東方系色伝   作:偏頭痛

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色々とガバガバですけど、少しでも楽しんで頂けたら幸いです。


6話――布石

 「少々厄介な事になりました。あまり猶予がありません」

 

 「……一応聞いておこう」

 

 「妖怪が新たに二人。生まれたてのようですが素質が高く、放っておくと危険です」

 

 「おまえにそこまで言わせるとは。しかし、今は難航している諏訪を優先せねばならない」

 

 「わかっておりますわ」

 

 「では、引き続き監視を頼む」

 

 「仰せのままに」

 

 

 

 

 

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 あれから一ケ月が経った。私達が来たばかりの頃は色々な事があった。けれど、最近は何の音沙汰も無く平穏に暮らせている。ぱったりと妖怪の侵攻がなくなり、その内に不穏な気配も消えていたのだ。一体何だったのかは、見回りをしていた水江や千里でもとうとう分からなかった。

 

 長の方でも独自のルートで調べていたみたいだけど、何の情報も得られなかったという。迫りくる妖怪も、統一性無く色んな方向から来ていたので、足跡を追う事も出来ずにいた。勿論、深入りするだけの人員もいないので、一旦の方針としては、様子見というところで決着がついた。……というより、そうせざるを得ないのだけれど。私達にもっと力があればまた話は変わったのかもしれない。

 

 力といえば、私の力の扱いも大分様になってきた。力の変換、力の分離、可視化しての変形。力の流れを意識して様々な出力で出せるようになった。更には、千里の様に物理戦闘まで出来るようになった。もう暴走するようなことはないだろうと、水江のお墨付きも貰った。それは魔法の練習をしても良いという意味に等しい。

 

 けれど、魔法の練習は殆どしていなくて、専ら結界の練習に明け暮れている。この力は誰かを屠る為ではなく、守る為に使いたい。この里で暮らしていく内にその気持ちがどんどん強くなっていった。否、そうしなければならないような気がしている。私の中の何かがそう語り掛けてくるような、そんな感覚。……それにお姉様に後れを取りたくないという気持ちも存在している。割と負けず嫌いな性分には、自分でも吃驚している。その甲斐もあってか、お姉様との実力も然程離れてはいない。

 

 

 

 さて、今日の予定は珍しく私達姉妹のお留守番。水江と千里が一緒に出掛けて行った。お姉様は朝会ったきり見ていない。

 

 

 「そういえば、長って普段何しているの?」

 

 「うむ、他国の情勢調査じゃよ。最近は何かと物騒じゃからな」

 

 「……物騒っていうのは」

 

 「大和の神々が領土を広げておるのじゃ」

 

 

 大和というのは、この里の遥か南西に位置する一国である。なんでもその大和の国が天下統一を企て、他国を制圧しているというのが長の話。その魔の手がいよいよこちらにも伸びてきたのだ。堪ったものではない。そんなのは他所で勝手にやってて欲しい。

 

 

 「もしかして、それが原因で妖怪が逃げてきたとか?」

 

 「だとすると尚更苛烈になっていくはずじゃ」

 

 「恣意的に妖怪を差し向けられてたってこと?」

 

 「確たる証拠はないが、そう考えるのが妥当じゃな。目的も理由も、皆目見当がつかんがの」

 

 

 方法は分からないけど、大和が妖怪を使役する術を持っているのだろうか。仮にそうだとしても、そんなまだるっこしいやり方をする必要がない。そうせざるを得ない、何か致命的な理由があるのかもしれない。まだ証拠が無く確信を持てない上に、足が出る様子もない。暫くはこのまま膠着状態が続くだろうが、それも長くはない。

 

 そんな私達もただ手を拱いているだけではない。妖怪に攻められ続けるのも癪なので、この一ケ月、里に大規模な結界を張ったのだ。それは周辺の森に張るような規模の小さいものではなく、五人の持てる全ての力を結集させて作った、この里を護る希望だ。長の神力によって基礎が堅牢に作られ、水江と千里の霊力でそれを念入りに補強。更に私達の能力で実体の境界をいじって、曖昧さを加えた。要するに外から見えなくなったのだ。外の神様に通用するかは分からず、ある種賭けのような形にはなったけれど、これで干渉されることは無くなったはず。いつも便利道具のように使ってきたけど、能力をこんなに能力らしい使い方をしたのは今回が初めてかもしれない。ちなみに、この知恵はお姉様から出たものだ。私にはこんな使い方は思いつかなかった。

 

 

 「なに、心配する事は無い。なるようになるじゃろうて」

 

 「……凄く心配になってきた」

 

 「何を言う、儂の勘がそういっておるのだから大丈夫じゃよ」

 

