氷姫の操觚者   作:ユキシア

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戦闘開始

一戦を終えて鳶雄達は村まで移動し、ヴァーリが村の様子を調べてた結果、『空蝉機関』か、『オズの魔法使い』が術か何かで眠りに尽かせたらしい。

余計なものを見られない為に、事が複雑になった際に消すために。

そして、グリゴリから離反したサタナエルのオーラを感じ取ったバラキエルはそちらに向かい、鳶雄達は残りの四凶である古閑を助けに向かう。

田んぼだらけの村を進む鳶雄達は緊張感に包まれるなか、腹の虫の音が聞こえた。

その音の正体は詩求子とその神器(セイクリッド・ギア)、饕餮―――ポッくん(詩求子命名)だ。

その音を聞いた影斗は自身の非常食を詩求子に渡す。

「それでも食べてろ」

「……………うん、ありがとう。新井君」

「勘違いすんな。その音で敵に知られたら面倒なだけだ」

お礼を素直に受け取れない捻くれた男子に鳶雄達も詩求子とポッくんに非常食を渡す。

「ねぇ、二人はクラスメイトだったの?」

影斗と詩求子の様子を見て、声をかける夏梅に詩求子は頷く。

「うん、よく助けてもらってたんだ。重たい物とかよく持ってくれたし、金欠の時に食べ物も分けてくれたの」

「俺の前でウロチョロしているのが目障りだっただけだ」

詩求子の言葉に素っ気なくそう返すも、全員は暖かい眼差しを向ける。

「ツンデレね」

「ツンデレだよね」

「ツンデレなのです」

「黙れ、女子共」

一蹴するも、華麗に無視(スルー)される。

「そもそも礼なんて言われる筋合いはない。俺はお前と古閑を見捨てようとした人間だ」

助けるつもりはない、と朱雀と話した時に鳶雄達の前で堂々と言ってのけた影斗。

本来ならこの場にはいない。そのはずだった。

だが―――

「やっぱりシャドーは素直じゃないのですよ」

「え? どういう意味?」

その言葉にラヴィニアは呆れるように息を吐き、その理由を述べる。

「本当に助けるつもりがないのでしたら、話が纏まるまで聞く必要はないのですよ」

「あ、確かに」

ラヴィニアの言葉に納得するように頷く鳶雄達。

きっとなにかしらの理由をつけてここに来ていたはず、とラヴィニアは言う。

「そんなお人好しじゃねえよ、俺は」

「十分過ぎるほどお人好しなのですよ、シャドーは」

そっぽをむく影斗に柔和な笑みを見せるラヴィニア。

そんな二人を置いて、夏梅は詩求子に総督の助けを拒否した疑問を投げると、詩求子と古閑は『カオスをもたらす者たち』に捕まり、実験みたいなことをされ、そこで古閑は偉い人と『取引』をしたと語る。

「その偉い人に何かされた古閑くんはね、怖いことになってて……………」

言い淀む詩求子。表情は真に迫っていた。

「何だよ、古閑が怖いことになってたってよ」

鋼生の問いに詩求子が答えようとした時、山の方から轟音が鳴り響いた。

尋常じゃないその音に全員の視線が向けられるなか、詩求子はポッくんを抱きしめながら声を絞り出す。

「……………古閑くん、またなったんだ…………っ!」

震える詩求子。尋常ではないオーラを感じ取った鳶雄達はそのオーラの発生している場所へと駆け出す。

 

 

 

