今の実力を測る為のラヴィニアとの魔法バトルを終えるとヴァーリが戦いたかっていたが、流石に体力も魔法力も使い切った今の状態では碌に戦えないと告げたら大人しく引き下がったが、その顔は凄く不服そうだったが……………。
戦いを終えると影斗はすぐに自室に戻ってベッドの上に横になる。
体力と魔法力を少しでも回復してから魔導書でも読もうと一考していると、扉がノックする音が聞こえた。
「誰だよ……………」
休みたいのにそれを邪魔しにきた誰かに若干苛立ちながらも扉を開ける。
「えっと、疲れてるのにごめんなさい……………」
扉の前に立っていたのは幾瀬鳶雄の幼馴染である東条紗枝だ。
「要件があるなら後にしろ」
疲れ切っている今はこれ以上は何かをする気もなければ、付き合う気もない為に先に断っておく。
しかし、紗枝は首を横に振った。
「まだ新井君にお礼を言ってなくて……………助けてくれてありがとう……………」
紗枝は頭を下げて礼の言葉を述べた。
「…………………お前を助けたのは幾瀬だ。俺は何もしてはいない」
しかし、影斗はその礼を拒否した。
「礼を言う必要もない。礼を言うなら他の奴等に言え」
俺には不要だ、と告げるも紗枝は頭を上げて言う。
「それでも鳶雄から聞いたよ? 色々と助けてくれたって。だからお礼を言わせて」
「そんなことをした覚えはねぇ」
冷たくあしらうようにそう答えて扉を閉めようとする影斗だが、紗枝が慌ててそれを阻止する。
「…………………まだ何かあるのか?」
「えっと、これから皆でゲームを」
「勝手にやってろ」
扉を閉める力を強める。だが、紗枝は両腕に力を入れて精一杯扉を閉めるのを阻止する。
「もう少し皆と仲良くしよ? ほら、コミュニケーションは大事だよ?」
「俺には仲良くする理由はない。わかったら手を離せ」
愛想笑みを浮かばせてどうにか影斗を部屋から出そうとする紗枝だが、影斗はどこまでも冷たくあしらうのみ。
両腕だけでなく、身体全体に力を入れて締める扉を阻止しようとするも男の腕力にはかなわず、徐々に扉が閉まり始める。
「いた――ッ」
不意に紗枝は扉を離す。不意に手を離されたことによって扉を閉めた影斗だったが、すぐに扉を開けて膝をついている紗枝に声をかける。
「まだ治ってねえのに無理すんな」
手元に小さい魔法陣を展開させて紗枝に当てると、痛みで歪んでいた紗枝の表情が和らいだ。
「沈痛性の治癒魔法だ。言っとくが痛みが引いただけだからな。無理しても知らねえぞ」
簡易に魔法で治療を施す影斗に紗枝は微笑んだ。
「やっぱり優しいんだね。新井君って……………」
「勘違いすんな。さっきの状態で幾瀬のところに戻ってまた誰かがここに来たら休もうにも休めないだけだ」
言い訳するかのように早口でそう言い返す。
「………………それよりもいいのかよ? 記憶を消さなくて。知らなくてもいいものぐらいあるだろう」
紗枝は『空蝉機関』での記憶をねつ造されることなく、ここにいる。
影斗の言う通り、あの事件は知らなくてもいいものだ。
今からでも記憶を封印した方がまだ幸せに暮らせるのではないかと思ったが、紗枝は首を横に振った。
「いいの。心配してくれてありがとう」
「してない。……………まぁ、お前がそれでいいのなら俺はもう何も言わねぇ」
本人がそれでいいのならこれ以上は何も言わない影斗は今度こそ扉を閉める。
だが、それを阻むものがいた。
「……………おい、いい加減に」
しろ、と言いかけたところで、振り返ると紗枝は扉に触れてはいなかった。
じゃあ、いったい誰が? と思い下を向いている紗枝の目線につられて下を向くとそこには黒い毛並みをした大型犬―――刃が扉を閉めるのを阻止していた。
