氷姫の操觚者   作:ユキシア

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今後のこと

『空蝉機関』が壊滅し、陸空高校の生徒とその保護者達は今回の事件に関する記憶をねつ造して元の生活に戻れるようになり、影斗達も重症者はいるが、誰一人欠けることなく生還を果たしていた。

鳶雄の幼馴染である紗枝だけは記憶は残したままだが、本人はそちらの方がいいそうだ。

そして、今回の事件でラヴィニアが鳶雄達に協力した理由を告げた。

大昔、ラヴィニアが所属している魔法使いの協会で、勢力が大きく分断され、ラヴィニアがいる『灰色の魔術師(グラウ・ツァオベラー)』は運営を変えることなく存在するも、もう一つのグループは独自の結界術を用いて、世界と世界の間にあるという『次元の狭間』に独自の領域を作った―――そうラヴィニアは語る。

そして、『灰色の魔術師(グラウ・ツァオベラー)』とグリゴリが共に追っているのは『オズ』という魔法領域に潜り込んでいる魔法使いと―――それに協力するグリゴリの裏切り者、堕天使の幹部『サタナエル』。

様々な厄介事に巻き込まれ、今に至る。

もう普通の日常には戻れない影斗の今後は『神の子を見張る者(グリゴリ)』が管理しているセイクリッド・ギアを所有する異能者が集まる高校に転入することになった。

堕ちてきた者たち(ネフィリム)』と呼ばれる施設で世界の裏側に関する知識や神器(セイクリッド・ギア)を扱える訓練を行う。

「…………………それで堕ちた天使の総督が俺に何のようだ?」

ベッドの上で魔導書から眼を離さず、男性―――アザゼルに問いかける。

「…………………お前が今世の『法典』の所有者か」

「ああ、殺すなら抵抗する」

本を閉じて、鋭い眼差しを向けて警戒を強いる影斗にアザゼルは苦笑する。

「しねーよ。そんなことをしたら魔女っ子に一生恨まれる」

椅子に腰を落ち着かせてアザゼルは真剣な眼差しで口を開く。

「お前、今の自分の状態ぐらい知ってんだろ?」

「……………………」

「自分の過去を大幅に改変させて何の代償もないわけがねぇ。……………何を失った?」

「……………………記憶の一部、それと約十年分の寿命」

アザゼルの言葉に影斗は嘘偽りなく答える。

影斗は過去を改変することで力を得た。

だが、その代わりに運命を変えたことによってそれにつり合うように記憶の一部が消えて、自分の力量に合わない力を強制的に発揮した代償で十年分の寿命が削られた。

影斗の言葉を聞いたアザゼルは顎に手を当てる。

「まぁ、その程度で済んでよかったと思え。過去、法典の力に過信して運命を書き換え過ぎて死んだ奴はごまんといた。自分の力量に合った使い方をお前は知るべきだ」

「俺に後悔はない」

「お前には、な。あいつは心配してたぞ?」

「あいつ?」

「魔女っ子だ」

その言葉に影斗は金髪天然魔法少女が脳裏に過る。

「別に俺は頼んでねぇ……………」

素っ気なくそう返すと、アザゼルはいやらしい笑みを見せる。

「照れんな。女に心配されるなんて男にとっちゃ誉れだ」

「照れてない」

「たくっ、ヴァーリといいお前といい最近のガキどもは素直じゃねえな」

やれやれ、と苦笑するアザゼルに影斗は苛立ち、その顔に一発拳を入れたかったが、堪える。

「それで要件はなんだ? こんな世間話をする為に総督自ら足を運ぶとは考えらねえが?」

無駄話を省いてこんな場所まで足を運んできた本当の理由を問いかける。

「ああ。おい、もういいぞ」

声を飛ばすと、扉が開かれる。

そこにはいつものとんがり帽子とマントという出で立ちをした魔法使い――ラヴィニアが悲しい表情をしていた。

「……………………」

「……………………なんだよ?」

何も言わず、ただ見てくるだけのラヴィニアに耐えきれずに声をかける。

「シャドー。私はとても悲しく、そして怒っているのです。すっごく心配したのですよ?」

「……………頼んでねぇ」

視線を逸らし、そっぽを向く影斗にラヴィニアは近づいて彼の手を取る。

