氷姫の操觚者   作:ユキシア

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反省会

元陸空高校の生徒である鳶雄達は例の事件――『空蝉機関』をきっかけに国の闇、異能、異形たちの世界に触れてしまった。元の生活は戻れない鳶雄達は『神の子を見張る者(グリゴリ)』で世話になり、そこで己の持つ力を磨いて強くなろうと日々努力している。

その一人である新井影斗は正月明け早々、他の教室の生徒との模擬戦をしていた。

「フン」

『バラキエル教室』の生徒である影斗の相手は『アルマロス教室』の生徒の一人。影を操るカウンター系神器(セイクリッド・ギア)闇夜の大盾(ナイト・リフレクション)』。

影を使って攻撃を受け流すタイプの神器(セイクリッド・ギア)使い。

魔法を主力とする影斗にとって相性は最悪といっていい。

現に今も魔法を放てば影に魔法を吸い込まれて放った影斗自身に襲いかかってくる。

劣勢を強いられながらも影斗は冷静にぼやく。

「試すか……………」

影斗は懐から複数の札を取り出して印を結ぶ。すると札は影斗の相手の周囲に展開する。

「くっ! 影よ!」

危険を察知した男子は影で札を吸い込ませようとするが、一手遅かった。

札が輝いた瞬間、男子の影が消滅した。

「『異能封じ』。封印系統の陰陽術だが、まだ荒いか…………」

「!?」

異能を封じられた男子の顔面直前で魔法陣を展開させて攻撃できる一歩手前で止めている。それを見て己の敗北を知った男子は大人しく降参した。

「まぁ、神器(セイクリッド・ギア)の能力を封じることがわかっただけでも良しとするか」

魔法だけでなく陰陽術にも手を出している影斗はその力がどれほど通用したのか判断できただけでも良しとして模擬戦を終わらせた。

 

 

 

 

『アルマロス教室』との模擬戦を終えた鳶雄たち。

四戦して三勝一分けし、試合後のシャワーを浴びてから教室に集まって反省会をしていた。

「くーッ! 悔しいわ! あともうちょっとで勝てたのに!」

夏梅がシャワー後のスポーツ飲料を呷りながらそう叫ぶ。

夏梅の相手は守りが固いタイプの能力者で夏梅は相手の防御力を突破することができず、結局は長期戦となったために引き分けとなった。

「私にも必殺技があれば……………」

結果に嘆く夏梅に紗枝が言う。

「ううん、立派な戦いだったと思う。夏梅の負けないって気持ちが伝わる試合だったもの」

その言葉に夏梅は紗枝を抱きしめた。

「紗枝! いいこと言うわ!」

詩求子が言う。

「あそこまで戦えるだけ凄いよ。私なんてまだ体力作りだから、絶対途中でスタミナ切れちゃう。ていうか、ポッくん、食べるだけだし……………」

胸に抱く彼女の分身はこんなときでも何かを食べている。

体力が不足して動けなくなることは死に直結する。だから教官であるバラキエルは最初体に体力りを教えているのであった。

するとふと綱生が影斗に訊く。

「そういや、影斗。お前試合中に使ったのって」

「陰陽術だ」

その問いに簡潔に答えると夏梅が驚きの顔で言う。

「そうそう! いつの間に覚えたのよ!」

「まだ粗削りもいいところだ。あんなもん覚えたとは言えねえよ」

「いやいやいや! それだけでも凄いって!」

粗削りで試合相手の神器(セイクリッド・ギア)の能力を封じた。それだけでも驚嘆に値するのに本人は不服そうだった。

すると鳶雄が……………。

「なぁ、影斗。もしよければだけど紗枝や詩求子達にも教えてやってくれないか? ほら、二人は術の類を勉強しているんだし」

鳶雄の言う通り、紗枝と詩求子は皆の役に立ちたい為に本や資料を見ながら術の勉強をしていた。まだ紙人形を操るだけだが、影斗が指導すればより速く上達できると思って。

だが――

「甘えんな。自分の力は自分で磨け」

そう一蹴する。

「俺達が力を学び、身に付けているのは戦いに身を投じるからだ。戦場に甘えも理想も存在しねぇ。戦場に立てない奴は初めからここにいろ」

その言葉に紗枝も詩求子も表情を俯かせる。

「だからねぇ、どうしてそんな風に言うの! もっと他に言い方ってものがあるでしょうが!」

冷たいその発言はともかく、内容は戦えない二人を戦場から遠ざけようとするもの。影斗の言葉に少しずつ慣れてきた夏梅達だが、相も変わらないその発言に怒声をあげてしまう。

それとは関係なく、正月の参拝から影斗の態度はいつもよりも冷たく感じてしまう。

参拝の時に偶然出会った影斗の妹――緋陽。それが関係していると鳶雄達は思っている。

親友に騙され、友人も、家族でさえも自身のことを信じて貰えず、人間不信となった影斗。その心の傷は深く、いまだに鳶雄達とは距離を取っている。

特にここ最近では紗枝とも関係も険悪に近い。義務的な、それも必要最低限しか話さない。

どうにかしたいと思うも根深い問題の為に下手に手を出すことができずにいる鳶雄達。

しかし、そんな影斗に近づける例外もいる。

「シャドー。ちゃんと言わないと駄目なのですよ?」

声がする方に顔を向けるとそこには制服姿のラヴィニアがいた。

「ラヴィニア、その恰好どうしたの」

「夏梅やシャーエ、シグネが着ているのを見ていたら、私も着てみたくなったのです」

そう言う彼女はその場でくるりと回転してみせた。

制服姿の彼女は非常に様になっており、鳶雄もちょっとだけ見とれてしまっていたが、ラヴィニアは影斗に近づく。

「シャドー。私は知っているのですよ? シャーエとシグネの為に総督に頼んで術の類の本を集めて二人にもわかりやすいように纏めているのを」

ラヴィニアの言葉に紗枝と詩求子だけではなく、鳶雄たちも驚く。

「……………………あれは俺が陰陽術について調べる為に頼んだものだ。そいつらの為じゃねえ」

「本当にシャドーはツンデレさんなのです」

「誰がツンデレだ、誰が。つーか頭を撫でんな」

いい子いい子、と影斗の頭を撫でるラヴィニアの手を払いのけるも、ラヴィニアは影斗の頭を撫でるのをやめず、影斗が先に折れてもうラヴィニアの好きにさせている。

その光景は既に見慣れた光景だけど、それでも瞬く間に影斗との距離感を無くすラヴィニアに鳶雄達は尊敬の念すら抱いていた。

例えるなら凶暴犬を手懐けたドッグトレーナー。心なしか影斗の頭と臀部に犬耳と尻尾があるように見えてしまう。

「………………………」

それを見た詩求子は無意識に饕餮を強く抱きしめるのであった。


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