がっちりと扉を噛んでその赤い瞳は真っ直ぐに影斗を見ていた。
「刃ちゃん! ナイス!」
親指を立てながら扉を閉めるのを阻止した刃を褒める紗枝に影斗は何がナイスだ、と内心で愚痴を溢す。
「おい犬、離せ」
飼い主はどうした……………? とペットの面倒ぐらいちゃんと見ろ。と色々と言いたい言葉が出てきたが、今は休みたい衝動が大きい為にそれは後にしておく。
「……………………仕方ねぇ」
手元に魔法陣を出現させてそれを刃に向けると、それを目撃した紗枝はぎょっと目を見開く。
相手が
少し威嚇すれば怯んで離すだろうと踏んだ影斗は魔法を発動しようとした瞬間、刃は扉から口を離して影斗に跳びかかってくる。
「うおっ!?」
余りにも突発的な行動に不意を突かれた影斗はそのまま刃に押し倒され、眼前には口を開けて牙を覗かせる刃がいる。
そして―――――。
「ちょ、やめっ! おいこら! クソ犬!!」
刃に顔をペロペロと舐められる。
抵抗しようと暴れるも執拗に舐め続けてくる刃に動きを封じられ、魔法陣を展開させると影から現れる刃によって斬られる。
無駄な抵抗は止めて大人しく従え。と言わんばかりに舐める攻撃に悪戦苦闘する。
その刃の後ろから勝ち誇った笑みを浮かばせている紗枝が声をかけてくる。
「皆のところに来てくれるのなら刃ちゃんを止めてあげる」
「飼い主! おい、こいつ止めろ!!」
「鳶雄なら皆のところにいるから来ないよ?」
イタズラっ子の笑みを見せる紗枝に恨めしい視線を送るも、今はこの舐め続けてくる犬をどうにかしたい。
「ああわかった! わかったらこの犬をどかせろ!!」
「よろしい。刃ちゃん、もういいよ」
紗枝の言葉に従い、即座に影斗の上から離れて紗枝の隣にお座りする刃。
顔中ベトベトにされた影斗は隠すこともしない苛立った顔を見せる。
「お前、覚えてろよ……………」
「刃ちゃん、ゴー!」
「クソがッ!? いい加減にしやがれぇええええええええええええええええええええええええ!!!」
この日を境に影斗は犬が若干苦手になった。
結局、全員が集まっているに足を運ぶこととなった影斗は真っ先に鳶雄の胸ぐらを掴む。事情を知っていたのか、鳶雄は影斗と目を合わせなかった。
「てめぇ……………幼馴染とペットの面倒ぐらいしっかり見ろ」
「ごめん……………」
顔中舐められた跡を見て、本当に申し訳なさそうに謝る鳶雄の胸ぐらを離して洗面所でベトベトだらけの顔を洗う。
「それじゃ、皆揃ったことだし、親睦会と行きましょう!」
「これ、そういう集まりだったのか?」
初耳と言わんばかりに鋼生はぼやくと夏梅はだって、と言葉を紡ぐ。
「色々あって、皆怪我をして、落ち着ける時間もなったでしょ? だからここで親睦を深めましょうよ。仲間なんだし」
「仲良しこよしならお前等で勝手に―――……………いや、なんでもない」
手を振り上げる紗枝とその横で身構えている刃を見てそれ以上は何も言わず、黙った。
「シャドーはもっと皆と仲良くするべきなのです」
「そうよ! 一人だけ欠けても楽しくないもの! 全員集まってわいわい楽しむ方がいいでしょ?」
「影斗。俺達は共に戦った仲間なんだ。だから、これからもよろしく頼む」
「…………………………………」
「刃―――」
「わかった! 協力する! これでいいだろう!?」
無言を貫こうとした影斗に瞳をぎらつかせている刃に指示を飛ばそうとした紗枝に乱暴気味にそう返した。
「皆の意見が一致したところで改めてよろしくね!」
夏梅の一言から互いに親睦を深めて行く、親睦会は深夜を渡るまで続いた。