氷姫の操觚者   作:ユキシア

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暗黒の森

残りの四凶である元陸空高校を助ける為にワゴン車に乗った鳶雄達はアビス・チームの資料に目を通していた。

神器(セイクリッド・ギア)は多種多様の能力を持っており、アビス・チームの持つ異能は非常に厄介で、強力。条件が揃った時、凶悪で残忍な性能を発揮するものばかり。

その資料に目を通した影斗も眉根を寄せた。

彼等の能力は―――食らえば取り返しのつかない効果が多い。

緊張感が増す、車内のなかで、ラヴィニアが己の過去を語った。

「……………イタリアのとある海辺の街で私は生まれたのです」

彼女――――ラヴィニア・レーニは影斗と同じく一般家庭の出生で魔法の才能を有してこの世に生を受けた。

ただし、彼女は生まれながらに異能をを有していた。幼少の頃から、彼女の傍に具現化していた氷の人形――――神滅具(ロンギヌス)永遠の氷姫(アブソリュート・ディマイズ)』。

幼い頃はそれが何なのか知らず、自分以外には決して見えないその氷の姫君を「氷のオバケ」として恐れていた。

九歳の時に両親を事故で亡くし、常々「氷のオバケ」と語る少女を親類縁者は薄気味悪がり、ラヴィニアの引き取り先探しは難航した。

「そのときの私は、自身のこれからよりも、パパとママを失ったことによる深い悲しみとー――『氷のオバケ』への憎しみに包まれていたのです」

「氷のオバケ」を恨み、憎み、罵っても離れず、何も見えない人達から見れば、ラヴィニアは誰もいない空に向けて、大声をあげて暴れる厄介な娘にしか感じ取れなかっただろう。

その時にラヴィニアは出会った。

師である、南の魔女グリンダと。

心優しい恩師によって閉ざされていたラヴィニアの心は少しずつ氷解し、神器(セイクリッド・ギア)と魔法の扱い方を恩師から教わった。

森での質素な生活でも、ラヴィニアには掛け替えのない幸せな一時だった。

十三歳の頃、この世界の魔法使いとして生きるのであれば、他の魔法使いと交流を持った方がいいという恩師の判断に従い、ラヴィニアは『灰色の魔術師(グラウ・ツァオベラー)』で研鑽を積んだ。

それから数年後―――ラヴィニアに凶報が届く。

―――グリンダが、オズから来た魔女によって、襲撃を受けた。

「その報告を受けた私は、第二の故郷であるあの森に戻ったのです。ですが―――」

森の一軒家は、焼け落ちており、炭化した家の残骸を残すのみとなった。

グリンダの安否だけは不明だが、オズから来た魔法使いたちが関与していることだけは、その後の調査でわかった。

ラヴィニアはオズの魔法使いたちを追い、そのなかで、先日の『空蝉機関』、『四凶計画』に関わることになったのだ。

「……………お師匠さまの安否を問うために戦っているってこと?」

「……………彼女たちは要領よく答えないのです。ですから、オズに直接乗り込むか、こちら側で彼女たちがしていることに首を突っ込むか、とにかく、徹底的に追うことに決めたのです。これは、私の事情ですから、皆さんは皆さんの目的を叶えてほしいのです。邪魔はしません。私は私だけでも、彼女たちを追うのです」

普段の時は違う、冷徹な様相を見せる。

ラヴィニアの目的がわかり、鳶雄達は協力してくれたラヴィニアの目的に協力し合うと告げ、事情を知っているヴァーリも力を貸すと言う。

最後に乗車してから無言だった影斗に視線が集まる。

「……………俺も魔女に狙われている身だ。ついで程度に協力はする」

その答えに誰もが頬を緩ませる。

「勘違いするなよ? ついでだからな、ついで。あくまで降り掛かる火の粉を払った時についでに聞く程度だからな」

「それでも十分なのです」

影斗の言い分に微笑みながら返すラヴィニアに影斗は再び資料に目を向ける。

 

 

 

