「――――――疲れた」
旅籠かすみ屋に在るローウェンが借りた一室。其処に敷かれていた布団に倒れ込んだレフィーヤの一言。その言葉の通り、体は疲れを此れでもかと蓄積していた。
仲間に成らないかと誘われて、それに頷いた後の事。
「じゃ他にも仲間候補を探すか!!」
そう言ったローウェンに冒険者ギルド内だけでは無く、町中を引きずり回される様に連れて歩かされたからだ。尤も、自身の案内も兼ねているのだろうと何と無くだが思ってはいたが。そうで無ければ施設に関しての説明など挟まないだろう。
関係無い事だが無残な状態で吊るされた白目を剥くホロンの様なボロ雑巾が見えた気がしたがレフィーヤは華麗にスルーした。
ふと、目に映った手に意識を向ける。何気なく拳を作り力を籠める。震える拳を見て、ふっと力を抜いて。溜息を一つ。
寝返りを打って天井を見て、今度は天井に向けて手を伸ばし開いて閉じてと繰り返す。少しすれば、伸ばしてられ無い程の疲労を彼女は感じ、疲れに逆らう事無く下ろす。別に鍛える為に行っていた訳では無いからそれでも構わない。ではなぜその様な事を行ったかと言えば・・・確認の為。
ずっと、ずっと。異常としか言えない状況の中で色々と流されながらも、出来る限り考えない様にしていた事。ふいに過るそれが本当は如何なのか確認する為の行い。
いいや、確認するまでも無く。
考えない様にしていただけでレフィーヤはそうなのだろうと確信していた。して、しまっていた。疑問として在ったのは、最初、そう本当に最初の時だけだ。気が付けば不思議の迷宮に居て、そしてシンリンチョウに突き飛ばされた時だけ。それ以来は、彼女はずっと分かっていた。唯、認めたくなかっただけで。
けれど、否定できる要素が無かった。なのに、そうなのだと見せつける様に肯定する要素が現れる。もう、認めるしかないのだ。
「……あぁ、やっぱり」
レフィーヤ・ウィリディスは……神の恩恵を失ったのだと。
神の恩恵、其れは彼女が居た場所で冒険者を名乗るのに必須の物で在り、其れを与えられて無いものは如何叫ぼうが否と切り捨てられるモノ。理由は、恩恵の在る無しでは、強さが天と地ほど違うからだ。どれだけ鍛えた者だろうと、恩恵を与えられたばかりの少年よりも弱い等と云う事に成立する程だ。そんな、人生を左右するだろう恩恵を失ったレフィーヤは。
しかし、自身も意外な程冷静に、そしてすんなりと受け入れていた。はてと、疑問に思う程だ。どうしてだろうかと、彼女は考える。思い至る事が、一つ。
恩恵が失われている事を察しながら、最初に何も出来ずに吹き飛ばされてしまったシンリンチョウに勝ててしまった。理由としては、其れだろう。
詰りは、恩恵が失っては如何しようも出来ないと思っている傍らで、如何にかなるかもしれないと思ったからこそ。その割にすんなりと受け入れられたのだろうと。
「―――――――――ふふ」
笑みがこぼれた。そう勝てた、勝てたのだと改めて実感する。倒して直ぐは、いや、それからしばらくは大切な役割がある壁を壊してしまった事への責任感から、あまり考えていなかったが。勝てたのだ。
恩恵を失って唯の人と言える状態で。改めて考えると無謀だったかもしれないと頭の片隅で思うが。そうでも無いのだろう。何せ、此処の冒険者たちは、其れを平然と行っているのだから。寧ろ、もっと強い敵、モンスターと戦っているのだろう。あのシンリンチョウが一番強い等と言う事はあるまいし。
シンリンチョウは、きっと自身の知るモンスターで例えればゴブリンなのだろう。下から数えた方が早い位だろうそれ。
けれど彼女は勝てた事が嬉しかった。そう思って、そこでちゃんと理解した気がした。
すんなりと受け入れられたのは勝てたから、如何にか出来るかもしれない思ったでは、正しくはなかった。勝てたから、如何にか出来るのだと、自信が付いた。
恩恵が無くても進んで行けると。
きっとこれが、正しいのだろう。要は、自信が付いたという事だ。恩恵が無くても進んで行けると思っている等と憧れのあの人や、頼れる仲間たちが聞いたら、笑うだろうか。いやきっと、喜んでくれるだろう、寧ろ憧れの人なら食いつく様に如何したらと問い掛けてきそうだと。そう思ってしまうのは単純だろうかと思った。
いや、いいや。単純なのはレフィーヤでは無く自信のつけ方の方だろう。時間の長さなど関係ない。行動して、成し遂げる。それだけでいいのだから。だから、自分は別に簡単な思考回路をしていないのだと思う事にしたレフィーヤは満足げに頷いた。
嗚呼、瞼が酷く重い。疲れからの眠気に耐えるのも限界と言う事だろう。まだ、考えたい事は彼女には在ったが。しかし、眠気に逆らう事無く瞼を閉じた。
「お休みなさい」
誰に対して口にした言葉だろうか。それはあこがれの人か、それとも……一人の冒険者に向けてか。何方もこの場には居ないのだったと、小さく微笑んだ。
レフィーヤは願う。次の目覚めが見慣れた自室で在る事を。
しかし同時に、此の侭新しい朝を迎える事にほんの少しだけ期待しながら、彼女は眠りに落ちた。