氷姫の操觚者   作:ユキシア

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仲間

山間の村より連れ戻したラヴィニアは、そのままグリゴリの医療施設に運び込まれ、『灰色の魔術師(グラウ・ツァオベラー)』の関係者が見守るなかで、各種検査と治療を受けたのだった。

その間に、アウグスタの魔法の影響が残らない措置を幾重にも受け続け、今に至る。

専用の病室に運ばれ、十日間眠り続けていた彼女はようやく目覚めた。

「ようやくお目覚めか、眠り姫」

夏梅と詩求子に強引にこの場に連れてこられ、ラヴィニアと二人っきりにされる。

部屋から出て行く時に、笑顔で親指を立てていた夏梅には若干苛立った。

「おかげさまで元気なのです、シャドー」

上半身だけ起こしていつもの、影斗が知っている笑顔と声で語りかけてくる。

「それはよかったな。後で幾瀬たちには謝っとけよ? 心配してたぞ」

皮肉な物言いで返す影斗にラヴィニアは柔和な笑みを見せるだけ。

素直になれない影斗の心情を察しているかのようにただ、彼女は微笑む。

「………………シャドー、本当にありがとうなのです」

ラヴィニアは改めるかのように礼を口にした。

「あの時、お師匠さまの声を聞いて、目の前が真っ暗になったのです。もう、自分は何を信じれば、どうすればいいのかわからなくなったのです……………」

師匠であるグリンダの痛恨とも言える言葉を聞いて、動揺する隙を狙われてアウグスタに身体を乗っ取られてしまったラヴィニア。

「ですが、その時にシャドーの声が聞こえたのですよ」

「…………………………何のことだ? 夢でも見てたんだろ?」

照れ隠しなのか、はぐらかそうとする影斗の手をラヴィニアは手に取る。

「嬉しかったのです……………シャドーの声が、想いが私を救ってくれたのです」

影斗の手を胸元に寄せて、その瞳は少しばかりの不安の色を見せながらラヴィニアは影斗を見据える。

「信じて…………いいのですよね?」

「………………………………俺は自分の言った言葉は曲げない」

「ちゃんと言葉にして言ってほしいのです」

弱弱しくも不安そうに声を震わせているラヴィニアは影斗は乱暴に髪を掻き毟る。

「俺はお前を裏切ったりはしない。だから、信じろ」

ラヴィニアから視線を逸らし、頬を少しばかり朱色に染めながらもぶっきらぼうにそう答えた影斗にラヴィニアは満面の笑みを見せる。

「ありがとうなのです、シャドー……………私もシャドーのことを誰よりも信じているのです」

その言葉に影斗の顔がこれ以上にないぐらいに真っ赤になった。

「私はお師匠さまと直接会って、真相をあらためて問うのです。その時、シャドーも一緒にいて欲しいのです」

「…………………何で俺まで」

「ダメ、なのですか……………?」

道端に捨てられた犬のような寂しい目を向けてくるラヴィニアに言葉を詰まらせる。

これがラヴィニアでなければ演技だと一考する影斗だが、この天然女(ラヴィニア)はそんな器用なことができる奴ではないことぐらい知っている。

「…………………………俺もオズの魔法使いに狙われている。少なくともあの老婆の弟子はそうだ。なら、その時に出会ったら嫌でも一緒にいる」

素直に一緒にいるとは言えない不器用な男の言葉にラヴィニアは微笑ましく笑みを見せる。

「いざという時は俺がお前を守ってやる」

「えっ?」

予想していなかったかのようにその言葉を聞いて目を丸くするも、当の本人は真剣だった。

「………………………………これでも、お前には感謝してる。それぐらいの恩は返させろ」

だけど、それ以上の言葉は続けられずに結局はいつもの物言いになってしまった。

だが、その一言は確かにラヴィニアの耳に届き、彼女の顔を赤く染めて、彼から視線を逸らした。

だが、互いに繋がれているその手を振り払うことはしなかった。

ガタッ。

扉の方から音がした。

「ちょっ!? 押さないでよ!?」

そして、扉の先から夏梅の声が響いて影斗は無言無表情でその扉を開ける。

「「「きゃっ!?」」」

夏梅、紗枝、詩求子の女性陣が雪崩れ込んできた。

通路側には苦笑している鳶雄、ほぉーと感心しているかのように頷いている鋼生、ニヤニヤといやらしい笑みを見せているアザゼル、どこか少し不服そうに壁に背を預けているヴァーリ。

全員集合していた。

「おまえら……………」

ふつふつとお湯が沸騰しているかのように怒りが沸き出てくる影斗は怒りで肩を震わせている。

「ち、違うわよ! けっして覗いていたわけじゃ……………たまたまって言うか、偶然というか……………とにかく違うの!?」

目を泳がせながら必死に弁明する夏梅。

「新井君、もうちょっと踏み出そうよ……………」

最後まで自分の気持ちに素直になれなかった影斗に指摘するかのように告げる紗枝。

「えっと…………ごめんなさい」

素直に謝る詩求子。

「えっと、ごめん……………一応、止めたんだけど」

「ま、いいじゃねえか」

覗いていた女性陣を止められなかったことに苦笑しながら謝る鳶雄と呆気欄と結果オーライかのように気軽に言う鋼生。

「あーなるほどな。そういうことだったのか」

いやらしい笑みを見せながら意味深の台詞を言うアザゼル。

「新井影斗。同じ禁手(バランス・ブレイカー)に至った者同士、激しく()ろう」

不服そうな視線で影斗を見据えながら模擬戦を要求してくるヴァーリ。

「………………………………」

怒りというのは一周すれば冷静になれるのだと、身を持って体験した影斗は魔法陣を展開させる。

「……………気絶させて記憶を消してやる」

その目は座っていた。

本気(マジ)の目をしていた。

やばい、と思った鳶雄達の必死の抵抗と謝罪もあって事なきを得た。

ラヴィニアはその光景を微笑ましく見ていた。

「シャドーが皆と仲良くなって嬉しいのです」

 

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