世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第百一話

『おぉぉおおおおおおおおおおおお―――――――ッ!!』

 

咆哮が響き渡る。オーバーロードの咆哮が。フォレストセルの絶叫を掻き消す様に世界を揺るがす。

 

罅割れ、今にも崩れそうな程傷ついているその腕はしかし、揺らめく光の剣を話す事無く力強く振るう。それは、彼等と戦った時よりも尚鋭く思える。それを、鈍重なフォレストセルが躱せる訳も無く直撃し。一撃でフォレストセルの触腕を斬り飛ばす。

 

絶叫に次ぐ絶叫。いや、フォレストセルより響くのは悲鳴。唯一撃、其れでけで奴は理解した。映り込むその存在は、自身を終わらせる存在だと。

 

苦痛からか、或はただの狂乱か。フォレストセルは乱雑にその触腕を振るい、雷を、氷を、炎をばら撒く。狙いを定めた訳では無いその攻撃を、しかしオーバーロードは一切躱そうとせずに、其の身を削りながらなお突撃する。

 

いや、いいや違う。避けないのではないのだと理解した。避けられないのだと理解した。

 

光の剣を振るったその腕が、光と成って消えていくのが見えたから。其れだけでは無い、オーバーロードの全身に刻まれた傷から、光が零れ消えていく。オーバーロードが、崩れていく。

 

戦える状態では無い。一つ、一つの行動がオーバーロード自身の終わりへと加速させていく。しかし、それでも彼は止まらない。尚激しく、なお強く手の中の剣を振るう。

 

フォレストセルは、其処で漸くその存在が息絶えようとしている事に気が付く。故にか、彼に激しい攻勢を掛ける。

 

きり飛ばされた触腕の代わりを新たに生やし、薙ぐ様に振るう。それは避ける事の出来ないオーバーロードの身に直撃し、その足を吹き飛ばし光に返す。

 

それをオーバーロードは消えゆく己の足を一瞥もせず、ただ雄叫び。剣を、翼腕を振るう。さらに早く、重く、鋭く、強く!!

 

先に動きが鈍るのはフォレストセル。余りの激しいその攻撃に、徐々に、徐々にと其の身をオーバーロードと同様に削られていく。もはやその戦いは何方が勝つかで終わるモノでは無い。何方が先に負けるのかで決まる闘いだ。

 

「……どうして」

 

全てを賭け、ただ終わらせることに全霊を尽くすその姿に、ポツリとアリアンナから言葉が零れた。

 

「どうして…其処まで」

『行った筈だ。清算だと』

 

答えを求めていないその言葉に、オーバーロードは答える。言葉を発するだけでも崩れていくと言うのに、それでも彼は少女達に言葉を響かせる。

 

『これは、一つの救済より生れ出た災禍。未来に残すべきでない……過去の罪』

 

翼腕が吹き飛び、光と成り散り消える。振るわれた剣は大きく切り裂く。

 

『我の生みだした魔人と、作り変えた者達……冒険者達と同じ。我が過ち』

 

光の剣が砕かれる。ならばとオーバーロードはその手で触腕を掴み引き千切る。

 

『後悔は無い、在る訳が無い。しかしそれでも過ちであった事は覆す事は出来ない』

 

砕けていく、砕けていく、天の支配者は砕けていく。

 

『故にこそ、我が終わらせる!! 我が過ち、我が罪。決して未来へと歩む者達に背負わせる訳にはいなかない!!』

 

崩れていく、崩れていく、上帝は崩れていく。

 

『いや、違う。取り繕うのを止めよう。今を生きる者達が未来を示したのだ。先に生きた我が、過去より長き時を経た我が。為すべき事を為さずして過ちを、罪を背負わせたまま……終われるものかぁあああああああああ!!』

 

消えていく、消えていく、オーバーロードは消えていく。

 

しかし、それでも彼は戦うのだ。

 

『永劫を断ち、滅びを鎮めた! あとは汝を、歪なる因果を終わらせるのみ。そして!!』

 

オーバーロードは静かに、視線を…少年へと向けた。

 

『我は…聖杯と共に消えよう』

 

 

 

その言葉の直後だった。光が、少年から光が弾けた。驚きの声を上げる少年は自らの姿が変わっている事に、元に戻っている事に気が付き、その光が何であるのかを理解した。諸王の聖杯の力であるのだと。

 

「これは?!…オーバーロード!!」

『諸王の聖杯。過ちであるこの力を汝に託す積りなど…欠片も在りはしなかったとも』

 

光が、諸王の聖杯の力がオーバーロードへと流れ込んでいく。そして、彼の崩壊は加速する。

 

「オーバーロード様?!」

『元より、壊れかけの我が耐えられるものでは無い。過ぎたる力は身を滅ぼすは道理よ』

 

寧ろ、都合が良いと彼は笑う。

 

『ファフニールの騎士よ。我は汝に言ったな。正しく使えばと。その点で言えば…汝は誤った』

「なに?」

 

