【年上彼氏の受難】   作:homura1988

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年上彼氏の受難2から少し経過した、ターレルのいちゃいちゃ突入編です。


年上彼氏の受難3

 

 良い子は寝入る時間もとうに過ぎた、野鳥も床につき杏の実を啄む夢でも見ているのだろうと考えてしまうほどの、わたしには久しい穏やかな夜。

 術式を展開する音も砲撃の音も耳に届かぬ、セミダブルの柔らかい寝台の上は、まるでマシュマロの上に寝ているかのような気持ちにさえなってしまう。

 彼との夜伽を終えて直ぐに気を失ってしまったらしいわたしは、次に目覚めた時には二人の体液にしっとりと濡れた敷布の上にいた。自身の息がまだ落ち着いていない。気を失っていたのはほんの一瞬なのだろう。

 受け止めきれなかった衝撃を徐々に身体に染み込ませようと肌がいつもより敏感になり、触り心地の良いシーツでさえ今のわたしには刺激の強いものとなる。

 ゆっくり身を起こすと、瓶からコップへ水を注いで一気に喉へ流し込んでいる彼がいた。上半身は肌蹴て皺が深く入ったシャツに、膝下の黒い靴下、その靴下が下がらぬようにと嵌めているソックスガーター、という格好だった。

 

「結局は脱ぐんですから、意味がないではありませんか」

 

 声が出るか確認もせず、彼が目覚めたわたしを認識していないことを分かっていながら挨拶もそこそこに悪態を投げる。しかし擦れ気味の声でもしっかりと彼に届いたようで、テーブルに置いていた煙草に手を伸ばそうとしていた彼が薄く笑みを浮かべて寝台に戻って来た。

 その途中で、彼は床に投げられているわたしの衣服を拾い上げようとしていた。昼間は非番だったため散らばったわたしと彼の服はどちらとも私服。全て拾ってくれると思いきや、彼の手にはタイツだけが握られており、数時間前に脱がされて冷たくなった繊維を惜しむように、彼は鼻先に押し付けてタイツの残香をたんまりと嗅いでいる。

 今夜は帝都の中心街にオープンしたというイルドア料理の店に行ってみたのだが、どちらかというと大衆向けの騒がしい店だったため、落ち着いて食事を楽しむ雰囲気ではなかった。結局は行きつけの食堂でいつもと変わらない冷たいディナーを済ませ、特に予定もなかった男女二人が向かったのは、言わずとも家具の少ない彼の部屋。

 

「私が脱がせたのだ、だからいつものように自分で脱いで破らなかっただろう。それだけでも意味はあった」

 

 真面目な顔でタイツの匂いを嗅ぎながらとんでもないことを言っている、という自覚が彼にはないらしい。

 季節の変わり目も過ぎだんだんと寒くなってきた今日この頃、恋人であるエーリッヒ・フォン・レルゲンが突然、私服の際に薄手の黒いタイツを履いてくれないかと言い出したのがこの夜のきっかけである。真面目な方にも一つくらい人に言えない趣味や性癖があってもおかしくはないのが軍人という職務ではあるが、突然のことにわたしは即刻拒否の意を示した。

 しかしそれでは終わらず、酒の席で酔ったエーリッヒが准将閣下に恋人がタイツを履いてくれないと不満をぶちまけ、それを軍大学の図書館でゼートゥーア閣下の口から直接から報告を受けた挙句、あの堅物の貴重な我が儘なのだから聞いてやってはどうだと言われたのだ。他の佐官クラスの者や学生がいる図書室で。それはそれは、瞬く間に噂が広がるのは目に見えているだろう。案の定、数日後には大隊メンバーにまで、上官の恋人エーリッヒ・フォン・レルゲンはタイツ愛好家という噂が届いていた。

 その後、なぜかタイツの素晴らしさに目覚めた奴らがゼートゥーアと同じくエーリッヒを擁護するようになり、結局は、一日限定ならとわたしが折れる形で薄手のタイツを履いたのである。

 しかし一度だけで満足しないのは男の性で、ことあるごとにタイツを履かせようとするものだから、半年ほどちょっとした意地悪で自室への出入り禁止してみたのだが、それが悪かったのだろう。北へ西へと戦線を駆け巡り自室へ帰って衣装箪笥を開けると隙間なくタイツが詰められている光景はさすがのネームドのわたしでさえ恐怖を覚えた。

 思っていた以上に彼の精神状態が危うくなっているようだった。恋人ながら危機感を覚えてしまい、不本意ながらも彼と出掛ける時は薄手のタイツを履くことにしたのだ。

 

「いつまで嗅いでいるんですか、やめてください」

 

 寝台から下りて、彼の手からタイツを奪う。

 彼はどこで間違ってしまったのだろう。わたしと出会ってしまったことが原因なら別れた方が彼の為でもわたしの為でもあるのかもしれない、と先日セレブリャコーフ少尉に愚痴をこぼしてみたものの、少佐が別れてしまったらもう陸軍内に中佐と一緒になってくれる女性はいらっしゃらないかと、となかなかに辛辣な言葉が返ってきた。

 

「わたしだけが知る、君の匂いだ、構わないだろう」

 

