世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第百四話

明らかにやばいのが居ると分かった時点で速やかに冒険者ギルドから立ち去りハインリヒ達と合流しようとしたレフィーヤとローウェンだったが戻ってきたギルド長に呼び止められある事を伝えられる。

 

なんでも冒険者として迷宮探索の許可を得るにはアルカディア評議会でミッションを請け、それをこなさなければいけないとの事。

 

要するにハイ・ラガードの時と同じかと思いながら、その評議会は何処なのかを訊く。それは叫び声が聞こえる方とは反対であった…反対であった!!

 

「良し、さっさと行くぞ」

「そうですね。絡まれる前に」

 

言って、二人は勢いよく冒険者ギルドを後にした…窓から。

 

「…なんで窓から出て行ったんだ?」

「師匠! し、師匠?! あ、あぁー、ししょー?!」

「あふふふふふふふふふ――――――…!!」

「…あ」

 

街を駆け抜け乍らレフィーヤは思う。開幕煽ってきたんだし、つらい目に在っても仕方ないよねと更に速度を上げて評議会へと向かう。

 

 

面倒事を避け、評議会へとたどり着いたレフィーヤとローウェンはさらりとミッションを請ける。内容はハイ・ラガードの時とほぼ同じなようだ。流石に土を持ってこいとは言われなかったが。しかし、行き成り地図を書けと言うのは世界共通なのだろうか。全く素晴らしい文化だとレフィーヤは思い。

 

 

今現在、ハイ・ラガードやアーモロードが酷く恋しくなっていたと言うか戻りたいと願っていた。

 

 

何が在ったかと言えば、時々聞える悲鳴を避け。何事も無くハインリヒ達と合流した二人。そのまま宿へと向かったのだ。

 

到着したジェネッタの宿で荷物を置き。軽く食事を済ませてから迷宮へミッションをこなす為に行こうかと言う話に成ったのだが、そうだが。

 

「…なん、でしょうねこれ。いや、美味しんですけどね。こう、何というか」

「微妙なのよね、いえ確かに美味しいのだけれど」

「まぁ、よく言えば素材の味が良く出ていると言った所だな。別に嫌いでは無い」

「そうそう此の感じ。あぁ、懐かしいな。帰ってきたって感じだなぁ」

 

そう、戻りたいと思った理由。それは料理が何とも言い難い感じだったから。彼等の言う通り不味い訳では無い、寧ろ美味しい。美味しいのだが…何かが足りない。そんな感じの料理なのだ。

 

懐かしそうにスープを口にするハインリヒに、表情が死に掛けているレフィーヤは問い掛けた。

 

「アルカディアって此れが普通なんですか?」

「そうだね。元の材料が良い御蔭なのか、其処まで工夫しなくてもそれなりに美味しく出来ちゃうからね。どうしてもね」

「よく耐えられますね」

「昔は此れでも大丈夫だったんだけどね、此れしか無かったし。今思うとアルカディアを出て一番衝撃だったのは料理の味の濃さだったな…あ、やばいコンソメスープ飲みたくなってきた」

 

言いながらもスープを口に運ぶハインリヒ。見ながら、レフィーヤもサンドイッチを口にする。やはり美味しいのだが物足りない。切に思う、卵にもう少し濃い目の味付けをしてくれと。そしてメニューにカレーが無いのは間違いであってくれと。

 

「え、いやでも嘘でしょう? カレーが無いとか、スパイスが無いとか、辛味が無いとか…え、嘘でしょう? 私死んじゃいますよ?」

「時にレフィーヤ、聞いてくれ」

「何ですかハインリヒさん?」

「アルカディアを出た人は大体食に目覚める。作る側にしろ、食べる側にしろ…そういう事だ」

「ローウェンさん、今からでも戻りましょう? アーモロードで未発見の遺跡でも探しましょうよ?」

「海は暫くはいいって言っていたやつの発言とは思えないな」

「だって……だってぇぇ!!」

 

涙が零れそうになるレフィーヤ。まさかここまで食べたのに満たされないと言う事が辛いとは思っていなかった。

レフィーヤの体が、心が、魂が辛味を渇望している。もう塩辛いでも良いからと。

 

