鮫島鋼生に会う為に影斗達は鋼生がいる廃業したデパートにやってきた。
人気のないデパートの前に影斗だけではなく、鳶雄や夏梅も構えてしまう。
現在、置かれている立場を鑑みれば危険な場所に他ならない。
だが、ラヴィニアのスティックの光は、デパート内に向けていっそうまばゆく輝いている。
それは、このデパート内に鮫島鋼生がいるということだ。
「………ウツセミの素になっていてもなんらおかしくない」
意を決して夏梅が言うと二人の付近には独立具現型の
影斗も本を出現させて、緊張を誤魔化す様に息を吐いた。
「なかに入るのです」
ラヴィニアは特に臆することもなく、裏の方に向かおうとしていた。正面の入り口はシャッターが降りて入ることは出来ないが、中に鋼生がいるのならどこからか入れるところがある。
四人は関係者用の入り口を探して歩を進めた。
「やっぱり、暗いわよね……」
夏江のつぶやきは小声でも店内に軽く響いた。
関係者用の入り口がこじ開けられていたおかげで容易に侵入することはできた。
だが、デパート内は流石に灯りはついておらず、ペンライトを頼りに進んでいるなかで夏梅の提案で散って捜索する。
ラヴィニアの魔法で相互連絡を取り合うという形で影斗は鳶雄と共に鋼生を捜索する。
(そっちはどうだ?)
(まだ何も。グリフォンに先を行かせているんだけど、特になしね)
互いに連絡を取り合って、状況を確認するが変わらず。
一階は何もなし、と思っていたその時に鳶雄の
警戒を強いる影斗と鳶雄。
鳶雄がペンライトをそちらの方に向けると柱の裏側から白い猫が一匹現れる。
「ウツセミ……?」
そう思い、口にした影斗だが、初めて出会ってウツセミである大蛇とは違う。どちらかとでいうと鳶雄や夏梅が使役している独立具現型の
すると柱の裏側からもうひとつの影が姿を見せる。
ペンライトに当てられたのは背の高い茶髪の少年。
目的の人物である―――鮫島鋼生だった。
鋼生は携帯電話を見てから少しすると嘆息した。
「………どうやら、このリストにない奴みたいだな。すると、生き残り組か? ったく、こんなところまで来やがってよ」
後頭部をかきながら文句を垂れる。
「おまえら、皆川や魔女っ子と一緒に来たのか?」
「………ああ、彼女たちも一階を捜索しているよ」
「………俺の動きを把握されたってーと、魔女っ子か、あの生意気な銀髪のクソガキに特定されたってところか。………ったく、当面勝手にやらせろと言ったのによ」
毒つくように鋼生は言う。
――――と、影斗と鋼生は何かに気付いたようにエスカレーターの先に視線を送った。
子犬や猫も同じ方向を向いて、鳶雄も促されるようにそちらへ視線を送るが、暗がりだけでしか確認できず、何があるのか感じ取れなかった。
「やはり、いるのか………」
ぼやく影斗に鋼生は言う。
「へぇ、お前はこういう経験あるのか?」
「そういうのには敏感なだけだ。それにこの気配は一度味わった……」
大蛇の時と同じ。不気味なこの感覚は忘れようにも忘れられない。
否が応でも感じ取ってしまう。
二人の会話に鳶雄は鋼生の発見を二人に伝えようとしたとき―――耳から聞こえたのは彼女の声だった。同時に一階の奥から大きな音が鳴り響いてくる。
『幾瀬くん! ごめん! 襲撃されちゃった! いまラヴィニアと一緒に対応しているの! そっちは!?』
「こっちは鮫島鋼生を見つけたよ! 俺達はどうしたらいい!? 鮫島を連れて、そっちに向かったほうがいいよな!?」
その提案に鋼生は小さく笑う。
「魔女っ子がいるんだろう? なら、あの鳥頭でも心配するだけ損だぜ? 悪いが、俺は上で待っている奴らに用があるんでな」
そう言うなり、鋼生は白い猫を肩に乗せてエスカレーターを上がって行く。
「おいっ!」
制止させようとする鳶雄。影斗はラヴィニアと連絡を取る。
「鮫島鋼生は俺の力で無理矢理拘束した方が良いのか? 少なくとも動きを封じることぐらいはできると思うが」
『シャークはそれでも止まらないと思うのです。ですのでトビーと一緒に追って欲しいのです、シャドー』
「わかった」
短いやり取りで終わらせると影斗もエスカレーターを上がって行く。
「…………」
手が恐怖で震えている。
心臓の音も先ほどから激しく鳴っている。
これから向かう先は戦いは避けられない。
命を賭して、己の力を振るい、勝たなければ死んでしまう。
戦場に足を踏み入れようとしている。
『シャドー』
再び聞こえるラヴィニアの声。
『今日の晩御飯は中華料理をリクエストするのです』
こんな状況で何を言っているのかと本気で思った。