古閑がいる場所に向かう森閑とした田舎風景からはおよそ想像できない物々しい炸裂音や破砕音が聞こえてくる。

戦闘に巻き込まれているのは確か。森の中に進んで行く一行だったが、走りながらヴァーリが独り言をつぶやいていた。

「何? どうした? ……………何だと? それは本当なのか?」

「ヴァーリ、あれ何かわかるの?」

夏梅がヴァーリにそう訊くが―――。

『どうやら、ここにいる者たち全員に聞こえるように話したほうがいいかもしれないな』

聞き覚えのない声がヴァーリの方から聞こえた。

『皆と話すのは初めてだったか』

見れば彼の肩に乗っけているドラゴンのぬいぐるみの口が動き、声を発していた。

それを聞いた影斗は尋ねた。

「二天龍、白き龍(バニシング・ドラゴン)の白龍皇アルビオンだな?」

『その通りだ。自己紹介の手間が省けたが、あいさつが遅れていたことに関して詫びよう』

鳶雄達が驚く中で冷静にその正体を看破した。

ドラゴンのぬいぐるみと思われるそれはデバイスらしく、アルビオンの声を淀みなく外に発せられるように活用している。

「それで、『白い龍(バニシング・ドラゴン)』にあらためて訊きたいんだけど、何がわかったんだい?」

『先ほど、前方の山からあがった巨大なオーラだが、あれはとある現象に非常に似ているのだ』

「……………とある現象?」

問い返す鳶雄にアルビオンは続ける。

『セイクリッド・ギアは、所有者の力量、または体と心に劇的な変化が訪れたとき、別の領域に至ることがある……………』

「……………禁手(バランス・ブレイカー)

