世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第百話

ギンヌンガ遺跡、其処より至れる深き地の底に。邪悪なる禍の咆哮は響き渡る。

 

彼の禍、フォレストセルの眼前に倒れ伏すのは、傷だらけで動く事も叶わないミズガルズの調査隊。皆が皆、今にも力が尽きようとしていた。しかし、それでも動くものが二人。

 

一人は少女。自らで巻きこんでしまった少年を、仲間たちを救わんと這いずりながらも禍へと向かう。

 

一人は少年。自らを犠牲にしようとしている少女を止めんと叫ぶ。

 

伸ばされた手は、しかし少女の叫びに止められる。唯、涙を流しながら謝り続ける少女の声に。溢れ出る自分の所為だと、己自身を攻め立てる言葉に。自らの過去を、出会いを否定する言葉に。少年は静かに、そして、優しく少女の手を取る。

 

もはや、人のものでなくなったその手を、少女は握り返す。涙を留める事の出来ない少女に向けるのは、少年の思い、感謝の言葉だった。

 

ただ、一言……ありがとう、と。

 

少女は、更に強く少年の手を握る。此れから彼が何をしようとしているのかを察したかのように。それでも、変わらない、曲がらない。自らが為すべき事、いいや、したいと願う事の為に。自らの内に渦巻く力に身を任せ。

 

そして……少年は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、ちょっと失礼しますね」

 

禍に巨大な氷塊が直撃する瞬間を目撃した。

 

「……え?」

 

遅れて気が付いた少女、アリアンナは驚き唖然とした様子で言葉を零す。そして、声を聞いた。

 

「あれ? なんかあれなタイミングでしたかね」

「いや、在る意味良かったんじゃ無いか?」

「そうねぇ、何だだか自己犠牲精神が爆発してるように見えるものね」

「あのままじゃ一人で突っ込んで行きそうな雰囲気だったし。詰りなんの問題も無いと言う事だ」

「そうですね。と言う事でもう一回どーん!!」

 

二つ目の氷塊が叩き込まれ、絶叫を響かせるフォレストセル。やはり物理的に重くてでかい物は便利だなと思いながら頷くレフィーヤは序でにもう一つ程、叩き込んでから視線を二人に向けて問い掛ける。

 

「…で、あれが禍で良いんですよね?」

「分からないのにあんなことをしたのか?!」

「いやまぁ、一目で。あ、あいつだな。とは思いましたけど…ほら、一応確認しておかないと」

 

ね? と首を傾げて見せたレフィーヤに、脱力した様に肩を落とす少年。そんな可笑しな事を言っただろうかと思いつつ、アリアンナを見る。今にも泣きそうな顔をしながら肩を震わせる少女を。

 

「な、なんで…関係なんて無いのに」

「その通り!! なんの関係も無い!!」

 

言葉に、はっきりと宣言する様にローウェンは肯定の言葉を口にする。

 

「あんたらの手助けに来たとか。世界を救いにきたとか。そう言った意味で来た訳では断じてない!!」

「なら、なんで」

「え、其れを訊くか? そんな分かり切った事を、冒険者である俺達に」

 

心底呆れた様子でローウェンは言う、当然の事を彼は言う。

 

「俺達は冒険しに来た」

 

その言葉に、開いた口が塞がらない二人。そんな理由でと言った所だろうか。此れ以上の理由なんて無いだろうに。

 

「まぁ、驚くならそれはそれ。あんた等にとってそうなんだろうな。俺達にとっては一番の行動理由ってだけだし」

「まぁ、其れが理由に出来ない人は冒険者として如何なんだろう? とは思いますけどね…今回は少し変わっちゃいましたけど」

「それは言っちゃいけないな。そして、随分と言う様になったなレフィーヤ」

「ローウェンさん達の仲間ですから」

「それはそうか!!」

 

レフィーヤの言葉に、ローウェンは笑い、前へと歩み出る。二人に近づく様に。

 

「まぁ、取り敢えず休んどきな。後の事は任せときゃいい」

「それはっ!!」

「どうしても自分でって言うなら逆に休んだ方が良いだろ。冒険者は持ちつ持たれつ、利用できるモノは何でも使うのが基本だ。まぁ、あんたらが動けるようになるまで在れがもつとは思えないけどな」

 

言いつつ、レフィーヤの氷塊の所為で思う様に動けないでいるフォレストセルを見る。

 

「と言う訳でゆったりと寛いでいると言い」

「でも、それでも駄目です。あれは、禍は」

「復活する……だろ?」

 

目を見開くアリアンナ。どうしてその事を知っているのかと驚愕を露にする。だがまぁ、仕方ない事だ。レフィーヤとて其れを知った時は思わずまじか・・・・と呟いてしまったのだから。

 

「それを知っているなら」

「対処できるものだと判断した、其れだけの事だろう。或は何かしらの方法が在るのだろうな」

 

それが如何いうものなのか、レフィーヤは知らない。しかし、それでも成し遂げるだろうと言う確信は…在った。

 

「ローウェン」

「ん? あぁ、そろそろ動き出すか」

 

ハインリヒの言葉に、視線を向けるローウェン。瞳に映るのは、圧し掛かっていた氷塊を押し退けて動き出そうとしているフォレストセルの姿。酷く敵意を漲らせ、怒りを露にしている。完全に、ギルド・フロンティアの事を敵として見ている。

 

「もう一回やっておきますか?」

「いや、もういいだろ。時間稼ぎと言う意味では十分だったし」

「そうですかね?」

「そうだぞ。動けるようになったみたいだしな」

 

その言葉に、ハッとしたアリアンナは仲間たちへと視線を向ける。其処には、辛うじてでは在るが立ち上がろうとしている姿が見えた。酷いけがではあったが、ハインリヒの治療の御蔭で動ける程度には持ち直した様だ。

 

「よし、じゃあ下がるとするかね」

「そうですね」

 

と言いながら部屋の隅へと向かうギルド・フロンティア。何が如何いう事なのか、先程までいっていた事としている事が違いすぎてアリアンナは困惑していた。

 

「あの……一体、なにを?」

「何と言われてもねぇ。情け容赦ない俺達でも空気を読もうとすれば読める。あれを倒すべき存在は俺達じゃないから譲る、其れだけの話で」

 

言って、視線を少年へと向けて。ローウェンはふっと笑みを浮かべて。

 

「だろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『然り』

 

地、深きこの場を覆う天井が吹き飛び、崩れ落ちていく。決して在る筈も無かった光が差し込み、フォレストセルの絶叫が響き渡る。

 

『まずは我の様な壊れかけの古き害悪の願いを聞き届けてくれたことに、感謝を』

 

響く言葉に、思わず見上げるアリアンナ。そして見たのは、光の中ゆっくりと降りてくる一つの影。

 

『故にこそ、最後の清算を。為すべき事を果たそう』

 

その姿は酷く傷ついていた。顔は欠け、翼腕は片翼と成り胸部は大きく抉れている。

 

『フォレストセル。救済の果てに生れ出た歪なる因果よ』

 

しかしそれでも、彼は確かに世界に示す。

 

『今こそが、終りの時だ』

 

天の支配者たる上帝・オーバーロード、此処に在り。

 

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