「クソが……………」
店の外に出て、人気のない場所までやってくると影斗は怒りを少しでも発散するかのように壁を殴り、恨み言のように言葉を呟く。
「こんな偶然があってたまるか……………」
斎藤大樹―――思い返せば幼稚園の頃からの腐れ縁でクラスもよく一緒になっていたから気が付けば何をするにしても一緒だった。
だが、あの事件をきっかけに影斗は大樹と縁を切り、大樹とは別の高校に進学した。
もう会うこともないだろうと踏んでいた人物とまた会ってしまう偶然に苛立ちを覚える。
「嫌な記憶ってもんは残るものとは聞くが……………」
力を得る為に過去を改変した代償として記憶の一部と寿命を支払った。
その時にあいつの記憶も一緒に消えればどれだけよかったのだろうか……………。
そう考えてしまう自分がいる。
しかし、首を横に振ってそんな考えを振り払う。
ここであいつと出会ったのは偶然に偶然が重なっただけ。もうあの顔も見ることもないし、次に会えば無視すればいい。
そう結論付いて、影斗は気持ちを落ち着かせてそろそろ鳶雄達のところに戻らないと夏梅がうるさいだろう、と店内に戻ろうとした時、見知った顔が視界に入った。
複数の男性に取り囲まれている女性。
男性は先ほど出会った大樹達、そして、大樹達に取り囲まれているのは先ほどの魔法使いの恰好を止めて水色のワンピースを着たラヴィニアだった。
「あいつ何やってんだ……………?」
半眼を作りながら嘆息する影斗は真っ直ぐにラヴィニアの方に歩み寄って大樹達の輪を強引に押しのけてラヴィニアの手を取る。
「行くぞ」
大樹達を完全に無視してラヴィニアの手を掴みながらそこから離れようとする影斗。
だが―――。
「おい、待てよ」
後ろから制止の声が投げられるが無視するも、大樹の友人達が逃がさないと言わんばかりに影斗達を取り囲む。
「いきなりなんだよ? 俺達はただたんに声をかけただけじゃねえか」
大樹が不満アリアリの声音で影斗に声を投げる。
「つーかさ、お前ってそんな強引なヤツだったか? 俺が知っているお前はもっと大人しい奴だったと思ってたけど……………アレか? そこの彼女とヤッて自信がついたってやつなの? そりゃ、そんないい女とヤれたら自信もつくわな」
卑猥な発言と共に二人を取り囲んでいる男性達は嘲笑するかのような笑みを見せる。
「いいよな~……………なぁ、影斗。俺達にも彼女貸してくれよ? させろ、とまでは言わねえよ。ただ、一緒に遊ぶぐらいの付き合いはいいだろう? 親友として、な?」
空いている方のラヴィニアの手に触れようとする大樹の腕を掴み、握りしめる。
「いでででででででででっっ!!」
「…………………さっきも言ったはずだ。俺とお前の間には何もないって」
淡々と告げて、手を離す。
大樹は握りしめられた腕を擦りながら睨むように影斗を見る。
「……………んだよ、あの時こと悪いって思ってるから下出にでりゃ……………そっちがその気ならこっちにだって考えってもんがあんだよ」
視線で他の友人達に合図を送る大樹に男性達は不敵な笑みを浮かばせながら影斗に敵意を向ける。
「お前をボコってお前の彼女で遊んでやるよ!」
複数人で同時に影斗に襲いかかる大樹達だが、その動きは遅い。
過去を改変させて力を得たからだけではなく、ここ半月で基礎体力をつけたり、バラキエルやヴァーリと模擬戦を繰り広げていたせいもあってか動きが緩慢だ。
攻撃を払い、一撃を叩き込み、他の男性達も同様に拳や蹴りをその身に叩きつけて地面に寝転がせる。
一般人相手とはいえ、複数人相手をここまで容易にあしらえるようになっていた自分自身に少しは驚くも、今はそんなことはどうでもよかった。
「う、うそだろ……………?」
瞬く間に友人達を無力化された大樹は怯え、後退りする。
理解出来ない、したくない。認めたくはない現実と直面してその顔は驚愕と恐怖によって歪んでいる。
