「こんなところまであるのか、このマンションは……………」
半分驚き、半分呆れながらただっ広い何もない一室を見渡す。
「なのです」
正面にはラヴィニアが対峙するように立ち、影斗の言葉に同意するように頷いていた。
体調が全快した影斗は早速と言わんばかりに総督―――アザゼルに連れられてマンションの地下に足を運び、今の影斗の実力を測りに来た。
異能者のトレーニングルームとして作られたこの部屋は頑丈で、そう簡単には壊れることはないとアザゼルは告げる。
「…………………で? どうしてお前等までいる?」
半眼を作りながらどういうわけかこの場にいる鳶雄達に視線を向ける。
「いいじゃない。私達もパワーアップした影斗が見たいのよ」
「お手並み拝見とさせてもらうぜ?」
「えっと、ごめん……………」
「次は俺だからな」
夏梅、鋼生、鳶雄、ヴァーリの勝手な言い分(東条紗枝もいるが何も言っていないのでも無視)に頭を押さえたくなる。
「……………………まぁいい」
影斗は右腕に四つの球体と
「行くのですよ?」
杖を持つラヴィニアの隣には氷姫が姿を現す。
「いいぞ、始めてくれ」
アザゼルの開始の言葉に先手必勝といわんばかりに複数の魔法陣を出現させる影斗は己の前方に防御魔法陣を張り、炎、雷といった属性魔法をラヴィニアに向けて放つ。
そんな影斗に対してラヴィニアも幾重の魔法陣を展開させて、影斗の魔法を容易く破り、ラヴィニアの攻撃魔法が影斗の防御魔法に衝突する。
だが、時間は稼げた。
左手でペンを持ち、法典に記載が終えた影斗の周囲に炎の竜巻が複数出現し、ラヴィニアを襲う。
「甘いのです」
だが、氷姫に指示を飛ばすと、氷姫の四本の腕が炎の竜巻に向けられて、炎の竜巻は瞬く間に凍てつく。
「炎までも凍らせるのか……………なら」
再び魔法陣を形成、そこから発射されるのは氷の槍。
氷を凍らせることはできない。そう一考した影斗だが……………。
「氷で私に勝てるとは思わないので欲しいのですよ」
影斗が出現させた氷の槍以上の大きさの氷の槍で破砕し、そのまま突貫してくる氷の槍を回避する。
回避しながらも魔法陣を出現させる影斗が今度は光の矢を放つ。
先ほどまでの魔法と比較すると矮小な攻撃と思われるが、魔法力を圧縮に圧縮させた光の矢は光を弱点とする悪魔ならかするだけでも致命傷になりえる威力を持つ。
更には法典の能力でその光の矢を数十増やして前後左右からラヴィニアに向かう。
それでもラヴィニアには届かない。
影斗が放った光の矢と同数同威力の氷の矢を放って相殺した。
彼女もまた、魔法使いの才能を持つ魔法使いだ。
「さて、シャドー。準備運動はこれぐらいで終わるのです」
「ああ」
不敵な笑みを見せる彼女に頷くと、ラヴィニアの周囲を埋め尽くすほどの魔法陣が出現し、あらゆる属性、精霊、黒、白、ルーンの術式が施されている。
豊富な術式を披露するラヴィニアを前にして影斗も負けずと魔法陣を作り出して放つ。
「行くのです」
放たれる数多の魔法。影斗も魔法を放つも完全には相殺はできず、即座に防御魔法を張って防いだ。
「シャドーの魔法陣の展開速度には目を見張るものです。そのボールのようなものがそれを可能としているのですか?」
「さあな」
ラヴィニアの質問に素っ気なく返答する。
影斗の右腕にある四つの球体は攻撃、防御、転移、支援とそれぞれの魔法を補助する役割を持っている。
ラヴィニアほどに術式に豊富な知識は持ち合わせてはいないが、使える術式を精密に構築し、洗練されている。
術式の量ならラヴィニアが、質なら影斗が。
それぞれの異なる魔法力を発揮する二人は再び魔法陣を展開する。
苛烈を極まる二人の魔法バトルを遠目で見ていた鳶雄達は目を丸くしていた。
「すげぇ…………」
「なんか、圧倒されるわね……………」
「ああ」
「これが魔法……………」
二人の戦いに開いた口が塞がらない状態になっている四人を置いてヴァーリだけは楽しそうに見ている。
