氷姫の操觚者   作:ユキシア

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冬の深夜

――――オズの『東の魔女』アウグスタを倒してから、季節が移り変わっていた。

幾瀬鳶雄たちは、深夜の郊外で任務に当たっていた。

内容はサタナエルが各地区に放っているエージェントの排除及び捕縛である。

サタナエルが従えている『深淵に堕ちた者たち(ネフィリム・アビス)』ことアビス・チームの者を鳶雄たちは追っている。

アビス・チームが持つ異能―――セイクリッド・ギアは厄介な代物で時と場所、条件が揃ったとき、凶悪で残忍な性能を発揮する。

食らえば取り返しのつかない効果が多い能力の持ち主を集めた組織がアビス・チームだ。

鳶雄たちと行動を共にしている新井影斗とヴァーリはアビス・チームの一人を追い詰めた。

「投降しろ」

短く、最終警告する影斗。

相手―――女性は追い詰められたことにより、己の異能を解き放つ。

「貴方達の言うことなんて聞かないわ!」

彼女の隣から現れたのは一見、長身の黒髪の女性のように見えるが、その顔は口裂け女のように口が裂け、眼窩はない。

独立具現型のセイクリッド・ギア『呪歌の女像(ララバイ・トゥス・イドル)』。

その裂けた口から呪いの歌を叫び、対象を呪う力がある。

大きく息を吸う独立具現型に嘲笑を見せる彼女だが、影斗が魔法陣を展開させて独立具現型を瞬く間に消し飛ばした。

「………………………………え?」

あまりにも一瞬の出来事で理解が追いつかなかった彼女を眠りの魔法で眠らせた。

「やはり、俺の出番はなかったか」

手際よく対象を捕縛した影斗に戦えなかったことに不満そうに口にするヴァーリを無視して耳に付けたインカムに報告する。

「目標を捕縛した。怪我はない」

『わかりました。鳶雄君たちの方も戦闘を終えたとのことです』

後方支援役を担っている七滝詩求子から連絡を受けて捕縛した彼女を抱えて移動する。

 

 

廃墟の外で合流する鳶雄たち。

鳶雄&夏梅組、鮫島&ラヴィニア組、ヴァーリ&影斗組の三方が顔を合わせる。

目的であるアビス・チームは特殊な手錠を腕にははめ、異能を発揮させないようにして転移型の魔法陣で本部に送り届ける。

オズの魔法使いのいざこざのあと、鳶雄たちはバラキエルの師事して『堕ちてきた者たち(ネフィリム)』で基礎から鍛え直し、あの頃よりまた一つ強くなった。

アビス・チームの下位構成員掃討の任務を正式に与えられるほどになって実戦を積んで飛躍的に実力を伸ばしていた。

詩求子が自身のセイクリッド・ギア―――ポッくんを抱きしめながら言う。

「やっぱり、夏梅ちゃんたちってすごい。私なんて連絡役がせいぜいで………………………」

彼女は短期間で戦闘までこなすようになった同級生に敬意を払っていた。

「自分のセイクリッド・ギアも碌に使えない奴がいてもいい迷惑だ」

「ちょっと影斗! そんな言い方しなくてもいいでしょ!!」

仲間に対して冷たい発言に夏梅は声を荒げるも、影斗は冷静に返す。

「事実だろうが。特に饕餮の力は四凶のなかでも凶悪だ。お前等も聞いてんだろう? 覚醒した饕餮が暴走して宿主すら喰われた。そんな凶悪な力を近くで暴走でもされて巻き込まれるのは御免だ。連絡役で甘えとけ」

最後にそれだけ告げて一人、転移魔法で一足先に帰った影斗。

その言葉に詩求子は饕餮を強く抱きしめる。

「もう! どうしてあんな言い方するのよ!!」

憤る夏梅。それを宥める紗枝。

アウグスタの一件から少しは距離が縮まったと思っていたが、やはり彼はまだ鳶雄たちのことを完全には信用してはいないようだ。

ラヴィニアのおかげで多少は人間嫌いが緩和されても根っこの部分は変わらず、冷たい態度と発言をしてしまうことがしばしば。

「シグネ、元気出すのですよ。シャドーはきっとシグネを気遣って言っているのです。無理して戦う必要はない、とシャドーは言いたかったと思うのです」

「………………………………うん」

ラヴィニアの励ましに小さく頷く詩求子の反応に紗枝は思わず。

「詩求子ってもしかして新井君のこと……………」

そこまで言うと詩求子の顔は赤く染まり、饕餮で顔を隠すもバレバレであった。

「へぇ、あいつも隅におけねえな」

口笛を吹いて楽し気に言う綱生に意外な事実に目を丸くする鳶雄。

「嘘!? そうだったの! 影斗のどこがよかったの!? やっぱりツンからデレのギャップにキュンってきたの!?」

恋話に盛り上がる夏梅だが、ラヴィニアはよくわかっておらず首を傾げる。

「えっと、前にも話したと思うけど、私と新井君はクラスメイトだったんだけど話したことは一度もなかったの」

人を拒絶していた影斗はいつも一人でいた。

クラスメイトとして多少は気になってはいたけど、特に意識したわけではなかった。

「だけど、困っている時とか何も言わず手伝ってくれたんだ」

担任の教師に頼まれて重たい荷物を運んでいる際、影斗はかっさらうようにそれを持って運んでくれた。それ以外にも助けて貰ったことがある。

「それに新井君、お礼を言っても『俺が勝手にしているだけだ』って言ってすぐにどこか行っちゃって………………………」

「ツンデレね」

「ツンデレだね」

「ツンデレなのです」

「ツンデレだな」

「ツンデレ、かも」

「ツンデレ?」

全員(ヴァーリを除く)が影斗をツンデレだと答えた。

「でも、一番助かったのは怖い人達から助けてくれた時なんだ」

それはまだ陵空高校の学生で一年生の頃、詩求子は不良に絡まれて強引にどこかに連れて行かれそうになった時、影斗はその不良達から詩求子を助けた。

自分も怪我を負いながらもお礼も受け取らずに去って行った時の後ろ姿を詩求子は覚えている。

後日、学校で礼を言っても俺が勝手にしているだけとしか答えなかった。

思えばそのめぐり合わせもセイクリッド・ギアによる影響だったかもしれない。

「なるほどね。つまり、詩求子にとって影斗はヒーローってわけね」

夏梅の言葉に詩求子は恥ずかしそうに小さく首を縦に振った。

「それに助けてくれたお礼もきちんとしたいの………………………」

助けて貰ってばかりで少しもお礼をしていない詩求子はこれまで助けて貰ったお礼をきちんとしたかった。

だけど、それを本人が受け取るかはわからない。

少なくとも素直にお礼を受け取る姿が想像もできない鳶雄たちだった。

「あー、盛り上がるのもいいがそろそろ本拠地に戻ろうぜ」

綱生や鳶雄たちは白い息を吐きながら撤収の準備を始める。

夏梅が白い息を吐きながら、夜空を眺める。

「もう年明け寸前だもんね。………………なんだか、早かったわね」

鳶雄たちが事件に巻き込まれ、力に覚醒してから、初めての年越しを迎えようとしていた。

 

 

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