そんなレフィーヤにローウェンは呆れた様に息を吐いてから、ハインリヒを指差した。

 

「さっきハインリヒが言ってただろう。アルカディアから出た奴は食に目覚めるって」

「はい。食べるか作るかは違うらしいですね」

「で、こいつは食べるでは無く作る方に目覚めた奴だぞ」

「はッ!?」

 

バッと音が聞こえる程の勢いで視線をローウェンからハインリヒに向ける。スープを飲み終わったのだろう彼はスプーンを置きながら。

 

「流石にハイ・ラガードでの比べればあれだけど。一応、アルカディアにある材料でもカレーは作れるよ」

「……ハインリヒ様ってもしかして神様?」

「様?! と言うか神様って、違うからね」

「そうですね。神様であるかどうかなんてどうでも良い事ですね。やばい、今凄く信仰したい」

「そこまで?!」

 

そんなハインリヒの言葉が聞えたが如何でも良い。あと何故か、なんでやと言う声も聞こえた気がするが幻聴だ。今重要なのは、ハインリヒがカレーを、辛くて美味しい料理を作れると言う事だ。

 

其れだけで、レフィーヤの全てが救われた様な気がした。あぁ、今ならばムスペルだろうがフォレストセルだろうが単騎で勝利できそうだ。オーバーロード? あの人は無理。

 

そんあ如何でも良い事を考えながら、如何にか落ち着こうと深く息を吸っては吐いて、そして。

 

「…あ」

 

なんか聞いた事の在る声が耳に届き、一気に冷静になるレフィーヤ。きっと表情も消え失せている事だろう。目の前に座るローウェンの様に。

 

現実から逃れる事は出来ないので視線を声の聞こえた方へと向ける。出来れば違って欲しい思い乍ら。まぁ、そんな事は無いのだが。

 

案の定と言うか、其処に立っていたのは見た事の在る人物。と言うかゴザルニだった。アスラーガに居た時に比べてかなりやつれている様に見えるが、其処では無い。見るべきなのは彼女では無くその隣に立つ女性だ。

 

着物と言った筈の衣服を見事に着こなしている黒髪を短めに切り揃えている女性の方が問題だ。具体的に何が問題なのかと言えば、可成り美人で在ると言って良い筈のその顔に浮かべてはいけない表情を浮かべているからだ、恍惚とした笑みを浮かべているからだ。それを浮かべながら涎を垂らし、その体を震わせながら手に持っている刀を今にも抜き放ちそうなのだ。

 

そして何よりも恐ろしいのが女性が切り殺したいと小さく、しかしずっと呟いている事。今まで経験したことの無い恐怖をレフィーヤを襲っていた。出来れば経験したくない類の其れが。

 

と、急に女性は浮かべている笑みを柔らかなものへと変える。先程まで浮かべていたのが幻覚で在ったのではと思う程、淡い笑みを。其れを見て恐る恐ると言った様子で、ゴザルニが問い掛けた。

 

「あの、師匠?」

「わたくしは駄目ね、ゴザルニ」

「え、あの其れは確かに否定はできないでござるが」

「そう、そうなのよ。わたくしね、此れでも我慢してきたのよ。今まで見た事の無い技術を前にして、其れでも切り掛からない様にって。そんな事をしては唯の犯罪者だもの」

「今までのあれで我慢してたのでござるか?」

「そうよ。でも、でもね。もう無理だわ。だってこんなに強そうな人達が居るなら。もう…もう」

「待つござる師匠。流石に無理でござるよ師匠」

「無理なのは切り掛からずにいる事でしょひゃひゃひゃひゃひゃひゃっ!!」

「師匠?!」

 

言いながら先程以上にやばい表情を浮かべ、更にやばい笑い声を響かせながら刀を抜く女性。そしてそのまま彼等に向かって切り掛かる。

 

 

 

なんて事をされたら危ないので刀を抜いた時点で四人で囲んでボコボコにしてから簀巻きにして吊るした。勿論、女将なのだろう女性に許可を取ってから。

 

因みに殴られている最中の女性が恍惚とした笑みを浮かべていた気がするが、気のせいだとレフィーヤは思う事にした。

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