「……という訳です。理解出来ましたか?」
うん、全然分かんない。きっとお姉様も理解出来ていないだろうと思って振り向いてみると、以外にもうんうんと頷きながら結界を張っているお姉様の姿があった。可笑しい、お姉様に出来て私に出来ないのは理不尽だ。こうなったら、意地でも出来るようになるんだからっ!
「水江の説明はとても分かり易いわ」
「ふふ、有難うございます。桃も出来ないからと言って、焦っては駄目ですよ?」
昨日の宴会から一夜明けた翌日。巫女という存在を知ってても、どういった仕事をしているのかまでは知らない。もっと水江の事を知る為に、そんな単純な疑問をぶつけた結果が今のこれ。口で言えば簡単で、結界術を駆使してこの里を護る事だ。他にもっとないのかと聞いてはみたものの、それ程する事もないらしい。
それは私達姉妹も例外ではなかった。この里に住むと決めたは良いものの、やる事も無く暇である。重労働もやらせてはくれない。見た目が幼い少女であるだけに、気が引けるのだとか。んー、妖怪だからそこ等の人間より力はあると思うんだけど。でもまあ、仮に逆の立場だったら気が引けるのかもしれないと、しぶしぶ納得しておく事にする。
あまりにも暇なので、お姉様がその結界術を習いたいとか言い始めて、済し崩し的に私も習う羽目に。別に嫌という訳ではなく、妖怪である私達に教えてくれる訳がないと思っていただけ。それだけに、水江が簡単に了承してくれた事には凄く驚いた。
長にも聞いたみたいだが、即答だったらしい。この里の危機管理は、一体どうなっているのやら……。それでも存続しているあたり、長の人望が純粋に高いのだろう。
――それにしても、未だに結界を張れない私には、向いていないのだろうか。
「水江ー、出来ない」
「何処が分かりませんか?」
「……全体的に?」
「桃が、妖怪としての格が低いからかもしれません。最初からゆっくりやりましょうか」
そんなこんなでもう一度試してみる事に。水江が言うには、お姉様と違って私の妖力が少ないから上手くいかないのかもしれないと。意識を体の奥底に持っていくと確かに、私の力はお姉様より遥かに劣っているように感じる。だからこそ私は、その限られた力を最大限引き出そうとしているのだけど……。
この時点で物凄い違和感を覚える。私の中で別の何かが邪魔をしている、といった感じで。自分の身体の事なのに、まるで判らないのが頗る気持ち悪い。
「上手く力を扱えないんだけど」
「……魔力、かもしれません」
――え?
お姉様に似た容姿で、加えて能力まで同じなのに実は私、魔女でした。てへぺろっ……なんて笑えないんだけど。けど仮に、私の中に魔力が存在していたとして。それが力を使う際に邪魔をしていたのならば、辻褄は合う……のかもしれない。
――ああ、魔力だと意識すればするほど、実感が得られてしまう。私に流れるは魔力、それも妖怪である事を忘れてしまいそうになるくらい。お姉様が付けてくれた『桃』という名前は、強ち的外れなものでも無かったみたいだ。私は魔女であり、妖怪でもあるという事か。
いや、そもそも魔女が妖怪のようなものかな? 幻想郷では確かそのような分類が……幻想郷?
