氷姫の操觚者   作:ユキシア

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名称

鳶雄、夏梅、鋼生、影斗、ラヴィニアの計五人は同級生の遺族―――謎の引っ越しで姿を消した者達の動向を探る為に鳶雄の幼馴染みである東城紗枝の自宅へ足を運んでいた。

空蝉機関は鋼生と鳶雄の友人と幼馴染の名前を口にしていた。なら、関連のありそうなところから鳶雄たちは顔を出すかもしれないと予想を立てているはず。

最低でもなんらかの手掛かりはあると踏んで影斗たちは行動していた。

ヴァーリのみは例の『総督』の個人的な頼みもあって行動は共にはできなかった。

少し離れたところから見ても、生活感はまるで感じられない。

それどころか、人の気配さえ感じられない。

五人は門を開け、玄関の扉を開けると鍵は掛かっておらず容易に開いた。

「………すでに誰も住んでいないとはいえよ、鍵ぐらいは閉めるだろうよ。じゃなきゃ、この土地の管理者はとんだ無能だ」

そう皮肉を口にしながらも彼は肩に白い猫を乗せて、いつ何が起きてもいいように警戒を強めていた。

「いや、多分この周辺に結界、人が入ってこられないようにされている」

影斗に続けてラヴィニアが言う。

「シャドーの言う通りなのです。この家を中心にこの一帯は人払いの術がかけられているのです。私たちのような異能を有する者以外に認識できなくされているので、ある意味、管理されているといえば管理されているのですよ。日本の方術、神道、陰陽道は、この手の『隠す』『退ける』といった『祓い』の力に秀でているのです。シャドーも良く気づいたのです」

「………あれだけの量を叩き込んだばかりだ。なんとなくとはいえ気付く」

今もズキズキと痛む頭を押さえる。

魔法も陰陽道も似ているようなもの。少しそれにかじっただけでもそれとなくは感じられた。

「魔法の勉強してたんだ……」

「まあな、でも一つ覚えるので精一杯だった」

感嘆の声を出す夏梅に頭を押さえながら答える影斗。

全員は家の中に入って、家宅捜索のように部屋を見て回って行く。

家具などはそのままにされて、人だけがいなくなっている。

他に何か手がかりがないものかと探るか見つからない。

「俺、二階のほうを調べてみる」

鳶雄の提案に夏梅と鋼生は一階の捜索を続けて鳶雄、ラヴィニア、影斗の三人は二階に上がる階段を上がろうとした時、人影らしいものが視界に捉えた気がした。

鳶雄は二人に視線を配らせれば、同様に上に目を向ける。

「………夏梅、シャーク、警戒しておいてほしいのです」

それは戦闘を覚悟しろという通告。一気に住宅内を緊張の空気が支配し始めた。

「………刃」

鳶雄は、静かにパートナーを呼び、先導させる。子犬のあとに続いて階段を上がって行く。

階段を上がりきると鳶雄たちは紗枝の自室へと足を向ける。

扉のノブを回して入ると整理整頓がされていた綺麗な部屋だ。

影斗は周囲や窓側に異変がないかを調べ、鳶雄は幼馴染である紗枝の机を調べていた。

これといったものはなかった。

ラヴィニアも魔法を床に刻み終えると今度は紗枝の両親の部屋に足を向ける。

紗枝の両親の部屋にもそれらしいものはなく、はんば諦めていた時、キィと扉が開く音が聞こえ、振り返るとそこには一人の女性が立っていた。

「紗枝!」

名を呼ぶ鳶雄。

再開を果たした幼馴染だが、紗枝の表情は不気味な笑みを浮かべてジッと鳶雄を見ていた。

「紗枝、俺だ。わかるか?」

鳶雄の呼び声でも変化はない。

影斗は神器(セイクリッド・ギア)の力で佐々木のようにその呼び声に応えられるよう記載しようと思った。

「やはり、斬れないかね」

第三者の声が廊下から聞こえ、部屋に入ってきたのは―――三つ揃いに背広を着た初老の男性。

精悍な顔つきで男が静かに口を開く。

「私は姫島唐棣というものだ。すでに知っているかもしれないが、『空蝉機関』という組織の長をやっている」

組織の長。いきなり親玉の登場に驚くも鳶雄がぼそりとつぶやく。

「………五大宗家」

それを聞いた姫島唐棣は興味深そうにあごに手をやった。

「ふむ、どうやら黒き翼の一団より情報は得ているようだ。ならば早い。――――『四凶』を有するキミたち。それと彼も迎え入れたいのだ」

視線を影斗に向けられた。

それに怪訝する影斗に唐棣は答えた。

「私たちに協力してくれている魔術師の一団がキミを欲している。危害を加えるつもりはないらしい」

信用できるか、と内心でぼやく。

「むろん、キミのことも欲しいと思っている。幾瀬鳶雄。―――――いや、姫島鳶雄と呼んだほうがいいだろうか?」

五大宗家の一つの宗家である『姫島』。その名字を持つ鳶雄の影斗は静かに驚いていた。

初めて耳にする情報に驚くも男は続けた。

「キミは知らないだろうが、キミのおばあさん――――朱芭は『姫島』宗家の一員だったのだよ。残念ながら姫島の望む力に恵まれず家を出されてしまったが……」

「……俺は幾瀬だ。姫島は祖母の旧姓に過ぎない」

「キミがそう思っても、この国の裏で動く者たちにとっては姫島の血は大きい。しかし、皮肉だ。宗家を追われた者の系譜に『狗』が生じようとは……」

視線を下に下げて刃を捉えるとその瞳は暗く、感情が一切乗せられていない。

「…………正直言うと、私の本懐は半ば果たされたと思っている。――――幾瀬鳶雄、キミの登場でね。あの姫島から『雷光』の娘以上の『魔』が生れた。しかも、正確には『雷光』の一件以前に誕生していたことになる。これほどの喜劇はないのだよ。神道と『朱雀』を司りし姫島が『朱』ではなく『漆黒を』生みだしているのだから。キミを認知したあとの『姫島』宗主の顔を思い浮かべるだけで、私は十分に満たされているだろう」