 腰を取られ、半ば抱えられるようにして抱きすくめられる。一回目を終えたばかりだというのに、彼は水分で潤ったばかりの唇でわたしのこめかみあたりにキスを落としてきた。

 そのまま再び寝台へなだれ込むつもりなのか。彼の膝がいたずらに臀部の割れ目を押し上げたが、ガーターソックスの金具の無機質な冷たさにまで触れてしまい、あっ、と短く声が出た。

 

「わたしにも休憩をくださってもいいじゃないのですか、貴方だけズルいですよ」

 

 お返しとばかりに彼の耳下あたりにキスをする。しぶしぶ床に下ろされた身へ、ソファにかけてあった彼のガウンを羽織られる。もちろん彼のガウンは大き過ぎて裾は床に引き摺られる形となり、彼の愛煙とコロンの匂いに包まれた身体に匂いが移ってしまいそうだった。

 先ほどの彼と同じように、瓶から水をコップに注ぎ一気に喉へ流し込む。彼はそれを黙ったまま寝台へと腰掛けて足を組む。軋んだ音が早くしろと言っているように聞こえる。

 

「というか、貴方の今の格好、笑えますね」

 

 仕事から一歩抜けると本当にこの方は、だらしない、の一言に尽きる。よくもまあ今まで生活出来ていたものだと呆れるほどに。

 

「この格好は嫌かな」

 

 わざとらしく、意地の悪い笑みで彼はわたしに問う。後方勤務にしては無駄のない筋肉の付き方をした大腿がシャツの裾から二本ぬめり出ており、その下には太すぎず細すぎない膝が見える。そして、革のベルトのソックスガーターと黒い靴下にしっかりと守られている下腿が、足首までの曲線を描いているのだ。

 前世の頃に数回わたしも使ってみたが、どうにも金具に締め付けられている感覚に違和感が拭えず直ぐに外したソックスガーターだが、似合うべく者が装着すると色気が増すのだなと実感させられた。どうやら、わたしも恋人の性癖に当てられてなにかに目覚めてしまったらしい。

 

「嫌ではありませんが、目のやり場に困ります」

 

 未だにシャツ一枚に靴下とソックスガーターという格好の彼が無事に水分を補給したわたしに此方へ来るように目配せをする。ガウンを脱ぎ捨て、一糸まとわぬ姿で寝台に腰掛ける彼と対峙してみた。

 一つだけ、タイツを履いて良かったと思えた点はある。戦線から帰還直後の身は血を流して医務室の世話になるほどの傷はないものの打撲痕だらけなのだ。人の目に晒すことはさすがに出来ず、そのせいで夏でも長袖を羽織り、足の打撲痕も薄くなってからようやく私服のワンピースに袖を通せていたわたしには、打撲痕を隠せて尚且つこの季節なら防寒も出来るタイツはなかなかに良い代物だった。

 要するに、最初こそは恋人のおかしな要望を拒否していたものの、わたしも頭ごなしに嫌と言えなくなってしまったわけだ。

 わたし自らタイツを履いて待ち合わせ場所に現れた際は、オペラ鑑賞をするはずだった予定など放り出して真っ先に部屋へ連れ込まれたのは一週間前だったか。

 

「もう一度、タイツを履いてくれないかターニャ」

 

「はあ、またですか……」

 

 散らばった服を見回しても下着が見つからず、どうせすぐ脱がされるならとそのままタイツを履いてみた。臀部も下腹部もくすぐったい。目の前の恋人といえば、難しい顔をして動きを止めてしまった。わたしの動きも止まっている。ああ、たまには違うことをして彼の欲をたくさん刺激し、数日わたしが帝都を離れても大丈夫なようにしてみようか。

 あと一歩踏み出せば彼に触れられる場所まで近寄り、わたしの左膝で、彼の膝を割り開いた。呆気なく彼の膝は開かれる。右手を彼の左膝に乗せ、眼前に露になった彼のモノを爪先で撫でてみた。タイツ越しのモノはすでに硬度を保っている。

 

「ター、ニャ、なにをして、」

 

「本当に貴方は変態ですねエーリッヒ、ほら、もう大きくなってる」

 

 撫でるばかりでは面白くない。少しだけ力を入れて足の裏でモノを押すように刺激すると、びくりと彼の腰が跳ねた。その顔はなかなかに扇情的で、無意識に舌舐めずりをしてしまうくらいには、わたしの恋人は、タイツのざらざらとした感触がお気に召しているようだった。もう少し足を開いてもらい、閉じぬように身を割り入れる。

 革の触り心地を指で堪能しながら金具をパチンと開き、両方の足から靴下を奪う。膝にはソックスガーターだけが残り、まるで彼が縛られているようにも見えてしまった。背中がぞわぞわと震える。彼だけの蜜壷がじんわりと濡れてきたのが分かり、今度は膝でモノを押してみるとようやく抵抗らしい力の入った腕に肩を掴まれた。

 

「じ、焦らさないでくれっ」

 

「大好きなタイツに責められるなんて、貴方には喜ばしいことでしょうに…」

 

 それから彼とわたしの異様な夜は滞りなく過ぎていったのだが、やはりお節介じじいには全て筒抜けだったようで。

 ソックスガーターに目をつけるとはさすがデグレチャフ少佐だな、中佐もとても喜んでいたぞ、と再び軍大学の図書館でゼートゥーアから酒の席での報告を受けることになろうとは、この夜のわたしはまだ知るよしもなかった。

 

 終わり

 

 


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