綺麗にされた体、しかし、その目は虚ろだ。
昨日の戦闘よりも、激戦を繰り広げような気がする影斗とは反対にラヴィニアは満足そうにしていた。
「………辛い」
色々な意味で辛い体験をした影斗。
少しでも本能に忠実な性格をしていたら大変なことが起きていただろう。
少なくとも普通の男性なら耐えることができないと断言できる。
「シャドー、お話があるのです」
「………なんだよ」
「シャドーはどうやって助かったのですか?」
「…………」
その真面目な問いに無言になる。
「トビーとシャークから話は聞いたのです。シャドーは死んだ、土人形に頭を潰されたと言っていたのです。でも、シャドーはこうして生きているのです」
「………正直、俺もわからない。気が付いたらここにいた」
自身が抱く疑念を解消する為にも正直に話した。
「俺は死ぬ間際、
影斗の言葉に静かに耳を傾けたラヴィニアは小さく頷いた。
「シャドー。
「ああ」
「なんだ、これ………」
驚く影斗。
白紙だったページの数枚に文字が記されていた。
それも、現在進行形で記されている。
一つのページを読むと影斗はラヴィニアに尋ねる。
「……幾瀬は今は何をしている?」
「トビーなのですか? トビーは屋上で刃ちゃんと訓練していのですよ」
「刃ちゃん?」
「トビーのワンコなのです」
なるほどと納得しつつ、この
これは記されている対象の数分間前後の過去、現在、未来が記されている。
記されているページは四枚。つまり、鳶雄、夏梅、鋼生、ラヴィニアの四人のことが記されていることが分かった。
確信を得る為に影斗は本を興味深そうに覗いているラヴィニアで試す。
羽ペンを持って過去を見る。
まずは目に見てわかるものからがいい。
過去に記されているナース服に着替えるに横線を入れてメイド服と新たに記載する。
すると、ラヴィニアの服がメイド服へ変わる。
「これは………どういうことなのです?」
「お前の過去を改変した……になるのか?」
新しい
発動条件はわからないが、もしかしたらこの能力で助かったのかもしれない。
ぺラリとページをめくるとそこには自分のことも記されていた。
「恐らく……俺はこの能力で自分の死を改変したんだと思う」
死に間際のことで自分自身にも記憶がないから確信は得られない。
だけど、この能力のおかげで助かったという線が一番強い。
数分間前後の過去、現在、未来を好きなように改変できる能力。
「
新しい能力の呼び名を決めてもっと詳細に知ろうとページを見ると眩暈がした。
「この感覚は………」
童門と戦っていた時に起きた疲弊と同じ感覚に陥る。
「シャドー。私から見てもその能力は強力なのです。ですが、その負担も大きいのですよ。数分でも過去を、未来を変えるのはとてつもない負担が強いられるのです」
眩暈の正体を教えてくれるラヴィニア。
少し改変しただけで眩暈がするのなら、大幅に改変したその時は――――。
「…………」
そこから先は考えたくはない。
凄い能力なのは間違いはない。だけど、今の影斗には使えない。
この能力は影斗が願ってその想いに
しかし、今は体を休ませることを優先しなければならない。
猶予は後二日ぐらいと聞いた。
その二日で両腕が完治するのかはわからないが、指が動けばまだ戦える。
最悪の場合は悪化してでも動かしてみせる。
「シャドー、一つ訊きたいのです」
「俺にはない。寝るから出て―――」
「どうしてシャドーはヒトを拒絶するのです? シャドーはこんなにも優しいのに」
「……………答える理由も義理もない」
突き放す影斗だが、ラヴィニアは動かずにじっと影斗を見続ける。
視線が突き刺さるなかで影斗は無視し続ける。
「………………」
……………。
「………………」
……………。
「………………」
……………。
無視してでもラヴィニアはそこから動かないし、諦める気配も感じられない。
「…………どうしてそんなことを訊く?」
「シャドーがとても寂しそうに見えるのです」
下らない。そう思った。
そしてわかった。ラヴィニアが影斗に関わろうとする理由がそういうことだと。
「俺は一人でいい。下らない人間と交わるなんて吐き気がする」
嫌悪感を露にする影斗。
「貶し、嘲笑い、真実も碌に知ろうともせず根も葉もない噂に耳を傾けてそれに尾鰭をつけて言及する。いかにも自分に正当性があるようにな。そんなクソみたいな奴等と関わってなんになる」
吐き捨てるように語る。
「所詮人間なんて自分が良ければいいだけの自己中なんだよ。他人がどうなろうがどうでもいい。自分さえ良ければそれでいい。都合が悪いことには目を背け、自分の安全を確保する。クズなんだよ、人間はどいつもこいつもクズの塊だ」
「……………」
「人としての思いやり? 分かち合い? 助け合い? ハッ、下らない。そんなことしたこともない癖に口だけは達者だ。自分より下だと思った奴を虐め、嘲笑し、欲望を満たすだけの道具としか考えてねえ。そいつがどれだけ苦しんだのか、痛みに耐えたのか、悩み、孤立し、孤独を味わったかも微塵も思わない。人権もない人間以下として扱い、興味が無くしたら簡単に捨てて、コロリと忘れる。罪悪感も一切感じずにそれが当たり前のように行う。そいつらはそれでいいかもしれない。だけど、人以下として扱われたそいつはその先、一生苦痛を抱えて生きて行く。なかには耐え切れず自殺する奴だっている。そういう奴らのせいで人生を狂わせられる。ふざけるな、そいつが何をしたって言う? 恨まれることでもしたのか? 憎まれることでもしたのか? 人間以下として扱う理由がある――――」
言葉を遮る様にラヴィニアが影斗を優しく抱き寄せてその頭を何でも撫でた。
「………ごめんなさい」
「……何でお前が謝る?」
「シャドーを傷付けてしまったのです………」
ポタリと影斗の頬に何かが垂れる。
顔を上げると、ラヴィニアが涙を流していた。
「何で泣いている……?」
「シャドーがとても悲しそうだからなのです」
「意味がわからん。俺は別にどうでもいい。俺は誰がどうなろうが悲しいなんて思わない」
「私はシャドーが傷付いたら悲しいのです……」
ぎゅっと抱きしめるラヴィニアに影斗は離れようとするが、腕が動かせない。
仕方なく、ラヴィニアが落ち着くまでこのままにいることにした。