「友達を心配したら駄目なのですか?」

「そうは言ってねぇ……………」

「トビー達も心配していたのです。シャドーは無茶ばかりするのですから」

「…………………余計なお世話だ」

「シャドーはもう少し素直になるべきなのです」

「十分素直だ」

ラヴィニアから目を合わせず素っ気なく答えるその態度にアザゼルから言わせたら十分に素直じゃない。

「だからこれからもよろしくなのです。シャドー」

「何がどうなってそうなりやがった……………」

勝手に結論に辿り着くラヴィニアに半眼を作る。

「異能者が集まる『堕ちてきた者たち(ネフィリム)』には行く。だが、そこでお前らと共に行動するのは別問題だ」

借りは返したしな、と告げる影斗は鳶雄達と関わるつもりはなく、一人で行動するつもりでいた。

人間をまだ信用しているわけではないが為に必要以上に関わる気は毛頭ない。

これでもかなり譲歩している方だ。

「まったく、シャドーには困ったものです」

「どう考えても困っているのは俺の方だが?」

我儘ばかり言う子供に呆れるように息を吐くラヴィニアに影斗の方が呆れたかった。

「おい、総督。要件はこれか? だったら俺はお前の顔に一発ぶん殴りたいのだが?」

「違ぇよ。お前の今後のことについてラヴィニアと交えて決める必要があってな」

「シャドーは『オズの魔法使い』、『空蝉機関』のアジトで出会った魔女、『東の魔女』に目を付けられているのです」

「あの老婆か……………」

神滅具(ロンギヌス)を持つ老女の魔女の存在が脳裏に過ると同時に疑問が生じる。

「『東の魔女』ということは東西南北にはそれぞれ魔女がいるのか?」

「はいなのです。『オズ』という国では、魔法使いたちのボスが住む『エメラルドの都』を中心にシャドーが言ったとおりに東西南北に城があって、そこには強力な魔法使いが住んでいるのです。『東の魔女』…………正確には『二代目』の『東の魔女』―――紫炎のアウグスタ。それがあの老女の正体なのです」

神滅具(ロンギヌス)紫炎祭主による磔台(インシニネート・アンセム)』の所有者である。お前さんは非常に厄介な奴等に目を付けられてちまったってわけだ」

「狙いはこれか……………」

影斗は法典を出現させてそうぼやく。

神器(セイクリッド・ギア)――『凶星天の法典(アステール・トゥレラ)』。事象を操り、運命さえも書き換えることができる神器(セイクリッド・ギア)。魔女共の狙いは恐らくはそれだ。だが、ここで一つ魔女共にも予想外なことがあった」

「シャドーの才能なのです。少なくてもシャドーから乱暴に神器(セイクリッド・ギア)を奪うことはしないはずなのです。恐らくは……………」

「洗脳か、脅迫か……………どちらにしろ厄介なのは間違いはないってことか」

生かさず殺さず。魔女たちは影斗を殺さず、利用しようと考える。

「そこで、お前はネフィリムを卒業したらどこかの組織に与する必要がある。俺が管理している『神の子を見張る者(グリゴリ)』か……………」

「私が所属している『灰色の魔術師(グラウ・ツァオベラー)』のどちらかに入って欲しいのです」

二人の言い分はよくわかる。

後ろ盾がない今の影斗が一人で行動すれば容易に『オズの魔法使い』に囚われ、悲惨な生活を強いられるのは容易に想像できる。

だから、後ろ盾を得る為にもどちらかには所属した方が安全なのだ。

「今すぐに決めろとは言わねぇよ。ただ、それを視野に入れとけって話だ」

「無理にとは言わないのです」

今後のことについて二人から聞いた影斗の今後はどうやら波乱万丈な人生になりそうだ。

「それと、もう一つ」

今後の事について色々と思案している最中、アザゼルが人差指を指して告げる。

「お前には体調が戻り次第、今の実力を測る必要がある。相手はラヴィニア。おまえがしてやれ」

「了解なのです」

アザゼルの提案にラヴィニアは笑顔で了承した。

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