世界樹の迷宮 ―――英雄達の軌跡―――   作:春山乃都

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第百五話

「本当はこんなに長居する積りは無かったのでござるよ。軽く親と知り合いの顔を見たらまた出る積りだったのでござる」

「其の時はまだ世界樹には挑んじゃな行けなかったんですか?」

「いや、帰ってきた時にはもう御触れは出てたでござる」

「なのに挑もうとしなかったんですか?」

「確かに世界樹は魅力的ではあるでござるが…食事が」

「……あぁ、成程」

「もう何というか、只管に辛くて。だからさっさと出立しようとしたのでござるが。港に付いたら丁度師匠が居て…それ其の儘引きずられる様にアイオリスまで連れて来られて。それからもう、暴走しそうになる師匠を止めたり、往来のど真ん中で抜身の刀を使って素振りしようとするの止めたり、喧嘩に突っ込んで行って殴られようとするのを止めたり…ただ、ただ辛かったでござる」

「ゴザルニさんっ!!」

 

涙が溢れ出て止まらない。思い浮かべるだけでもその辛さが分かる。それが想像以上の辛さであるのだろう事も。と言うかずっとここの料理を食べ続けるとか辛いどころでは無いだろうとレフィーヤは思い、なお涙が溢れだしそうになる。

 

「私は、私は貴女がどれ程辛い目に在って来たのかは想像する事しか出来ません。それでも、今は慰めさせて下さい」

「レフィーア殿」

「レフィーヤです」

「あ、これは失礼」

 

そんな会話をする二人を眺めながらローウェンはゆっくりとお茶を飲みつつ、上へと視線を向けて。

 

「で、そんな風に負担を掛けまくってたあんたは何か言う事在るか?」

「吊るしてくれてありがとう!!」

「まじで駄目なやつだこいつ」

 

吊るされたまま笑顔で礼を口にする女性に、ローウェンは思わず頭を抱えた。

 

 

 

此れ以上吊るしていても店的に害しか無いと言う事で降ろされた女性。若干不機嫌そうに簀巻きにされたまま、体を揺らした。

 

「もう少し吊るしていても良いのに」

「流石にこれ以上は店に客が寄り付かなく成るだろ」

「え? 人が吊るされた程度でお客様が来なくなるの…いやまさかぁ」

「いや、普通に来なくなるからな?」

 

そう言えばハイ・ラガードでも、フロースの宿でコバックを吊るしたら人が来なくなったなとレフィーヤは思い出す。凡そ一週間くらい。

 

「むぅ、前から思ってたけどアルカディアの冒険者は軟弱すぎる。目の前で素振りしてても飛び込んでこないし」

「それ、抜身の刀でしたのか?」

「えぇ」

「それで突っ込んでくるのは馬鹿かキチガイ位だろ」

「だからわたくし、馬鹿かキチガイを求めているの。主に戦う為に!!」

「あっそ」

 

投げやりな言葉を口にしはじめるローウェン。そんな彼の様子などお構いなしに女性はそう言えばと言葉にする。

 

「まだ自己紹介してなかった! と言う訳で名乗りましょう。わたくし、ミカエと申します。趣味は殺し合う事。好きな事は斬る事と斬られる事。将来の夢はとても強い殿方と全身全霊で殺し合った上で負けて、そして屈服して何時までも仲睦まじく居る事。そして出来れば姑にいびられたい。そんなわたくしですがどうぞよろしくお願いします」

「ここまでよろしくしたくない奴は生まれて始めてだぞおい」

 

確かにとローウェンの言葉に同意しつつ、さて如何するかと考えているとコバックが言葉にする。自己紹介を。

 

「自己紹介されたなら名乗らないと失礼ね。あたしはコバック、趣味は筋トレ。将来の夢は綺麗なお嫁さんを貰う事かしらね」

「まぁ、それはそれは。もしなんでしたら立候補しても?」

「え、貴女はちょっと」

「ゴファ?!」

「え、え?! なんで血を吐いたのよ?!」

「コバック、お前凄いな」

「なんで?!」

 