「己の魔法力を鍛え、自ら先陣を切りつつ法典の力を操るか。今の新井影斗なら楽しめそうだ」
速く戦いのか、うずうずとしているヴァーリを諫めながらアザゼルは鳶雄達に声をかける。
「お前ら先に言っておくが、強さを求めるあまり、あいつのように
影斗から視線を外さずに鳶雄達に忠告する。
「特に幾瀬鳶雄。お前はな」
「……………………はい」
神をも斬り伏せることが可能と言われている
鳶雄は世界のバランスを崩しかねないその力を有している。
注意しなければいけない、と鳶雄は改めて己の力に気を付けていると、二人の戦いは更に発熱していた。
「凄いのです、シャドー」
「うるせぇ」
笑顔で称賛の言葉を送るラヴィニアに悪態で返す影斗は禍々しい魔法陣を展開し、黒い球を放つ。
呪法。一発でも直撃すれば心身共に悪影響を及ぼす呪いの魔法。
恐ろしい魔法だが、それでもラヴィニアには届かない。
ラヴィニアの隣に立つ氷姫はその呪法そのものまでも凍らせてしまうからだ。
「何でもありかよ、
悪態も吐きたくなる。
魔法の腕はややラヴィニアの方が上回っているが、それでも勝てないまではない。
問題は氷姫だ。
どのような魔法を用いても氷姫が全てを凍らせる。
「そうでもないのですよ? シャドーの魔法はどれも強力で私のお人形で防がないと危ないところもあったのです。おかげで体力も魔法力も早くも底がつきかけているのです」
ラヴィニアの方が優勢に見えてもその実はそこまで余裕があるというわけでもなかった。
だけど、その態度と言葉が影斗を苛つかせる。
「ふざけんな。お前の事だ、
そう、ラヴィニアは本気を出してはいない。
ラヴィニアほどの実力者がその領域に足を踏み入れていないわけがない。
本気も出さずに称賛の言葉を送られてもそれは侮辱以外なんでもない。
「………………それは素直に謝るのです、ごめんなさい。でも、ここでは使えないのですよ」
チラリと視線を鳶雄達に向けるラヴィニアに影斗は納得した。
使えば鳶雄達まで巻き込んでしまう。だから使えないと。
「ですので―――」
ラヴィニアはこの一室を埋め尽くすほどの魔法陣を発生させた。
「魔法は本気で行くのです」
炎、氷、突風、雷撃、暗黒、光、あらゆる属性、精霊、神霊の魔法を発生させたラヴィニアは残された己の魔法力をこの一撃に下に解放した。
「あのバカ!」
それを見たアザゼルは叫び、手元に小型の魔法陣を展開させて鳶雄達覆う結界を作り出す。
ラヴィニアが放つ魔法はそれほどまでに強力なものだと理解したからだ。
「シャドー、勝負なのです。この一撃をどうにかできたらシャドーの勝ちなのです」
「勝ったらなんかあるのか?」
「んー、シャドーのお願いを何でも一つ聞くのです」
「……………………お前、いや、やっぱいい」
女が男になんでもという言葉を使いな、と言いたかったが、この天然魔法少女にはそれを理解しては貰えないのはもう知っている。
「私が勝ったら逆にシャドーには私のお願いを聞いて貰うのですよ?」
「あー、はいはい」
つまり勝者は敗者に一つだけ何でも言うことを聞かせてられる命令権を得られる。
「それじゃ、死なないで欲しいのです!」
フルバースト状態で放たれた数多の魔法。
その時、影斗は法典のページをめくり、左手に持つペンで一線を走らせる。
すると、放たれたラヴィニアの魔法が砕け散り、煙のように姿を消した。
その光景にラヴィニアだけではなく、アザゼル達も驚愕の表情を見せるなかで影斗は種明かしをする。
「お前の魔法を発動をしたという過去を改変した。過去を変えた現在、発動していないことになったお前の魔法は消えて当たり前だろ?」
法典に記されている者の数分前後の過去、現在、未来を好きなように改変できる能力、
種明かしをした影斗をラヴィニアは苦笑しながら言う。
「シャドーのそれも十分に何でもありなのです」
その言葉に同意するように鳶雄達も首を縦に振った。