 「貫禄は感じた」

 

 「そうじゃろう、そうじゃろう。貫禄の塊じゃからの」

 

 

 

 ――貫禄しかなかったらダメじゃん。中身が伴ってないよ。それに自分で言ったら世話ないよ。

 

 

 

 

 

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 長が調査に出掛けてしまったので、また暇になった。お姉様もまだ戻ってこないので、探しながら里の中を周る。一ケ月も経てば、流石に名前も覚えられて色んな所から声を掛けられる。普段から水江や千里と一緒にいるので、そこそこな有名人となっている。その所為で、巫女が増えたと勘違いされたこともあった。力の無い人間には妖怪と人間の区別が付かないのかしら。それとも妖怪と接することが無いから判らないのか……多分後者だと思うけれど。

 

 それにしても、妖怪が巫女って妖怪錯誤も甚だしい。でも良く考えれば、今の私達の行いは巫女のそれそのものである。……それで良いのか私達。少なくとも、妖怪の存在意義には反している。けれでも、お姉様も私も疑問を持ったことはない。それは時代背景がそうさせているのか、或いは私達が他の妖怪と違って特殊なだけなのか。まあ、考えても分からないし、今が良ければそれで良いと私は思う。

 

 

 「あら桃ちゃん。今日はお休み?」

 

 「うん、今日の当番は水江と千里だよ」

 

 「そうなの、何時も助かるわ」

 

 「大したことはしてないよ。そうだ、お姉様見なかった?」

 

 「さっき西の方に行ったみたいだけど……何かあったのかしら」

 

 「そうなんだ、ありがとう」

 

 

 ……何か途轍もなく嫌な予感がする。一ケ月前にもこんなことがあったのを思い出した。あの時は千里と一緒に結界の練習をしている途中だった。ふと千里が不自然な気配を感じとったので、急遽西の方に向かったのである。状況は酷似、千里の感覚は正しかったのかもしれない。一刻も早くお姉様と合流しなければならないと、私の頭の中は警鐘を鳴らしている。

 

 私はスキマを使いお姉様の居場所を確認する。丁度川を一望できる場所からひそひそと何かを窺っている様だった。念のため、気配を覚られないように境界をいじって、お姉様に近づく。

 

 

 「……お姉様、心配したのよ」

 

 「桃、あれを見てみなさい」

 

 

 そう言ってこちらを一瞥することなくお姉様が指差す。そこには水ちゃんこと水の妖精と、なにやら得体のしれない影のようなものと話しているのが見えた。何故といった疑念よりも早く、私はどうすれば良いか解決方法を考えていた。

 

 

 「ずっとあの調子よ。流石に何を話しているのかは聞こえないけれど、良く無いものであることは確かね」

 

 「気配が明らかに異質よね。今でも妖精のフリ(・・)をしているし」

 

 「桃、悠長な事は言ってられないわよ。長と巫女が不在の今、私達が何とかしなければ――」

 

 「ふふ、貴女達に何とか出来るのかしらね」

 

 「――なっ」

 

 「お姉様っ! 危ないっ!」

 

 

 ――まさに間一髪であった。水の妖精のフリをしていたあの女が、なんの躊躇いも無くお姉様を攻撃してきた。奇襲と呼ぶには余りにおざなりな攻撃に、私達は舐められているのを理解した。

 

 

 「私達には本気を出すまでも無いって?」

 

 「桃、落ち着いて。それがあの女の狙いよ」

 

 「賢い娘ね。やはり貴女は真っ先に潰しておくべきだったわ」

 

 

 そう言うと、先のどす黒い影のようなものが散っていく。その去り際に『予定通り頼むわね』とあの女が言った。後手後手になっている今の状況を何とかしないといけない。けれど、打開策が何一つ浮かばない。圧倒的に不利な状況がとても歯痒い。

 

 

 「大和の神が一柱。貴女達の土地を貰い受けに来ました」

 

 「土地を奪ってどうするつもり?」

 

 「何、素直に渡して貰えれば悪いようにはしません」

 

 「素直に従うとでも?」

 

 「勿論、思ってはいませんよ。様式美です」

 

 

 飽くまでも上から目線である事をアピールする。その余裕を、いつか必ず圧し折ってやると意気込む。しかし、この時はまだ、あの大和の神に一泡吹かせてやれれば良いと、あの女をどうにか出来れば良いとだけ思っていた。

 

 

 「さあ、始めましょう。私はあの女のように優しくはないですよ」

 

 

 ――刹那、轟音が耳を襲う。……唖然とした。まさか、私達の作った結界がいとも簡単に壊されるとは思ってもいなかったのだから。

 


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