その姿を見て、影斗はもういいだろうと判断し、ラヴィニアの手を取ってここから離れようとすると、それが気に入らなかったのか大樹は影斗に向けて叫んだ。
「余裕ぶってんじゃねえよ!? ああ、そうだ!? 俺はお前のそういうところが嫌いだったんだよ!! 俺の後ろにいつもいつもついてくるだけの存在だったのに、成績はいつもお前の方が上だった!! それを自慢もしないで、たまたまなんてほざいて余裕ぶっていたお前の態度が気に入らなかったんだ!!」
癇癪を起したかのように喚き散らす。
「ガキの頃だって寂しそうにしているお前を見て、気を遣って遊びに誘ってやったのに……………そんなお前にどうしてそんないい女を連れてんだ!? ああくそ、こんな想いをするぐらいならお前となんか
影斗は振り返ることもせず、ただ思った。
どうして俺はこんな奴を親友だと思って信じていたんだろう……………。
一緒に遊んでそれなりに楽しい思い出もある。共に辛い経験をした記憶もある。
互いの家に遊びに行ってゲームしたり、勉強したりなどもした思い出もある。
それが、今は辛く、苦しいものになっていく気がしてならない。
「お前なんかもう
「……………………ああ」
完全な決別。二人を繋ぐものは何もなくなった。
離れていく二人の間には決して元には戻れない亀裂が生じた。
「シャドー……………」
手を引っ張られて、足早で歩く影斗についていくラヴィニアは何とも言えない視線を影斗に向けるも、その顔を窺うことは出来ない。
だけど、握られているその手は小さくではあるが、僅かに震えていた。
「あ、いた! やっとみつけたわよ! 散々探し回ったんだからね!?」
そんな二人の前に夏梅達が姿を現すと、影斗は夏梅にラヴィニアを渡して、その横を通り過ぎて行く。
「………………先に帰る」
ただそれだけを告げて、影斗は鳶雄達の傍から離れていく。
「え? ちょ、ちょっと!? 約束は!?」
その後姿に夏梅は最後まで付き合うという約束について追言するも影斗は何も言わずに、振り返ることもなく、離れていった。
「もう、なんなのよ!?」
突然のことに憤る夏梅。いつもと雰囲気が違うことに察した鳶雄達は訝しむ。
「ねぇ、鳶雄。新井君……………どうしたの?」
「さ、さぁ、俺もよくは……………」
影斗の様子に戸惑いを隠せれない鳶雄達は先ほどまで影斗と一緒だったラヴィニアに視線が集まる。
「実は……………」
ラヴィニアは戸惑いを隠せれないまま先ほどの事を鳶雄達に話した。
「そんなことが……………」
影斗の過去を聞いた鳶雄達は何を言えばいいのかわからなくなった。
だが、影斗が人間を信用していないあの態度に納得できる。
「そりゃ、人間不信にもなるわな……………」
鋼生が乱暴に頭を掻きながらポツリと呟く。
冤罪を背負わされ、自分の無実を誰も信用してくれず、その罪を擦り付けたのが親友ならもう誰のことも信用できなくなるのも理解出来る。
「「……………」」
鳶雄と紗枝は互いの顔を見合わせる。
自分達には自分を信用してくれる幼馴染がいる。だけどもし、裏切られたとしたらそれでも人を信じていられるのか? そう思ってしまう。
「誰にも信じてもらえないのは辛いのです……………」
沈黙がこの一帯を占めるなかで、ヴァーリが不敵に微笑んだ。
「なんだ、そんなことか」
いつもと変わらない小生意気な態度でヴァーリは堂々と告げた。
「俺達が新井影斗を信じてやればいい。それだけのことだろう」
あまりのも単純明快なその言葉にこの場にいる全員が唖然とし、一笑する。
「ルシドラ先生にしちゃいいこと言うじゃねえか」
「そうね。たまにはいいことを言ってくれるじゃない」
「ふっ、当然だ。なんせ俺は魔王の血を引く―――」
「ヴァーくん、いい子いい子なのです」
「だからなでるな! 俺は子供じゃないぞ!」
いつものように騒ぎ出す皆を見て、鳶雄もヴァーリの言葉に強く頷く。
―――信じよう。影斗も俺達にとって大切な仲間なんだから。
改めてその想いを決意する。