、もしも物語の主人公ならここで力の覚醒や未知の能力を発動などと御約束の展開があるのかもしれない。
だけど、影斗は物語の主人公ではない。
サブキャラでさえ怪しいモブキャラもいいところだ。
アニメで言う一話に数秒しか映らないキャラの方があっているとさえ思う。
モブキャラはモブキャラらしく孤独に死ぬ運命かもしれない。
「運命を書き換えることが出来たらな………」
きっと、いや、少なくともここで死ぬ運命ぐらいは変えられる。
なんとなく呟いた細やかな願望を口にする。
その瞬間、光と共にそれは現れる。
光に包まれる本の表紙には十字架が施されていて、影斗の眼前に姿を見せる。
「は………?」
自然と手に収まる本を持って怪訝する。
おかしい現象を二度も見て頭が追いつけない影斗にとうとう痺れを切らした大蛇が大きな口を開けて襲いかかってくる。
あ、死んだ。
何故か、不意を突かれたような終わり方をする自分の人生に文句の一つでも言いたい。
そういう運命だとしたらその運命を決めた神様を殴りたい。
視界が大蛇の口の中に埋めつくされたその時、大蛇は凍り付いた。
「危ないところだったのです」
第三者の声に振り向くと影斗は見惚れた。
とんがり帽子とマントという出で立ちの魔法少女を連想させる金髪の美少女。
端正な顔立ちはこれまでに見たことがないほどに美しい。
「
「あ、ああ……」
見たこともない美少女の登場に動揺しながらもなんとか頷く。
それを確認した彼女は影斗の手を持って歩き出す。
「ではついて来てほしいのです。あなたが襲った化物やそのことについて話さないといけないのです。あ、名前を教えて欲しいのです」
「影斗、新井影斗………」
「影斗……シャドーなのですね。私はラヴィニア・レーニなのです。いちおう、魔法少女だったりするのですよ」
魔法少女と名乗るラヴィニアに影斗は頭が追いつけなくなった。
助けてくれた彼女に導かれるがままに影斗はついて行った。
この時はまだ知らなかった。
彼女とこれから出会う共に戦う仲間たちとの出会いが影斗の運命を変えてくれることに。