氷姫の操觚者   作:ユキシア

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ヴァーリ・ルシファー

腕を上げ下げして、手を開け閉めする。

まだ腕には包帯は巻かれて完治してはいないが、動かせれるぐらいまでは治った。

通常でなら両腕骨折したら治すのに数ヶ月は掛かるものをたった二日足らずで動かせるぐらいまでに回復できたのはラヴィニアの魔法のおかげだ。

魔法という超常現象。それ以外にも陰陽道、神器(セイクリッド・ギア)など非日常を目の当たりにしてから数日で大分慣れてきた。

 

『私はシャドーが傷付いたら悲しいのです……』

 

昨日の事を思い出す。

ラヴィニアは涙を流していた。自分が傷付いたわけでもないのに涙を流しながらまるで宥めるように影斗を抱きしめた。

まるで、涙を流せれない影斗の代わりに泣いているかのように。

「………まさかな」

首を横に振る。

会って数日程度の関りしかない奴にそこまで情を抱くような奴なんていない。

あれ以来もいつもの知っているラヴィニアだった。

下らない影斗の話を聞いてラヴィニア本人に何か思うことがあったのだろう。

部屋を出て行き、屋上に向かう。

そこには訓練中と思われる鳶雄とその神器(セイクリッド・ギア)である子犬、刃がいた。

「影斗!? もう起きても大丈夫なのか?」

「大袈裟だ。腕は完治はしていないが、動かせるぐらいはできる」

「そうか……よかった」

胸を撫でおろす鳶雄。

影斗は鳶雄の後ろ―――屋上が刃で埋め尽くされていることに目を見開いた。

どのような訓練をしているのかはわからないが、少なくとも数日で過酷な訓練をしてきたことだけは伝わった。

ラヴィニアから鳶雄が童門を退けたとは聞いてはいたが、屋上に埋めつくされているこの刃は童門を退けたときに発動できるようになった鳶雄と刃の新しい力。

今はそれを自在に出せるようになる為の訓練だと推測した。

「………影斗、ごめん」

「………なに謝っている?」

突然頭を下げて謝罪してきた鳶雄に怪訝する。

「俺のせいで影斗を怪我させてしまった。……あの時、俺は何もできなかった。鮫島や影斗にばかり負担をかけた」

「………これは俺の不始末でついた怪我だ。お前が謝る道理はない」

「それでも、俺達を守ってくれた影斗にどうしても謝りたかった」

「守った覚えはない。協力関係として当然のことをしただけだ」

それが当たり前のように言う影斗に鳶雄は苦笑する。

本人は気付いていないのかもしれない。

誰かを守るという行動が当たり前のようにしているということを。

「…………」

影斗は思った。

あの時、自分の力が童門に通じなかったのは神器(セイクリッド・ギア)の力ではない。単純に自分自身の実力が童門よりも下だっただけ。

だから、ウツセミを操ることは出来ても、童門には通用しなかった。

それでも鳶雄はその童門を退けた。

それは鳶雄が一時的とはいえど、童門を上回ったということ。

あの時、あの場に鳶雄がいなければ恐らくは死んでいた可能性が高い。

まるで主人公のような奴だ、と影斗は思った。

「――――彼が重傷を負って寝転んでいた新井影斗か?」

ふいに第三者の声が屋上に響いた。

声の出先を探れば、屋上の壁に背中を預ける人影が一つ。

夏場なのに首にはマフラーを巻き、下は短パンというミスマッチの出で立ち、右肩には白いドラゴンを乗せていた。

小学校の高学年ほどの銀髪の少年に鳶雄は苦笑しながら頬を掻く。

「誰だ? このガキは」

「ああ、この子はヴァーリ。俺達と同じこのマンションの住人だよ」

怪訝する影斗にヴァーリを紹介する飛雄。

ヴァーリは影斗を見上げながら不敵に訊いてくる。

「俺と一戦交えないか?」

子供とは思えない程の好戦的な物言いと、戦意を感じさせられる。

「ヴァーリ。影斗はまだ腕が治っていないんだぞ。無理だ」

影斗の身を案じて制止を促す鳶雄だが、ヴァーリは不敵な笑みを続ける。

「むしろ俺からには彼は今すぐにでも戦う為の策を講じようと考えているように見えるが? それに彼自身、どこか劣等感(コンプレックス)を抱いているように思える」

影斗の瞳をじっと覗き見るヴァーリの瞳は影斗の心情を見抜いているように告げる。

「それに怪我をしているのなら今の自分の力量を把握しておくべきだ。一緒に手を組むなら、その者の実力を知るのも当然の権利で、怪我で足を引っ張るようならむしろ邪魔だ」

正論だと思った。

組む以上はその者実力を知っておく必要も、怪我で足を引っ張るようなら戦いには出ない方が良い。この少年、ヴァーリの言葉には影斗も同意する。

立場が逆でも影斗はヴァーリと同じことを言うだろう。

「………ヴァーリだったか? お前の言う通り、今の俺にできる範囲のところを確認したい。実戦形式でその挑戦を受ける」

