氷姫の操觚者   作:ユキシア

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改変して得た力

ラヴィニアの結界を破壊した影斗に二人の戦闘は一時中断されて、全員の視線が影斗に集う。

「シャドー……………?」

そこには先ほどまでは身に付けてはいなかった漆黒のローブを着た影斗の姿。

その影斗の右腕には先ほどまでと変化がない『法典』と、見慣れない四つの球体がある。

誰もが視線が集まる中で影斗は確かな足取りでラヴィニアへと歩み寄る。

「後は俺がやる」

ラヴィニアの横を通り過ぎてアウグスタと対峙するように前に立つ。

「駄目―――」

それは自分の仕事、影斗に戦わせるわけには、と頭の中で色々と思考しながらも影斗を止めようとするも今度はラヴィニアが結界の中に閉じ込められた。

「……………っ!?」

魔法陣を展開せずに結界を作り出したことに驚愕しつつもそれを解除しようと試みるが、一切の綻びが見えない。

「俺が相手だ。文句はないだろう?」

「ああ、ないさ。こちらの目的も坊やだからね」

アウグスタはそう告げると同時に幾重にも魔法陣を展開して、炎、氷、雷撃、突風と数多の現象を引き起こした魔法を繰り広げる。

「シャドー!!」

結界内にいるラヴィニアは悲痛の叫びを上げる。

だが、影斗も同様に幾重にも魔法陣を展開させてアウグスタの魔法を相殺させる。

「―――――え?」

その光景に目を丸くするラヴィニアに怪訝そうにするアウグスタは再び魔法で攻撃を仕掛けるも、またも相殺されてしまう。

それはおかしいと思うアウグスタとラヴィニア。

ラヴィニアは知っている。影斗はつい先日まで魔法に触れることもない生活をしてきたと、そして使える魔法は防御魔法ただ一つだけということも。

それなのに自分が相手をしていたアウグスタの魔法を魔法で相殺することなど不可能だ。

もし、それを可能とするとしたら。

ラヴィニア、アウグスタ、ヴァルブルガの三人の視線は影斗の右腕に漂う法典と四つの球体に止まる。

「……………………いったいどういう能力か説明してくれるかい?」

「簡単だ。俺の過去を改変しただけだ」

あっさりとした口調で答えた。

「過去を改変……………なのですか?」

それは知っている。確かに影斗には過去、現在、未来を改変することができる能力に目覚めているし、実際に目にした。

そういう能力を宿した神器(セイクリッド・ギア)だということも知っている。

だけど、それは数分前後で、それだけの過去を改変したところで何も変わることなどは―――――。

そこまで思考を働かせてラヴィニアは気付いた。

「シャドー……………もしかして、誕生からこれまでの過去を改変したのですか?」

「ああ」

短く返答して肯定した。

影斗がしたのは自分の誕生から今日までの過去をこぞって改変させた。

誕生し、そこから影斗は自身の運命を操り、幼い頃から魔法を学び、実戦を繰り広げてきた魔法使いという風に己の過去を変えて、この場にいる。

これまで歩んできた影斗の普通の日常から過酷な魔法使いの世界へと運命を変えた。

己の運命を改変させ、こに場にいる影斗は元々の素質と運命操作によって眼前のアウグスタと対峙できるほどの魔法使いとなった。

だが、当然代償も大きい。

自分がこれまで歩んできた運命を大幅に変えたのだから、自分に関わった人達の運命も大きく変わったはずだ。

前の運命から運悪く死んだ人は実は生きていたということになったり、逆に死んでしまったという人もいるはずだ。

運命を変えるということはそれだけ大きく変化が生じる。

それでも影斗に後悔はない。

「これで俺も戦える」

戦える為の力を得る為に過去を改変してきた影斗に炎の巨人はその剛椀が持つ炎の十字架を影斗に叩きつける。

しかし、叩きつけられたところには影斗の姿はない。

それよりも後方に立ち竦むように立っている。

「おかしいね。『法典』の基本的な力の利用にはそれを記載する為に法典とペンが必要のはずなのだけどねぇ」

アウグスタの言葉通り、凶星天の法典(アステール・トゥレラ)は記載されることによってその記載された能力を発揮する。

しかし、影斗は法典の力を使ってはいない。

「これは神器(セイクリッド・ギア)の力じゃない」

影斗は老女の言葉を否定する。

「これは俺の魔法力だ」

魔法使いとして誕生しても影斗は己の神器(セイクリッド・ギア)は記載しなければ能力が発動できないという欠点は変わらない。

過去を改変して変えたのは影斗自身の実力だ。

こうして魔法を扱えるのも過去を改変できる神器(セイクリッド・ギア)のおかげだ。

自身の実力が高まったことで、神器(セイクリッド・ギア)の能力も扱う時間が稼げる。

左手に魔法陣、右手に羽ペンを持って記載する。

「『氷の巨兵よ。我が元に姿を現し、我が意思に従え』」

事象を操作し、影斗の隣には老女の炎の巨人と同じ大きさの氷の巨兵が姿を見せる。

その時、影斗の口から血が出る。

過去そのものを改変させて強くなってもまだこの神器(セイクリッド・ギア)を扱いきれていない自分に呆れる。

「行くぞ」

数え切れないほどの魔法陣を展開させてあらゆる属性魔法を放つ影斗に対してアウグスタも同数に魔法陣を展開させて迎撃する。

禁手(バランス・ブレイカー)でもない状態で私と同等の魔法を使えるとは……………いや、これは坊やが持つ元々の素質が磨き削られた力と言うべきかねぇ」

改変させた過去から今日まで磨き続けてきた影斗の魔法。

氷の巨兵と炎の巨人がその剛椀を振るい、殴り合う。

ラヴィニアにも負け劣らない今の影斗を相手にするには少々分が悪い。

魔法の腕ではまだこちらが上回っていても、影斗にはあの『法典』がある。

「……………仕方がないね」

老女は魔法の攻防の後に大きく後退。それに続く様にヴァルブルガも下がる。

「ここは退かせてもらうとしよう」

「ご機嫌遊ばせ♪」

足元に転移用の魔法陣を展開させて瞬時にこの場から姿を消した二人に影斗は安堵し、膝から崩れ落ちて意識を失った。

「シャドー!?」

意識を失う直前にラヴィニアの声が耳に届いた。

 

 

 

 

 

 

目を覚ましたのは見知らぬ天井だった。

視線を動かして周囲を見て見ると、どこかの病室のような場所だった。

「シャドー……………」

視線を下に向けると、そこにはラヴィニアが寝言を言っていた。

心配してくれたのか、と思いながら影斗は自身の状況を把握する。

恐らくは『空蝉機関』による事件は全て解決して、気を失った自分はここに運ばれたのだろう。

腕を上げて、掌を見る。

影斗は過去を改変させて強くなった。だが、改変させた過去を元に戻すことはできない。そこに上書きすることは出来ても、戻す頃は不可能だ。

少なくとも今の影斗には不可能だ。

いや、その必要もないか……………。

頭の中にある魔法の情報。これは改変させた過去から影斗が磨き続けてきた努力の成果だ。

だけど、まだまだだ。

魔法力も神器(セイクリッド・ギア)も使いこなせていない今の影斗は改変する前に比べればよくはなっても、これからのことを考えればまだ強くなる必要がある。

むくりと、上半身だけを起こして眠りの世界にいるお姫様の頭を優しく撫でる。

「ありがとう、ラヴィニア」

影斗は感謝の言葉と共に初めて彼女の名前を言った。

眠りについている彼女の表情はいつも寄りました笑みが増した気がしたのは気のせいだろう。

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