緊張の欠片もないラヴィニアの声を聞いて少し呆れた。
『だから、ちゃんと戻ってきて欲しいのです』
「…………自分で作れ」
文句一つ言って通信を切るともう震えは止まっていた。
まさか、これを見越して……と思ったがそれは考えすぎだと首を横に振る。
影斗は鳶雄と一緒に鋼生の後を追う。
二階に上がると、途端に灯りがついた。突然の光明に目がくらむ三人だが、その灯りのおかげでフロア全体が見通せる。
そして、二階に待っていたのは――――巨大なバケモノたち。カマキリ、クワガタ、蟹、亀のような姿をした怪物の群れと傍らには同級のウツセミ。
見渡すだけでも十体はいる。
「ククク」
不敵に笑う鋼生は憶することなく、一歩、一歩と敵陣に踏み込んでいく。
「百砂、いくぞ」
肩に乗る猫にそう告げる。すると、猫の長い尾がピンと立って――――二つに分かれていった。分かれた二本の尾はぐんぐんと伸びていき、その一本が鋼生の左腕にぐるぐると包み込んでいく。
主人の腕を包む白い尾っぽは形を変えていき―――円錐形の巨大なランスと化した。
「―――――俺の猫はなんでも貫く槍だ。さ、ぶっ刺されてぇ奴からかかってこい」
その宣戦布告が開戦の狼煙となり、前方から蜘蛛のバケモノが突貫してきた。鋼生は態勢を低くして超低空からのアッパーをする要領で蜘蛛のバケモノを左腕のランスで貫いた。
それを見て影斗は頷いた。
そういう戦い方もあるのだと納得しているとカエルのウツセミが影斗に舌を飛ばしてくると同時に影斗は手を突き出す。
「『飛び穿つ雷槍』」
左手から発射される雷の槍はカエルの舌を貫通して本体にまで届く。
「まだ、イメージが弱いか………」
ウツセミに通じるまではよかった。だが、まだまだ試行錯誤しなくてはならない。
影斗は予め本に記載した能力を決めていた。それを発動させるための発動条件も加えることで自分の意思でその能力を使用することができる。
昨夜で能力を試し、思考錯誤を繰り返して考えて思いついたのは魔法だ。
全てを切り裂く剣、と記載してその剣を持ったとしても剣に覚えがなければ意味がない。
それに接近戦では臨機応変の対応が難しくなってしまう。
そこで皮肉にもラヴィニアを見て閃いた。
魔法の力を記載してその力を行使してみるのは?
魔法ならアニメや漫画で良く出てくるためにイメージもしやすいし、遠距離で対応するためにまだ落ち着いて戦えられる。
「『氷刃よ、切り裂け』」
そこで考えたのが左手で能力を行使して、右手でペンを持って戦うスタイル。
思考錯誤を繰り返して思いついた影斗の戦い方だ。
どれほどの力を出せれるのかは記載した内容と影斗本人のイメージで大きく変化する。
取りあえずは戦える。それだけでも大分前進した気がする。
最後に残った亀のバケモノも鳶雄の子犬が串刺しにしてウツセミを全滅することに成功した。
同級生たちが魔法陣に消えていくなか、鋼生が二人に訊いてくる。
「ひとつ訊きてぇんだが」
「なんだ?」
「おまえら、ここに来たってことは逃げるのを止めたってことだよな? なんでだ? こんなわけのわからねぇ、頭がおかしくなりそうなほどの理不尽が来てんのによ、どうして動ける? なんで戦おうと決心した?」
鋼生に問われて、飛雄は天井を見上げた。
「………俺も怖いよ。でも――――」
真正面から鳶雄は言った。
「どうしても救いたいヒトがいる。どうしても助けたい友人がいる。……俺にも戦えるだけの力があるのなら、せめて抵抗してから死にたい」
「………へぇ、ただの愚図じゃなさそうだな」
「言っておくが、俺はそいつみたいに御大層な理由はない」
強面な表情を和らげた鋼生に間髪告げずに影斗は口を開いた。
「救いたい奴も助けたい友達も俺にはいない。俺は借りを返す為に協力しているだけだ。それ以上でもそれ以下でもない」
睨むように目線を鋭くしながら影斗は言った。
「同じ学生だろうと同級生だろうと、そいつらがどうなろうが俺にはどうでもいい。俺はお前等には協力はするが、助けたい奴がいるならお前等が勝手に助けろ。必要以上に力を貸す気は俺にはない」
「……影斗」
鳶雄は思った。
影斗はどうしてそこまで自分達を拒絶するのだろうかと。
昨夜からの付き合いでまだ知り合ったばかりだが、根はいい奴と思ってる。
だけど、必要以上に関わろうとしてこない。
それが鳶雄にはわからなかった。
「……は、面白いな。お前」
好戦的な笑みを浮かべる鋼生に口を閉ざす。
「だが、そういう奴は嫌いじゃねえぜ? 俺は鮫島鋼生」
「幾瀬鳶雄、よろしく」
「新井影斗だ」
三人は更に上へ目指してエスカレーターを上がって行く。