そこまでの話を聞いて影斗は理解した。

この男の目的は自分を捨てた『姫島』に対する復讐だ。

その為に『空蝉機関』といったふざけた機関を作り出した。

「だが、我が同胞たちの心中はそうはいかない。………最後まで『計画』に準ずるのがあの組織を束ねる者のつとめなのだ」

かまわず続けた。

「幾瀬鳶雄、私たちに力を貸してはくれまいか? いや、仮に私たちを斬り伏せたとしても、そのときは――――私たちに代わり、五大宗家のバケモノたちを倒してはくれまいか?」

「……勝手な言い分だ。しかも意味のわからないことばかり………っ!」

一方的な物言いに鳶雄は不快感を露にしていた。

「…………一つ訊きたい。お前らに協力しているという魔術師の一団は何故、俺を欲している。少なくとも独立具現型の神器(セイクリッド・ギア)ではない俺はお前らにとっても処分しても困らない存在だと思っていたが?」

鳶雄の前に立って自分の存在を訊く影斗に唐棣は笑みを浮かばせてあごをさする。

「私も童門からキミは処分したと聞いていた。当然、その過程もね。キミは一度は確かにあの場で死んでいる。だけど、キミの神器(セイクリッド・ギア)の特徴を聞いた魔女殿がこう言ったのさ。『その者は生きている。もし、生きているのならこちらに渡して欲しい』とね。キミを見るまでは半信半疑ではあったが、魔女殿の言葉は正しかったようだ」

唐棣の言葉に怪訝する影斗。

一度は死んでいて、実は生きている。しかも、それが向こうの協力者にバレている。

そもそもこの神器(セイクリッド・ギア)はなんなんだ?

どうしてその魔女は俺を欲しがる?

疑問が尽きない影斗に唐棣は言う。

「『灰色の魔術師(グラウ・ツァオベラー)』の少女よ。キミも彼の存在と力を知ったから引き入れようとしているのではないのか?」

「は?」

その言葉に影斗はラヴィニアに視線を向けるもラヴィニアは申し訳なさそうに俯いていた。

「………おい、どういうことだ?」

「…………ごめんなさい」

ラヴィニアの両肩を掴み、尋ねるも答えてはくれなかった。

ただ、申し訳なさそうに謝るだけ。

「お前は知っていたのか? この神器(セイクリッド・ギア)のことを……どうしてそれを言わなかった?」

揺するもラヴィニアは答えない。

唇を強く噛み締めて、口を閉ざしていた。

なんで、何も言わない?

否定しない?

もう何がなんだかわからなくなってきた影斗に唐棣が口を開いた。

「キミが教えないというのなら私が教えよう。もっとも魔女殿の言葉を借りたものだが」

「ッ!? 駄目なのです! シャドーにはまだ……っ!」

「お前は黙ってろ」

異を唱えようとするラヴィニアに冷たい声音で黙らせる影斗に唐棣は言う。

「その神器(セイクリッド・ギア)は事象を操り、運命を書き換えることが可能とされる。極めれば他人の運命でさえも自在に書き換えることが出来る。過去も未来も思うがままにね。攻撃性は神滅具(ロンギヌス)には及ばずとも凶悪性は神滅具(ロンギヌス)に匹敵する神器(セイクリッド・ギア)。その名も『凶星天の法典(アステール・トゥレラ)』」

初めて聞いた自身の神器(セイクリッド・ギア)の名称と本当の能力に目を見開く。

この神器(セイクリッド・ギア)にそんな力があるなんて。

しかし、どうして魔女が欲しがるのかまだわからないが、唐棣はそれを察しったのかそれも答えた。

「わかるかね? キミの神器(セイクリッド・ギア)は自分の都合のいい運命にさえ書き換えることができる。魔法使いが使う魔法でさえもそれを使えば計算するまでもない。いや、事象を操るということは世界そのものを操れる可能性が秘められているのだよ」

「……………………」

唐棣の言葉を聞いて黙り込む。

そんな恐ろしい力を持っているとは微塵も気付かなかった。

だが、よくよく思い返せば記載した力で魔法のような力を生み出し、陰陽道のように土人形でさえも自在に操った。

何より確定的なのは時変改変(アラギ)だ。

数分前後のラヴィニアの過去を実際に書き換えた。

「だが、運命を書き換えるということはそれにつり合うよう同時に他の者の運命も変えてしまう。身近にいる者に程、その影響は受けやすい。キミが自分の運命を書き換えたら、別の者の運命までも変えてしまう」

つまり、影斗が死の運命に直面して神器(セイクリッド・ギア)の力でその運命を書き換えたとしたらその代わりに他の誰かが死んでしまうことになる。

自身の神器(セイクリッド・ギア)凶星天の法典(アステール・トゥレラ)』の力と代償を知った影斗は何も考えられなくなった。

 

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