「も、桃。その力は……」
「ん? これが魔力みたいだね」
お姉様が驚くのも無理はない。私は今の今まで、自分の力の三分の一程度しか扱えていなかったのだから。だとすると魔力を加えて、純粋に三倍は強くなった訳で。それでも尚、お姉様と肩を並べる位にしかなれないのだから、如何にお姉様が格の高い妖怪なのかが窺える。
「……これは、先に力の扱い方を特訓しないと駄目そうですね」
「魔力の扱い方?」
「それもそうですが、同時に二つの力を扱うのは非効率的です」
「???」
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水江の言っていた事に偽りは無かった。魔力を使おうとすると妖力が、妖力を使おうとすると魔力が、それぞれ邪魔をしてくる。じゃあ、邪魔をさせなければ良いとも思ったのだが、そんな簡単に出来るのであればこんなに苦労はしていない訳で。
そう、私はあれから一日中、力の扱いについて練習している。一日で出来るほど甘くは無いと、もちろんのこと思ってはいるが、そんな非現実的な幻想を信じても良いだろう。だって、水江が魔力について言及してくれなければ、今魔力を扱おうとしている私は確実に居なかったのだから。
「それにしても、進展なしかー。うむむ……」
少し扱うベクトルの矛先を変えてみるのも手か。やっぱり、魔力といえば魔法だよね。取り敢えず、邪魔でも何でも良いから魔法を出してみよう。……どうすれば良いのだろう。取り敢えず水江に相談してみようかな。勝手に魔法を使うなって言われていたし。
「桃、水江見なかった?」
「……見てないけど。いないの?」
「ええ。里の中をある程度見て回ったのだけれど、見当たらないのよ」
……ふむ。相談しようと思ったけど、肝心の本人がいないらしい。里の中に居ないという事は里の外、つまりは見回りにでも出掛けているのだろうか。あるいは他に用事があるのか……。
仕方ない。それなら、お姉様を練習相手にしても良いかもしれない。暇そうだし。
「ねぇ、お姉様。ちょっと私に付き合って欲しいんだけど……」
「力の練習? まあ他にする事も無いし、良いわよ」
「ありがとう、お姉様! じゃあ私がお姉様に向かって攻撃するから、それを『結界』で防いで欲しいの」
「ふふ、私にも利があるのね。」
まあ、私が一方的に練習するだけだと、どうせ気分悪くするだろうなぁと思ってのこと。私としては、結界で防いでくれても、スキマで避けてくれてもどちらでも構わない。
ぶっつけ本番だけれど、イメージだけは確固としたものがあるので失敗はしないと思う。……根拠も何もないけれど。さて、意識を自分の中にある魔力に持っていく。集中力を高めて一つの塊として練り上げていく。この段階ではまだ無色の魔力なので、色を付けて属性化させる。今回は赤色を思い浮かべたので属性は炎である。後は発火させるだけ。
「お姉様ー、いくよー」
「ちょ、ちょっと待っ――」
――【燃え盛る炎】ファイア
別に前口上なんて要らなかったんだけど、なんとなく言わないといけない気がしたから言ってみた。……発火する直前、お姉様が慌てていたのは気のせいだと思う。それにしてもちょっと練度が高すぎたかもしれない。ここまで大掛かりなものを出すつもりではなかったんだけれど。所謂初級魔法的な感じで。……まあ、このあたりの匙加減も追々詰めていかないといけないかな。
お姉様は多分結界で防いでいるんだと思うけど、大丈夫かな? 未だに勢いよく燃えている炎を見ると少し心配になってくる。結界に防火性能とかあるんだろうか……。後で水江に結界の性能について聞いておこう。
「桃っ! あっ、熱いから、早くこの炎を消して欲しいのだけどっ!」
「はーい、ちょっと待ってて」
今度は先程の半分位の出力で練ってみる事にする。勿論水属性にするために水色を想起する。詠唱時間も然程掛からずに放出できそうである。これは繰り出す魔法の規模に比例する形なんだろう。
――【水の煌き】アクア
……ふむふむ。結論から言うと、これは思い通りにはいかなかった。消火活動なんだから、ある程度持続的に水魔法を出していたかったのだが……。今の私は瞬間的な魔法しか出せないらしい。これからの修行如何では柔軟に対応できるようになるのだろうか。まあ、考えても分からないし、今の状況に甘んじておこう。消火も概ね成功した訳だし。
「お姉様ー、無事ー?」
「……え、ええ。魔法って凄いのね……くしゅんっ」
あらら。使用した魔力量はそこまで多くはない筈なんだけど、お姉様が何時の間にかびしょ濡れになっていた。いやー、力の制御って思ってた以上に難しい。
「お姉様ー、もいっこ試して良い?」
「つ、次で最後にして頂戴」
よし、許可も貰えたので準備をする。ある意味この里の象徴とも言えるものに関係しているのだから、試してみたくなるのは道理だった。使用魔力は更に少なくする。思い浮かべる色は緑、属性は――。
――【切り裂く風】ウインド
風さんみたいに風を吹かせようとしたんだけど、瞬間的な魔法しか出せないばかりに風魔法(物理)になってしまった。その証拠に、お姉様の自慢の結界が粉々になっていた。……可笑しいなぁ、使用する魔力量と威力が噛み合ってない。
「私の結界が……」
「お姉様ー、付き合ってくれてありがとう!」
「ええ、良いのよ。私も得るものがあったから」
「じゃあ、桃。次は私に付き合ってもらおうかしら?」
「――ひっ!?」
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「全く。勝手に魔法を使うなと、あれほど言っておいたでしょう?」
「ご、ごめんなさい」
……こってり絞られました。