第百三話
さらりと風に髪を靡かせながら、レフィーヤは目の前の光景に目を輝かせた。
「おぉー…賑わってますね」
「それはそうだよ、アルカディア最大の街、いや都だからね…まぁ、それでも僕がまだ居た頃と比べると賑わいは段違いだけどね」
そう胸を張って言うハインリヒに、成程と頷きながら改めて見渡す。アルカディア最大の都、アイオリスの街並みを。
「あぁ、凄い。なんかこう…感動しますね」
「それなりに長い事船旅だったしな」
「でも別に嫌いって訳じゃ無いんですよ。暫くは海は遠慮したいだけで」
「よっぽどここの迷宮が簡単でも無い限りは暫く海から離れられるだろうな。まぁ、あのオーバーロードが言う世界樹とその迷宮だしな。そんな事は有り得ないだろうがな」
「ハイ・ラガード……F.O.E。雑魚過ぎる生存本能」
「その話はするな」
思い出して見ればかなり簡単な部類に入ってしまうハイ・ラガードに在った迷宮。ちゃんとしてたのは第一階層とオーバーロードの居城位だったのだから。ライシュッツ達が立ち塞がっていなければギルド・フロンティアが到着する前に踏破されていても・・・・いや、それをするには余りにオーバーロードと言う壁が厚すぎるだろうが。
「ここの迷宮はもっとこう…殺意と言うかに満ちていると良いんだがな」
「其処までは流石にあれですけどね」
「でも見つけたら襲って来るなり、或は逃げるなり。そう言った当然の事はして欲しいかな僕的には」
「あれ、ハインリヒさんは…って、そう言えば此処の迷宮はいっちゃいけなかったんでしたっけ?」
「うん。まぁ、何が在ったのかは知らないけど。大々的に宣言したみたいだけどね」
「樹海を、世界樹の迷宮を踏破せよでしたっけ?」
レフィーヤからすれば有り難いが、しかし同時に何故という疑問も過る。ハインリヒの言っていた事が間違った事でない限りは、アルカディアに住まう人々にとって信仰の対象である筈なのに。やはり何かしらの理由でも在るのだろうか。ハイ・ラガードがそうであったように。いや、むしろそうで無ければ世界樹を踏破せよ等と言いはしないかとレフィーヤは思う……アスラーガはなんか、ちょっと違った気がするけど。
「ま、取り敢えず冒険者ギルドに行ってから街の散策だな。迷宮はその後で」
「そうですね」
「と言う事で…って、そう言えばさっきからコバックが黙ってるけど、どうし何食べてるの君?」
「そこの露店で売ってた串焼きだけど?」
「…なんで食ってんだよ」
「おいしそうだったから…まぁ、何と無く微妙なんだけどね」
「店主の前で言うなよそんな事」
一気に空気が緩む。何とも言えない表情を浮かべながらハインリヒとコバックは宿探しへと向かい、レフィーヤとローウェンは冒険者ギルドへと向かう。
そして。
「ローウェンさん、なんか凄く煽られたんですけど…凍らせていいですか?」
「…え?」
「駄目だからな」
「そうですか…じゃぁ床を滑りやすい様に凍らせますね」
「…え?」
「そうしとけ」
「許すのか?!」
「煽ったあんたが悪いし」
「お前達の事を言った訳では無い!!」
『知ってる』
「何なんだお前達は?!」
「え、ギルド・フロンティアだけど」
「そういう意味では無いが…あぁ、全く」
手を頭にやり痛みを堪える様な仕草をする。恐らくギルド長らしき人物、声色からして男性だと思われる彼はしかし先程のやり取りに対しての反応からして慣れていないと言う事かと察しながらスッと姿勢を正し目的を告げる。
「と言う訳で、登録しに来た。よろしく頼むギルド長」
「お、おぉ。急にまともに…いや、分かった。やっておこう」
「よろしくお願いしまう」
「あぁ、任された…全く、やつと同じ部類のが増えるのか」
と、うんざり様子で歩いて行くギルド長。彼の呟きを、聞き流すなんて事はしないレフィーヤ達。そして思う。
「…居るんだな此処にも」
「みたいですね」
「大変そうだな。反応からしてとても面倒な奴なんだろうな」
「神様が言ってた言葉の中にブーメランと言うものがありましてね」
「なんで狩猟道具の名前が出て来るんだよ?」
「投げて戻って来るかららしいですよ」
「そして俺に当たると。成程そういう事か」
使える場面に出くわすと、確かにその通りだと納得せざるおえない神々の言葉。凄く便利だなと思いつつ。恐らく居るのであろう、自分達と同じ様な冒険者は誰だろうかと考え、思い出す。
「そう言えばクルミさんが言ってましたね。ゴザルニさんが帰郷するとかしたと」
「成程、と言う事は…いや、あいつでは無いな」
「そうなんですか?」
「あいつは其処ら辺分かってるし。何より食い物があればそれで満足する奴だしな」
「あぁ、そう言えばそうでしたね」
そう言えばそうだったと、レフィーヤは思う。自分とはまた違う、食の探究者であったことを。
「お前変な事考えなかったか?」
「変な事とは失礼な。まぁ別に良いですけど」
「そうか、さて如何するか。ハインリヒ達と合流しても良いが、何だったらゴザルニでも探すか? まだ居るかは知らんが」
「そう、ですね」
「尤も、探すまでも無いんだがな」
「はい?」
其れはどういう事かと首を傾げて、ふと耳に届く叫び声。耳を澄ませてみれば、それはとても特徴的な物だった。具体的に言えばござるござる言っていた。間違いなく彼女だなと思い。
「駄目でござる斬っては駄目でござる後生でござる止めるでござる師匠!!」
「なにを言ってるのゴザルニ。わたくしは敵でもない人を斬る程落ちぶれてはいないわ」
「なら刀を収めるでござる!!」
「もう、大丈夫だって言ってるでしょう? 唯ちょっと、強そうな人の前で素振りしようとしてるだけよ? 若し仮に当たったとしても事故だから…あ、でも反撃されたら其れはもう敵よね? 斬っても大丈夫よね。問題ないわよね。よし、周りに人が居る事を忘れる位集中して素振りを始めましょう!!」
「全員逃げるでござるー!!」
叫び声を聞き、レフィーヤは静かにローウェンを見る。そして彼も又レフィーヤを見るように顔を動かしており。視線が重なる、そして無言のまま頷いて。
「ハインリヒ達と合流しよう」
「そうですね」
二人は何も聞かなかった。そう言う事に、した。