人気のない森の中、車のハイビームで暗闇の道を照らすが、少し先は暗黒の世界。

深夜の森の中で進むワゴン車。目的の場所までもうすぐのところで―――。

「前!」

紗枝が叫び、ヘッドライトが前方の道に人影らしきものを映し出した。

バラキエルが急ブレーキをかけて、車を緊急停止。

鋼生は後方の席から身を乗り出す様に訊く。

「なんだ!?」

「人よ! 人みたいなのが前にいたのよ!」

鋼生の問いに夏梅が答えた。

突然の事にバラキエルはシートベルトを外し、車から出ようとする。

「ちょっと待て」

影斗が全員に制止の声を飛ばすと、法典を出現させてページをめくる。

「なにしてるの?」

「俺の法典はこの場にいる全員の過去、現在、未来が自動で記されている。それを見て少し先の未来に何かあるか確認している」

以前は自分自身と鳶雄、夏梅、鋼生、ラヴィニアの四人だったが、ここ最近でページが増えてヴァーリと紗枝までも記されるようになった。

「便利だな、おい」

安全確認が取れる影斗の法典の能力に感嘆の声を出す鋼生。

全員分の少し先の未来に何もないことを確認し終えると、それをバラキエル告げる。周辺を調べるも人影、人らしきものは一向に現れない。

「そこに誰かいるのか?」

バラキエルが声をかけた方向に視線を集め、しばしの沈黙。すると、道路脇の木々の陰から、人影がひとつ――――。

バラキエルのライトがそこに当たると、そこにいたのは必至な形相をした一人の少女。

西欧人と思わせる顔立ちに暗めの色合いであるブロンドに特徴的なオッドアイ。右目が青く、左目が黒。

眉目麗しい少女は陸空高校のなかでも一番の美少女とされた―――七滝詩求子だった。

命懸けで逃げてきたかのように制服は所々破け、顔も泥が着いている彼女は絞り出すかのような声でバラキエルに訴える。

「……………助けてください」

「安心なさい。味方だ」

車内にいる影斗達は車から降りる。警戒する詩求子は車内から姿を見せた影斗を見た。

「新井君……………?」

「ああ」

覚えのある顔に目を見開く詩求子は影斗や同級生の姿に驚きと同時に安堵したのか、その場にへたり込んでしまう。

「ちょちょちょ! 大丈夫!?」

「安心して、七滝さん」

座り込んでしまう詩求子に夏梅と紗枝が駆けより、やさしく手を伸ばしていた。

同時に降りてきた鳶雄と鋼生も、残る同級生が無事だったことを受けて、緊張をいくらか解けて軽く笑みをこぼしていた。

「影斗、七滝さんと知り合いだったのか?」

「元クラスメイトだ」

陸空高校の元クラスメイトである詩求子と影斗は互いに顔は知っている程度の認識はあった。

「……………あれが、七滝のセイクリッド・ギアか?」

そう言う鋼生と共に、二人の視線が詩求子の両腕に向けていた。

彼女の両腕に―――仮面のようなものを顔につけた小型の四肢動物を抱えていた。頭部には二本の角が生えている。仮面のほうには饕餮文という四凶の饕餮について表した文様。

介抱されている詩求子だったが、少しだけ緩ませていた気をすぐに戻して、鳶雄たちに言う。

「ここから離れたほうがいいわ! 変な技を使う人たちと――――」

そこまで言いかけた詩求子だったが、理由は知れた。

鳶雄の横に現れた刃が唸り声をあげていたからだ。

暗がりの道に向けて威嚇する刃に鳶雄たちは身構えると、いつの間にか虫の鳴く音が消えて、じわりじわりと肌に敵意と殺意が伝わる。

「ふっ、明らかな殺意だ。おもしろい」

「……………この気配、魔法の術式ではないのです」

ヴァーリとラヴィニアも車から出て臨戦態勢を取った時、コッコッコッ、と奇妙な乾いた音が一定のリズムで前方から消えてくる。

姿を見せたのは五十センチほどの一本足の不気味な石像。背中に小さい翼を生やし、頭部には一本の角、一つ目であろう目は閉じている。

資料に出ていたセイクリッド・ギア、その能力を思い出すと同時にバラキエルは叫び、影斗は魔法陣を展開した。

「―――目を閉じろっ!」

突然震え出す石像。全員がバラキエルの指示のもと、目を閉じ、さらに腕で両目全体を覆う。

「……………?」

次に鳶雄達が目を開けた時、鳶雄達は漆黒の霧に包まれていた。

「光を完全に遮断させる魔法だ。しかし、初手からあれを寄越してくるとは……………」

霧を解除した時はもう石像の姿はなかった。

輝失の呪像(ブライン・シャイン・スタチュー)。放つ光をまともに浴びると徐々に視力を奪われ、状況次第では完全に見えなくなる神器(セイクリッド・ギア)

資料に目を通して、目を閉じただけは防げないかもしれないと思って念には念を入れて光を遮断させる魔法を発動したが、問題はなかったようだ。

相手に取り返しのつかないダメージを与えるような神器(セイクリッド・ギア)ばかりが集まっているのがアビス・チームだ。

「ぷぷぷ、うぷぷぷ」

不快な笑い声を発しながら姿を現したのはやせ型の男だ。その足元には例の石像もある。

「……………目がどんどん見えなくなってほしい。…………目が見えなくなっていく感想を聞かせてほしい……………」

男は言うなり、足元にいる石像の目を開かせようと―――。

「スラッシュ!」

「行け!」

「伸ばせ!」

黙って攻撃をさせる鳶雄達ではない。すぐさまに三組の同時攻撃を繰り出すが、男は不快な笑みを消さない。

「あの像! 二体いるよ!」

その一声にヴァーリと影斗は素早く振り返り、手元から銀色のオーラ、魔法陣を展開させて背後にある石像を破壊する。

「ラヴィニア!」

バラキエルがラヴィニアの名を呼ぶと、魔法陣を展開させて相手の男に放つが、ダメージはなかった。

その男に向けてバラキエルは手元に小規模の放電現象を起こしながら言う。

「これ以上、私を相手にするほど、そちらも愚かではないだろう?」

グルゴリの幹部の言葉に男は笑みを消さずに闇の中へと消えていった。

虫の鳴き声が再開し、殺意もなくるなると、鳶雄達は戦闘を終えて汗を手で拭う。

息をつくメンバー。詩求子は思い出したかのように皆に言う。

「古閑くん! 皆、古閑くんが……………っ! あっちにある村の先で戦ってるの!」

村の方向に指をさす詩求子の表情は切迫していた。

どうやら、事態は大きく動いているようだった――――。

 

 

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