氷姫の操觚者   作:ユキシア

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好い人

ウツセミと呼ばれる機関がある。

あるものを模して作った人工的な超能力者―――異能使いとカテゴライズされている。

彼等は海上事故で行方不明とされている陸空高校二年生の生徒、影斗の同級生たちはその機関で化物を使役している。化物と一括りで『ウツセミ』と呼ぶ。

機関は生き残った陸空高校の生徒、影斗達を問答無用で捕獲しようと同級生たちを使って襲いかかって来た。

何故、影斗達が狙われるのか。それは影斗達が宿している神器。セイクリッド・ギア。生まれ持って宿す異能の力を欲している。

視線を横にする影斗は自分と同じ境遇で元々は同じ陸空高校を通っていた同級生である幾瀬鳶雄と皆川夏梅。

彼等は『独立具現型』と分類されている神器(セイクリッド・ギア)を保持しおり、『ウツセミ』はそれを模した人工物。

故にウツセミと呼ばれている機関は天然ものである独立具現型の神器(セイクリッド・ギア)を保持している彼等を手に入れようと躍起になっている。

「俺のとは違うのか………?」

今までに聞いたこともない単語と説明を聞いて何とか理解を追いつかせる影斗はラヴィニアが説明してくれた独立具現型の神器(セイクリッド・ギア)とは違うのではないのかと疑念を抱く。

鳶雄は犬、夏梅は鷹、そして影斗は本。

神器(セイクリッド・ギア)ではあるのだろうが、独立具現型ではないことはわかる。

「シャドーのは別のカテゴリーの神器(セイクリッド・ギア)なのです」

影斗のことを『シャドー』と呼ぶ魔法少女ラヴィニア。

助けてくれたラヴィニアについて行き、辿り着いたのが隣町の駅から十数分の位置にあったマンション。

ここで鳶雄と一緒に状況などを教えて貰った。

そして同級生達は生きているという奇跡的な事実が判明した。

「で、話は変わるんだけど。……私と組まない?」

笑顔で申し込んでくる夏梅。

「私と組むの。組んで、一緒にウツセミを、その背後の組織を倒すのよ。やっぱりさ、一人じゃ心許ないじゃない? 二百人以上もいるのよ? それに対して旅行に参加せずに生き残った生徒は十人もいない。単純計算でも、一人でノルマ二十人以上よ。ヘタをすると、それ以上かもしれない」

「『ヘタをすると』って、何さ?」

「何人か捕らわれてしまうかもしれないじゃない。私たち生き残りの中から」

確かに。と無表情で告げる夏梅の言葉に納得する。

この場にいる自分を含めて三人以外にもしかしたら捕まっている者もいる可能性もある。

知り合いが目の前に現れたら躊躇するのも理解はできる。

皆を救う。

その強い意思を宿す瞳に隣にいる鳶雄も強く同意する。

夏梅からの最大の申し出は二人に取っても心強い。

一人よりも二人の方が心強いし、戦力が増えるにもいいことだ。

その為の「力」もある。

「――――救おう、皆を」

力強く宣言する鳶雄に期待の眼差しを影斗に向けられる。

「悪いが俺は断る」

だけど、影斗はそれを断った。

「ど、どうして……?」

立ち上がる影斗に戸惑いながらも問いかけてくる夏梅の質問に答えた。

「助けてくれたことと現状と神器(セイクリッド・ギア)のことを教えてくれたことには感謝する。だけど、それとこれとは話が違う。まず、お前の口から出てきたその『総督』は何者だ? 話を聞く限り怪しさが満点だ。自分の正体も明かさずに俺達に懇切丁寧に説明をしたり、どうしてお前等にはその『タマゴ』を渡した? どう考えても今回の一連に関する重大なことを隠しているように思える。もう一つは戦力不足だ。俺達、生き残りだけで二百人以上、それもウツセミを操っている組織がどれほどの戦力を保有しているのかも不明だ。死にに行くようなものだ」