サラリと心を抉る言葉を口にするコバック。普通に考えてコバックに注意すべき発言なのだが、不思議な事に相手がミカエと言うだけで別に良いかと思えてならない。

 

「え、なんでわたくし振られたみたいな感じになってるの?」

「まぁ、コバックさんですから。あ、私はレフィーヤ。レフィーヤ・ウィリディスです。ハンカチどうぞ」

「あら、ありがとう。よろしくねレフィーヤさん」

「出来れば宜しくしたくないです」

「凄く直球で言って来るわね。正直、少し気持ちいい」

 

言いながら笑みを浮かべるミカエに、スッと視線をローウェンへと向けて。

 

「…この人無敵なんですか?」

「ある意味な」

 

そう言ってから溜息を吐いて。そして口にする。

 

「まぁ、名乗らないままって言うのはあれだしな。ローウェンだ。出来れば宜しくしたくない」

「貴方も容赦ないですね…良いぃッ!!」

「見ろレフィーヤ、鳥肌が立ってるぞ」

「わぁ、凄いですね。ローウェンさんが此処まで成るのって初めてじゃないですか?」

「そうだな。っと忘れる所だった。今厨房に行ってるのがハインリヒだ」

 

と、指差しながら言うローウェン。その言葉に成程と頷きながら覗き込む様に視線を向けて、倒れ込む。そう言えば簀巻きの儘だったなと倒れたミカエを見て。

 

「はッ?! ゴザルニ、貴女この人達の仲間に入れて貰いなさい」

「はい?」

 

この人は何を言っているのだろうかとレフィーヤは思わずにはいられなかった。

 

「…その、何故でござる?」

「だってこの人達はこれから迷宮に挑むのでしょう? なら其れに付いて行けば強くなれること間違いないし!! わたくしよりもずっと強いお人も居るのだし」

「まぁ、それはそうかも知れないでござるが」

「そして強くなった貴女がわたくしの事をズタズタのボロボロのボロ雑巾状態まで痛めつけるの!! あぁ、考えただけで良いぃ!!」

「…何度も言ってた自分の事を斬り殺せる位強く為れって」

「本気の本気よ!!」

「おぉ……何というっ」

 

とんでもない衝撃がゴザルニに走る。まさか冗談と言うか激励の様な物だと思っていた言葉が其の儘の意味だったとは。そうゴザルニは思いながら。

 

「いや、でもローウェン殿達が良いとは限らないでござるし」

「え、別に良いぞ? 知り合いを拒絶する程懐は狭くないからな」

「そうですね。ゴザルニさんなら私も大丈夫ですよ」

「あたしも」

「軽すぎないでござるか?!」

 

驚きの声を上げるゴザルニ。もう少し難色を示されると思っていたのだろう。でも、実際そこまで強く拒絶する様な事では無いし。ミカエだったならもう少し考えるけど。

 

「戻ったよ…って何事?」

「ハインリヒ殿!!」

 

そんな時丁度戻ってきたハインリヒに光明を見たのか。ゴザルニは目を輝かせる。

 

「ゴザルニが仲間になるそうだぞ」

「あ、そうなの? これからよろしくね」

「軽い!? 圧倒的に軽い! 臨時のとかでは無いのでござるよ?! そんな簡単に決めて良いのでござるか?!」

「お前は嫌なのか?」

「いやそう言う訳ではござらぬ。ただ、拙者は」

 

「取り敢えずコンソメスープを冷める前に飲まない?」

「奴隷扱いされても良いので恵んで下さい」

「奴隷?!」

 

気が付けばハインリヒの前に這いつくばるゴザルニ。先程まで色々と言っていた人物と同じとは思えない。と、そのまま彼女はハッと気が付いたかのように一気に顔を上げて目を見開く。

 

「仲間になればいつでも食べられるのでは?」

「え、まぁそうだね」

「よろしくお願いするでござる!!!」

「え、あ、うん。よろしく」

 

そうして、ゴザルニが仲間になった。

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