禁手(バランス・ブレイカー)――――セイクリッド・ギアの力がある領域に達したとき発現するという、セイクリッド・ギアの最終到達点とされる現象。

基本的にあり得ないほどのパワーアップが起こるとされているが、所有者しだいで、その現象は異例な力を形になることもある。

『その通り。かのオーラの波動はその現象に非常に似ていた』

「似ていたとはどういう意味だ? 古閑は禁手(バランス・ブレイカー)に至っているんじゃないのか?」

腑に落ちないアルビオンに説明に尋ねる影斗アルビオンは言葉を濁す。

『……………わからない。私は禁手(バランス・ブレイカー)をよくわかっている。しかし、あくまで似ているのだ』

疑問しか出てこないこの状況で、ついに鳶雄達はオーラが発せられた場所まで辿り着き、ラヴィニアの魔法で作られた光明が、辺りを照らす。

「うっ!」

思わず言葉を詰まらせる夏梅の反応。そこには血に塗れた凄惨な光景だった。

切り刻まれた者、腕や足を飛ばされた者、頭部をぐちゃぐちゃにされた者。むごたらしい死体がこの一帯に倒れ込んでいた。

紗枝や詩求子は悲鳴を無理矢理手で押し込めて、顔を背ける。

目を背けたくなるこの場所の中で、唯一動く何かがあった。

そちらに光を当てると、そこには一人の少年―――古閑雹介がいた。

ボサボサ気味に所々金のメッシュを入れており、全身に言い知れない怪しいものを纏わせている。

右腕に籠手らしきものを装着しているが、鳶雄達は気になったが、古閑は詩求子いることを知ると、軽い口調で言ってくる。

「おっ、七滝じゃんか。戻ってきたのか。どうかしたのかって――――これはまた」

詩求子の周りにいた鳶雄たちにも気づき、指で一人一人指して数えていた。

「えーと、幾瀬、鮫ちゃん、新井、皆川と東城……………それに外国人が二人と。もしかして、四凶揃い踏み…………の割に、このままだと七凶になるか?」

首を傾げながらそう漏らす彼の傍らには―――黒々とした毛の塊のような物体が存在していた。

よく見れば毛の長い犬種のような生物なのだが、その生物が纏うオーラは、不安を感じさせるほどに黒く淀んでいる。

「ああ、こいつはブリッツ。俺のセイクリッド・ギアって奴という話だ」

四凶最後の一角―――『混沌』。

鳶雄の刃と古閑のブリッツは互いに目を合わせ、鳶雄達はそれを静観していたが、古閑は肩をすくめる。

「まぁいい。それとり――――」

古閑の視線が山中の奥を捉える。

山の奥より、闇と共に現れたのは紫色のローブという魔法使いの恰好をした初老の女性外国人だった。

その老女を影斗達は覚えている。

『空蝉機関』で影斗と一戦交えた神滅具(ロンギヌス)所有者――紫炎のアウグスタ。それと、弟子のヴァルブルガと共に複数人の魔法使いを引き連れて現れた。

「囲まれたのです」

ラヴィニアはアウグスタを睨めつけながらそう言う。

「『空蝉機関』の連中が苦戦していると聞いたんでね、弟子たちとここに来てみれば―――例の狗どもと、法典の所有者、グリンダの弟子もいるとはね」

愉快そうな声音でそう言う。すると、この場を冷気が支配し始める。

季節違いの冷たい空気、その発生元であるラヴィニアは怖いほど冷たい表情となっており、白い息を吐きながらアウグスタにこう述べる。

「ちょうどいいのです。トビーや夏梅たちのお友達を助けながら、あなたたちを一掃するのですよ」

ラヴィニアの長髪に老魔法使いは不敵な笑みを浮かべる。

「グリンダの弟子とは思えないほど、怖い眼をするね」

「……………あなたたちがそうさせたのです」

緊迫感が増す状況のなか、突如アウグスタたちの上に魔法陣が出現し、光の槍が降り注がれるも、アウグスタの展開された防御魔法陣によって防がれた。

「せっかちだね、法典の。会話を楽しもうとは思わないのかい?」

「戦闘中にそんな隙を見せるか」

手を前に突き出していた影斗は鋭い眼差しをアウグスタに向けている。

狙われている身である以上は一切の容赦せず倒すに限る。

「ヴァルブルガ」

師匠の呼びかけに後方で待機していたゴスロリ調の服を着た少女が、楽しそうに小躍りしながら前に出てくる。

「はーい、お師さま♪」

「おまえは法典と遊んであげな」

「うふふん♪ りょーかいです! イケメンとお相手だなんて嬉しいわねん♪」

軽い口調とは裏腹に、無邪気ながらも冷酷な色合いを見せるその瞳は影斗に向けられる。

「さて、私は―――」

アウグスタの視線がラヴィニアに移した。

「グリンダのこと、教えてあげてもいい。ただし、私に勝てたらだけどね。――――ついてきな、氷姫」

師弟の二人は静かに夜の山の闇に消えて行った。

「……………っ!」

この場から距離を取ったアウグスタにラヴィニアは判断に苦しんでいた。

「ラヴィニア」

「っ!」

影斗から初めて聞いたかもしれない名前呼びに少しばかり驚くラヴィニアに影斗は言う。

「お前はお前の目的に集中しろ。こっちを気にして勝てる相手じゃねえだろうが」

「でも……………っ!」

「何の為にここ半月鍛えてきたと思ってる? 自分の身ぐらい自分で守る為だろうが」

追いたくも、仲間を置いてまで駆け出す訳にもいかないラヴィニアの背中を押す様に影斗がそう告げると、夏梅も後押しする。

「影斗の言う通りよ! お師匠さまの手がかりがつかめそうなんだから、追わなきゃダメよ! ここはなんとかするから!」

鳶雄たちも二人の意見に応じるように頷いた。

ラヴィニアは仲間の厚意に感極まった表情となったが、すぐに意識をアウグスタの去って行ったほうに向けて行く。

「ついでだ、あの老婆の弟子をとっ捕まえて情報を聞いといてやる」

「ありがとうなのです、シャドー! 皆さん!」

ラヴィニアはアウグスタを。影斗はヴァルブルガの去って行った方に駆け出す。

この場を後にする影斗を待っていたは、醜悪な笑みを浮かばせているヴァルブルガ。

「おほほほほ♪ さぁ、楽しみましょうん!」

「うるせぇ」

互いに魔法陣を展開させて戦闘を開始する。

 

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