「た、確かに私もまだ『総督』のことを完全に信用しているわけじゃなけど、近い内に会ってくれるみたいなのよ。その時に聞けば―――」

「それは何時だ? こうしている間にもウツセミは戦力を増している。その間、俺達はここでただ待っているのか? 神器(セイクリッド・ギア)を少しでも扱えるように鍛えたとしても付け焼き刃もいいところ。悪いが、俺は自分の身だけを守らせてもらう」

立ち去ろうとする影斗の肩を鳶雄は掴む。

「待ってくれ。新井だって友達がいるだろう? 心配じゃないのか?」

「俺に友達はいない。同級生という理由だけで助けるほどお人好しでも正義の味方でもない。俺とお前等じゃ考え方が違う」

掴まれた鳶雄の手を振るい落とす影斗は部屋から出て行こうと扉に手をかけようとする。

だが、その手をラヴィニアに掴まされる。

「シャドーは一人ではないのです」

「はぁ?」

突然の言葉に影斗は怪訝する。

「私とシャドーはもう友達なのですから」

「いつ友達になった? 魔法少女は出会った奴は皆が友達か?」

「シャドーの手、冷たいけど暖かいのです」

手を握りしめながら矛盾なことを言うラヴィニア。

「シャドーは心の優しい人だと私は思うのです。だからシャドーは友達である私達に力を貸してくれると信じているのです」

理屈が通っていない。

どうしてそんな理由でわざわざ危険なことに首を突っ込まないといけない。

馬鹿々々しい。意味不明にも限度がある。

振り払おうとしてもラヴィニアはその手を離さない。

綺麗な蒼い瞳は真っ直ぐに影斗を見詰める。

「………チッ」

小さく舌打ちする影斗は乱暴に髪を掻き毟る。

「お前には助けられた借りがあるからそれを返すまでは協力する。これでいいか?」

「はいなのです!」

満面の笑顔を見せるラヴィニアに嘆息する影斗。

一悶着あったが、何とかなったことに安堵する鳶雄と夏梅は胸を撫でおろす。

「それじゃ改めて私の名前は皆川夏梅! 夏梅って呼んでよね! 影斗!」

「俺は幾瀬鳶雄。鳶雄でいい。俺も影斗って呼んでもいいか?」

「………好きにしろ」

歩み寄ってくる二人に面倒くさそうに答えると夏梅が今後の方針について話す。

「さーて、じゃあ次の行動は決まりね!」

「次の行動?」

「ええ、もうひとつの『タマゴ』を渡した男子と合流するの。その男子もいちおうこの隠れ家に転居しているんだけど、外を出歩いてばかりなのよ。って、ウツセミの同級生も生きているわけだから、私たちが生き残りってのも変な感じよね」

「それって、誰のこと?」

「鮫島鋼生。とにかく、このマンションを本拠地として動きましょう」

鮫島鋼生。その名前に覚えがある。

元・陸空高校一の不良だ。

 

 

 

 