影斗の言葉に愉快そうに口の端を上げる。

「いいじゃないか。いいオーラをまとい始めた。キミにもまだ視認できないだろうけど、体からいい色合いの戦意が立ち上がっているよ」

小柄な肢体からは微塵の隙も感じさせないヴァーリに影斗は神器(セイクリッド・ギア)を出現させる。

その近くで顔を手で覆う鳶雄を無視して影斗は本に記載する。

「『土の巨兵よ、我が意思に従え』」

記載した直後に、屋上から三メートルの土の巨兵が姿を現す。

童門が使用していた土人形を模倣して、そこに新たに記載する。

「『巨兵に纏え、しなやかなる頑丈な蔦』」

土人形の腕に出現する植物の蔦。

童門の土人形と植物のウツセミを組み合わせた合技。

力で攻めるのと同時に捕縛も並行に行える土人形を操ってヴァーリに攻撃を仕掛ける。

遠慮無用の攻撃の前にヴァーリは最小限の動きのみで回避する。

土人形の攻撃もそれと並行して襲いかかる蔦も躱し続けるヴァーリが本当に自分よりも年下の子供なのか疑いたくなる。

土人形を操作しながら影斗は疲労感に襲われながらも新たに記載する。

「『稲妻の檻をヴァーリに展開』」

瞬間、ヴァーリを取り囲むように稲妻が展開されて、ヴァーリの動きが止まる。

そこに頭上から土人形の攻撃と、前後左右からの植物の蔦が一斉にヴァーリを襲う。

重い衝撃が伝わるなかで、影斗は皮肉気に口角を上げる。

銀色の輝きが、結界のようにヴァーリを守っていた。

土人形の攻撃も、蔦もその銀色の結界によって阻まれた。

「………そうか、わかったよ」

それだけつぶやくと、銀色の結界が弾けると土人形の腕は崩壊し、蔦は細切れ、稲妻の檻

も破られる。

刹那、姿を消すヴァーリに驚き、周囲に目線を配る。

「ここだよ」

「がっ!?」

眼前に姿を現したヴァーリの拳を腹部に直撃して吹き飛ばされて、何度も転がり、屋上の隅にまで追い詰められた。

ヴァーリがゆっくりと歩み寄りながら言う。

「遠慮なく攻めてきたことと最後の方法は悪くはなかった。それに関しては及第点をあげよう。だけど、キミの神器(セイクリッド・ギア)は戦闘には向いていない。見たところによると書いた力を具現化させる能力のようだけど、万能性に優れているせいか攻撃の一つ一つが弱い。……いや、キミの場合はそれも既に把握しているのだろう。自分が持つ神器(セイクリッド・ギア)は戦闘には向いていないということも踏まえて別の可能性、新しい戦闘方法を模索した。というところか………」

ヴァーリの言うことはほぼ正解だ。

前回では魔法使いのように炎や雷を直接相手に攻撃するスタイルをとったが、童門の土人形を倒すことはできなかった。

それを踏まえて今度は童門と同じように何かを使役するスタイルをとってみた。

しかし、結果はヴァーリに傷一つどころか、汚れ一つつけることができなかった。

「後衛、支援(サポート)に徹すればキミは役には立つ。だが、一対一の戦闘では不向きだ。相手にもよるが、今のキミの実力では容易に倒されてしまうだろうね」

不敵な笑みを浮かべながら言う。

「でも、もっと実戦を積み、工夫を凝らしたら面白くなりそうだ」

不敵な笑みが一転して楽しげな笑みへと変わる。

「キミ、名前は?」

「………さっき自分で言っていただろうが」

「改めて訊きたい」

「………新井影斗だ」

改めて名前を教える影斗にヴァーリは手を広げて自信満々にこう述べた。

「ふっ、俺はヴァーリ。魔王ルシファーの血を引きながらも伝説のドラゴン―――『白い龍(バニシング・ドラゴン)』をこの身に宿した唯一無二の存在さ」

予想外の名乗り方に目を見開きながらも怪訝する。

「ルシファー? ………それは明けの明星のことを指しているのか? それと白い龍、これはウェールズの伝説に登場する竜のことか?」

その言葉にヴァーリは感嘆した。

「ほう、ついこの間まで一般人だったキミが、この領域(レベル)の話についてこれるとは。なかなかじゃないか」

「……知識として知っているだけだ。何の役にも立たない」

「謙遜だな。まぁ今はそれでいいだろう」

何がいいのかわからないが、ヴァーリは勝手に何かを納得した為に追言は止めておいた。

――――と、屋上にいつの間にか現れたラヴィニアが、ヴァーリに近づき、頭を撫でていた。

「ヴァーくん、いい子いい子なのです」

その手を振り払うヴァーリ。

「な、なでるな! 俺は子供じゃないぞ!」

年相応の反応を見せるヴァーリを見て、やっぱりまだ子供なんだなと妙に納得した。

ヴァーリに構っていたラヴィニアは影斗の手を掴む。

「シャドーはまだ大人しくしないと駄目なのです。悪化したら大変なのですから」

子供のようにラヴィニアから説教を受けてしまった影斗は部屋までラヴィニアに連行されてしまう。

 

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