其れはどういう事だと、オーバーロードの言葉に思わず問い掛ける少年に、彼は優しく答えた。

 

『汝の力は、滅ぼす為に在るのではなく。また守る為でも、救う為等と言う大それたことの為に在る訳ではないからだ』

 

ならば、何の為にその力は在るかの。大した事では無いと彼は言う。彼は唯、そう唯。

 

『その手で掴んだものを離さぬためにこそ在る』

 

言葉を、紡ぐ。

 

『故にこそファフニールの騎士よ。いや、唯仲間を思う騎士よ。人として生きよ。汝に永劫など…不要なのだから』

 

光の奔流が、溢れ出した。

 

 

 

 

『さぁ、終わらせよう!!』

 

オーバーロードがフォレストセルへと突撃する。其の威容に慄き、近づけまいと新たに生やした触腕を振るおうとして。動かない事に気が付く。

 

『無駄だ。最早、汝に何もさせん。既に終わりは、我が同類たる者が生み出したものが既に打ち込んだのだから』

 

急速に、フォレストセルの体が硬化していく。それは激痛を伴うのか、或は動けなく成って行く事への恐怖か、フォレストセルの叫びが響き、限界までその身を動かす。

 

『ぬぅ?!』

 

振るわれた触腕をその身に受け、勢いを殺されるオーバーロード。そしてフォレストセルはその身に力を溜めた。明らかに、何かをしようとしている、今のオーバーロードと、彼等全員を巻きこむ程の何かを。それを、オーバーロードに止める術は無い、無論調査隊にもだ。だから、彼等は唯見ている事しか出来ず、オーバーロードは間に合わぬとしてもその身を晒す様に前へと出る。

 

そして、フォレストセルから力が解き放たれる。

 

 

その直前に、一発の銃弾がフォレストセルを貫いた。

 

 

それはオーバーロードで無く、調査隊でも無い。

 

「申し訳ないが、少しだけ手を出させてもらったぞ?」

 

ギルド・フロンティアの、ローウェンの一撃。

 

一瞬の隙。思わぬ攻撃によって生まれたその一瞬がオーバーロードを辿り着かせた。彼は、其の儘フォレストセルをその砕ける間際の両腕で浮かんだ。

 

『感謝する』

「良いよ別に。寧ろあのまま何もしない方が目的を考えれば可笑しいしな」

 

オーバーロードの言葉に、ローウェンはそう返す。目的、そう目的だ。ギルド・フロンティアの目的。もとは冒険の為に訪れ、序でにフォレストセルを打倒する積りだった彼等の目的が、向かう途中にオーバーロードと出会った事によって変わったのだ。そう、其の目的とは。

 

「あんたの最後を見届けさせてもらぞオーバーロード」

 

長き時を生き、挑み続けた彼の最後を…看取る事。その言葉に、彼は。オーバーロードは笑う。ならばと声を響かせる。

 

『無様な最後は……晒せんよなぁ!!』

 

フォレストセルを掴むその両腕に力が籠り、光が溢れ出る。それは彼の崩壊を意味し、だがその力に衰えが無い事を表していた。

 

『おぉぉ』

 

溢れ出た光が、しかし消える事無く其処に在り続ける。諸王の聖杯の力が、壊れかけのオーバーロードを繋ぎ止める。

 

『おおぉぉぉおおおお』

 

オーバーロードが、光を纏い形作る。失われた翼腕を形作る。そして。

 

『おぉおぉぉおおおおおおおおおおおおおおお―――――――――ッ!!』

 

フォレストセルを…持ち上げた。

 

地面に亀裂が走り、崩れ壊れていく。しかし不思議な事に、彼等の立つ場は変わる事無く其処に在り続けた。

 

響き渡るのはフォレストセルの悲鳴。己と、源たる存在と切り離された事を理解した。故に戻ろうとする、下へと、世界樹へと。

 

しかし、其れをオーバーロードが許す筈も無く。彼は、その光の翼を大きく羽ばたかせ、空へと向かう。

 

 

 

『苦難、過ち、挫折』

 

光が昇る。上へ、上へと昇っていく。

 

『多くの遠回りをした。しかし、それでも確かに歩んできたのだ。我も、そして人類も』

 

彼は、地に落ちた天の支配者は…再び空へと昇る。

 

『忘れるな人類よ。絶望が立ち塞がり、暗闇が在ろうと汝らの歩む道は…途切れる事無く続いているのだと。前へと歩むことが出来るのだと!!』

 

暁に染まる空を、上帝は昇る。

 

『それでも心折れんとするならば。我が今ここに示そう!!』

 

そして、そして。

 

『我が名はオーバーロード!!』

 

 

 

 

 

『汝らの未来を証明する者なり!!』

 

空に…星が流れた。

 







汝らの歩む道に、光あれ。


そして叶うならば願わせてもらおう、汝が本当の意味で歩みだす事が出来るように。







『エルフ』の少女よ。
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