『隠れ家』の一室を与えられた影斗は大蛇の際に発現した神器(セイクリッド・ギア)を意識すると容易にその本は姿を見せた。

名称はわからないが、能力は発現と同時に自然と頭の中にイメージとして流れてきた。

ペンを持つように構えると装飾が施された羽ペンが影斗の手に握られる。

机の上にあるコップを見て本を開いて記載していく。

「『コップは舞い上がり、宙をさ迷う』」

本にそう記入していくと机に置かれたコップが宙を舞って縦横無尽に空中を動き回る。

「これがこの神器(セイクリッド・ギア)の能力、『記載』か」

本に記載されたことを現実にすることができる。

凄い能力だと思ったが、すぐにそうではないと気づく。

今もコップは宙をさ迷っている。あちこちと動き回るコップを見て記載した文字に横線を二本入れるとコップは床へ落ちる。

そして記載された文字も消えてしまう。

「やっぱりか………」

納得するように頷く。

何を、どのように、どれだけ、どういう風にと詳細に記載しなければいけない。

今のようにコップを空中にさ迷わせたみたが、どれだけ、どのようにと記載しなかったからいつまでも縦横無尽に空中を動き回っていた。

「『小さき氷の玉が机の上に出現する。出現から十秒で姿を消す』」

記載が終えると机には氷の玉が置かれている。実際に手に持っても冷たい本物の氷だ。

記載通りに十秒経ったらその姿を消した。

記載すれば無から有を生み出せる。問題はこれはどれほどまでに生み出せれるのか。

まだまだこの神器(セイクリッド・ギア)について知らなければならないことが多い。

少なくとも一つだけわかったことがある。

実戦向きではない。どちらかというと支援(サポート)向きの能力だ。

相手がこの神器(セイクリッド・ギア)を持っていて自分がその敵なら記載される前に潰して封じる。

どうしても記載するまでの間は盾役が必要になる。

明日は陸空高校一の不良である鮫島のところに行かなければならない。

戦闘が起きる可能性も考慮してどれだけ自分の神器(セイクリッド・ギア)が使えるのかを把握しなければならない。

「やっぱりシャドーは優しいのです」

思考に耽る影斗の背後から突如現れたラヴィニアに驚く。

「お前、どうやって入って来た……?」

鍵はしっかりと閉めたはず。と振り返る影斗はすぐさまラヴィニアから視線を外す。

「おま、なんて恰好してんだ!?」

「おかしいのですか?」

白いワイシャツ一丁の姿で影斗の言葉に可愛らしく首を傾げる。

白い肌の脚や今にも飛び出しそうなほど窮屈そうにしている豊満の胸。

少なくとも影斗が知っている限りの知識で男の部屋にこんな無防備な恰好でくる女などいない。

しかもシャワーを浴びたばかりなのかシャンプーの匂いがする。

ゴンッ! と自分の頭を思い切って殴った。

変態か、俺は……と煩悩を追い払う影斗。

「シャドー、自分を殴ってはいけないのですよ?」

「誰のせいだ……誰の………」

「?」

本気でわからないのか、首を傾げて難しい顔を作った。

天然か、天然なのか………?

苦悶する影斗の気も知らずにラヴィニアはベッドに座る。

「………何のようだ? 用がないのなら出て行け」

ラヴィニアと目線を合わせずに要件を促す影斗にラヴィニアは口を開いた。

「シャドーと話がしたいのです」

「出て行け。俺は忙しい」

即答だった。必要以上に関りを持ちたくはない影斗にとって要件以外で関わる気はなかった。

「トビーや夏梅の為にシャドーはキツイことを言ったのは知っているのです」

「はぁ? 俺がいつそんなことを言った?」

「相手はトビーたちを狙っているのは明白なのです。だけど、トビーたちは相手の戦力がどれほどなのか知らないことも把握していなかったのです。だからシャドーは警戒しろとトビーたちに言ったのですよね?」

「俺がいつそんなことを言った? 都合よく解釈し過ぎだ」

「シャドーも狙われているのに自分のことだけではなくトビーたちのことも心配するほど好い人なのですよ」

微笑みながら告げるその言葉が影斗の癪に障った。

「誰が――――ッ!」

顔を上げてラヴィニアに視線を向ける。だが、ラヴィニアは小さく寝息を立てながら気持ちよさそうに寝ていた。

「寝るの速すぎるだろう………この女」

言いたいことだけ言ってこちらの話も聞かずに眠りについたラヴィニアに嘆息する。

「気持ちよさそうに寝やがって……襲われても文句言えねえぞ………」

眠りについているラヴィニアを見てぼやく影斗は毛布をかける。

流石にあのままでは目の毒だ、と呟きながら影斗はあることに気付いた。

「俺の寝るところがねぇ…………」

ベッドが占領されている為に影斗は冷たい床で寝る羽目になった。

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